【声劇】昔むかしのあるところ(4人用)
利用規約:https://note.com/actors_off/n/n759c2c3b1f08
♂:♀=2:2
約45分~60分
上演の際は作者名とリンクの記載をお願いします。
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【配役兼任表】
♂お爺さん・定吉
♀お婆さん
♀キジ・サル・赤ん坊
♂♀語り・犬・桃
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語り:「昔むかしあるところに、お爺さんとお婆さんが住んでおりました」
お爺さん:「ふぅ〜……ご馳走様」
お婆さん:「お粗末様でした」
お爺さん:「さて、と──婆さんや、ワシの足袋は、何処にしまったかな?」
お婆さん:「足袋ですか? そこの箪笥の二段目に入っていますよ」
お爺さん:「箪笥の…… (立ち上がる) よいしょっと──箪笥の二段目……二段目っと……あぁ〜あったあった♪」
お婆さん:「お爺さん、どこかへお出かけですか?」
お爺さん:「あぁ、冬前に買っておいた薪が無くなってきたから、ちょいと裏に柴刈りにと思ってな」
お婆さん:「今年の冬も寒かったですし、結構使いましたからねぇ。それじゃあ、私も……よっこいしょ──」
お爺さん:「──いやいやワシだけで大丈夫。婆さんはゆっくりしておきなさい」
お婆さん:「あらっそうですか? しかし、先日腰を痛めて、ついこの間治ったばかりなんですから……」
お爺さん:「分かっとる分かっとる。ゆっくり休ませて貰った分、少しずつでも慣らしていかないといけないからな……ちょっとした運動だよ。そんなにたくさんを一気に取って来る訳じゃないし、昨日の雨で乾いた枝があるかも分からんしな」
お婆さん:「そうですか? それじゃあ、よろしくお願い致します……くれぐれも、無理はなさらないで下さいよ? 」
お爺さん:「あぁ、それじゃあ行ってくるよ」
(お爺さんが出ていく)
お婆さん:「……さて──『ゆっくりしときなさい』と言われたものの……どうしましょうかねぇ。夕げの支度には早過ぎますし──あっそうだ。お洗濯をしないと……昨日は雨が降ってましたから、洗濯物がたまってしまって……よっこら──しょっと……ふぅ〜」
語り:「お爺さんは山に柴刈りに──そして、お婆さんは川へ洗濯に行こうと、洗濯物の入った籠を担いで、戸を開きますと──」
(洗濯物をまとめて扉を開ける)
定吉:「──うぉったったっ!?」
お婆さん:「──ふぁっ!? あぁ〜〜驚いた。心臓が止まると思った。戸を開けたら、人が立っているんだもの……誰かと思ったら、定吉じゃないか。
家の前で何をしているんだい?」
定吉:「驚いたのはオイラの方だ。戸を叩こうとしたら、いきなり開いて、婆さんが出て来るんだから──」
お婆さん:「おやっそうだったのかい。それはすまなかったねぇ」
定吉:「いやいや、オイラの方こそ申し訳ねぇ──おっ? 今から洗濯かい?」
お婆さん:「昨日は雨が降っていただろ? だから、洗濯物が溜まってしまっていてねぇ」
定吉:「あぁ、その雨で藤右衛門の所の山が、崩れちまったんだ」
お婆さん:「え〜っ!? それは大変じゃないか! そ、それで藤右衛門さんは──」
定吉:「──いやっ幸い怪我人は出てねぇみたいだけれどもよ? 道が塞がれちまったっていうんで、村人総出で、今、土砂を取り除いてる所なんだ」
お婆さん:「はぁ〜……そうなのかい。怪我人がいないなら、良かったよ。
あぁ〜今、ウチの爺様は裏山に柴を狩りに行ってしまっているんだよ。
定吉、手間をかけてすまないが、そっちで声を掛けてきてもらえないか──」
定吉:「──いやいや違うんだ! 爺さんは、ちょっと前まで腰を痛めてただろ? だから、この事を知ってしまったら、無理をして手伝いに、藤右衛門の所まで来ちまうんじゃないかと思って『人手は十分に足りそうだ。大丈夫だから来るな』と、伝えに来た次第なんだ」
