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【声劇】その手に溺れて〜怪異前世譚〜(3人用)

利用規約:https://note.com/actors_off/n/n759c2c3b1f08
♂:♀=2:1
約30分~40分
上演の際は作者名とリンクの記載をお願いします。

【登場人物】
美樹♀:元気な女子大生。 水泳と恋愛に夢中の女の子。
康人♂:北海道の小さな町の駅長。未来を有望視されている。※兼任有り。
お義父さん♂:娘を心配する父親。電鉄の重役。※兼任有り。
乗客A♂:康人のいる駅を利用する乗客。※お義父さんと兼任。
乗客B♂:康人のいる駅を利用する乗客。※お義父さんと兼任。
乗客C♂:康人のいる駅を利用する乗客。※お義父さんと兼任。
車掌♂: 車掌さん。 ※お義父さんと兼任。
ユウキ♂:大学生。 ナオキの友人。 いつもそんな役割。※康人と兼任。
ナオキ♂:大学生。女好きの遊び人気質。※お義父さんと兼任

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【配役兼任表】
美樹♀
康人♂:ユウキ
お義父さん♂:乗客A 乗客B 乗客C 車掌 ナオキ

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美樹:「(扉を開ける) 康人さん♪」

康人:「あっ美樹ちゃん、勝手に駅長室に入って来るのはダメだって言ってるだろ?」

美樹:「イヒヒッ♪ だって外が凄い雪で寒かったんだもん♪
それに、いつも康人さん一人しかいないから、良いじゃないですか♪」

康人:「ま、まぁこの駅の駅員は僕だけだけど……
それでもね──」

美樹:「──そんな事より!!」

康人:「そ、そんな事って──」

美樹:「──あのねあのね! 聞いて下さいよ!!
またクロールのタイムを縮めれたんです♪」

康人:「えっ、おぉ凄いじゃないか!」

美樹:「はい♪ コーチも『この調子で頑張ったら、北海道だけじゃない、全国──いや、世界も狙えるかもな』って♪」

康人:「世界──それはまた大きい話だなぁ」

美樹:「だから今日は前祝いで、お肉買っちゃいました♪
康人さん、何時に帰ります?」

康人:「はははっ、気が早いなぁ!
えっと、次、二時間後に到着予定の電車が最終だから……」

美樹:「分かりました♪
それじゃあ先に帰って、夕飯作っておきますね♪」

康人:「美樹ちゃん、おウチは良いのかい?」

美樹:「うっ──え〜っと……」

康人:「(ため息) また嘘をついて出て来たのか……今度は誰が犠牲になったんだ?」

美樹:「翔子の家に泊まって勉強するって……」

康人:「まったく……分かった。最終の電車を見送ったら、出来るだけ早く帰るよ」

美樹:「はい♪
おっじゃましましたぁ〜♪ (出て行く)」

康人:「(ため息)」

*******************

お義父さん:「康人君」

康人:「はい」

お義父さん:「娘とは……どうなっているんだ?」

康人:「っ……はい、健全なお付き合いをさせて頂いております」

お義父さん:「そうか……迷惑をかけていない様なら、良かった」

康人:「いえ、そんな迷惑だなんて……」

お義父さん:「アイツには、小さい頃からピアノ、生け花、バレエと、おしとやかな女性になって欲しいと育てたつもりだったのだが……まさか習い事を全て辞めて、水泳一本にこだわるようになるとは……」

