【声劇】落語~金縛り幽霊~(3人用)
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♂:♀=2:1
約15分~30分
上演の際は作者名とリンクの記載をお願いします。
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金縛りで、目を開けると超イケメン。なんて事が良くあると思いますが、
それを落語風に落とし込んだ声劇になっております。
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【配役表】
佐吉 :既婚者でありながら、美人が大好き。 美人な幽霊に会うために、必死寝る!
旦那 :地域をまとめる地主的な人。物知りで相談役に頼られる。むっつりなスケベ心持っている。
佐吉の妻:(旦那の妻と兼任) 佐吉の浮気を疑う妻。
旦那の妻:(佐吉の妻と兼任) 旦那と長年連れ添った愛妻。********************************************
佐吉:「旦那ぁ〜! ちょいと寝かせてくだせぇ〜!」
旦那:「──お? なんだいっ佐吉じゃねぇ〜か。藪から棒に『寝かせろ』だなんて、どうしたってんだぃ?」
佐吉:「どうしたこうしたの話は (アクビ) ……夢の中で……話しやすん、で……」
旦那:「おいおいおいおいっ! いきなり訪ねて来て、そんな所で倒れ込むんじゃねぇ〜やぃ。寝るならもうちっと奥に入りなさいな」
佐吉:「お気になさらずぅ〜……ぐぅ〜……ぐぅ〜……」
旦那:「あっあぁ〜あ〜、寝ちまいやがったよコイツァ〜……久方振りに訪ねて来たかと思ったら、挨拶もおざなりに、大きなイビキかきやがって……ったく──
──おや? ありゃ〜佐吉んトコのカミさんじゃないかぃ? 血相変えて、頭にツノまでおっ立てちまって……
大きな声で『アンタァ〜アンタァ〜!!』って一軒ずつ家を訪ね回って、佐吉を探してやがるねぇ〜。このままじゃ〜ウチに回って来るのも時間の問題だ。
夫婦喧嘩に巻き込まれるってのも面倒だ。仕方ねぇ〜が、ちょいと奥にでも隠しとくかい……よっいしょ (引きずる)」
佐吉:「んぁ〜がっ」
旦那:「こっらしょ (引きずる)」
佐吉:「ごっ……がっ」
旦那:「どっこい── (引きずる)」
佐吉:「──しょ!」
旦那:「ん? 起きてんなら自分で移動しやがれってんだ!! (ペチ)」
佐吉:「──んがっ! 寝てま……すぅ……ぐぅ〜ぐぅ〜……」
旦那:「あ? 寝ながら返事してやがらぁ……無駄に器用なヤツだねぇ」
佐吉の妻:「旦那様っ、旦那様っいらっしゃいますか? 旦那様や?」
旦那:「あぁあぁ来ちまった……はいはい、いるよぉ〜──っと、佐吉んトコのカミさん。どうしたんだい?」
佐吉の妻:「あぁ旦那様っ! ウチの亭主、来てないかい!?」
旦那:「い、いやぁ〜? 今日は見かけていないけれども……えぇ〜、何かあったのかい?」
佐吉の妻:「旦那様ぁ〜聞いてくれるかい!? 聞いておくれよぉ〜! アタシ悔しくて悔しくてぇ!!」
旦那:「おいおい、いきなり玄関先で泣くヤツがあるかい……今お茶を入れてやるから、奥の部屋──は、今はちょいと使えねぇから、玄関で我慢して息を整えなさいな」
佐吉の妻:「え? 奥に何かあるのかい?」
旦那:「いや、あるっちゃ〜あるが、無いと言えば嘘になる」
佐吉の妻:「はぁ? ……ま、まぁアタシはここで結構でなんだけれどもね?」
旦那:「──それで、一体どうしたってんだい?」