お婆さん:「おや、そうなのかい?」
定吉:「あぁ。まぁ、村の若い奴らが多方集まってくれているから、夕暮れまでには|片(かた)が付いちまうだろうし……いないならそれはそれで好都合だ。このまま知らなかったって事で、進めちまうよ」
お婆さん:「わざわざすまないねぇ」
定吉:「構わねぇ構わねぇ♪ それじゃあ、これから仁吉の爺さん所にも伝えに行かなくちゃなんねぇ〜から──」
お婆さん:「あぁ、気を付けて行くんだよ」
定吉:「婆様も、川の水嵩が上がってるから、気を付けるんだぞぉ (走り去る)」
お婆さん:「あっそうだ──定吉! 定吉っ!! ちょいとっちょいとお待ち!!」
定吉:「(急に止まる) っとっと──な、なんだい!?」
お婆さん:「ちょいと戻っておいで (家の中に入る)」
定吉:「ん? あぁ…… (玄関に着いて) どうした?」
お婆さん:「少し荷物にはなるけど……これをみんなでお食べ」
定吉:「これは──おっ! 十団子じゃないか♪ こいつは嬉しいねぇ〜、良いのかい?」
お婆さん:「えぇ、雨の前に収穫していたので作ったんだよ。ついつい作り過ぎてしまったから、持って行っておくれ」
定吉:「ありがてぇ!! これで作業もはかどるってもんだ♪」
お婆さん:「藤右衛門さんの所のワンコロ用に、少し小さいのもあるから、食べさせておやりなさいな。あの子も恐かっただろうから」
定吉:「犬っコロの分もあるのかい!? いやいや、こいつは喜ぶ! ──が、そうだ、ひとつ忘れてた!」
お婆さん:「ん……どうしたんだい?」
定吉:「いやぁ〜……その山が崩れた事で、藤右衛門の所の犬っコロがビックリして逃げ出しちまったんだ……
もし見かける事があったら──」
お婆さん:「あらあらぁ〜それは大変だ。分かった。ちゃんと捕まえておくから」
定吉:「すまねぇ。それじゃあ、オイラはこれで (走り去る)」
お婆さん:「はいよ。くれぐれも怪我の無いように、皆によろしく伝えておくれぇ!」
定吉:「分かったぁ〜! 団子もありがとよ〜!!」
お婆さん:「ふぅ〜大変だねぇ──さて、私も洗濯に出掛けようかね」
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【裏山にて】
お爺さん:「こっちの枝も湿っている……か。
ん〜奥に行っても変わらんだろうなぁ〜……いっててて……ふぅ〜腰に堪えるわ」
語り:「お爺さんが山で柴刈りをするも、木の枝は全て、昨日降った雨で濡れてしまっていました。お爺さんが肩を落としていると、どこからとも無く、キジの鳴く声が聞こえてきました」
キジ:「ッチョ!! チョッチョッ!!」
お爺さん:「……ん? なんだ……?」
キジ:「──ックショウ! 全っ然取れやしないよぉ!! 誰だいっこんな分かりにくい所に罠を張ったのは、危ないじゃないのさっ!
はぁ〜〜アタイの鳥生も、ここで終わりなのかい……このまま人間にキジ鍋にされて、夕げに美味しく頂かれちまうのかねぇ〜……羽根は飾りにされて──でも、アタイは雌で模様も地味だから、そのまま捨てられちまうのかねぇ〜。
はぁぁぁ〜〜ぁ!! 短い一生だったよ。
こんな事になるのなら、より好みせずに、言い寄ってくる雄達ともっともっと豪快に遊んでいれば良かったよ。この前の雄なんて、本当に最高だったじゃないかぁ! 縄張りも広いし、声も良い……なんであそこで突き放してまったんだろうねぇ。アタイは……阿呆だよ……アタイはもうキジじゃないっ阿呆鳥だよ!!」
お爺さん:「おや……お前さんは、阿呆鳥なのかい?」
キジ:「──チョッ!? だ、誰だいっ何だいっ何者だいっ!?」
お爺さん:「おやおや……立派なキジが罠にかかってしまっているじゃないか」
キジ:「にん、げん……?
