【声劇】機械を焦がす雨(4人用)
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♂:♀=2:2
約40 分~50分
上演の際は作者名とリンクの記載をお願いします。
【声劇 機械を焦がす雨】
ケビン=♂
マリー=♀
ローズ/ロボットB=♀
ジョン/ロボットA=♂
***
ケビンM:『この国には雨が降る。世界を焦がす絶望の雨が……』
***
マリー:「お兄ちゃん……」
ケビン:「マリー……大丈夫だ、大丈夫。この家で、また皆で……ほら、お父さんもお母さんも一緒だよ……」
マリー:「…………」
ケビン:「そうだ……苦しいのは今だけ……。この苦しさを、この炎を我慢すれば……また、みんな一緒に……」
***
ケビン:「マリー!急げ、もうすぐ雨が降り始める!!」
マリー:「お兄ちゃん、待って!早いよぉ!」
ケビン:「もうすぐ地下街、急げば雨に濡れずに済む!手を繋ごう!はぐれるなよ、マリー!」
マリー:「うん!!」
ケビンM:『この街には雨が降る。人類ロボット化計画によって蒸気化された石油が、雲を成してこの街に降ってくる。ロボットになんてなりたくない僕たちは、石油の雨から逃げるために、今日も急いで地下街に逃げ込んだ』
ケビン:「ふぅ……マリー、ようやく地下についたぞ。ここならマスクを外せるし、ロボットたちに追いかけられる心配もない。もう安心だ」
マリー:「お兄ちゃん、マリー、疲れちゃった」
ケビン:「そうだな、僕も疲れた。荷物を降ろしたら、その辺で休もう」
マリー:「んん……お兄ちゃん、マリー、ベッドで寝たい」
ケビン:「マリー……」
マリー:「ねぇ、マリーたちは、いつおうちに帰れるの?」
ケビン:「っ……マリー」
ケビンM:『“人類ロボット化計画”
数年前に始まったこの計画、僕たちの両親は人類ロボット化計画の火付け役で、数年前に自らロボットになってしまった。恐らく、自分たちがロボットになることによって、人類ロボット化計画の安全性を示したかったのだろう。両親が手術をしている間、人間のままでいたい僕たちは二人に気づかれないように家を出た。途中、ロボットたちに追いかけられたけど、僕たちはとにかく遠くへ逃げた。あれから数年……』
ケビン:「マリー、いつか……いつか、きっと家に帰れる日が来るから、それまでは我慢しような」
マリー:「わかった……。マリー、いい子だから我慢できるよ」
ケビン:「ありがとな、マリーは偉いぞ!」
マリー:「えへへ、マリー、はやくパパとママに会いたいなぁ」
ケビン:「……マリー(マリーを抱きしめる)」
マリー:「おにいちゃ、どうしたの?そんなにぎゅーされたら苦しいよぉ」
ケビン:「マリー、いつか、いつか本当に家に帰ろうな」
マリー:「うん!」
ジョン:「ほっほっほ、仲が良くていいことじゃの。マスクの調子はどうじゃ?まだ使えそうかの?」
ケビン:「ジョンじいさん!おかえりなさい。マスクはまだまだ使えそうです。石油の蒸気が空気中に漂っているだなんて知らなかったから、あの時このマスクを頂かなかったら、僕たちは死んでいたところでしたよ。本当に、ありがとうございます」
ジョン:「そうかそうか、ワシの発明品はまだまだ教え子に負けんようじゃの。材料も足りんし、しばらくはそれを使ってくれ」
ケビン:「そっか、お母さんに機械工学を教えてくれたのは、ジョンじいさんでしたっけ。確か、その義足を作ったのもお母さんでしたよね」
