異彩は不朽に富む
名もなきものの影を拾い、
名を刻むものたちの影を捨てる。
黄昏の紫が夜に飲まれ、
深紅の怒りが灰へ溶けても、
なおその輝きは、
瞳の裏側で燃え続ける。
異彩は過去の規則を裏切り、
未来の秩序を歪める。
直線の真理に裂け目を与え、
円環の完璧にひずみを刻む。
形なきものが形を求め、
形あるものが粉砕されるとき、
均衡の背後に潜む混沌の声を知る。
瞬きの間に、
夢は現実を超え、
言葉は沈黙に変わり、
生と死の狭間で踊る光が、
その身を裂きながらなお進む。
私たちが紡ぎ出す数えきれない絆は、
まばらに絡まりながらも
決してほどけぬ網を描き、
その網の隙間にこそ、
異彩の果てなき呼吸が脈打つ。
無数の影を孕むように、
常に反逆の記号。
それは群衆の波に抗い、
一滴の異なる色を落とす雫であり、
その一滴が、川の流れを
変えることもある。
永劫の孤独と引き換えに
普遍への階段を編み上げる。
目には見えぬが、
感覚を鋭敏にする香りのごとく、
その存在は触れるもの
すべてに痕跡を残す。
他者からの理解を拒絶することで、
むしろ永遠に理解される素地を作る。
美は均一に宿らない。
対称性に宿る秩序の美は、
平穏の中で眠るが、
異彩は不協和の中に咲く一輪の花。
破綻の危うさこそが、不朽の証。
その瞬間、瞬間に、
崩壊し続けることでのみ、
自らを永遠に固定する。
異彩を放つ者は、
孤高の舞台に立つ演者。
喝采も、非難も、舞台の埃に還る。
だが、彼らの演じた軌跡は、
記憶の中で何度も繰り返される。
その繰り返しの中で、
不朽という形を取る。
時の潮流に乗り切れぬ影が、
夜の帳に浮かび上がる。
その輪郭は明白にして曖昧、
規範の枠を踏み越える瞬間にだけ、
人の目に閃光のように映る。
「あの者は奇異だ」と、
定義の闘いの道を歩む魂たちの中で、
異なる者の魂は
澄んだ青のように静か。
無窮の美が、
ひとつの曲がり角にひそむように、
真実は円環ではなく、
ねじれた螺旋として息をする。
その螺旋の軌跡を、
踏み固められた土の道ではなく、
踏み荒らされることのない野原に探す。
色あせぬものとは、
同一性の鏡の中に映る像ではなく、
鏡そのものを砕く光の断片。
奇妙なるものは、
均一の秩序を拒む。
影にさえ輪郭を宿さぬ夜、
何処かに差し込む微光のように。
灰色の群れに紛れる鳩は
ただの静寂だが、
群れの中の一滴の鴉は、
塗り潰されなかった意志の欠片、
忘却の洪水を抗う一筋の痕跡。
花の形を模した雪の結晶は、
溶けゆく間際に、
自身を超える自己を
誕生させる鏡となる。
かつての秩序が崩壊するとき、
尽きぬ脈動を内包し
同調することのない色を描き続ける。
その彩りの中でこそ、
不朽の命脈は揺らめく。
見知らぬ光の裂け目から溢れる時、
異彩は滴る黄金の響きを伴う。
凡庸の軌跡を踏み越えた者が、
影と語り合う夜明けに産声をあげる。
目に見えぬほど微細な矛盾、
言葉と沈黙の間に宿る揺らぎ。
私たちの手のひらで
溶けてゆく過去があり、
触れることを拒む未来がある。
だが、異彩を見つけたとき、
その瞬間は触知できる
時間へと変貌する。
それは永遠の方程式に記された変数、
人知れぬ名に形を与える波動、
消え去ることを拒む一撃の閃き。
だから、異彩は不朽に富む。
滅びが約束される場所でこそ、
破壊の向こう側に
新たな創造の地平が拡がるのだから。
異端の色は定型を裏切り、
型に収まらぬ形を舞う。
その輪郭をなぞる者たちの手元で、
既知の線はたちまちひび割れ、
同じ語り口は砂のように崩れ去る。
それは時代の風の中で
常に異端を選び取る。
革新の地平に息づく異彩は、
過去を呪うのではなく、
その影を吸い込む。
廃れた色彩が新たなる光へと
変じる瞬間を見逃さぬ眼差し
その眼差しは、時間を塗り替える。
反復の囚人たちの耳に届かぬ響き、
調和の檻から漏れ出す音律。
それは反響し続ける、
記憶の深淵を突き抜けて。
孤高なる異彩の声が、
歴史という砂時計の中で
一粒の砂金として光を放ち、
すべての模倣の桎梏を断つ。
時の矛盾の中で、
終わりなき回帰の軌跡は
永遠に開く渦の華を咲かせる。
意匠なき奇跡、
規則を知らぬ芸術、
定義を拒む哲学の芽
それらはついに、
人類の書物の縁に
しるしを刻み、 言葉にならぬ
未来の兆しを明滅させる。
不朽とは、 同じ道を何度も歩むことでなく、
あえて見えぬ道を拓く者の
名もなき息遣いの中にある。