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距離を置いて浮いている孤独な島


虚ろな海原にぽつりと浮かぶ、


孤独な島。


それはただ「そこに在る」だけであり、


距離という名の無数の層に覆われた


孤高の存在。


視線の届かぬ遠く、


意識のはざまに霞むその姿は、


触れられない神秘の象徴とも、


誰にも侵されぬ絶対的な


静寂の砦ともいえる。


この島には誰も寄りつかない。


潮流も風も、その周囲を避けるように迂回し、


静謐の殻を破ろうとはしない。


もはや時間すら、この島を取り巻く距離に


呑みこまれている。


波は打ち寄せることなく、


ただ遠くでさざめく囁きに変わり、


無言の壁に阻まれて


その声を封じられている。


この孤独な島の中心には、


果てしない沈黙が広がっている。


その沈黙は空虚で、


万物を呑み込み、


真理さえも含む深淵。


ここに浮いているその輪郭の奥には、


世界のありとあらゆる響きが潜んでいるけど、


それは誰の耳にも届かない。


そもそも「距離」とは


空間的な分断を超えた、


心のしじまのことかもしれない。


孤独な島は、その隔たりによって


かえって自由を得たのかもしれない。


誰にも観察されず、理解もされず、


ただ静かにその存在を漂わせることで、


他に干渉されることのない「在り方」を得ている。


そして、この島に足を踏み入れる者は、


誰もいないのかもしれない。


いや、そもそもその「距離」を越えた者は、


その先に在るものが島であるかどうかすら、


知ることはないだろう。


水面に漂うその影は、


遥か遠くに置き去られた記憶のかけら


見知らぬ風を背に、


波と共に揺れながら、ただ漂う。


遠い昔、他者と繋がり合う橋がここにあった。


しかしその橋は、時の流れに


浸食され、ひび割れ、


ついに崩れ落ちてしまったのだ。


この島は、かつての夢を土に埋め込んでいる。


枯れた葉がひそひそと語るのは、


無限の孤独が生む、静寂のリズム。


誰も触れることのない静かな地平線が、


水面に描く輪郭は絶えず変わり、


孤立のシンフォニーが延々と奏でられる。


他者が遠く、届かない場所にいることで、


自己が自己に近づく瞬間が訪れる。


他者の目に映らない自分という存在の


奇妙な輪郭、薄れる境界が広がり、


孤独の中に小さな自由が芽生える。


境界を持たない自己は、存在しうるのか?


その問いは波紋のように広がり、


島のあらゆる隅へと行き渡る。


自己と他者の距離を保ちながら、


存在の意味を探す孤独な旅。


この島は、流離う魂の一端であり、


失われた風景を静かに見守り続ける、


無言の目撃者。


水面に浮かぶその孤独は、


目に見えぬ存在たちが問いかける、


果てしない道標。


そしてまた、新たな波が


その輪郭をぼやかし、


無限の海へとその意味が溶けていく。


視線も感覚も及ばぬ場所にて、


孤独の影は静かに、


あるいは気まぐれに漂い、


やがてそれはひとつの物語となる。


だが、その物語を解き明かす者は


もはや存在しない。


それは実在か幻か


それすら問いかけるのは


愚かなことかもしれない。


距離の中で失われ、


静寂の中に溶けゆくその存在。


それはひとつの問いであり、


応えなき答えでもある。


波間に漂う島は、


永遠の沈黙を纏う孤独な存在。


触れられることなく、


理解されることもなく、


ただ、空と海の狭間で息をする。


大海原の深い藍色が、


島の輪郭を優しく撫でる。


けれど、その手は決して届かない。


距離という名の透明な壁が、


すべての温もりを遮る。


雲は通り過ぎ、


その影だけが一瞬の慰めとなる。


この測り知れない空間の中で


根を下ろすことも許されず、


岸辺に寄り添うこともできず、


ただ、存在するだけ。


その一瞬の輝きは、


遠い記憶の中の絆を思い起こさせる。


海鳥たちは時折、


私の上で羽を休める。


彼らもまた、永遠の旅人。


どこにも属さない自由を生きる者たち。


果てしない水平線の彼方を、


黙って見つめ続ける。


そこには、きっと、


同じように浮かぶ島々が、


同じ孤独を抱きしめているのだろう。


この浮遊する孤独の中で、


静かに、確かに、あり続ける。




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