ジョン:「あぁ、あの頃のローズは優しかった。退役軍人のワシの愛弟子だったんじゃがな。まさか、ワシが教えた知識を使ってこんな世界を生み出してしまうとは……」
ケビン:「……やっぱり、今日も……ダメでしたか?」
ジョン:「あぁ……話どころか、門すら開けて貰えんかったよ。思い出の家を捨ててまで、あの研究所に住みたかったのか、ワシには疑問じゃがな」
ケビン:「そうでしたか……。ジョンじいさん、毎日両親の研究所に行ってくれるのはありがたいですけど……もう、大丈夫です。門前払いも辛いでしょうし……」
ジョン:「バカタレ、これはお前さんだけの問題じゃ無いわい。全人類の問題じゃ。教師のワシにも責任があるしのぉ」
ケビン:「ジョンじいさん……」
マリー:「ジョンおじちゃん!」
ジョン:「おぉ、マリー!今日も元気いっぱいじゃのぉ!そうじゃ、今日はお前さんらに土産があるんじゃよ」
マリー:「おみあげ―!」
ケビン:「お土産ですか……?なんだろう」
ジョン:「土産その1、闇市で仕入れたパンじゃ!」
マリー:「パン!マリー、パン好き!」
ジョン:「腕のいい人間がおってのぉ、事情を話したらワシが開発した眼鏡一個で三人分くれたわい」
ケビン:「すごい……石油の匂いがしない!」
ジョン:「ほっほっほ、流石ケビンじゃのぉ!ご名答じゃ!このパン屋は石油の蒸気が付かんように品質管理をしっかりやっとる。ロボットたちの所為で肩身が狭い思いをしとるが、このパンの為にロボットになるのを断った人間もおるそうじゃ」
ケビン:「へぇ、すごい!ありがとうございます!」
ジョン:「おっと、それだけじゃないぞ。土産その2!マリー、これはお前にじゃ」
マリー:「わぁ!!!」
ケビン:「ん、何をもらったんだ?」
マリー:「うふふ、くまさん!」
ケビン:「くまさん……?マリー、それって……」
ジョン:「ほっほっほ、驚いたかの?お前さんらの家にこっそり行ってきたわい。まさか子供部屋がそのままだとは思わんかったが、鍵もかかっとらんかったわ。もう少し色々持ってこられたらよかったんじゃが、あそこはマスクをつけとっても息が苦しかった。どうやらここ最近出入りしとるようじゃのぉ。お前さんらがあの家に帰れるのはもうちっとばかし後になりそうじゃ」
ケビン:「そうですか……。でも、良かったな、マリー。お前が一番大切にしてたくまさんだ」
マリー:「うん!これね、ママがお誕生日にくれたくまさんなの!えへへ~」
ケビン:「ジョンじいさん、ありがとうございます。こんな危険を冒してまで、マリーのために……」
ジョン:「ほっほっほ、くまさんのために命は掛けんよ。あの家に行ったのは、これを持ち帰る為じゃ。ほれ、土産その3」
ケビン:「ひっ、う、腕!?」
ジョン:「お前の父さんが使っとったモデルじゃ。きっとスペアの腕じゃろう。どうもここ最近、廃棄場でこのモデルを見かけるもんでなぁ。まさかと思ったらビンゴじゃった。これから、この前持って帰ってきた廃棄場のものと、お前さんの家にあったスペアを調べてみるつもりじゃよ」
ケビン:「父さんの……モデル……」
ジョン:「まぁ、どうせアップデートか何かを試しているんじゃろう。この腕で、お前さんらを追っているモデルの弱点だけでも分かれば儲けもんじゃ」
ケビン:「ロボットたちの弱点……」
ジョン:「あ、そうじゃ。これは土産その4。ケビン、ほれっ」
ケビン:「おわっ!?こ、これは?」
ジョン:「それはジッポと言っての、蓋を開けて勢いよくホイールを回すと火が出るんじゃ」
ケビン:「火!?火なんて、石油の蒸気に引火するから、政府によって禁止されたんじゃ……」
