テレビ局のネット同時配信を考える(海外ではどうだろうか編)
NHKだけスタートラインに立つ
ウイルスの猛威が日本を襲い、人々はやり場のない怒りをツイッター上で「#安倍やめろ」に込めてネットから政権にぶつけ合っていたり、使いみちのなかった知識をひけらかし、3月末には東京が危険な状態なんて誰も思ってもいなかった、3月1日にNHKのネット同時配信サービス「NHKプラス」が試験開始となりました。
パソコンやスマホでNHK総合テレビとEテレの番組を見られる新しいサービス、NHKプラスが3月1日からスタート。通勤中や、仕事の休憩中、家事の合間などNHKの番組をいつでもどこでもリアルタイムでお楽しみいただけます。さらに、もし番組を見逃しても、放送から1週間は「見逃し番組配信」でご覧いただけます。受信契約者とそのご家族(同一生計の方)は追加負担なく利用できます。(NHK公式より)
NHKの地上波2チャンネルをネット上でも見れるという代物。
もちろん、受信料を払っている人や家族なら無料で見れる。
iPhoneやAndroidのスマートフォンにアプリをインストールし、アカウントを作成。ログイン後に放送を見ることができます。もちろんPCでも見れます。
ネットを経由するため30秒近くのディレイが生じます。
スクリーンショットで画像保存すると放送画面は黒くなります。
見逃し配信などすべての機能を利用するためには、登録が必要です。受信契約をしている人の名前・住所を入力、その住所にハガキが確認コードが届きますので、それで登録が完了します。(なんでハガキなんだよというのは無視です)
NHKがこのサービスを始めるにあたって紆余曲折ありました。
これまでの放送法ではNHKは災害報道、スポーツ中継に限ってネット上での同時配信が認められてきました。逆に通常時の放送は配信はできない。
また民間放送連盟(民放連)からは「民業圧迫」であると牽制を受けました。
民放連によるNHKに対する意見
2019年に放送法が改正され、総務省の認可のもとでこのサービスはやっと始まったという形です。
↑総務省の放送法一部改正について
いろいろな問題をクリアしたNHKプラス。
Youtubeを始め、NetflixやDAZNといったネット配信サービスにユーザーが移行く中、NHKプラスは公共放送としての意地を見せるサービスです。
しかし、日本テレビやフジテレビを始めとする民放は見逃し配信を行っているものの同時配信開始のアナウンスは皆無。
ネット配信サービスに負けている状態がまだ続いています。
日本国内では地上波テレビの同時配信というのは見慣れないサービスです。
公共放送BBCの力が強いイギリス。
隣国の韓国。
テレビ放送はお金を払うものであるという文化のアメリカ。
3カ国ではテレビ同時配信サービスはどういった展開を見せているのでしょうか。
イギリスの場合
世界の公共放送のトップと言っても過言ではないBBCは「BBC iPlayer」を2007年のクリスマスにβ版を開始しています。
↑トップギアを始め、放送された番組を再生することも可能
BBCはNHKと同様に受信料で成り立つ公共放送で、テレビを購入する際にテレビライセンス(受信許可料)を支払っていないとテレビ自体の購入ができない様になっています。また、罰金も課されるほど厳しいルールでBBCは運営されています。
しかし、このBBC iPlayerは映像再生の際に受信料に関する警告のポップアップが出てくるものの、仮に視聴者が受信料を払っていない場合でも罰することのない「信用制度」を用いて運用しています。
↑テレビライセンス(受信許可料=受信料)を持っていますか?