くぅぅ〜! アタイの命も、ここまでか……
アタイも誇りを胸に、この青く深い大空を自由に飛び回る鳥の端くれさ! 鳥としての潔い散り際を見せてやろうじゃないのさ!!
さぁ人間っ! アタイは逃げも隠れもしないよ!! 煮るなり焼くなりっ、好きにしたら良いじゃないのさ!!」
お爺さん:「まったく……他所様の山に無断で罠をはって、それを回収もせずに……猟師の風上にもおけん事をする奴がおるもんだな。よっと…… (キジの前に座る)」
キジ:「た、ただねぇ〜! も、もしアンタに人情ってモノがあるんならっそ、その、出来るだけ鳥思いに苦しまない様に……殺しておくれ……
で、でも──でもね! アタイは簡単に死んだりはしてやらないよっ!! 食われたって、腹の中で全力で暴れてやるってんだ! アタイは執念深いんだ── (以下に続ける)」
お爺さん:「(台詞を被せながら) ──よっと……これをこう外して……ここを……よいっしょ──」
キジ:「──そ、それにねっ、毎朝アンタが起きる半刻前に、腹の中から鶏の如く鳴き喚いてやるんだから!!
死なば諸共!! 苦しめて苦しめて道連れにしてやるって言うんだ── (以下に続ける)」
お爺さん:「(台詞を被せながら) この縄を……外すと──ほら、外れた」
キジ:「──弱肉強食って言ったってね!! 人間が一番上にいると思ったら大間違い! 追い詰められた獲物は何をしでかすか分からないよ! 『窮鼠猫を噛む』って言葉もあるくらいなもんさ!!
アタイはネズミじゃ無いけどね、追い詰められたキジを舐めて、いた……ら──へ? な、何をしてんだい?」
お爺さん:「さぞかし、恐かっただろうねぇ。もう大丈夫、お前さんは自由だ。ほらっお行きなさい」
キジ:「……えっ? あ、あんた……アタイを助けてくれた……のかい? ど、どうして……」
お爺さん:「はっはっはっ! ワシの仕掛けで捕まえたならまだしも、ワシの山で、誰かも分からん奴の罠で捕まったお前さんを、どうこうしようとは思わんよ」
キジ:「ほ、ホントかい? アタイが逃げようとして、いざ『さぁ飛ぶぞぉ!』って油断した瞬間に、後ろから──『なんちゃって!!!』みたいな──」
お爺さん:「疑り深いキジだねぇ……大丈夫。心配しなさんな。
ほらっワシは両の手を後ろで組んでおいてやるから、さぁお行きなさい」
キジ:「……ほ、ホントに行くよ? 行っちまうよ? ほらっ羽を開いてみたりして♪ バサッと羽ばたいてみたりしちゃったりして!」
お爺さん:「うんうん。怪我なんぞはしておらん様だな♪」
キジ:「──あ、アタイが飛んじまったら、もうアタイを捕まえられないよ? もうアタイを捕まえる好機は、二度と訪れないよ?」
お爺さん:「そんなウロウロしていると、別の人間に捕まってしまうぞ? ほれっ早く行きなさい」
キジ:「──っ!? あ……あぁ……なんてこったろうねぇ……こんな優しい人間を、アタイは疑ってしまっていたなんて……