ジョン:「ほっほっほ。たまたま見つけたんじゃよ。それは昔、不肖の教え子にやった物じゃ。自分で禁止しておきながら忘れていくなど、阿呆にもほどがあるのぉ」
ケビン:「ど、どうしてこれを僕に?」
ジョン:「お前さんらの家が漁られているということは、それだけお前さんらに関する情報を集めようとしているということじゃ。もし身の危険が迫ったら、そいつで脅せばいい。いくら機械と言えど、火だけは怖いはずじゃぞ。空気をつたって自分の石油タンクに引火してしまうからのぉ。ま、その場凌ぎにはなるじゃろう」
ケビン:「そうか、石油の雲が出来た今、ロボットたちにとって火は恐怖の対象なんだ」
ジョン:「ま、究極の一手じゃがな!またお日様の下で堂々と歩けるようにしてやるから、そいつは使わないつもりでポッケにでも入れとれ」
ケビン:「分かりました。ありがとうございます!」
マリー:「ねぇー!マリー、お腹すいたー!早くパン食べたいー!」
ジョン:「これこれ、パンは三つしかないんじゃから、少しずつ分けるんじゃぞ」
マリー:「パンー!お腹空いたー!」
ケビン:「こら、マリー!いい子にしないと食べられないぞ」
ジョン:「そうじゃぞ、ケビンと二人で食べちゃうぞ」
マリー:「むぅー!二人とも嫌いっ!」
ケビン:「あっ、マリー!そっちは地上だ!マスクなしに出ちゃ……!」
ジョン:「……む、待て、ケビン!下がるんじゃ!」
ケビン:「えっ、でも」
マリー:「きゃぁあーーー!!」
ケビン:「マリー!……っ、ジョンじいさん、離して!」
ジョン:「…………」
ケビン:「ジョンじいさ……けほっ……。なんだ?この匂い……」
ジョン:「……これはこれは、こちらから伺った時は門前払いでしたのに。わざわざ武装までした兵隊さんにまでご足労頂くなぞ……。一体どういうおつもりかな?」
ケビン:「マリー!!!」
マリー:「お兄ちゃんっっ!」
ローズ:「あの時は少々業務が立て込んでおりまして。久しぶりに子供たちにも会いたかったし、こちらから出向かせていただきましたの」
ケビン:「お母さ……っ、げほっけほっ!」
ジョン:「ケビン、マスクを。ローズ、マリーにもマスクをさせてあげなさい」
ローズ:「嫌ですわ。私のかわいい娘に、そんなものが必要なものですか。ねぇ、マリー?」
マリー:「離して!やだ、やめて!ロボットなんか、ママじゃないもん!」
ローズ:「聞き分けの悪い子ね!(ビンタ)」
マリー:「きゃっ!いたぁい!!!」
ケビン:「マリー!!!」
ジョン:「どうやらワシの教え子は体だけでなく心まで失ったらしい!残ったのはその使えない頭だけか!」
ローズ:「教授、口の利き方を考えてはいかがかしら?例え虫の息でもロボットにできる……。この子を半殺しにすることだって可能ですのよ!」
ケビン:「マリーっ……」
ジョン:「くっ……」
ローズ:「あーっはっはっは!人間には感情があるものね!かわいそう!ほら、ケビン?マリーを傷つけられたくはないでしょう?こちらにいらっしゃい?」
ケビン:「っ…………」
ローズ:「やりなさい」
マリー:「いやぁあっ!ゲホッ……ぅ……」
ケビン:「マリー!!!」
ローズ:「あぁ、マリー。可哀そうに、私の愛しい子……。ほら、ケビン!マリーが死ぬわよ!」
マリー:「お、にい、ちゃ……」
ケビン:「っ、お母さん……!」
ローズ:「ほら、来なさい!」
マリー:「おにいちゃ……だめ……痛いの、来ちゃダメ……」
ローズ:「うるさい子ね!(ビンタ)マリー、私は貴方を愛しているのよ?お願いだから、お母さんを困らせないで頂戴?」
