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弁護士広告の解禁と規制の狭間から見る士業広告のあり方

島田 雄左
株式会社スタイル・エッジ 代表取締役
士業適正広告推進協議会 理事

士推協ではこれまで士業広告について様々な角度から議論してきました。最近になって士推協の存在を知ってくださった方々のためにも、今回は原点回帰し、弁護士の業務広告の歴史を概観しつつ、士業広告のこれからについてコラムをお届けしたいと思います。 

時を遡ること1949年、日本弁護士連合会(以下、日弁連)が発足した際に弁護士倫理が規定され、広告の全面禁止ルールが定められました。しかしながら、弁護士に依頼したくとも、あまりに情報が少ないことから市民が声をあげ、1987年には条件付きで弁護士広告が解禁されました。ただ、この時に広告することが許されたのは、弁護士の氏名や住所、事務所名や所属弁護士会等、極めて限定的な情報にすぎませんでした。

時は流れ、今のように弁護士広告が本格的に解禁されたのは、2000年になります。そこには以下のような4つの背景がありました。

1.    司法制度改革の一環

1990年代後半から進められた司法制度改革の一環として、弁護士の役割をより広げ、法的サービスを受けやすくするための様々な取り組みが行われました。弁護士広告の解禁は、その一環として、法律サービスの可視化と利用しやすさを高めることが目指されました。

2.    弁護士の数の増加と競争促進

1990年代から弁護士の数が増加していきましたが、広告が禁止されているため消費者が弁護士を選びにくく、また弁護士同士の競争も限定的でした。広告を解禁することで、弁護士のサービス内容や専門性を消費者に分かりやすく提供し、競争を促進する狙いがありました。

3.    消費者の法的サービスの利用促進

日本では、以前は弁護士に相談することが一般的ではなく、法的サービスへのアクセスが限られていました。広告の解禁により、弁護士の存在や提供するサービスが広く認知され、法的なトラブルを抱える人々が必要な助けを得やすくなることが期待されました。

4.    透明性の確保と消費者保護

広告によって弁護士のサービス内容が明確になることで、透明性が高まり、消費者が自分に合った弁護士を選びやすくなります。これにより、消費者保護の観点でもプラスの効果が期待されました。

これら4つの背景があり、2000年に弁護士広告が解禁されました。ただ、広告が解禁されたとはいえ、実際には様々な厳しい規制があります。では、何故に解禁されたにもかかわらず、規制が厳しいのでしょうか。そこには3つの理由があると思っています。

 ひとつは弁護士業務の「専門性の高さ」です。たとえばスーパーでの買い物であればほぼすべての一般消費者が利用し、購買頻度も高いため、どのスーパーがよいか、といった比較や判断も可能です。しかし、多くの一般消費者にとって、弁護士は縁遠い存在です。法律知識がある人は別ですが、実際にはない方が大半であり、法律業務といった「専門性の高さ」から、まったくの規制なしには一般消費者の誤解を招くことも懸念されます。

ふたつ目は「緊急性の高さ」です。弁護士の仕事は「不幸産業」とも言われ、借金や交通事故、離婚、相続といったようにトラブルにある最中に判断しなければいけない「緊急性の高さ」があります。十二分に比較検討する余裕もなく、判断する時間がない状況下に消費者はおかれるわけです。

そして、最後に「客観性の担保の難しさ」です。先述したようにスーパーでの買い物のように購買頻度が高いわけでもなく、縁遠い存在であるため、広告以外の評価軸が少ないわけです。

今あげた「専門性の高さ」「緊急性の高さ」「客観性の担保の難しさ」、これらの観点から消費者保護のために厳しい広告規制がなされています。

ただ、私は個人的に、広告規制が本当の意味で消費者のためになっているのか、と感じたりもします。一例をあげれば、広告する際に専門の分野を謳うことは禁止されています。つまり、実際には相続を専門としている弁護士でも「相続専門」と謳うことができないわけです。このように規制によって消費者が本当に知りたい情報を届けることが阻まれているケースがままあります。

また、広告規制に対する解釈が弁護士会ごとに異なることも課題だと感じています。広告規制は2000年の解禁時に日弁連が定めた「弁護士の業務広告に関する規程」ならびに「業務広告に関する指針」によりますが、弁護士会ごとに解釈が異なるのが実情です。たとえば、ある広告表現について東京弁護士会はOKだが、別な弁護士会ではNGといったことが生じたりします。

広告とは一種の表現であり、人によって受け取り方も異なるがゆえに判断が難しいことは理解できますが、広告会社の立場からすれば「これはよい」「これはダメ」といったように明確に基準を立てて判断してほしいところです。このように判断が確立されてない状況下では、手段を選ばない悪質な広告が増えてしまう可能性もあります。

ただ、それに対してより規制を強めて厳罰化をしていくとなると、それは結果的に業界全体の凋落のみならず、一般消費者の知る権利を阻むことにも繋がってしまうのではないかとも懸念しています。

だからこそ、士推協では様々な知見をお持ちの先生方にご参集いただき、「専門性の高さ」「緊急性の高さ」「客観性の担保の難しさ」といった3つの視座に立脚し、消費者保護と消費者利益のバランスを見極めながら士業広告のあるべき姿を模索していきたいと思います。

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