佐吉の妻:「そうそうそう! 聞いておくれよ旦那様っ!! ウ、ウウッウチの亭主がっうわっうわっ浮気をししししてるんだよぉぉっ!! アタシっアタシ悔しくて悔しくてぇ〜〜……」
旦那:「浮気!? おいおい、まったくもって穏やかな話じゃねぇやな。
お前さんの様なカミさんがいながら、佐吉にそんな甲斐があるとは思えねぇ〜んだが……そいつぁ〜本当かい?」
佐吉の妻:「えぇ……あの人の仕事場の大将、いるでしょ?」
旦那:「あぁ源五郎の親分さんかい」
佐吉の妻:「その源五郎親分がアタシに言うんだよぉ〜。
『佐吉は最近仕事中に居眠りばかりしてやがるんだが、大丈夫かい?』って──」
旦那:「はぁ……居眠り? まぁ仕事中に居眠りってぇ〜のも、よろしく無いねぇ──」
佐吉の妻:「──それだけじゃないんだよぉ! 中央の広場があるだろ? そこであの人、仕事終わりにコックリコックリ舟をこいでるらしくってさぁ〜!」
旦那:「そこでも居眠りかい……寝る子は育つって言うが、もうそんな年でも無かろうに──って、それが結局どう浮気に繋がるんだい? 夜にしっかりと眠れば──あぁ〜そういう事かい……」
佐吉の妻:「──へ?」
旦那:「佐吉が夜な夜な寝床を抜け出して、女の所に出かけて浮気。だから寝不足で色んな所でコックリコックリ──」
佐吉の妻:「──アタシもね! そう思って、昨晩一晩中起きて、あの人をずっと見張っていたんだよ」
旦那:「おっ、それで浮気のしっぽは掴んだのかい!?」
佐吉の妻:「寝てた……」
旦那:「浮気女とかい!?」
佐吉の妻:「1人で……」
旦那:「ど、どこで!?」
佐吉の妻:「アタシの横で……」
旦那:「……んん〜? お前さんの横で……寝てた? ……1人で?」
佐吉の妻:「えぇ、起きたら、アタシの方見て、大きくため息ついて『会えなかった』」
旦那:「ん〜お前さんの方を見て、ため息ついて『会えなかった』……ん〜お前さんの方を見てかい?
佐吉の妻:「えぇ、アタシの方見て……」
旦那:「──あっ! もしかすると──なるほどなるほど、そういう事かい♪」
佐吉の妻:「えっ!? 何か分かったのかい!?」
旦那:「あぁあぁまったく……お前さん夫婦は、面倒臭い夫婦だねぇ〜。私に惚気を聞かせに来たのかい」
佐吉の妻:「惚気? アタシは別に惚気てんじゃなく、亭主の浮気を──」
旦那:「あいあい分かった分かった!! つまりアレだ。
新年会の時、お前さん綺麗な着物着て舞を踊ってた事があったろう?」
佐吉の妻:「え? あぁあったねぇ〜……舞なんてやった事がないから、いい加減なもんだったけども──」
旦那:「そして、お前さん達もまだ子供にも恵まれてねぇ〜。だから夜な夜な励んではいるが、程々の期間を連れ添った中だ。イマイチ気持ちが盛り上がらねぇ〜。
それでお前さんは、その新年会の時に着ていた着物を着て、別人に仮装して、お互いの気持ちを高め合ったって事だな。
佐吉の野郎は、すっかりそれにハマっちまって、それを求める事になっちまった。
はっはっはっ!! 仮装してもお前さんはお前さんだ。自分でそれに気付かず、仮装してる自分に嫉妬しちまってるってぇ〜話だ──」
佐吉の妻:「違う違う! 違うんだよぉ〜!! あの時の着物は借り物。ウチにあんな高価な着物を買える程の稼ぎがある訳がないじゃないかぁ。
そんな落語みたいな話じゃなく、絶対に他に女がいるんだよぉ〜 (泣)」
旦那:「おや、立派な着物持ってるなぁ〜と思ったら、借り物だったのかい。あぁそうかぃ……それで佐吉は起きてから『また会えなかった』と? 」
佐吉の妻:「き、きききっとアタシが寝てから、女の方が訪ねて来て浮気してんだよぉ〜!
