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「時代の大転換」(その3)

大川原 栄
弁護士
士業適正広告推進協議会 顧問

1 「時代の大転換」の確定

「空白の30年」といわれる長期低迷の時代を経て、2023年に「時代の大転換」が行われた。それは、これから数十年にわたって①労働力需給における「売り手市場」が常態化し、②社会全体のダウンサイジング(縮小経済)が進行していくという二つの特徴を持つものであり、日本の少子高齢化に伴う急激人口減少という極めて単純な要因を理由とするものだ。

大マスコミは、最近ようやく他人事のように急激人口減少あるいは日本の賃金水準が異常に低いという事態を報じるようになり、また、日本の将来の「不安定」さに触れるようになった。いずれにせよ、日本の将来が「明るい未来」であるとする考えはほぼ絶無であって、そのような時代を想定した対応をすることも必要になる。

2 「時代の大転換」から想定される象徴的事象

⑴ 「一国二制度」(※1)の加速

今後は同じ日本国でありながら、大都市圏連合と地方国連合への二分化が加速する。「空白の30年」の間も、地方の衰退・過疎化は進んでいた。その象徴がいわゆる「ポツンと一軒家」であり、地方都市の「シャッター商店街」である(首都圏にも存在するが)。  

そして、この事態はますます加速していき、東京や大阪等を中心とする大都市圏と大都市圏を除く地方が、同じ国とは思われない状態に至ると推定される。そこでは同じ言葉、同じ通貨を使い、基本的な価格基準は全国チェーンのコンビニ等で全国一律の設定がされつつも、人口密度や賃金水準の格差を背景に大都市圏とは全く別の経済圏が固定・拡大するということである。

例えば、地方においてハイレベルのカフェやレストランを営み、今はそれなりに繁盛しているとしても、利用者の絶対的減少は必然的にその経営を圧迫して縮小・閉鎖に追い込み、また、一定数の需要を前提に成り立つコンビニすらもその存立が危うくなることも想定される(既に閉鎖に追い込まれているスーパーもある。)。

その結果、地方には観光客の支えがあってギリギリ成り立つ「道の駅」といった店舗のみが存続するだけで、観光客も来ないエリアではほぼ全ての店舗が壊滅するという事態に至るのである。他方で、過疎エリア(地方国)からの人口流入により人口減少が比較的緩やかな大都市圏においては、何とか従前どおりの店舗の維持が可能となり、ここに同じ国でありながら、相応に活況を有するエリアと衰退著しいエリアという対極の「国」が併存する「一国二制度」が完成することになる。

※1
 「一国二制度」 香港が中国に返還された際、中国政府とイギリス(香港)との間で中国本土とは異なる自由民主の制度を香港に残すというシステム。香港で「治安維持法」等が導入されたことにより、同システムは歴史的に破綻している。

⑵ 「売り手市場」の加速

「求人しても応募がこない。」という某CM中の言葉は、現在の労働市場を端的に表しているものである。現に、今まで普及していた「求人広告(サイト)」で求人を出しても、それに対する応募が皆無に近いことから、「ビズリーチ」に代表される現在及び将来の転職を見越した「応募広告(サイト)」で労働者を集め、それを見た企業側がその応募にアクセスするというスキームが「求人」の中心になっている。

ビズリーチ自体は「ハイクラス転職」を想定したものであったとしても、「ミドルクラス」「ロークラス」(※2)においても従来の求人方法では人が集まらないという状況に至っており、今や従来の求人方法では人が集まらないという事態に至っている。

そして、「ロークラス」求人の典型がコンビニや飲食店の店員であるが、それらの業務は外国人なしでは成り立たない業態になっており、この流れは介護・医療サービス分野、農業分野、建築現場等においても加速している。しかも、外国人労働者は、「一国二制度」の影響もあって地方から大都市圏に移動しているという事態すら招いている。

これから恒常的に続く「売り手市場」の加速は、賃金を上げられない中小零細企業での人手不足に直結することになり、それらの業種の衰退をもたらすとともに、あらゆる業種での「品質低下」「サービスの低下」にも繋がることになり、その結果として、日本の産業全般からその活況を失わせていくという大きな流れが完成することになる。