マリー:「うぅ……っ」
ケビン:「お母さん!!!」
ローズ:「ケビン、貴方がこちらへ来ないからマリーがお仕置きされるのよ?」
ケビン:「お母さん……」
ローズ:「ほら、こちらへ来なさい!!」
ケビン:「行ったとして!!僕たちに何のメリットがあるの!?人間のままでいていいなら、またお父さんとお母さんと暮らせるならっ!……それなら僕はついていくよ」
ジョン:「ケビン……」
ローズ:「こちらに来るメリット?人間のままで、お父さんとお母さんと暮らしたい?」
ジョン:「そうじゃ、本来ロボット化とは、病気や老衰に使う最終手段!まだ若いこの子達に、ロボットの体は必要ないはずじゃ!」
ローズ:「あーっはっは!この子達は私の子供よ?ロボットの子供がいまだに人間だなんて、恥ずかしくて外も歩けないわ!」
ケビン:「お母さん……」
ローズ:「安心して?ケビン。貴方たちには今の私と同じ、最新のモデルを用意してあるわ?子供にも適合するって証明が必要ですもの」
ジョン:「ローズ……お前はこの子らを何だと思っているんじゃ!」
ローズ:「私の愛しい子供たちですわ、教授?だからこそ、永遠の命を与えたい、親として当然の望みでしょう?」
ジョン:「親の望みで、子供らの望みが踏みにじられるなど、あってはならん!」
ローズ:「教授、この石油に汚れた空気を、生身の体で凌げるとでも?この子達は機械にならなければ生きていけないのよ!」
ジョン:「それは、ワシのマスクがあれば!」
ローズ:「こんなかわいくないもの、つけさせるわけないじゃない」
ケビン:「僕は、人間のままでいたいよ!……人間に戻ってよ、お母さん。僕、また四人で……マリーと、お父さんとお母さんと暮らしたいよ!」
ローズ:「何を言っているの?機械の体こそ至高……ロボットになれば、幸せになれるわ!」
ケビン:「僕は!……僕は、また四人でご飯食べたいよ……。お父さんとお風呂に入りたいし、四人で一緒に寝たい!」
ローズ:「諦めなさい、ケビン。例えもし私が人間に戻ったとしても、それは絶対に叶わないことだわ」
ケビン:「どうして……」
ローズ:「だって、あの人死んだもの」
ケビン:「っ……!」
ジョン:「なん、じゃと?」
ローズ:「新しいモデルに適合しなくって。せめて亡骸は役に立ってもらったわ。教授に腕を運んでもらってね」
ジョン:「なっ……!あの腕はスペアではなく……本物の……!」
ケビン:「そんな……お父さん……」
ローズ:「腕に探知機を付けて、あの家にポイ。あの人と同じモデルを廃棄場にポイ……。するとあら不思議、教授は探知機をわざわざ子供たちの所に運んでくれました」
ジョン:「そんな……あれは罠だったというのか……」
ローズ:「それにしても、こんな状況でよくそんな提案できるわね。これだけの兵に囲まれて、私に人間に戻れだなんて……冗談でも言えないわ」
ジョン:「お前……っ」
ローズ:「教授、貴方が私に教えたんでしょう?人の魂を機械に転化する方法を……!」
ジョン:「ワシが教えたのは人を救う方法じゃ。お前が今やっているのは、人を苦しめること!この子らを機械にして、モルモットにでもする気だろう!そんなこと、許されることではない!」
ローズ:「老いぼれは黙ってなさい!」
ジョン:「グハッ」
ローズ:「教授、老いぼれた貴方には私の気持ちが分からないんだわ!研究に命を費やしたあの人と一緒!私は自分が生きながらえるためならなんだってするわ……。例え自分の愛する子を、殺すことになってもね!」