昨晩はアタシが起きてたから、女の方がウチに入って来れずに、それで『また会えなかった』なんて言ったんだぁ〜!! (次の台詞まで泣き続ける)」
旦那:「(小声) ん〜こいつは困った話だねぇ。佐吉本人からも話を聞きてぇ〜所だが、ここで奥の佐吉を叩き起こすってぇのは、逆に修羅場になりかねねぇ〜し……」
旦那:「──よしっ、私が佐吉とゆっくり話をしてみようじゃねぇ〜か。
だからね、今日の所は家に帰って、ゆっくり横になりな」
佐吉の妻:「こんな状況で寝れる訳がないじゃないか……寝てる間にあの人の浮気相手が──」
旦那:「佐吉本人がいなけりゃ浮気も何もありゃしねぇ〜だろ? 昨晩お前さんは『寝ていない』って言っていたじゃねぇ〜か。佐吉がいるとお前さんはまた寝る拍子を失っちまうんだ。寝れる時にしっかりと寝ときな」
佐吉の妻:「そ、そりゃ〜そうだね。わ、分かったよ……ウチの人の事、何とぞよろしく頼むよ…… (立ち去る)」
旦那:「ふぅ〜やっかいな話だねぇ〜……どうしたもんか……いや、とりあえず奥で寝てやがる佐吉を叩き起して、どういう事か聞かない事には、話が進まねぇ──」
佐吉:「(小声) 旦那……だ〜ん〜なっ……カカァは、帰りやした?」
旦那:「おっ佐吉、起きてたのかい!?」
佐吉:「へぇ、さすがにあんな大きな声でわめかれてたら、眠ってなんていられません」
旦那:「玄関でいきなり寝れる奴が、良く言ったもんだよ。
それで──どういう事なんだぃ? え? 夜な夜な女を連れ込んで、カミさんが寝ている隣でよろしくやってるってぇ〜のは?
浮気自体許される事じゃねぇ〜ってのに、私はお前さんを見損なったねぇ」
佐吉:「ちがっ、違うっ違いまさぁな!! 連れ込んでるって事じゃなくっ!! あ、あぁ……なんて言ったら良いか……勝手に? いや、自然に??」
旦那:「カミさんの寝ている横で、別の女と一緒にいる事は認めるんだね? なんて不貞(ふてい)野郎だ!!
良いかい? お前さん達が夫婦になる時、お前さん私に何て言った?
『神さん仏さんに誓って、オイラは、コイツを幸せにしやす』って言ったんだ。私は忘れられないねぇ〜……あの時のお前さんのまっすぐな目。
頼りなくて、常に青っぱなを垂らした鼻たれ坊主だったお前が、あんな真っ直ぐな目をする様になった……私がどれだけ嬉しかったか分かるかい?
それがなんだいっ!! 『女が自然に』『勝手に』?? そんな羨ましい話がどこにあるってんだい!!」
佐吉:「いやっ! 本当に違うんでさぁ!! 女は女なんでございやすが──ん? ……羨ましい? 旦那、今『羨ましい』って言いやした?」
旦那:「い、言ってないよ!! ウチにも同じ歳だけ一緒に生きて、同じ本数シワを刻んできた、長年連れ添った女房がいるんだ!!