※2 
「ロークラス」 「ハイクラス転職」という言葉は、これまでになかった造語であり、ハイクラス=専門職・高収入という意味内容を持つ。この造語との対比で「ミドルクラス」「ロークラス」という言葉を用いたが、この造語は業種・収入状況等からの括りであって、それが職業の貴賤を意味するものではない。

⑶ 格差拡大(※3)の加速

経済的(貧富)格差は、既に「空白の30年」時代から始まっていたが、この格差はこれからの時代においてどの様な立ち位置にあるのか、どのように振る舞っていくのかの影響が著しい中でますます拡大していく。

そして、時代は、「低所得者層」の存在を前提とした社会インフラを既に完成させているのである。業務スーパー、百円均一店、ワンコイン飲食店等々が全国チェーンとして展開し、「低所得者層」を対象としたビジネス自体がその存在を支えている。「低所得者層」は、その意味で「安心して」これまでの生活をこれからも相応に継続していけるということだ。

円安、物価上昇、低賃金が、一部企業に膨大な利益をもたらしつつ(人手不足で一定の賃金上昇はあるとしても)、その利益の一部のみが賃金上昇に充てられるだけという事態はこれからも継続していき、その結果、「持つ者」と「持たざる者」の格差が「空白の30年」とは異なる次元で加速する。

そして、それは「一国二制度」と相俟って大都市圏と地方国間の賃金格差を拡大していくことにも繋がっている。

※3
 「格差拡大」 これを肯定的に見るのか否定的に見るのかは、その立ち位置、価値観によって異なる。価値観の多様性により、富=幸せであり、貧=不幸であるという一義的定義はできない。

⑷ 産業構造大転換の始まり

過去、日本は「物造りの国」を誇りにして展開してきた。しかし、この歴史が終焉を迎えたことは誰もが否定しえない事実である。ごく一部の自動車産業等はかろうじて生き残るとしても、残念ながらそれ以外の「物造り」産業は衰退の一途を辿るだけだ。

これからは、既に萌芽が見られる観光サービス産業が拡大し、また、疲弊した地方の農地等を再編した上での「農業の工業化」産業が拡大するということになる。これからの日本は、ヨーロッパにおける観光・農業国であるスペイン、イタリア、ギリシャのようになっていくということだ。

⑸ 士業サービスへの影響

「時代の大転換」は、当然に士業サービスにも影響する。士業サービスを一言で説明すれば、民間と民間の争いを調整し、また、行政(官)と民間の間の手続等を取り持つことを主な業務内容とする職種ということになる。。

人口減少、ダウンサイジング(縮小経済)は、必然的に「自然人」と「法人」の数の減少をもたらす。単純に「人」の数が減少すれば、それに比例して民民の争いも減少し、官民の手続も減少することになる。人口が1億2000万人から1億人に減少し、500万法人が400万法人に減少すれば、それに比例して、例えば、債務整理、交通事故、登記手続、税務申告の数も減少することになる。この事態は、「一国二制度」による地方国では一層深刻でもある。

そして、同時に、ITやAI技術の進歩がもたらすそれぞれの士業サービスへの影響も当然に否定できないことである。

3 「時代の大転換」と明るい未来

「時代の大転換」の(その1)、(その2)、(その3)で指摘したことをストレートに受けとめれば、何とも悲惨な将来像しか見えなくなってしまう。

(その1)で指摘したとおり、2023年と2024年は、10年20年30年後に振り返って見れば「時代の大転換」があった時代であると評価されるのではないかということであり、これからの時代を生きていく過程ではおそらくほとんど気づかない「大転換」ということだと思う。

「これからの時代」もまた、今までと同じように当然に「今までの時代」の延長線上にしかなく、「今までの時代」でしていたことを「これからの時代」に合わせて改良・工夫・修正を積み重ねながら生き抜いていくことになる。だが、その過程で「時代」を相応に分析しつつ、それぞれがその分析を生かしていくならば、それが「悲惨」なことに繋がることはあり得ないことであり、個々人の明るい未来に繋がっていくと強く思う。

もしかして「大きな流れ」があるのかもしれないということを少しでも考慮しながら生きるかどうかで、その後の個々人の有り様が異なる可能性もあると思う。

以上


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