言語学の話①かばん語(portmanteau word)と異分析(metanalysis)のおもろい話

いつも書いているnoteとは別に、日常で見つけた言語学に関連する面白い話を書いていきます(同じような内容が既に記事などになっていた場合はそちらも併せて紹介したいと思います。また、より詳細な/学術的な記述は自分が調べられる限り載せたいと思います)。
専門用語に対する自分の理解を深めたり、自分の好奇心を満たすことが主な目的です!間違った記述があれば指摘していただけますと幸いです。

1. アド街ック天国とかばん語

Twitterを見ていたら興味深いトピックを見つけました。

「アド街ック天国」という語(番組タイトル)の語形成に関する疑問です。admaticという単語をもじったタイトルだと思ったのに、そもそもその単語が存在しない…とのことでした。
(ちなみに一応admaticという語は存在していますが、番組タイトルが表すニュアンスとは全く無関係の意味です。)

この疑問の答えとなるのが「かばん語(portmanteau word)」というものです。かばん語とは、「複数の語のそれぞれの一部を組み合わせて作られた語」のことです(Wikipedia)。

「アド街ック天国」も英語のadvertising の”ad- “と、日本語の”街”と英語のdramaticの”-ic”の部分を切り貼りして作られているようです。

上の例を見る限りは、かばん語の形成に関してもやはり拘束形態素(bound morpheme)が重要な役割を果たしている印象を受けます。
英単語の勉強でも、形容詞に接尾辞-lyが付くと副詞になる!みたいなことを言われると思いますが、やはり形態素語形成にかなり重要な要素となっているようです。

2. apronと異分析

ところが、語の形態を決める要因として形態素以外にも人間の「勘違い」が要因となる場合があります。

「apron」という語は日本語でもエプロンという語があるくらい有名かつ基本的な語です。しかしながら、この語は本来(昔)は「napron」という語でした。

ではなぜ「napron」が「apron」になったのか。その背景には不定冠詞a(n)の存在があります。「napron」に不定冠詞を付けると、a napronになります。これが「a+napron」ではなく「an+apron」と誤って分析されてしまいました。このように「語と語の区切りなどを誤って分析してしまい,結果として間違いに基づいた新単語が生み出されるような現象」を「異分析(metanalysis)」と言います(堀田, 2009) 。

コーパスで調べてもnapronという語は現在全く使われていないことが分かります。辞書でも、Oxford Learner's Dictionariesではapronのエントリーはあるものの、napronのエントリーはありません。

誤って分析された語が完全に本来の語に置き換わってしまうというのは、面白くもあり何だかドッペルゲンガー的な怖さも感じます。存在が忘れられてしまったnapronの気持ちを思うと何とも言えない気持ちになります…

この異分析に関連するおもろい話は、慶応義塾大学の堀田隆一先生がブログの方でたくさん書かれているのでそちらも是非読んでください(URLを下に貼っておきます)。

1つの単語が生まれる背景には様々な要因があり、これを研究する形態論(morphology)という分野も非常に面白いのでまた勉強していきたいなと思います。

3. 今回の専門用語ざっくりまとめ

・かばん語:複数の語のそれぞれの一部を組み合わせて作られた語(e.g. smoke+fog=smog, 破る+裂く=破く etc.)
・形態素:意味を持つ表現要素の最小単位。自由形態素, 拘束形態素などがある。
・異分析:語と語の区切りなどを誤って分析してしまい,結果として間違いに基づいた新単語が生み出されるような現象(e.g. a napron→an apron etc.)

4. 参考文献

堀田隆一. (2009). hellog~英語史ブログ #4 最近は日本でも英語風の単語や発音が普及している?


ではでは。最後までお読みいただきありがとうございました。

いいなと思ったら応援しよう!