【D2C】戦略から読み解く、これからのマーケティングに必須な思考法
■書籍の紹介
※補助書
■はじめに
D2Cとは
D2Cとは、「Direct to Consumer」の略で、”消費者に対して商品を直接的に販売する仕組み”のことを指します。すなわち、自社で企画・製造した商品を、ECサイトなどの自社チャネルで販売するモデルのことです。一般的に企業は、自社商品を小売店に並べて販売するケースが多いです。たとえば、Appleが開発したiPhoneは、Apple Storeなどでも直接販売されていますが、3大キャリアのdocomo、au、SoftBankがおおよその販売経路となっています。このように、自社商品を販売するためには、他社を介して売るケースがほとんどです。ところが近年、自社商品を他社を介さずに自社チャネルにて直接販売するケースも目立っています。最近ではアパレルや美容関係などが、D2Cを展開している企業としては多いです。
日本では、主に小売ならAmazonや楽天、アパレルであればZOZOTAWNといった第3者によるプラットフォームでの販売展開が主流です。
ECサイト構築という難解なミッションを避けつつも、日本中の多くの消費者に商品を届けられる魅力が大きい反面、競合製品との比較や意図しないブランド毀損が起きているなどのデメリットもあります。
米国では、多くのユニコーンと呼ばれる企業がD2C形態を整えて既存の市場へ参入している状況にあります。
私は本書を読んでいて、D2Cモデルは今後の事業体型の一つになり得ると考えました。本書の事例は、米国のものであり日本国で考えた際の導入はまた特殊になりえますが、大前提の立ち位置を知ることで、これからのマーケティングやプロモーションに活かせると思います。
■プラットフォームVS世界観
はじめにでも触れたように、多くの小売=リテールはプラットフォームを用いた販売戦略をとっています。
一方でD2Cは販売を主に自社内で完結させる仕組みを整えています。
幅広い施策がある中で、最も気にしなければならないのはプロダクトの世界観です。
例えば、米企業『Casper』はマットレスを専門で取り扱うリテール企業です。創業後わずか3年で業界のトップに踊りで、これまで君臨していた老舗企業を破産にまで追い込みました。
わずか数年で、急成長を遂げた理由はなんでしょうか。
それは『Casper』が睡眠という体験をデザインしたからです。米国のマットレス市場はそれまで停滞していました。
購買行動としては、消費者がデパートへ出向き、何種類とある特に気に入ったデザインが無い中で無駄に思いマットレスを購入していくシーンが日常茶飯事だったそうです。
背景としては価格帯的にも、マットレスをオンラインで購入する人はいないだろうという事もあり、基本的にはオフラインでの販売が主流でした。
生きている限り、毎日使うものを惰性で選ばざるを得ない市場がそこにはありました。そこに目をつけた『Casper』はオンラインで気軽にオーダーできる点やInstagramでのアカウント開設(フォロワー数15万人)、雑誌の掲載など多岐に渡るメディアで『Casper』を利用したシーンを投下し、マットレスを選択する事の楽しさを伝えていきました。
加えて、自社生産から自社販売という事もありコストも既存強豪の半額程度で販売でき魅力的な形で市場参入に成功しました。
またこれらのプロモーション活動の中では、一切セールスなどはせずにお洒落な写真やブランドの誕生秘話を取り上げていった投稿を中心に行いました。いわばプロダクトではなく「世界観」を買ってもらうべく試行錯誤し、成功した形になります。
前回の書籍で、『アフターデジタル』を読了した際に、プラットフォームを開設できる企業が勝つといった考えを持っていました。
自社にデータを溜め込み既存のプラットフォームのブラッシュアップにて顧客を逃さない仕組み作りが急務と思っていましたが、情報量が多く、消費者が「何を使ってよいかわからない。」といった市場感ではD2C型は主流になってくると予想できます。
例えばですが、治療院や歯科といった多く存在するものの、競合と差別化が難しい分野でも1つの世界観を創ってあげる事で価格や取り扱うメニューに絞られずに集客ができるのではないかという事です。上記は小売ではないですが、ゆくゆくはあらゆる業態で持つべきであろう概念になると捉えています。
■トランザクションではなくリレーションの強化