う、う〜……『恨めしい』って言ったんだ! そんな『恨めしい話』がどこにあるんだ!!」
佐吉:「で、ですやね……失礼しやした……
いやいや聞いてくださいよぉ〜違うんですってばぁ〜」
旦那:「何が違うってんだい! 私くらいの年になるとね! もぉ若ぇ〜女と知り合う事もねぇ〜んだよ? それを『勝手に』とか『自然に』とか!! 夜遊びに行くにしても、そんな体力もありゃしねぇ〜。
私がまだ若かった時はそれはもう女房の目を盗んでこっそりと──でも隣で寝てる女房が眠りが浅いもんだから『アンタ、どこに行くの?』なんて目を覚ましやがる。『いや、お前の布団に移動しようとした所なんだ』なんて誤魔化して『楽しい夜になりそうだ』なんてちょいと気の利いた言葉を──」
佐吉:「──だ、旦那旦那。何の話をしてるんで? 」
旦那:「だ、だから浮気なんて、すぐにバレちまうんだから、するもんじゃねぇ! しちゃいけねぇ〜って話をしてんだぃ!」
佐吉:「いや……そうは聞こえなかったんですがぁ〜……そもそも浮気なんてしてねぇ〜んですよぉ〜」
旦那:「佐吉おまぇ……まぁだそんな事を!! さっき認めたじゃねぇ〜かぃ!! カミさんの横で女と──」
佐吉:「──いやいやいやっ聞いてくだせぇ! 違うんでさぁ!! これには深い訳ってのがありやして──」
旦那:「おぅおぅ分かった! お前さんの言い分ってのを聞いてやろうじゃねぇか! ほら言ってみなっ!! どうやったら若ぇ〜女が『勝手に』『自然に』来るってぇ〜んだい!! 私に教えてみなさいな!!」
佐吉:「教えるってぇ〜程の事もねぇ〜んですが……」
旦那:「ほら早くっ!!」
佐吉:「へ、へぇ……いやぁ〜ね、三日前の話なんですがね?
職場からウチへの道中『今日は疲れたなぁ〜』ってんで、風呂屋に寄ったんでさぁ〜」
旦那:「──ふ、ふふ風呂屋っ!? そこで女と知り合ったってのかい!? 富士の絵の麓、裸と裸のお付き合いっ!! 手ぬぐい片手に──」
佐吉:「──ま、まだです! まだ女は出て来やせんからっ!! 仕事帰りに汗を流したってだけでございやす!!」
旦那:「なっ、まだなのかい……だったらさっさと話を先に進みなさいな! チンタラ無駄な前置きなんて良いから」
佐吉:「へ、へぇ……まったく、せっかちなんですから……
サッパリ汗を流して帰りやすと、カカァが夕げの支度を済ませてやしてね? それをチャチャっと腹にかき込み食らうと、急激な眠りに襲われやした。オイラもやっぱり疲れてんだなぁ〜ってんで、そのまま布団を敷いて寝ちまった」
旦那:「──『寝ちまった』……? 女が出て来ねぇじゃねぇ〜か。え? 私は夜な夜な女が来てくれる── (咳払い) いや、夜な夜な浮気をしてやがるって疑いを──」
佐吉:「旦那旦那……もぉ無理でさぁ。羨ましさがひょっこり顔を出す所か、仁王立ちしちまってらぁな」
旦那:「い、いや……その……わ、私はその──えぇ〜い!! 面倒クセェ!! どうやったらそんな都合の良い女が訪ねて来てくれるんでぇ!! ほらっさっさと吐いちまいなってんだっちくしょうめ!!」
佐吉:「へっへっへっ! 分かりやすい旦那で良ぉございます。
いや、それがね? そんなに良い事ばかりではございませんで……オイラが眠りにつこうと、ウツラウツラしておりやすと、背筋の方からゾゾゾォ〜……虫が這う様な感覚が襲ってきやして……
それが肩を通って左腕……ひじ、指先……右腕……ひじ、指先と、広がって参りやした……」
旦那:「む、虫がかい……?」