康人:「本人も水泳は凄く楽しんでいるようです。
まだ勝てない子がいるとかで、苦しんでもいるみたいですけど」

お義父さん:「はははっ、そうか。
家ではあまり、そんな話をしないんでな。
そうか、アイツは水泳を頑張っているのか」

康人:「あの……それで、今日は?」

お義父さん:「ん……
あぁいや、君がこの町の駅長になってから、町が明るくなった。
君は大変よく頑張ってくれている。
お客様からの評判も良いと、私は聞いている」

康人:「はぁ……ありがとうございます」

お義父さん:「それで、君をあの駅に置いておくのはもったいないと、上層部で話が出ていてな」

康人:「っ……と、言いますと?」

お義父さん:「利用者の多い駅への異動が、近い内に君に届くはずだ」

康人:「あ、ああ……ありがとうございます!!」

お義父さん:「まぁ……そこでなんだが……」

康人:「は、はい!」

お義父さん:「アイツにも、今のスクールより、もっと大きなスクールに行かせてやりたいと思っていてな」

康人:「……?」

お義父さん:「こんな田舎で育った娘だ、一人で行かせるのも──その、なんというか父親としても……な」

康人:「はぁ……まぁそうですよね」

お義父さん:「幸い、アイツも君に良く懐いている事だし、君になら娘を──」

康人:「──っ!? ちょっ、ちょっと待ってください!
ま、まだ彼女は大学生ですし、私なんかと──そんな……」

お義父さん:「無理にとは言わない。これは君の人生でもあるんだ。
君が他に好いている女性がいるのなら、この話は──」

康人:「あっ、いえ!
無理と言う訳では……」

お義父さん:「ふふふ……
君には、後々私の下について貰いたいと思っているんだ」

康人:「は、はい」

お義父さん:「私も若い頃、あの駅で君を毎日見て来た。
止まる本数も少ないあの駅に、
ただ『電車が好きだ』というだけで毎日見に来ていた、まだ小さかった君をね……」

康人:「……」

お義父さん:「君になら任せられる──そう思っている」

康人:「……ありがとうございます」

お義父さん:「その為には──あの子には、こんな小さい町の大会ででも、表彰台に上がって貰いたいと思っているのだがな」

康人:「はぁ……?」

お義父さん:「メダルの一つでもないと、大きなスクールへ行った時、周りの波に呑まれてしまう」

康人:「箔をつける……勢いを付けるという意味でもって事ですか」

お義父さん:「あぁ、そういう事だ」

康人:「なるほど……」

*********************

康人:「それでまた、逃げて来たのかい?」

美樹:「だってお父さんが『今度の大会は応援に行くからな』ってうるさくて」

康人:「今度の大会?」

美樹:「そっ♪
道内どうないだけの小さな大会なんだけど──まぁそれでも『表彰台に上がる娘の姿を見るんだぁ!』って──っていうか私、康人さんにもこの大会の話、したよ!?」

康人:「えっ、そうだっけ?」

美樹:「もう! また私の話を聞かないで別の事を考えてたんだ……」

康人:「ははっ、ごめん」

美樹:「大学も今年いっぱいで卒業だし、今のコーチからも、もっと大きなスクールを勧められてて、それでお父さんも『世界を目指して来い』ってノリノリで」

康人:「なるほど」

美樹:「でもね?
康人さんと離れるの、嫌でしょ?
だから『一人暮らしのタイミングは自分で決める!』って言ったの!
いつか絶対──康人さんなら、いつか絶対に、もっと大きな駅へ転勤すると思うから──だから、その時に私も着いて行こうって思って♪」

康人:「え……」

美樹:「それまでは、今の教室に通おうって思ってるんだ。イヒヒ♪」

康人:「そう、なの?」

美樹:「うん♪
でも卒業前の大会だし? 康人さんにも私が表彰台に上がる姿、見て欲しいなぁ」

康人:「ん〜、それは難しいかなぁ……仕事があるからね」

美樹:「えぇ〜、まだ一度も見て貰えてないのに……
私の水着姿、なかなか見れないよ?」

康人:「ははっ、水着より破廉恥はれんちな格好で、そんな事を言われてもなぁ?」

美樹:「ふぇっ? あっ……もう!!
そういう事じゃなくてぇ!!」

康人:「あははははっ!!」

********************

乗客A:「あっ康人君! おめでとう!!」

康人:「あぁ、こんにちは……え?」

乗客A:「水臭いなぁ〜!
もっと早く言ってくれても良かったんじゃないか?
康人君が小さい頃からの仲なのに!」

康人:「あ、いや……何の事ですか?」

乗客A:「何の事って、大きな駅へ異動になるんだろ?
ここより大きな駅となったら、それはもう出世だろ!
まぁここより小さな駅なんて、そうそうは無いけどな!!
あっはっはっはっ!!」

康人:「あ、えっ……まだ決まった訳じゃ──え、なんで知っているんですか?」

乗客A:「え〜っと誰から聞いんだったかな?
『東京に異動する』だの『大阪に異動する』だの? 『いやいや札幌だ』ってな!
真面目に働いていたら、いつかはむくわれる!!
嬉しいねぇ!! いやはや、めでたい!!」

康人:「あ、ありがとうございます」

乗客A:「大きな街で、彼女とイチャイチャし過ぎて、仕事を疎(おろそ)かにしないように!!
そうなったら、またここに戻されちまって、せっかくの出世街道しゅっせがいどうが台無しだからな──って、そりゃあ俺の事か♪
あっはっはっはっ!!!」