ジョン:「ローズ……っ!」
ローズ:「教授……あんたには死んでもらうわ。人間が生き延びるマスクなんて、ロボット社会に必要ないじゃない。貴方を殺して、子供たちを連れて帰れば、この世界は私のユートピアになる。人間社会は終わりを告げて、私がこの世界の女王になるのよ!うふふ……あーっはっはっは!……痛っ……なにこれ、クマのぬいぐるみ?」
マリー:「ジョンおじちゃんに意地悪しないで!」
ローズ:「このガキ……道具如きが調子に乗って!!!!」
ケビン:「やめろ!これを見ろ!!」
ローズ:「はぁ?」
ケビン:「マリーを放せ!!!!こ、これはジッポだ!火が付くぞ、これだけきつい臭いだ。火を付ければきっと大爆発だ!」
ローズ:「へぇ?あんたにそんな度胸があるの?」
ケビン:「僕は本気だ。どうせ明るい未来はない。それならここでお前を道連れに死んでやる!」
ローズ:「……ふん。命令よ、マリーを放しなさい」
マリー:「お兄ちゃん!!」
ケビン:「マリー!さぁ、ほら。マスクをするんだ!」
ローズ:「……それで?今度はどんなハッタリを聞かせてくれるわけ?」
ケビン:「今すぐ撤退しろ!今後僕たちの前に現れるな!」
ローズ:「ふぅん、もう私と暮らしたくないってことね」
ケビン:「当たり前だ、あんたなんかもう母親じゃない!分かってたさ、僕が好きだった景色がもう戻らないことなんて!」
ローズ:「あぁそう。ジッポ一つで偉くなったものね、ケビン」
ケビン:「っ……」
ローズ:「でもね、ケビン……」
ケビン:「な、なんだ。近づくな!」
ローズ:「ロボットの力を、舐めるんじゃないわよ」
ケビン:「っ……!」
ジョン:「うおおおおおおおおお!!!!!」
ローズ:「きゃあッ!?」
ジョン:「マリーをおぶって抜け道から逃げろ!」
ローズ:「教授……!ぐッ……あたしを踏みつけにっ……!」
ケビン:「ジョンじいさん!」
ジョン:「逃げて、またどこかで新しい暮らしを始めるんじゃ!人の住める町で、今度は幸せになれ!」
ローズ:「じじい、いい加減に……ッ」
ジョン:「ワシの義足に何を仕込んだか忘れたか?ローズ」
ローズ:「ッ……!」
ジョン:「さぁ、行け!!!」
ケビン:「ジョンじいさん……ごめんなさい!!!」
ジョン:「……ふん、まだまだガキじゃのぉ……こういう時は、“ありがとう”じゃよ」
ローズ:「……くっ、あんた達!何を呆けているの!こいつをどかしなさい!」
ジョン:「おぉっと、動くな。ワシは退役軍人、過去の遺物くらい常備しておるわい」
ローズ:「チッ……拳銃……」
ジョン:「人間の足に踏まれる気分はどうじゃ?ローズ。もっとも、この足は義足じゃがな」
ローズ:「発砲すれば、石油タンクが爆発する……。ここは地下だから、火は地上まで行かないってわけね。よく考えるじゃない。でも、例え私を殺しても、私の意志を継ぐ者は沢山いる。無駄死によ」
ジョン:「ワシは、お前を殺せるならそれで十分じゃ」
ローズ:「自分自身を犠牲にしてまで、私を殺すというの?ふざけないで、エバンス教授。貴方は賢いでしょう?貴方ほどの頭があれば……私の下につけば、いくらでも研究を……」
ジョン:「どうやら、考える頭まで機械化したようじゃな、ローズ」
ローズ:「は……?」
ジョン:「教え子の失態は教師も連帯責任じゃよ」
ローズ:「……っ」
ジョン:「共に死のう、ローズ。最後は、お前が作ってくれた義足でお別れじゃ」
ローズ:「いやよっ……そんなっ!離せ……離しなさい!やめっ……!」