佐吉:「実際に虫が這う訳ではございやせんよ? あくまでも『這う様な感覚』──するってぇ〜と、その感覚に襲われた箇所が、ことごとくピクリとも動かなくなって行きやした……布団に張り付けにされた様な……
隣で寝ているカカァに助けを求めようとしますが、声を上げようにも声が出ない。息は吐けるが声が出ない……まさに八方塞がり」
旦那:「動かせないし、声が出ない……そいつぁ〜『金縛り』ってやつじゃねぇ〜か」
佐吉:「『金縛り』? あぁ〜確かに張り付けってよりも、鋼の縄で縛られた様な、そんな感覚もありやしたなぁ〜……何が起こったのか、とりあえず耳をすまそうとした──その時でさぁ〜……ずしんっ!!!!」
旦那:「──おぉっ!? な、なんだい、ビックリするじゃねぇ〜か……」
佐吉:「オイラの腹の上に、人一人分くれぇ〜の重さが乗っかりやがった……
オイラも大工の端くれだ、力で負けるなんて事ぁ〜ありゃしねぇ〜が、あいにくその時のオイラは鋼に縛られちまった……あ〜……その……あの……アレ、アレでさぁ──」
旦那:「──『金縛り』」
佐吉:「──そう! その金縛りの真っ只中……手も足も出ねぇ〜とはこの事。
オイラの上に乗った『何か』は、ゆっくり……ゆっくりとはい上って来やした……
腹から胃、胃から胸と……」
旦那:「え〜……やだねぇ〜……私は怖い話は嫌いなんだよ……さっさと払っちまいなよぉ……」
佐吉:「オイラも早く払っちまいたかったんですがね? なんせ身体が動かねぇし、声すら出ねぇ。頭ん中で必死に『ナンマイダァナンマイダァ』とお経を唱えてみやしたが、なんせ学もねぇから『ナンマイダァ』の後が分からねぇ……」
旦那:「そ、それで……どうしたんだい……」
佐吉:「『ソレ』が胸の所まで上がって来やすと……顔が近づいて来るのが分かりやした……」
旦那:「……目を閉じてるんだろ? なんでそんな事が分かるんだい?」
佐吉:「鼻息でさぁ……」
旦那:「鼻息……?」
佐吉:「へぇ、鼻息がオイラの首元に『ぶふぁ〜……ぶふぁ〜……』って当たる。目を閉じていても『ソレ』の顔がオイラの目の前にあるのを感じやした。
『ナンマイダァナンマイダァ!!』オイラは必死に叫びましたが、声は出ねぇ! 『ナンマイダァナンマイダァ!!』」
旦那:「……そ、それで……それでお前さん……呪い殺されちまったのかい?」
佐吉:「へぇ、魂が身体からポンッと抜け出したけど、あいにくオイラは金縛り中、魂も身体に金縛り♪ ──って、馬鹿を言わんでくだせぇ!! ほらっ足だってまだ付いてまさぁ〜な!!」
旦那:「だ、誰に向かって『馬鹿』なんて言ってんだ!!」
佐吉:「あ、す、すいやせん (汗)」
旦那:「それで……呪い殺されてねぇ〜ってなると……ど、どうやって払ったんだ?」
佐吉:「へぇ……オイラも寝て起きたら仕事だ。こんな訳の分からねぇ『金縛り』ってぇ〜のに付き合ってられる程、暇じゃねぇってんで『てやんでぇ〜べらぼうめ!! テメェが何処の誰だか知らねぇがっ! こちとら江戸っ子で短気なんでぇ!! 用があるってんなら、ハッキリとモノを言いやがれってんだっ!! このトントンチキが!!』と言ってやりました」
旦那:「……頭の中でな?」
佐吉:「へぇ、声は出ねぇんで……」
旦那:「そしたら、そいつは消えたのかい?」
佐吉:「いやぁ〜ソイツも相当我慢強いヤツで、鼻息ぶふぁ〜ぶふぁ〜が半刻程──」
旦那:「──半刻!? そいつぁ〜また我慢強いってぇ〜より、なんだろうねぇ! お前さんも良く耐えたよ!」
佐吉:「へぇ〜耐えるって言いやしても、身体が動かねぇ〜から、どうする事も出来やしねぇ!!