一度死んだと思ったこの命……いつの日か、必ず恩を返しに──」
お爺さん:「恩返しなんていらんから、行きなさい。(脅す感じで) 早く行かないとワシの気が変わって──キジ鍋にしてしまうぞぉ〜!!」
キジ:「ひ、ひぃ〜!!! (飛び立つ)」
お爺さん:「はっはっはっ!! もう捕まるんじゃないぞぉ〜!! はっはっはっ!!」
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【川に続く山道にて】
お婆さん:「お天道様がこんなに照らして、すっかり晴れたねぇ。
日陰はまだ少し冷えるけど、日の下は本当に気持ちが良い……」
語り:「お婆さんが洗濯をしに、川へ向かって歩いていると、どこからとも無く、震えた様な、か細い、不気味な声が聞こえてきました」
サル:「(震えながら) お……て……け……」
お婆さん:「おっとっと……でも、昨日の雨で、少し道がまだぬかるんでしまっている──気を付けないと、転んでしまっては危ない──」
サル:「(震えながら) お、お……おいてけぇ〜」
お婆さん:「……ん?」
サル:「た、食べ物……お、おお……おいてけぇ〜……じゃ、じゃないとぉ〜……お、おおおお前をく、食っちまうぞぉ〜……」
お婆さん:「誰だい? そんな恐ろしい事を言うのは?」
サル:「オ、オオオオラは、こここのや、山にす、すす住む、お、おお恐ろしいば、ばば化け物だぞぉ〜……良いから食べ物をぉぉ〜おお置いてけぇ〜……」
語り:「お婆さんが辺りをキョロキョロと見渡していると、木の影から覗かしている、何とも可愛らしい小猿のしっぽを見付けました」
お婆さん:「おや♪? ふふっ……
あぁ〜これは参ったねぇ〜。川に洗濯物をしに行くだけだから、今は何も持っていないんだよ。何か持っていれば良かったのだけども……」
サル:「な、ななな何も? ──べ、べべべ別に食べられる物なら、な、なな何でもい、いいい良いんだぞぉ〜……こ、こここ米粒一粒でも、食べれる物なら、そ、そそそそれで、見逃してやるんだぞぉ〜」
お婆さん:「すまないねぇ〜……本当に何も持ってやしないんだよ。
あぁ〜あ、本当に困ったねぇ〜……
恐ろしい化け物さんや? 私はお前さんに食べられてしまうのかい?」
サル:「……へっ?」
お婆さん:「化け物さんがさっき言ったじゃないか。『食っちまうぞぉ〜』ってさ。だから、恐ろしい化け物さんは私を食べるのかい?」
サル:「そ、そそそれは……えっと……」
お婆さん:「私ももう歳だから、こんな恐ろしい化け物さんから逃げ切る体力は無いんだよ。
私を食べるなら、一思いに『バクり』と大きな口で、一口で食べて貰えると、助かるんだがねぇ〜? 痛いのは勘弁して貰いたいんだよ」
サル:「お、おおお大きな……口? いや……あ、あの、そそそんなには──うぅ〜 (震える)」
お婆さん:「おや、どうしたんだい? さっきからずっと震えている様だけれど……寒いのかい? 昨日の雨に打たれて、一気に冷えてしまったのかねぇ?