康人:「ははは……気を付けます」

乗客A:「まだしばらくはいるんだろ?
色々と決まったら教えてくれよ?」

康人:「はい。ありがとうございま──あっ」

乗客A:「おっ、なんだ?」

康人:「明日またこの辺り、昼過ぎから吹雪くみたいなので──」

乗客A:「──おぅおぅそうかい!
電車が止まらなかったら良いけどなぁ……まぁ仕方ねぇ!! 早めに出る様にするよ!!
それじゃあな!!」

康人:「はい、ありがとうございました。お気を付けて」

乗客A:「ありがとっ!!
それじゃあな!! 康人君も身体に気を付けて!!」

康人:「ありがとうございます!」

********************

美樹:「康人さん、お疲れ様です♪」

康人:「っ──美樹ちゃん……」

美樹:「うぅ〜、今日は大寒波らしいですよ? こんな寒い日でも大変ですね」

康人:「乗るお客さんがいなくても、電車が走る以上、時間通り安全に到着するか、それを見守るのが僕の仕事だからね。
美樹ちゃんも大寒波の中、これから?」

美樹:「はい♪ 次の日曜日が大会だから、その追い込みでコーチに呼ばれているんです」

康人:「これからどんどん雪も深くなってくるし、運行通りに動かないかもしれないよ?」

美樹:「電車が止まっていたら『翔子の家に泊まる』って連絡して、康人さんの家に行きます♪」

康人:「っ……またそんな事を──
僕の家にも、電車が走らないと来れないだろ?」

美樹:「私のクロール舐めないで下さいよぉ♪ 深い雪の中だろうと硬い道路だろうと、泳いで行きますよ♪」

康人:「……」

美樹:「……?
どうしたんですか? いつもより元気が無いですけど」

康人:「えっ? あぁ〜……いや……」

美樹:「水臭いですよ♪
もうすぐ一緒に住むんです、隠し事は無しですよ♪」

康人:「そ、その事なんだけど──」

美樹:「え?」

康人:「一緒に住むのは、もう少し──」

美樹:「──いや!」

康人:「待った方が……」

美樹:「いやです! どうしてそんな事を言うんですか!? 私の事が嫌いになったんですか?」

康人:「そういう事じゃなくて──」

美樹:「──だったらなんでそんな事を!!
私は康人さんと一緒になる為に頑張って──水泳だって、勉強だって、康人さんがどこに異動になってもついていけるようにって頑張って来たんです!!
なのに──それなのにどうして!!!」

康人:「美樹ちゃん! 落ち着いて──」

美樹:「──嫌!! 放して── (振り払って体勢を崩す) あっ……」

康人:「危ない!! (抱きとめる)」

美樹:「っ──」

康人:「ふぅ〜……線路に落ちる所だった……」

美樹:「痛いです……
は、放して下さい……」

康人:「あっ……あぁ、ごめん……
まだ君は大学生なんだし、僕は新しい職場で朝が早い。
水泳を頑張って行くのなら、僕の生活に──」

美樹:「──私が……邪魔になったんですね……」

康人:「いや、そういう訳では無くて」

美樹:「ヤダ……イヤです……やっぱり……イヤです。
康人さんは私の初めての人なんです……初めて好きになって……そして初めて……」

康人:「美樹ちゃん……」

美樹:「邪魔だって言われても……
迷惑だって思われても……
私には──私達には康人さんが必要なんです」

康人:「……達?」

美樹:「……優勝したら、言おうと思ってました……だけど──」

康人:「まさか……そんな……」

美樹:「(康人に寄り添う)
たぶん、男の子です。
康人さんに似て、真面目で頑張り屋さんな男の子……」

康人:「っ……あ、あぁ……」

美樹:「実は、次の大会で水泳は辞めようと思ってました……
大学も辞めて、そして──
水泳より、大切なモノが出来たから……」

康人:「っ……ぼ、僕の……子供……」

美樹:「あのね? 私の今の夢は、世界の表彰台に上がるんじゃなくて、この子が大きくなって、そして歩ける様になったら、康人さんの働く姿を一緒に見に行く事なんです。
小さな手を繋いで行って、駅のベンチに座って……
ふふっ、きっと真似しますよ? 『電車が参ります。白線の内側までお下がりください♪』って……」

康人:「(息荒く)」

美樹:「そして康人さんの仕事が終わるのを待って……三人で手を繋いで暖かい家に帰── (突き飛ばされる) っ」

康人:「──っ (突き飛ばす)」

美樹:「え……どう、して? (線路の上に落ちる) っうぐ!?」

康人:「(息荒く)」

美樹:「っ!? あっ、あぁっ私の──私の赤ちゃん!! 私の赤ちゃんが──な、なんで!! どうしてこんな!!? わ、私は──っうぁ……あ、足が?
で、電車が──来る?
康人さん! 手を貸してください!! 足がハマって!! お願いしま──っ」

