アクースティカですか 解説
この作品では、われわれのヴァージョンの《アクースティカ》で大きな役割を果たす、ターンテーブルとベルトコンベア、2つの回転する物体を用いて、記譜法の試みをしている。
《アクースティカ》のように、演奏者が楽譜を演奏モデルとして学習し、体に覚え込ませ、舞台上でリアルタイムに再編するというやりかたは当時は斬新だったし、今でも狭義の現代音楽の文脈では新鮮かもしれない。とはいえその時点で、その方法論はクリスチャン・ウォルフやコーネリアス・カーデューによっても共有されていたし、もちろんその後1970年代以降の即興音楽、実験音楽の実践は更に先にいっている。それを前提に、ここではあえて楽譜を外在化させ、体の外に実体化された楽譜を身体とテクノロジーによって再編する、ということをやっている。
と同時に、その後の現代音楽の多くの増幅、エレクトロニクスを使った多くの試みが、観客からは見えないミキサーデスクに座った作曲家によって統率されるという形で(《アクースティカ》の音響オペレーターの役割にもその萌芽が見られる)、作曲家の権威を復活させた図式を、あえて楽譜を可視化したうえで、転倒させるということをやってみた。
ここで現れる音符はすべて、《アクースティカ》の楽譜にある、ab lib. と名付けられた8ページから採られている。この部分では楽器を特定しないが、音の高低と大雑把なリズムだけが記譜されている。本来カーゲルの指揮のもとにユニゾンで《アクースティカ》の任意の楽器を使って、演奏されていたが、初演とその後数回演奏されただけで、演奏者たちが必然性を感じなかったために、その後は省略されることになった。楽譜には含まれているが、初演メンバーによる録音にも入っていないし、今回の演奏でも使用されない。その部分をあえて使っている。このようにすればもう少し面白くなるだろう。絵文字が併用されるのは、その断片の一部がまさに絵文字のように見えるという連想からきている。
声に使われるテキストも、《アクースティカ》の楽譜からの引用で、意味のないテキストのすべてを分解して使う。
このように批評を作品の軸とすることは、まさにカーゲルがやろうとしていたことであって、その意味ではこの作品はまったくカーゲルの思考を継承しているといってよいと思う。
《アクースティカですか》はカーゲル《アクースティカ》再演時、2019年6月1日に愛知県芸術劇場小ホールにて初演された。