そんな日陰に隠れていないで、お天道様の下に出ておいでなさいな。少しは暖かいよ?」
サル:「い、いいいや、で、でも……た、たた食べ物を……」
(猿の後ろにゆっくり回り込む)
お婆さん:「あぁそうだねぇ。家に帰ったら、まだ十団子があるから、それで勘弁してもらう事は出来ないかい? ──お猿さんや……」
サル:「と、十団子!? ジュルリ……し、ししかし、そう言って……に、ににに逃げるつもりじゃあ……
──っ!? ど、どどどどうしてオラが猿だって事を──」
お婆さん:「お前さんの後ろにいるからだよ。ほぉ〜らっ捕まえた♪!」
(洗濯物で猿を捕まえる)
サル:「──うきゃっ!? な、なななにを!?」
お婆さん:「あぁあぁ、こんなに濡れたままで日陰なんかにいるから、すっかり身体が冷えてしまっているじゃないかぁ (手ぬぐいで猿の身体をふく)」
サル:「や、やめ……何を──うっぷふっ離せぇ〜!」
お婆さん:「ほ〜ら暴れなさんな。ちゃんと拭かないと、風邪をひいてしまうよ」
サル:「わっぷ……ウキャキャくすぐった──や、やめろって!」
お婆さん:「はいはい♪ っと──また湿ってはいるけど、とりあえずこの程度は拭けば、すぐに乾くだろう♪
もう私に正体はバレてしまったんだ、一緒に日の当たってる所に出るよぉ〜……よいっしょ (猿を抱える)」
サル:「──うきゃっ!? ど、どこに連れてくつもりだ!? は、離せっ離せって──」
お婆さん:「ふふふっ大丈夫大丈夫♪ そんな爪を立てないで……ほらっお日様の下だ♪ (猿を下ろす)」
サル:「うきゃっ!? うぅ〜……」
お婆さん:「どうだい? ポカポカして気持ち良いだろう……」
サル:「うきぃ〜……」
お婆さん:「辛くて……恐かったんだねぇ〜。だから人を恐がらす様な事をしてしまったんだね?」
サル:「うぅ〜……う、うん……寒くて……お腹が空いて……お、オラもう……死んでしまうかと思って……だから……だから…… (泣き始める)」
お婆さん:「もう大丈夫だよ……大丈夫。恐がる事はない。まだ、寒いかい?」
サル:「暖……かい……。寒く……無い……ヒック……うぅ〜……うわぁぁ〜〜ぁあ (号泣)!!」
お婆さん:「よしよし。大丈夫……大丈夫だよ……ほら、十団子もお食べなさいな」
サル:「えっ……さ、さっき持ってないって……」
お婆さん:「恐ろしい化け物さんが、私に嘘をついた仕返しさ」
サル:「そ、そんな──でもオラ、お婆さんを恐がらす様な事をしてしまった……」
お婆さん:「そうだねぇ。人を恐がらして物を奪おうとした……それはいけない事さ。悪い事をしてしまったら、言わなくちゃいけない事があるのは……分かるかい?」
サル:「──ウキ……ご、ごめんなしゃい……お、オラ……オラ……ごめんな、しゃい……」
お婆さん:「ちゃんと謝れた。偉いじゃないか♪ 私も、嘘を付いてごめんね? 仲直りのしるしのお団子──受け取ってくれるかい?」
サル:「……い、良いのか? お、オラが食べてしまったら……お婆さんの分が無くなっちゃう──」
お婆さん:「ふふふっ子供が遠慮なんかするものじゃないよ。お腹、空いてるんだろ? 良いからお食べ……お前さんがいらないって言うのなら──私が食べてしまうよぉ?」
サル:「──ウキッ!? た、食べる! (飛び付く)」
お婆さん:「こらこら──『頂きます』はどうしたんだい?」
サル:「ウキャ? あっ……い、頂きま……す?」
お婆さん:「はい、どうぞ♪」
サル:「ウキャキャ (むさぼり食べる) ケホケホっ!?」
お婆さん:「ほらほら、そんなに急いでたべるから──焦らずにゆっくりお食べなさいな……お団子は逃げたりしないんだから……ね?
……美味しいかい?」
サル:「んっ! んっ! お、おい"じい"……おい"じい"……おい"じい"よ……」
お婆さん:「そうかい、それは良かった。ふふふっ」
(間)
サル:「ご、ごちそうさまでした。
オラ、こんな美味しい団子食べたの、初めてだ♪」
お婆さん:「泣いてたお猿さんが、やっと笑った」
サル:「ほ、本当に……本当にありがとう。
で、でもオラ、お婆さんに何もお返しする物が無い……ど、どうしよう。
お婆さんはどうして欲しい? 何をしたらお婆さんは喜んでくれる?」
お婆さん:「ふふふっお前さんは私の団子を美味しいと言って、笑顔になってくれたんだ。その気持ちだけで十分だよ」
サル:「そ、そんな──もっとお婆さんに何か、何か──」
お婆さん:「──それじゃあ、一つだけ」
サル:「──な、なになになになに!! オラ何でもするっ! 何をしたら良いっ!!」
お婆さん:「……もう、誰かを恐がらせない事」
サル:「ウキャ!?」
お婆さん:「恐がらせるんじゃなく、困っているお仲間や、人がいたら、手を差し伸べてあげなさい」
サル:「う……うん……うんっ分かった!!