ジョン:「あぁ、最後にあの子らと一緒に、パン、食べたかったのぉ」
***
ケビン:「はぁ、はぁ、はぁ……。(爆発音が聞こえる)っ……!ジョンじいさん……」
マリー:「おにい……ちゃん」
ケビン:「っ…………」
マリー:「おにいちゃん……」
ケビン:「っ……!どうした?マリー」
マリー:「お兄ちゃん、どこまで行くの?」
ケビン:「分からない、分からないけど、遠くに!」
マリー:「もうお家の近くまで来ちゃったよ?」
ケビン:「うちの近く……?本当だ、いつの間に……。っ、あれは……!」
ロボットA:「博士のガキがこっちに逃げたそうだ」
ケビン:「まずい、マリー、隠れるぞ」
マリー:「うん……」
ロボットB:「面倒ね……。機械の体になりたくないなんて、考えられないわ」
ロボットA:「はぁ、あっちも見てみるか?確かこの辺りが家だったろ?」
ロボットB:「馬鹿、わざわざ家になんて来ないわよ。ロボットになって人の心忘れちゃったわけ?」
ロボットA:「そ、それもそうか。じゃあ、あっちにいこう」
ケビン:「……ふぅ、いってくれた。マリー、きっと家ならロボットが来ない」
マリー:「おうち……パパとママはいるの?」
ケビン:「マリー……」
マリー:「……マリー、パパとママに会いたいなぁ」
ケビン:「っ……入ろう、マリー。今日はうちで休んで、明日には出ていこう」
マリー:「…………」
***
ケビン:「僕たちが出ていったあの日のまんまだ……石油の匂いがひどいけど、それ以外はそのまんま……」
マリー:「マスク……取れないね……」
ケビン:「……マリー、もう寝ようか。子供部屋もジョンじいさんがそのまんまって言ってたし、きっと今日は疲れただろう。すぐに眠れるよ」
マリー:「うん……マリー、もう眠い……」
ケビン:「ほら、二階に上がろう」
マリー:「おにいちゃん……一緒にねよ?」
ケビン:「そうだな、マリー。一緒に寝よう」
マリー:「うん……えへへ……」
ケビン:「階段を上り切ったら……。ほら、子供部屋だ。マリー、降ろすぞ。この扉は重いから、両手じゃないと開けられないんだ」
マリー:「わかった……」
ケビン:「よいしょ。ほら、入ろう」
マリー:「あ……マリーのお部屋だぁ……」
ケビン:「マリー、立って大丈夫……」
マリー:「ぱぱ?」
ケビン:「……マリー?」
マリー:「お兄ちゃん、パパの声がするね……帰ってきたのかなぁ」
ケビン:「マリー、パパの声、聞こえないぞ?どうしたんだ?」
マリー:「けほっ、けほっ……ぱぱ、まま、帰ってきてくれたんだぁ……けほっ」
ケビン:「マリー、どうしたんだ?パパとママは、どこにもいないじゃないか」
マリー:「ぱ、ぱ……ま…ま……ゲホッ」
ケビン:「マリー!……っ、マリー、血が……」
マリー:「苦しいの、いっぱい我慢したの……パパ、ママ、マリー、偉い?」
ケビン:「マリー、そんな……こんな時、どうすれば……」
マリー:「お兄ちゃん……マリー、偉いよね?」
ケビン:「マリー……あぁ、偉いよ。すぐに助けてあげるから……。そうだ、まだこの辺りにロボットがいるはず。ロボットになれば助かるんじゃ——」
マリー:「嫌っ!!……げほっ、マリー、ロボットになんてなりたくない……」
ケビン:「マリー……でも、それじゃあマリーが……」
マリー:「いいの……。マリー、パパと、ママと、お兄ちゃんに囲まれて、幸せだよ?」
ケビン:「マリー……っ」
マリー:「お、にい、ちゃ……どこ……?」
ケビン:「マリー、ほら、ここだ。僕は、お兄ちゃんはここだよ」