康人:「……くっ (立ち去る)」

美樹:「……え? や、康人さん?
ど、どこに──どこに行くんですか!? 行かないで!! 康人さん!!!
ぐっ──足が抜けない!! 助けて、誰か!! いや! いやよ!! どうして!!! どうしてなんですか!!!
っ!! いやぁぁぁぁぁぁあ!!!!! ──」

康人:「──っ」

乗客B:「うわぁ!! ひ、人がかれたぞ!! きゅ、救急車を──」

康人:「ぐっ、うぅ……」

乗客C:「線路と電車の車輪に挟まって……身体が──ぅおぇっ!!」

康人:「どうして……こんな事に……くそっ──くそっ!」

乗客B:「駅員さんっ、何をやってんだ! 早く!!」

康人:「っ
あ、危ないですからっ、下がって下さい!!
(息荒く) 美樹……」

美樹:「やしゅひろ、しゃん康人さん……き、来てくりぇ、らき、来てくれた……」

康人:「っ……ま、まだ生きて……?」

美樹:「やっふぁり……わらしの……所いやっぱり……私の所に……」

康人:「嘘、だろ……どうして……」

美樹:「わらしろ……やしゅひろしゃんろ……赤しゃん私と……康人さんの……赤ちゃん……ふらりれ……あたらかふ二人で……暖かく──ぁえ? わらしの……お腹……ぁえ?? ……ろこ?あれ? 私の……お腹……あれ? ……どこ?

康人:「どうして上半身だけで生きていられるんだ……どうして──っ!?
切れた所が……凍って、いる?」

美樹:「うしょ……わらひたひの……赤ひゃん嘘……私達の……赤ちゃん……いなく……いなふらっひゃっらいなくなっちゃった……い、いや……いや──」

康人:「まずい……まずいまずいまずい……
このままじゃ、僕が突き落としたって、バレてしまう……
まずい……まずい……まずいまずい」

車掌:「大丈夫ですか!!」

康人:「っ──す、すみません!
あ、あの──このままお客さんの目に触れるのもいけないので、ブルーシートをお願いします!!」

車掌:「は、はい!!」

美樹:「こめん……なひゃいごめん……なさい……
わらひ達の赤ひゃん私達の赤ちゃん……
やひゅひろしゃん……こめん……なひゃい康人さん……ごめん……なさい……
こめんなひゃいごめんなさい……」

康人:「見付かる前に早く……早くっ──
ブルーシートはまだですか!!」

美樹:「まら……いっひょに……しよ?また……一緒に……しよ?
まら……赤ひゃん……作うのまた……赤ちゃん……作るの……
そひてそして──」

車掌:「すみません! 持って来ました!!」

康人:「っ!! (受け取って被せる)」

美樹:「? やふひとしゃん康人さん……?
暗いれす……よ暗いです……よ? やふひひょひゃん……ろこれひゅか?康人さん……どこですか?

車掌:「大丈夫ですか? 私、あっち側を持ちます──」

康人:「──来るな!!!」

車掌:「っ!?」

康人:「あ、いや……君は運転席に戻って──その、運行ダイヤがこれ以上乱れたら、お客様に迷惑がかかってしまいます!!」

車掌:「あ……は、はい! ではすみませんが、よろしくお願いします」

康人:「(息荒く運ぶ) 」

美樹:「そうなぃ強く、らきしめたらそんなに強く抱き締めたら……くるひぃ……れすよ苦しい……ですよ……やふひひょ、ひゃん康人さん……イヒヒ♪……」

康人:「っ──」

美樹:「るっろ……いっひょれしゅずっと……一緒です……
ろんなに……雪が積もっれもどんなに……雪が積もっても……るぅぅ……ろず〜っと……」

康人:「っっしょ!! (ホームの下に押し入れる)
はぁ……はぁ……っ
ご乗車の皆様、電車が遅れてしまい、大変申し訳ありません!!
まもなく電車が発車いたします!!
白線の内側までお下がりください!!!
はぁ……はぁ……
じゃあ、よろしく頼む」