その半刻が過ぎた頃『あれ? これ、目が開くんじゃねぇ〜か??』って感じがありやして──」
旦那:「そんな長い時間金縛りにあってんだ……確かに、そろそろ解けてもおかしくはねぇやな。
でも、生きてる人間なら私も覚悟は出来るかもしれねぇが、何者か分からねぇ〜幽霊がまぶたの向こうにいるってんだ……私は勘弁だねぇ〜」
佐吉:「いやいや、オイラも怖かったですよ? 怖かったんですがね? さすがに半刻も向かい合っていたら覚悟も決まる。
それに夜が明けたらすぐ力仕事の大工仕事だ。こんな所で無駄に体力なんて使ってらんねぇってんで、眉間にシワを寄せて、目が合った瞬間にその幽霊をカッと睨み付けてやろうってぇ勢いで──」
旦那:「──目を開けた!!」
佐吉:「……」
旦那:「……?」
佐吉:「……」
旦那:「……そ、それで……その幽霊は……どうしたんだい??」
佐吉:「……可愛かったぁぁ〜///」
旦那:「……へ? か、かわ、可愛かった??」
佐吉:「へぇ/// クリっとした大きな目、スゥ〜っと通った鼻、小さく艶やかな口、サラサラの黒髪/// 着物一枚の薄着で色白の胸元がチラっとぉ〜/// もぉ〜睨みつけるの忘れて見惚れちまいやしてぇ〜///」
旦那:「いやいや、相手は──幽霊なんだろ? それに惚れるってぇ〜のは──」
佐吉:「んな事ぁ〜関係ありやせん!!
あんなべっぴんさんが半刻モノ間、オイラを見つめてくれていた。どうしてオイラはもっと早く目を開けなかったのか……不甲斐ねぇ!! さぞ寂しかったろう。
身体が動きゃ〜優しく抱きしめてやる事も出来たってなもんなのに、これじゃ〜男が廃る。男が泣くってなもんだ。あぁ〜実に不甲斐ねぇ……」
旦那:「そ、それで……その、べっぴんさんの幽霊はどうしたんだい……」
佐吉:「しばらくしてフワッと……霧か霞かの様にフワッサササと消えていっちまいやした……
あぁ〜オイラがもっと早く目を開けてさえいればなぁ〜! あぁ〜ちくしょう!! もっとオイラに勇気があればなぁ〜!! もっと早く目を──」
旦那:「──何回言うんだい。え? それでお前さんは……そのべっぴんさんの幽霊に会う為に、ことある事に居眠りをしている、と?」
佐吉:「へぇ。あんな金縛りなら、どんなに疲れていても、毎晩でも縛られてぇ〜ってなもんでさぁ♪
その後に訪れるべっぴんさんとのにらめっこ──『美人は三日で飽きる』って言いやすが、カカァの顔は一日で見飽きちまった。あんな美人なら、何刻でも、何日でも見つめてられまさぁ〜♪ はぁぁあ〜可愛かったなぁ〜///」
旦那:「お前さんがそこまで言うって……どれだけ美人だったのか、私も気になって来ちまったねぇ〜。
しかし相手は金縛りの幽霊……どこにいるかも分からねぇし、そんな何度も現れるってのも──」
佐吉:「──それがでさぁ!」
旦那:「ん? どうしたんだい?」
佐吉:「いや、さっき奥で眠らさせて頂いたでしょ?」
旦那:「あ? あぁ〜お前さんのカミさんが訪ねて来た時だねぇ。それがどうした?」
佐吉:「へぇ、奥に引きずられている時──『しょ』のすぐ後の事なんですがね?」
旦那:「──なっ!? やっぱり起きてたんじゃねぇか!! てめぇ〜無駄な力仕事させやがって──」
佐吉:「まぁまぁまぁ!!