オラ、お婆さんにしてもらった事をみんなにする!!」
お婆さん:「うんうん。約束だよ?」
サル:「ウキャ!!」
お婆さん:「さて、と──」
サル:「お、お婆さん……もう行くの?」
お婆さん:「あぁ、洗濯物をしないといけないからねぇ。まだ少し冷えるだろ (手ぬぐいを猿の首に巻く)」
サル:「ウキャ?」
お婆さん:「この手ぬぐいは、優しい化け物さんへの手土産だ。さっきの約束、忘れるんじゃないよ」
サル:「あたた、かい……暖かいっ♪ うんっ!! オラ、忘れないっ! オラ、お婆さんとの約束、ずっと守る!!」
お婆さん:「あぁ、それじゃあ、達者で暮らすんだよ。
困った事があったら、またいつでもおいで」
サル:「キャッキャッ♪」
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【家にて】
お爺さん:「婆さんや、今帰ったぞぉ。やはり全部湿っておってな、また改めて明日にでも行ってくるよ。婆さんや……婆さん?
(ため息) なんだ、おらんのか。──ん? 洗濯物が無くなっている……」
語り:「お爺さんが柴刈りから帰って来て、お婆さんに声をかけますが、家にはお婆さんはいませんでした。
お爺さんは『なるほど、川に洗濯に行ったのか』と、休もうと腰を屈めると、家の前から犬の悲しそうな声が聞こえてきました」
犬:「わうぅぅ〜……わうぅぅ〜……」
お爺さん:「──ん……なんだ?」
犬:「わふぅぅ〜……わん……」
お爺さん:「犬の鳴き声……
(戸を開ける) おや、お前は藤右衛門の所の犬っコロじゃないか。どうしたんだ、こんなに汚れてしまって」
犬:「あぁ、ご主人様のお仲間のお爺様じゃございませんですか。お知り合いに出会えて、本当に良かった、良かったでございますです」
お爺さん:「(撫でながら) おぉおぉよしよしっ良い子だ良い子だ。
一体全体、どうしたんだ……」
犬:「わふぅ〜それがでございますですが──ワタクシ、迷い犬になってしまいましてでございますです……ご主人様の家に帰れないのでございますですよ……わふぅ〜」
お爺さん:「おいおい、お前さんは犬だろう? 自分の主人、藤右衛門の匂いを辿ったら、すぐに帰れるだろうに……」
犬:「その匂いが、雨で流れてしまいまして……自慢の鼻も、泥でもう何が何やら分からぬ有り様……それで今現在困っている次第でございますですクゥ〜ン」
お爺さん:「なるほどなぁ……そいつは厄介な話だねぇ。
犬の鼻が効かないとなると、流石に家に帰るのも困難か……よし分かった。こちらにおいで」
犬:「わふ?」
お爺さん:「ワシが、藤右衛門の所まで送ってやろうじゃないか」
犬:「な、なんとっ誠でございますでございますか!? ご主人様の所まで送って頂けるとっ!? あぁ〜それは実にありがたい。もう一生ご主人様に会えないのではないかと、ワタクシ覚悟しておりましたです。それをまたご主人様に会えると……なんとお礼を申しあけまればよろしいか──では、参りましょ! 今すぐ参りしょ!! すぐに参りましょう!!!」
お爺さん:「──待て待て待て待てっ! 逸る気持ちも、分からんでは無いが……とりあえず、その泥だらけの身体を何とかせんといかん」
犬:「いえっお気になさらず、結構でございますです! ご主人様に出会えさえすれば、私の毛もサラサラのピカピカ!! 身体も気持ちも晴れやかなもので──」
お爺さん:「んな馬鹿な事があるか……良いからこっちに来なさい」
犬:「わ、わふぅ〜! み、水はもういっぱい被ったので、ご、ご勘弁を願いたいのでございますですぅ〜!!」
(間)