車掌:「はい。お疲れ様です!!
扉が閉まります。ご注意下さい」

美樹:「あぇあれ……? 目の前が……青い?
かららが……あしゅい身体が……熱い……」

康人:「(息荒く)
こんなはずじゃ、なかった……」

美樹:「あぁ、しょっかあぁ、そっか……わたひ……いわ、プールろ中い、いゆんだ私……今、プールの中にいるんだ……」

康人:「僕が……突き落とした……
この手で……僕が……殺した。
美樹が、子供が出来たなんて言うから……僕は……僕は……っ」

美樹:「泳い終わっらら泳ぎ終わったら……やしゅひろ、しゃんろ家に──そしれ康人さんの家に──そして……」

康人:「いや……まだ生きていた……上半身だけで……まだ……
ぼ、僕に手を伸ばして──僕に……」

美樹:「ひょうお、かんばっられって今日も頑張ったねって……ほへれ……よひよひひて……貰うんら褒めて……よしよしして……貰うんだ……イヒヒ♪」

康人:「そうだ、そうだよ……僕じゃない……僕じゃ──
足を滑らせたんだ──そう、ホームが凍っていて、だから勝手に足を滑らせて──その時に僕の手に当たった……」

美樹:「らから……はやぅ……もっろはやうだから……早く……もっと早く……あぇ? 前い……進まらいあれ? 前に……進まない……らんれらろ?なんでだろう?
あ……足ら……らい?あっ、足が……無い?
ろこいっらろ? わらひの……あひどこ行ったの? 私の……足……」

康人:「そ、そうだよ……勝手に落ちて……勝手に──ぉえっ……か、勝手に……っ
僕の……僕のせいじゃない……」

美樹:「足あ、らいと足が無いと……やひゅひろ、しゃんろ家い康人さんの家に……行えらいやらい行けないじゃない……イヒヒ♪
あひぃ〜足ぃ〜……ろこ、行っらぁ〜♪どこ行ったぁ〜♪
わらひのぉ〜……あひ私の……足……れれ、おい……れ出ておい……でぇ〜……♪)」

康人:「僕のせいじゃ……
僕のせいじゃ……無い……」

******************

お義父さん:「先日……康人君、君の担当している駅で、学生が線路に落ちたらしいじゃないか」

康人:「っ!?
……は、はい。
そ、その……いつも利用してくれる、明るい感じの学生さんだったので……その──」

お義父さん:「いやはや、若い子ほど気持ちの波は荒いもんだ。
まさか自殺を考えているなんて、そう簡単に分かるモノでもない」

康人:「えっ……自、殺……?」

お義父さん:「小さな駅だが……いち駅員が乗客全てを把握する事なんて、出来ないんだ。
君が気に病む事では無いよ」

康人:「……ありがとう、ございます」

お義父さん:「君は知っていたかね?」

康人:「っ!? な、何を、ですか……」

お義父さん:「いやぁね、その学生さん──
水泳教室に通っていたらしくてね?
それが、翔子の行っている水泳教室が同じで、翔子のライバルだったらしいんだ。
と言っても、その教室で一番早い子だったらしく、勝てた事は無いらしいんだけどね」

康人:「そ、そうなんですか」

お義父さん:「不謹慎な話ではあるが……
その学生さんがいなかったおかげで、娘は水泳の大会で表彰台に上がる事が出来た。
これで晴れて、君の元にとつがせる事が出来るというモノだ」

康人:「……は、はい……そうですね」

お義父さん:「あぁそうだ!
君の異動先が決まった」

康人:「え?」

お義父さん:「君も、こんな北海道のへんぴな田舎で起こった小さな事故の事なんてスッキリ忘れて、これからはもっと利用者の多い、大きな駅で頑張ってもらう事になるからな!!
翔子と一緒に!!」

康人:「っ──あ、ありがとうございます!!!」

お義父さん:「まぁ、呑みなさい。
前祝いだ」

康人:「あっ、すみません! ありがとうございます!!」

**********************

美樹:「イヒヒ……わらひの私の……あひぃ〜足ぃ~……

**********************

ナオキ:「なぁ、あの子、ずっとこっち見てないか?」

ユウキ:「あ? ……どこ?」

ナオキ:「ほら、あの窓の所」

ユウキ:「……ホントだ……可愛いじゃん」

ナオキ:「ねぇ! さっきからそこで何してんの!!」

ユウキ:「ナンパかよ、やめろって」

美樹:「……足……」

ナオキ:「え!? なんだって?」

美樹:「足を……探してるの……」

ユウキ:「は? 足?」

ナオキ:「俺達も一緒に探してあげようか!! こっちおいでよ!!」

ユウキ:「バカ、テキトーな事を言うなって──」

美樹:「──イヒヒ……足……足を…… (窓を飛び越えて近付いて来る)」

ユウキ:「へ……?」

ナオキ:「嘘だろ……足が──無い」

美樹:「足、足、足が──足足足足足足が欲しいのぉぉぉおお!!! (腕だけで近付いて来る)」

ユウキ&ナオキ:「うっ、うわぁぁぁぁぁあ!!!!!」

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