BBCの主要チャンネルであるBBC OneやBBC Twoはもちろん、ラジオも全チャンネルが配信されています。サービスの発展でBBC Threeは2016年にデジタル放送を停止。オンライン配信に切り替えました。
これはチャンネル自体が若年層向けであったことも関係しますが、元々電波で配信していたものをネット上に切り替えるという取り組みは日本では中々起こり得ないことです。
しかし、BBCはやってのけています。
BBC iPlayerはNHKにとって見れば最大の目標であり最高の教科書です。
続いて民放について。
イギリス国内で最大の民放「itv」はBBCのiPlayerの開始1年後の2008年12月に「itv Player(現itv Hub)」を開始しています。
itvは民放ですので放送自体にCMが入ります。また、見逃し配信の再生の際にも広告が挿入されます。
昨今増加している、広告嫌いのユーザーに対しては毎月3.99ポンド課金したら広告は無くなり、またEU圏内であれば同時配信も見れる「itv Hub+」も提供されています。
ネット配信という新たな場所では、ただ単に同じ地上波放送を提供するだけではユーザーは集まらないし、発展もしない。
ましてや相手はBBC。
少しでも大きなサービスになるためには「課金してもらう」という選択肢も必要なようです。
韓国の場合
韓国の公共放送KBSではNHKと異なり、電気料金に上乗せされる形で受信料が徴収されています。
放送はホームページの右上にあるON AIRを押すとすぐに簡単に再生されます。
日本からもVPNを介せば簡単に視聴できてしまいます。(一部ログインが必要)
↑2枚目は新型コロナウイルスについてのニュース
公営放送のMBCと民放のSBSもネット同時配信を行っており、韓国国内の主要放送局はネット上で完結します。
有料放送局も独自にサービスを行っていたり、携帯キャリア(KT、LG U+など)によるサービスも充実しています。
なぜ韓国では日本ではオールドメディアに当たるテレビ放送がここまでネット上にほぼ移行しきれたのか。
放送番組国際交流センターの韓国についての記事には
韓国で比較的早くから地上波放送局のネット配信が可能だったのは、「急速なブロードバンドの普及」と「番組の著作権が地上波放送局へ帰属」されていた韓国の当時の現状が反映された結果であった。
それから10年以上が過ぎた現在、韓国ではオンラインを基盤とした多様な形態のプラットフォームが登場し、チャンネルの数も飛躍的に増加した。番組制作の現場や制作資金の調達方法にも大きな変化があり、放送局の収益構造にも変動が訪れている。
1997年から1998年のアジア通貨危機によって経済が大打撃を受けた韓国。
金大中政権はIT産業を経済再生の中心にし、情報インフラの整備を進めました。大規模な政策「サイバーコリア21」によって韓国は一気にIT先進国へ突き進みます。
↑NTTによる韓国政府の取り組みの解説
通信の面で見ても韓国国内でのインターネットへの移行というのは当然だったのかもしれません。
アメリカの場合
広大な土地を有するアメリカではケーブルテレビが発展してきました。
日本のように東京の一角に大きなスカイツリーを建てて、関東地区全体に電波を飛ばしてカバーするという技は、広大な土地を前にしては電波塔を大量に建てる必要がある、メンテナンスもしないといけないとメリットは少なめ。
そうなると電波で放送を送り出すことはデメリットだらけ。天気にも左右されず、安定した放送ができるケーブルテレビが普及していくのは当然です。
しかし、近年のNetflixを始めとするネット配信サービスの普及でコードカット(ケーブルテレビなどの有料放送をやめる)する人が増加。
若年層を中心にコードネバー(有料テレビ契約を行ったことのない視聴者)の人も出てきました。
ネット配信上でもケーブルテレビ文化は残っています。
3大ネットワークと称される視聴者数の多いテレビネットワークの一角「NBC」ではネット配信が行われています。IPアドレスで利用地点の放送局が表示されます。しかし、
↑プロバイダーのアカウントが必要です
ケーブルテレビまたは衛星放送のアカウントが必須。
アメリカ内のテレビネット同時配信はお金を払ってる人向けの付属品という認識であり、「お金を払ってテレビを見る」というのは根強いようです。