犬:「(お湯に浸かる) わぁっふぁ〜……暖かい水とは……これはまた何ともぉ〜……わっふぅ〜……」
お爺さん:「そうだろ? 一晩中、雨の中を走り回っておったんだろう。お前さんの身体が冷えきってしまっておったからなぁ」
犬:「わふぅ〜……必死で気付きませんでございましたが……ワタクシの四足がガクガクと……立っているのもやっとだった様でございますです……染み渡りますです。この暖かい水が……四肢に染み渡りますでございますですぅ~」
お爺さん:「お前さんを汚しておった泥も、一通りは落としたが……どうだい?」
犬:「わふっ♪ おぉ〜本当でございますです! ワタクシの自慢の鼻がっ (クンクン) 匂いが戻って (クンクン) 参りましたでございますです♪」
お爺さん:「はっはっはっそうかそうか! それは良かった!! よぉ〜しよしよしよし♪」
犬:「わふっ! わふっ!! (クンクン) わふぅ!! ──わふ? (クンクン)」
お爺さん:「ん? ……どうした?」
犬:「(クンクン) この匂い…… (クンクン) この匂いを、ワタクシは知っているでございます…… (クンクン) です」
お爺さん:「お、おい……犬っコロ、どこに行くんだ?」
犬:「(クンクン……クンクン) この匂いは──ご主人様のご友人のお爺様っ! こ、この戸棚の上に、ワタクシの知っているモノがございますですが──何がお有りなのでございますですか?」
お爺さん:「ん? この上か? この上には──」
犬:「──あっその前に (ブルブルブル!!)」
お爺さん:「──どぉわっぷ!? 急に水を切る奴があるか!」
犬:「おっと、失礼を致しましたでございますです、わふっ。そ、それで──この上には、一体全体何がお有りなので?」
お爺さん:「ふぅ〜、まったく……この上にあるのは、婆さんが作ってくれた『十団子』が──」
犬:「──とっととととと十団子っ!!!? そ、それは誠でございますですか!? ワタクシっ十団子が何よりも大好物でございますでして!! 幸いにも、今とっても空腹でございましてございます!! それと言いますのも! 一晩中雨の中を宛も無く走り回りっ!! 不幸にもワタクシ何も食べておらず!! 食べ物に有りつける事も出来ず!! そして幸いにもご主人様のご友人であられるお爺様に、こうやって命を助けて頂き!! そして幸いにも、すぐ近くにワタクシの大好物である十団子が頭上に──」
お爺さん:「──あぁ〜分かった分かった! 落ち着きなさい! 今やるから、暴れるんじゃない!」
犬:「わふっ! わふっ!! わふっ!!!」
お爺さん:「ほれっ、ゆっくり噛んで食べるんだぞ? 喉に詰まらせたら危ないからな」
犬:「わぉぉ〜〜ん!! い、いいいっ頂きますでございますです!! (むさぼり食べる)」
お爺さん:「ゆっくり食べろと言うとるのに……はっはっはっ!」
(間)
犬:「わふぅ〜……本当に何から何まで、何とお礼を申し上げたらよろしいでございますですか」
お爺さん:「気にせんで良い。困った時はお互い様だ。さて……それじゃあ、藤右衛門の所に帰るか。藤右衛門も、お前さんの事をさぞかし心配しておるだろうしな」
犬:「わふっ! ご主人様のご友人であられるお爺様は、命の恩人でございますです。何かお困りの事がございますでしたら、何なりと仰って下さいませでございますです、わふっ」
お爺さん:「はっはっはっそんな大袈裟な! まぁ何かあった時、よろしく頼もうかね」
犬:「わふっ!!」
お爺さん:「はっはっはっ」
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【川にて】