背中から……ゾゾゾォ〜という感覚が襲って来やして」
旦那:「──おっ!? そ、そりゃ〜……え? まさか……」
佐吉:「へぇ!! 胸、肩、腕、指先と左の金縛りっ!! そして肩、腕、指先と右の金縛り!! キタキタキタキタぁ〜!!!」
旦那:「そ、それで会えたのかい!? そのべっぴんさんに、会えたのかい!?」
佐吉:「これから──ずどんっ!! と来る瞬間にっ──カカァの声で金縛りが解けちまいやした……」
旦那:「あぁ……」
佐吉:「へぇ……残念でございやすが……どうやらもうウチにはおらず、旦那のウチに引っ越したみたいでさぁなぁ……はぁ〜可愛かったなぁ〜///」
旦那:「そうかい……そいつはぁ……残念だねぇ〜 (ニヤニヤ)」
佐吉:「……旦那……?」
旦那:「ん? なんだい (ニヤニヤ) ?」
佐吉:「また顔に出てやす」
旦那:「な、何が出てるってんだい (ニヤニヤ)」
佐吉:「オイラが帰ったらすぐに寝るつもりでしょ? そして金縛り幽霊を楽しむつもりでしょ?」
旦那:「ば、馬鹿を言うんじゃないよ!! わ、私はそんな、び、美人だろうと、べ、べっぴんだろうと、か、可愛かろう──そ、そそそんな……むふふ (ニヤニヤ)」
佐吉:「あっほらっ、こぼれた!! こぼれたってより溢れたっ!!!
あぁもぉ〜オイラ鶏冠に来たっ!! オイラが見付けたべっぴんさんを取る気だ!! こ、この泥棒!!」
旦那:「なっ!? 泥棒とは失礼なヤツだねぇ! 幽霊は誰のもんでもねぇ〜やぃ! お前さんに飽きて私の所に来たってんなら、もてなしてやらねぇ訳にはいかねぇ〜じゃねぇかい!!」
佐吉:「だったらオイラも今日はこの家に泊まらせて頂きやす!!」
旦那:「ば、馬鹿を言うんじゃねぇ!! そんな事したら、まだ若ぇ〜お前さんの方を選んじまうだろ!!」
佐吉:「元々オイラの所に現れたんだ、良いじゃねぇ〜ですか!!」
旦那:「良くねぇやな!! あっ丁度良いところにお前んとこのカミさんが──」
佐吉:「ふぇっ!? か、かくまってくだせぇ〜──」
旦那:「おぉ〜い!! おいや!!! 佐吉んとこのっ!!」
佐吉の妻:「──あ、旦那様。先程はどうもありがとうね」
旦那:「そんな事よりもっ、佐吉を見付けたよ!! 早く連れ帰ってくれ!!」
佐吉:「あっこのエロだぬきっ!! オイラを売りやがった!?」
佐吉の妻:「あらアンタ!! こんな所に!?」
旦那:「浮気ってぇ話も、誤解も誤解だ。また折を見て説明するがねぇ、今日はゆっくりと二人して仲良くおやすみなさいな」
佐吉:「いや、今日は旦那の屋敷に泊まり──」
佐吉の妻:「──そうですか? あい分かったよ……旦那が言うからにはそうなんだろう。
いや本当、ウチの人がお世話かけたねぇ」
佐吉:「いや、だから……今日はここに──」
旦那:「良いんだ良いんだ。だから、さっさと連れ帰っておくれ」
佐吉の妻:「へぇ、では失礼するよぉ〜」
佐吉:「ちょっま、待って──」
佐吉の妻:「ほらアンタっ帰るよ!! まったくこの人は……旦那様にまで迷惑かけるんじゃないよぉ〜 (立ち去る)」
佐吉:「だ、旦那ぁ〜旦那ぁぁぁ〜 (連れ去られる)」
旦那:「ふぅ〜行ったねぇ〜……へっへっへっ美人な幽霊が半刻ほど見つめてくれる金縛り(ニヤニヤ)
幽霊は怖ぇが、美人ってなると、話は別だぁ (ニヤニヤ)