有料放送に入っていた人たちがネット配信サービスに流れたのであれば、
ネット上で完結するプラットホームをに作り上げればいいじゃないというマリーアントワネット理論で始まった、ネット配信サービスとしては古参の「Sling TV」
↑放送中の番組が表示されており、選択すると再生(画像はCnetより)
運営は日本で言うスカパーにあたる衛星放送のDish Network
Dish Networkも加入者が減っている中で、このサービスを開始。ある一定のユーザーは獲得できたようです。
衛星放送としてライバルのDirecTVも負けてはいません。
AT&T TV Now(旧DirecTV Now)を始めています。
↑AT&T TV Nowはプラントしては65ドルから
主戦場は衛星やケーブルテレビといった設備の必要だった空間からネットという仮想空間へ移行したアメリカのテレビ。
もちろん、ネットで縄張りを張る会社も黙ってはいません。
Youtubeも同様のサービスYoutube TVを開始。
↑通常のYoutubeと同じ操作感覚でテレビを見ることができます
上記2つのサービスに遅れを取るも、他のサービスには無いチャンネルを基本プランに入れるなどネット同時配信サービスの要となっていきました。
アメリカでは「お金を払ってテレビを見る」という文化はこれからも残っていくようです。
どうして海外ではここまで進んだのか
イギリス・韓国・アメリカの3カ国には共通している点があると思います。それは何だかんだ主戦場をインターネットに切り替えることができている。
特に韓国はお国柄インターネットの利用者が増大していて、メディア自身がインターネット上に拠点を構えるのも当然であり、発展していく。
イギリスのBBC・itvも地上波もしくはテレビ放送というものに固執せず、インターネット上のユーザーも取り込む姿勢を見せてきた。
アメリカは衛星放送やケーブルテレビという視聴するためのプラットホームが多くある中で、Netflixの登場と普及によって一気に流れはネット空間へ進んだ。
時間や制約がありながらもネットへ移行している。
日本ではどうでしょうか。
スカパーはあれど、それはどちらかと言うと地上波にプラスして専門チャンネルが視聴できますよというもの。
ケーブルテレビも一部の都市部に限られ、テレビ放送の根幹を担うものでもない。
長年、地上波というカテゴリーが日本国内に蔓延り、それらに属する放送局のプログラムがテレビのトップとして君臨している。
そして視聴者自体も地上波から提供されるものを欲している。
インターネットはインターネット、テレビはテレビとメディアごとで完結するコンテンツが好まれているのもあるでしょう。
これらがインターネットという空間への移行を妨げているのではないでしょうか。
NHKが始めたことで周りがうるさくなればいい
NHKがNHKプラスを開始した点で、一番注目されているのは受信料はスマホ・PC持っているだけで取られるの?というところでしょう。
ただ、正直ここらはBBCが通った道であり、ある程度NHKも批判されることをシミュレーションしているでしょう。
これを気に集金人というアナログを減らしデジタルに進みたい気持ちは大いにあるでしょう。
NHKとしては受信料も欲しいけど、今回のNHKプラス最大の目的はネットでもNHKの存在をアピールしたい。私はこれに尽きると思います。
コロナウイルス騒動含め、日本には近い将来に災害が各地で起こりうる可能性を秘めている。
もし、電波ばかりに固執し、いざのときにネット上で本来ならNHKが立つべきポジションをどこかに奪われるのは、絶対に避けなくてはいけない。
延期となった東京オリンピックだって、日本国内では独占ではありません。
民放と共同で放送するジャパンコンソーシアムという放送機構で放送していきます。
しかしネット上となれば話は変わります。
NHK vs 民放
一歩でもネットでオリンピック=NHKになるためにはNHKプラスという先手は批判を受けながらも必須だったと思えるのです。
NHKプラス!?受信料どうするんだ!という批判は事実上の宣伝です。
うるさくなればなるほど、NHKをネットで見れるということも知れ渡るし、民放に対する視聴者の目も変わっていくでしょう。
ちょっと長くなったので、民放も含めた日本のこれからを次で考えていきす。