超人のための音楽 第一番 AとB 解説
デジタル・テクノロジーの進歩がもたらした音楽の新しい可能性として私が関心を持っていることのひとつが、人間の知覚能力を超えた音楽である。デジタル音響合成は人間の聴取によるフィードバックを必要としないので、人間の聴取能力を超えた音楽を作り出すことができる。もちろんそれらは「天球の音楽」のように昔から概念としては存在したし、トータル・セリー音楽のように音楽を作り出す方法が知覚能力を超えてしまうこともありふれたことである。この《超人の音楽 第一番》は現代のテクノロジーを使ってもはや人間を聴き手として想定しない音楽を作る試みである。しかし一万年後のわれわれの子孫がこの音楽を聴き、読み解く力がないと誰がいえよう。また今日の聴衆のなかにその能力も持った者がいないと誰が断言できるだろう。
ハイレゾリューション・オーディオの技術を使えば、人間の可聴範囲を超えた音楽を容易に作り出すことができる。ここでは96Khz/24bitのモノラルサウンドファイルとして音楽は出力されている。
具体的には28160hz(A10)を中心とした上下対称に指数的な広がりをもつ64音音階を64個用意して、64音セリーによる64声部の音楽を作っている。この音階はオクターブ周期を基礎においておらず、音名でいうならばすべての音はG#10-A#10の長二度の内に収まっている。
これらのプロセスはアルゴリズムとして音楽を自動的に生成する。同じアルゴリズムを使って2つのヴァージョンが作られた。どちらも演奏時間は1秒に満たない。結果としてbの方が静かな音楽になった。
人によると、可聴音域を超えた音でも人間の聴取に影響を与えるということがあるということである。であるならば今日のこの体験もまたすべての人にとって意味のあることではないだろうか。
サラマンカホール電子音響音楽祭にて2015年9月13日初演。