お婆さん:「だいぶ遅くなってしまったねぇ……お爺さんはもう帰って来てるだろうか。早く終わらせて、私も急いで帰らないと……」
赤ん坊:「(微かに聞こえる泣き声) お…………ぎゃ……おん……ぎゃ……」
語り:「お婆さんが川で洗濯物をしていると、どこか遠くの方から、赤ん坊の泣く声が聞こえてきました」
お婆さん:「……はて? 何か、声が聞こえて……?」
赤ん坊:「(次第に大きくなる泣き声) おんぎゃ…………おんぎゃ〜……」
お婆さん:「ん〜……空耳じゃ無い様だけれども……赤子の泣き声? はてさて、どこから聞こえて来るのか……」
赤ん坊:「(近付いてくる鳴き声) おんぎゃ〜……おんぎゃ〜……」
お婆さん:「川上の方から……えぇえぇ間違いない。川上の方から赤子の声が聞こえて来るよ!」
桃:「どんぶらこっこ♪ どんぶらこ♪ どんぶらこっこ♪ どんぶらこ♪」
語り:「お婆さんが川上の方をじっと見ていると、それはそれはとても大きな桃が流れてきました。そしてその桃から、赤ん坊の声が聞こえてきたのです」
お婆さん:「な、なんてこった。これはどういう事か、桃の中に赤子が入っているなんて……桃よ桃っ! こちらに流れておいでっ! このまま海へ流れたら、アンタの中の赤子の命が危ないんだよ!」
桃:「どんぶらこっこ♪ どんぶらこ♪ どんぶらこっこ♪ どんぶらこ♪」
赤ん坊:「おんぎゃ〜! おんぎゃ〜!!」
お婆さん:「よぉ〜しよしよし良い子だ良い桃だ。もっとこっちにおいでなさいな。あなたの中の赤子を抱かせておくれ!」
語り:「桃は、お婆さんの声を聞いてか聞かずか、お婆さんの声に吸い込まれる様に、お婆さんの所へ流れてきました。
お婆さんは、桃から赤ん坊を出してあげようとしましたが、残念な事に桃を切る物を持っていません。
困ったお婆さんは、洗濯物を持つのも忘れ、その大きな桃を担いで、大急ぎで家へと走って帰りました」
お婆さん:「お爺さんっ! お爺さんや!!」
お爺さん:「おぉ婆さんや、お帰りなさい。そんなに急いでどうしたんだ──」
お婆さん:「お、お爺さんっ!! は、早く……早く包丁でこの桃を切ってくださいな!」
お爺さん:「おぉ〜……これはなんと立派な桃か。婆さん、こんな大きな桃を、どうしたんだ──」
赤ん坊:「おんぎゃ〜! おんぎゃ〜!!」
お爺さん:「ん? どこからか赤子の泣き声が──」
お婆さん:「それがっ桃の中からなんですよぉ! 良いから、早く包丁で……」
お爺さん:「な、なんとそれはまた奇っ怪な……わ、分かった。
桃の中の赤子よ。もう少し頑張るんだぞ? 今助けてやるからなぁ」
お婆さん:「は、早く……早くお願いします。中の赤ん坊を傷付けたら嫌ですよ!!」
お爺さん:「わ、分かっとる分かっとる!」
語り:「お爺さんが桃の中の赤ん坊を傷付けない様に、包丁で優しく桃に触れた瞬間、桃は左右にパカンと割れ、中からは玉の様な、なんとも可愛らしい男の子が出て来ました」
赤ん坊:「おんぎゃ〜! おんぎゃ〜!!」
お爺さん:「この世の者とは思えない……何とも可愛らしい男の子だ」
お婆さん:「えぇえぇ、本当に可愛らしい男の子ですね。ほら、こちらへおいで、私にお前を抱かせておくれ」
お爺さん:「桃の中から力強い産声をあげる。この子は、たくましく強い子に育つよ。
そうだなぁ名前は──桃から産まれた『桃太郎』と名付けよう」
語り:「『桃太郎』は、お爺さんとお婆さんに大層大切に育てられ、やがて大きく、優しく、そして強く成長し、犬と猿、そしてキジと共に鬼退治に向かうのですが、それもまた、遠い遠い昔のお話……
昔むかし、あるところのお話……」