マリー:「お兄ちゃん……マリーね、お兄ちゃんのこと……」
ケビン:「もう、もう喋っちゃ…………」
マリー:「お、にい、ちゃ……」
ケビン:「っ……マリー」
マリー:「だ、い…す……———」
ケビン:「マリー……っ」
マリー:「——————」
ケビン:「マリー、ねぇ、マリー……マリー……っ。……僕もだ、マリー……」
***
ケビンM:『……これから僕はどうすればいいんだろう。マリーを失って、僕だけが生き延びて……。大人しく捕まろうにも、きっとお母さんはもう死んでる。捕まったところで、殺されるだけだ』
(回想)
ジョン:「逃げて、またどこかで新しい暮らしを始めるんじゃ!人の住める町で、今度は幸せになれ!」
ケビン:「ジョンじいさん……僕、マリーのいない世界でなんて生きていけないよ……」
ケビンM:『……ジョンじいさんから貰ったジッポ。僕に世界を焼く勇気なんてあるだろうか。このホイールを回すだけで、僕は全てを消し去ることが出来る。』
(回想)
ローズ:「ケビン……」
ジョン:「ケビン……」
マリー:「お兄ちゃん……」
ローズ:「例え自分の愛する子を、殺すことになってもね!」
(回想終わり)
ケビン:「っ……マリー、僕がこれからすることを、どうか許してくれ。このジッポで、僕はこの腐った世界を変えるんだ。新しい世界で、マリー、一緒にパン、お腹いっぱい食べような」
ローズ:「そんなこと、させないわっ!」
ケビン:「お、かあ……さんっ!どうしてっ……!」
ローズ:「教授……貴方の大好きなジョンじいさんは、私と共に死んだわ。でもね、機械ならば個体の複製が可能……記憶のチップさえ残っていれば、私は永遠に生まれ変われるの!さぁ、ケビン。ジッポを渡しなさい」
ケビン:「やめろ、離せ!今すぐにでもこのホイールを回してやる!」
ローズ:「出来るものならやってみなさい!思い出を、全ての人の命を、壊す覚悟があるのなら!」
ケビン:「うぉぉおおおおお!離せぇぇぇぇえええ!!」
ローズ:「きゃあッ!!!」
ケビン:「っ……はぁ、はぁ……っ!うおぉぉぉぉおおお!」
(ホイールを回す。しかし、火はつかない)
ケビン:「っ……?え……どうして……っ」
ローズ:「っ……ふ、ふふふ、あはははは!残念ね、ケビン!火打石が駄目になっているのよ!そのジッポはただのガラクタ!あら?マリーはもう死んでいるのね!この、役立たずっ!(マリーを廊下の方へ蹴る)貴方の最後の希望は消えたってこと!さぁ、もう逃げ場はない!ケビン、大人しくロボットになりなさい」
ケビン:「っ……ぅ、くっ……付けよ、付いてくれよ!!!!」
ローズ:「無駄な足掻きよ!大切な妹はもういない。逃げ場も無い、希望も無い。自害をする道具もない!喜びなさい、ケビン。貴方は私の息子、貴方はこのロボット社会をより良いものにするための礎となるのよ!安心して?実験が成功したら、すぐにマリーの元へ送ってあげるわ!さぁ、行くわよ!ケビン」
ケビン:「はっ……来るな!やめろ、いやだ!」
ローズ:「念のため、そのガラクタは寄越しなさい!」
ケビン:「やめろ、放せ!これはジョンじいさんの形見だ!やめろ!」
ローズ:「暴れるな!(殴る)」
ケビン:「っ……!」
(幻聴が聞こえる)
ジョン:「ケビン、ホイールを勢いよく回すんじゃ」
マリー:「お兄ちゃん、負けちゃダメ」
ケビン:「ジョン……じいさん……マリー……」
ローズ:「さぁ、早く!手を離しなさい」
ケビン:「ッ……っ、うぉおおおおおおお!!!!!」
(ジッポの火が付く)