トランザクション:1回限りの購入による、短期的な購買体験
リレーション:1回限りでなく、その先も繋がっていく、中長期的な購買体験
一般的な小売ではLTV自体は注視されるものの、殆どが1回限りでの体験に終わってしまう事が殆どです。
通販では縛りによって疑似的なLTVの向上が見込めますが、真の購買体験、つまり初めに接触した感動以降はおざなりになりがちです。
リレーションを築く為の概念としては、「売った瞬間」→「顧客の終わり」ではなく「売った瞬間」→「顧客の成功」を描く必要性があります。
例えば、化粧品などは「しわを消したい」「若々しくいたい」といった成功を望んだユーザーが購入に至ります、日本的に言いますと購買させて終わりですが、米国等ではその先が手厚いカスタマーサポートの体制になっています。
使った感想はどうか、肌には合っているか、化粧品の使い方はこちらといった具合に購入後も定期的な顧客との繋がりを意識しています。
逆に購入前には、受領のお知らせ、配送ステータスの詳細連絡、到着後のSNSでのシェアを促すシーンなど通常では業務的な連絡になりがちな場面でもメール送信者のジョークを交えつつ送る体制が整っています。
「手厚いサポートなら既にやっている!」となるかもしれませんが、上記は意図的に顧客との接触を増やしにいっている面に着目すべきです。
いわゆるカスタマージャーニーマップ(以下:CJM)では、商品の認知から購買、長くてその先にあるシェアまで描かれている場合が多いですが、顧客接点(タッチポイント)で考えてみると、サポートや購入後に抱く不安点や意識してほしい行動変容までは描かれていない場面が殆どです。
そのため、買い切り型ではなく、顧客の商品購入後の「成功」を意識したサポート&セールスをフローを意識した、CJMが必須になります。
また、セールスを行っていく上では、実はリアル店舗の存在も重要視されます。
仮に初回接触がECだった場合、アパレルなどであればEC内でブランドコンセプトを紹介しつつ、シーズンに合わせた洋服を販売する形が想像できます。
夏服を買ったあとは、秋服→冬服と購入に繋がり、いつも買っているブランドの店舗が実は東京にあるとわかれば、まず向かい、店頭での店舗限定ソユ品の買い物やデザイナーとの交流イベントの申し込み、イベントでの直販売などといった具合にLTVを高められるタッチポイントを多数に生じさせる事ができます。顧客と接触する事を目的としたタッチポイントとマネタイズ化する事を目的としたキャッシュポイントの両軸を意識、創り上げるために、あえてリアル店舗の存在も欠かせず、視野に入れておく必要があります。
さらにその理由は後述にも記述します。
■顧客のファン化ならぬエバンジェリスト(伝道師)化を目指す
マーケティングのフレームワークでは近年、「AISAS」が主流となっており、最後の「S」部分はShareのSから来ています。
SNSでのShareだけならば、以前からも注目はされていました。D2Cに関してはさらに上級のShare獲得を目指しつつ、ある意味で顧客までもブランドを創り上げる仲間にする目的もあります。
エバンジェリストとは、伝道師を指し、企業側が特別なプロモーションを打たずともブランドを推薦してくれる味方を指します。
ファンという体系に収まらず、時には商品構成から一緒に入っていく立ち位置になります。
冒頭でも記載した、世界観の語り部となってもらい近年注目を集めている「UGC」の生産を自発的に行う、そして1次拡散、2次拡散をするなどの展開です。
またUGCとはいっても、消費者が自由に投稿するような型も狙いつつも、企業自身も自社ブランドとして、どういった投稿を行って欲しいか、発言や写真を使って欲しいかを明確にする必要があります。
そうでないと創り上げた世界観の崩壊に繋がり、本末転倒な状態になってしまいます。
私個人の考えとしては、SNSは使えるだけ使い、プラットフォームに即した投稿を企業は行うべきと考えます。
代表的なInstagram、Twitterを初め、Tik TokやPinterestを用いた投稿戦略もこれからは必須になります。
また世代のせいなのか、企業の役職人と話していると「SNSの運用の仕方がわからない」といった悩みを良く聞きます。炎上させない限りは、自由な発送が求められる場面でもありますが、1投稿すら考え込んでしまっているなという印象です。
