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氷上の花から見える均衡点


冷たい銀の世界に、花が咲く。


それは一輪の凛とした存在、


氷の上に映る微かな美しさ。


冷気が花弁を包み込み、


柔らかくも鋭利なバランスを保ちながら、


その姿は崩れることなく、ただそこにある。


氷はその表面に細やかな亀裂を走らせ、


存在の統一性は既に瓦解し、


純粋なる本質は経験の侵食に晒され、


完全性の幻想は認識の刃によって引き裂かれる。


花弁は凍てつき、透明でありながら、


見えない何かを包み隠す。


氷は静かに、しかし永遠に変化する。


その変化の中で、均衡点は絶えず移ろい、


花はその瞬間ごとの意味を持ち続ける。


それは氷の上に咲くという矛盾の具現であり、


硬さの中に宿る柔らかさ。


氷上の花は、見る者の心の中に


もう一つの花を咲かせ、


その花が示す均衡点は、


思索の中で漂い続ける。


それは視界の端、意識の裏側にひそむ抽象の影であり、


つかみどころのない真理。


氷の表面、凍てつく静寂の下に隠された脆さ。


その上に咲く花は、矛盾そのもの。


一見無垢な美しさ、


しかし存在自体が不安定の象徴。


冷たい氷の上に描かれた儚い曲線は、


永遠の瞬間を映し出す鏡でもあり、


壊れるまでの間に漂う沈黙でもある。


だが、その均衡は絶妙で、


花は揺れることなく、その場に佇む。


美しさと脆さ、生命と無。


この花が教えるのは、


二元論の間にある微細な空間。


その空間は、漂う永劫の波間に顕現す


虚空の彼方より滲み出づる叡智の光芒


無常の靄に包まれた一片の真如。


花が咲くその時、世界は静止し、


その一瞬に私たちは真実を垣間見る。


だが、その瞬間を越えると、


また揺らぎが戻る。


そして、花もまた消え去る。


消えた後の余韻だけが、心に残る。


氷の薄膜に咲いた無垢なる花は、


その根は冷たき虚無に届く。


滴り落ちる透明な涙は、融解、もしくは再生。


一瞬の平衡、静寂のなかに息づく刹那、


その存在は儚くも確かに、


均衡点を保ちながら、


崩壊と生成を同時に歌う。


花弁一つ一つは無限の振幅を宿し、


時の波間で揺れ動く。


その微かな振動は、


私たちが見逃すほどに繊細で、


だが永遠に続く。


不動の中心ではなく、


動きの中に潜む瞬間の到来。


それは、静止でも進化でもない、


変わらないということが


変わり続けることへの認識の裏返し。


存在の儚さ、無限の調和、


そのすべてが互いに絡み合い、


極点にたどり着くことのない探求を


実相の閃きを捉えようと蠢く霊魂の眼差し。


花はただそこで、氷とともに生きる、


絶対零度の静寂の中で。




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