ローズ:「きゃぁあああ!火が、火が私の体に……っ!」
ケビン:「げほっ……はぁ、はぁ、こんなに勢いよく……火が……」
ローズ:「嫌よ、私はまだ死にたくない!誰か、誰かこれを何とかしてぇぇ!!クソッ……クソッ、クソッ!このクソガキぃぃぃ!!!」
ケビン:「っ、お母さん!!!!!」
ローズ:「っ!?!?離しなさい!私は、早く研究所に戻って、新しい体を……っ!」
ケビン:「熱い……苦しい……お母さんっ……」
ローズ:「私は永遠の命を作り出した女王よ!お前みたいなガキに!私のユートピアを壊されてたまるものか!!!離せぇッ!!」
ケビン:「お母さんっ……僕は、家族みんなで……ずっと幸せに暮らしたかった」
ローズ:「っなにを……!」
ケビン:「永遠の命なんていらない……お父さんと、お母さんと、マリーと、四人でいられたら、僕はそれだけで良かった……」
ローズ:「うるさい、放せ!殺してやる、殺してやる!」
ケビン:「こんな世界の、どこがユートピアなの?ロボットに支配されて、永遠の命に縛られて」
ローズ:「離せ、離さないと、お前も共に死ぬことになるのよ!そんなの嫌でしょう!?」
ケビン:「一緒に死のう、お母さん。僕は、こんなディストピア、いらない」
ローズ:「やめなさい、放しなさいよ!」
ケビン:「僕、お兄ちゃんだから……強くなったんだよ。今度は、あっちで、幸せになろう」
ローズ:「やめろ!離せ!」
ケビン:「(突き放されて)ぁっ……」
ローズ:「やった、離れっ……(何かにつまづく)なっ……マリーの死体が、なんでこんなところに……(階段から落ちる)いやぁあああああああ!!!!!!!」
(下まで落ちる)
ローズ:「あぁっ……体が、燃えていく……っ、記憶のチップが……壊れっ……!これは悪い夢、きっとすぐに再起動が……っ!嫌っ、死にたくないっ死にたくないっ!ケビン、助けなさい!ほら、何をしているの!この出来損ないが!……あぁ、ケビンッ……体が……もうっ……お願い…………ケビン、タス……ケ……———」
ケビン:「お母さん……僕は、一緒に死のうと……突き落とすつもりはなかった……でも、お母さんが、何かでバランスを崩して……」
マリー:「お兄ちゃん」
(後ろを見る)
ケビン:「ぁ……マリー。マリーが、助けてくれて……そっか、マリー……一人じゃ、寂しいもんな……っ」
(ケビン、マリーの方へ倒れる)
ケビン:「ゲホッ……もうすぐ……家の外に炎が出るはずだ……マリー、こんな世界、消えて正解だろ?……マリー」
マリー:「お兄ちゃん……」
ケビン:「はは……ははは……ゲホッ、ゲホッ……。マリー……大丈夫だ、大丈夫。この家で、また皆で……ほら、お父さんもお母さんも一緒だよ……」
マリー:「…………」
ケビン:「そうだ……苦しいのは今だけ……。この苦しさを、この炎を我慢すれば……また、みんな一緒に……」
***
ケビン:「マリー、行こうか」
マリー:「うん!」
ローズ:「ほら、もう、何してるの?置いて行っちゃうわよ?」
ケビン:「今行くよ!お母さん!」
ローズ:「お家に帰ったら、美味しいお茶を淹れてあげるわ。教授もご一緒にどうかしら」
ジョン:「おぉ、ワシもご一緒しようかの?そうじゃ、美味しいパンを貰ったんじゃよ」
マリー:「やった!マリー、パン大好き!」
***
ケビンM:『この国には雨が降る。世界を焦がす絶望の雨が。全てを壊す、僕の幸せが』
ケビン:「マリー、これからはお父さんと、お母さんと、ずっと一緒にいような。ずっと、ずっと……この、幸せな雨が降り続ける限り……ずっと」
(終)