ーブランド立ち上げの背景ー
ー創業ストーリー(苦楽)ー
ー自社メディアの宣伝ー
などなど、投稿の内容は実は盛り沢山にあります。この発想も筆者の年代が丁度、デジタルネイティブ世代だからこそなのでしょうか。
今後は企業のSNSを各媒体の特性に併せて運用できる人材がより重宝されるかもしれません。
※筆者ですら、、Tik Tokは別世界に感じています。
話はそれましたが、エバンジェリストが増加する事で得られるメリットは自社のUCGが半永久的に増え続ける、さらにWeb上での占有率が高まる事です。
企業アカウントを運用する上で、担当者が考えがちなのは、バズツイートを思案する事です。確かにバズツイートであれば、瞬間的に話題化でき、数十万のインプレッション等の効果は見込めますが、日々バズが生まれる世の中では一過性で終わってしまいます。
UCGを増やすことで、ジャブ打ちの様に、UCGを蓄積して安定的な流行を造り上げる事ができます。
また、Web上での自社名の露出が増えてくると、指名検索のブランドリフトの可能性やサイテーションの評価が期待できるなどの副産物もあります。
サイテーションとは、Web上での言及を指し、Web上でユーザーに取り上げられたブログやSNSでの投稿などの外部リンク有り無しに関わらないものを指します。
これらが増えてくると、検索エンジンの評価が得られ、結果的にSEOの対策にも繋がります。
■ブランドのメディア化は必須
D2Cと呼ばれるブランドを見て行くと、メディアとしての一面もあります。
例えば、男性のEDに関する治療薬を販売している『Hims』は、自社コンテンツを抱えています。
これは俗に言う、オウンドメディアといった立ち位置になりますが、他にもD2C企業として、スーツケースブランドの『AWAY』は自社で雑誌を発刊しています。スーツケースという事もあり、取り扱っている内容は「旅」に関連のする、コンテンツが記載されており、むしろプロダクトの説明は一切していない内容。
旅という体験を想起させ、その雑誌の創り上げた旅のコンセプトに自社の製品を匠に折込、間接的に販売を促しています。
正に1つの世界観を創り上げ、販売をしています。雑誌も一見すると古いチャネルの様に感じますが、1つの媒体で自社に特化した内容をふんだんに盛り込めるのでブランディングには最適かつ電子書籍の流れもあるのでコストも紙一辺倒の時代に比べると安価で抑えられるのかもしれません。
実は日本でも先立って、D2Cの業態を最適に活用している企業があります。
株式会社クラシコムの運営するオウンドメディア、『北欧、暮らしの道具店』ではなんと短編ドラマが掲載されています。
You Tubeでも再生されており、全4話からなる再生回数は数十万を超えています。ドラマ内では、全ての家具が株式会社クラシコムの製品が利用されており、「ドラマ内の世界観」を造り上げることに成功しています。
ドラマは人気を博し、映画化までされるというのですから、コンテンツマーケティングの最強形態とも言えるかもしれません。
今のオウンドメディアは、ユーザーに役に立つ記事を提供し、ふとした瞬間に思い出してもらうなどのブランド喚起が目的ですが、1番組・1映画などの映像作品と組み合わせたコンテンツ化の必須の時代が来るかもしれません。
そうなってくると、5Gの到来で動画の需要がますます伸びる中での盛り上がりや、中小の代理店含めてTV企画のような超本格的なディレクション力が求められる時代が来る、来ていると言えます。
■まとめ
D2Cの世界観の策定には眼を見張るものが多々ありました、ただ最後に触れなければならないのは、如何にD2C業態といえども成長の鈍化がやってくる。ブランディング戦略だけでは成長が鈍化するステージがやってくる。事です。
実際に、D2Cと呼ばれるモデルの企業はAmazonなどのプラットフォームへの出店もしていたりしています。自社ファン潜在層、顕在層のみで取り込む事のできないSNSなどに疎い世代もターゲットになり得るからです。
まだまだ、ECのみでは成長に鈍化の来る時代ではあるのおで、リアルやSNS等を駆使したマルチチャネルの設計と各チャネルに即した世界観の統一が鍵を握ります。
■具体的TO DO
・SNS戦略に関する提案書を作成してみる。
→新規のリスティングプラスのプロダクトとしてテスト販売
実際にSNSの運用はできないか聞かれる事が多いので必要性を説き、セミナーなどへの誘導を促す。