んでも、まだこんなに日が高くあっちゃ〜、眠りたくても眠れやしねぇやな。どうしたもんか……
あっ、せっかく来てくれるって言うんだ、足場が悪くて怪我でもされちゃ〜申し訳が立たねぇ。部屋を整えとくとするかねぇ」
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【その晩】
旦那の妻:「あらアナタ……妙にお部屋が片付いておりますけど、どういう風の吹き回しなんですか?」
旦那:「ん? いやぁ〜今日は来客が──」
旦那の妻:「こんな夜更けに来客が?」
旦那:「あ、いや、あぁ〜来客があったんだ! さ、佐吉のトコの夫婦がね? 話があるとか何とか……」
旦那の妻:「あらそうだったんですか? それはまた珍しい……どんな話があったんです?」
旦那:「あ、あぁ〜えぇ〜……跡継ぎうんぬんな話をだったり……眠れないって話をしたりね」
旦那の妻:「へぇ〜それはまた頼もしい話ですねぇ。
──あら? アナタ、もうおやすみになられるんですか?」
旦那:「あ、あぁ〜今日はちょいと疲れちまったから……ね (汗」
旦那の妻:「にしましても、少しばかり早過ぎる気も──」
旦那:「じゃ、じゃ〜おやすみ。お前も早く寝るんだよ?」
旦那の妻:「はい、分かりました」
旦那:「『(呟く) 楽しい夜だ』(ニヤニヤ)」
旦那の妻:「へ? は、はぁ……?」
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【翌日】
佐吉:「旦那♪ 旦那♪」
旦那:「──お……あぁ~佐吉かい。今日は何の用だい……」
佐吉:「何の用だとは、とんだご挨拶じゃねぇ〜ですか♪ ──で……どうでございやした (ニヤニヤ) ?」
旦那:「ど、どうでしたって……ねぇ?」
佐吉:「『ねぇ〜?』じゃ分かりやせんよぉ〜♪ ──ガッと行ったんですかい? ガッと♪」
旦那:「あぁ〜……いやぁ〜ね? 昨晩はお前さんの話を聞いたから、ちょいと早めに床についたんだよ」
佐吉:「おっ、まったく、何が『浮気はいけない事なんだよ』ですかい♪ ちゃっかり楽しみにしちまって、このエロだぬきの旦那ぁ〜♪」
旦那:「ぬっうぅ〜……言い返す言葉も無ぇが……」
佐吉:「それでそれでそれでそれで!?」
旦那:「なかなか寝付く事が出来なくてねぇ〜……やっとウトウトと来たなぁ〜と思ったら、背筋にゾゾゾォ〜っと寒気……」
佐吉:「キタキタキタキタァ!!! そっからゆっくりと身体が動かなくなっていって『金縛り』の──」
旦那:「──いや、その『金縛り』の前に『ズシン』と──」
佐吉:「へっ? なんて羨ましい!! 羨ましくて恨めしやぁ〜!!」
旦那:「ゆっくりと身体をはい上がって来て、私の顔に『ぶふぉ〜……ぶふぉ〜……』と鼻息が──」
佐吉:「おっ身体に自由があって、目の前に金縛り幽霊♪」
旦那:「あぁ〜、お前さんの反省点を活かして、私は『強く優しく抱きしめてやろう』と、私の両腕でガッとソイツを縛り付けた。
逆に怖がらせちゃいけねぇ〜から『大丈夫だ大丈夫だ』と声をかけてねぇ」
佐吉:「つ、ついにいった!? そ、そそそれで──」
旦那:「私がゆっくりとまぶたを開けて、腕の中のソイツを見つめると──
顔中シワだらけの、ウチのバケモンだったよ」