【声劇】この花が散る時
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♂:♀=2:2
約20 分~30分
上演の際は作者名とリンクの記載をお願いします。
【声劇 この花が散る時】
イワナガ♀
ニニギ・???♂
コノハナ・クシナダ♂
ヤシマ♂
***
イワナガ:「一人は、さみしい。一人は、辛い。大好きだった妹は、私を置いてあの男の所に行っちゃった」
(イワナガ、鏡を手に持ち、覗く)
イワナガ:「この醜い姿のせいで、私はお嫁に行けなかった。この醜い姿のせいで、コノハナの一族は寿命を得てしまった。かわいいコノハナ、もし、貴方が死んでしまったら、私はこの世界をどうやって生きて行けばいいの?」
***
コノハナ:「ニニギ様、いつお帰りになるのかしら。天孫のお仕事は、そんなに忙しいの?……でも、今日は帰ってきてくれるって言っていたわ」
(コノハナ、お腹をさする)
コノハナ:「もうすぐ、貴方の父上が帰ってきますからね。貴方の事、きちんと報告しなくっちゃ。あの人と過ごした夜は一晩だけだけど、それで貴方を授かれたことは、幸せなことですもの」
ニニギ:「コノハナ!今、帰った!さぁ、その美しい顔を俺に見せてくれ!」
コノハナ:「ニニギ様!おかえりなさい!お仕事、おつかれさまです」
ニニギ:「おぉ!コノハ……ナ?ははは、どうしたんだ、そんなにお腹を大きくして!宮廷のご飯はそんなにおいしかったか?そんなお前も、美しいがな!」
コノハナ:「酷いわ、ニニギ様ったら。私、太ったんじゃありません」
ニニギ:「いやいや、そうでなければ、なんだというのだ。妊娠したわけでもあるまいし……」
コノハナ:「いいえ、妊娠したのです」
ニニギ:「え……?いや、まさか。だって、俺と共に過ごした夜は一晩だけだったろう?それで、俺との子を妊娠しただなんて……」
コノハナ:「ニニギ様、全く帰ってきてくださらないから、大変だったのですよ?もうすぐ生まれてきますから、せめて、それまでは一緒に……」
ニニギ:「誰の子だ」
コノハナ:「え?」
ニニギ:「誰と寝たんだと聞いている!たった一晩で、子を妊娠するはずがないだろう!その美貌で、どの国津神をたぶらかした!言え!そうに決まっている!誰と寝たんだ!」
コノハナ:「酷い……酷いです!ニニギ様、私、一人でずっと寂しかったんですよ!外へ出ることも出来ず、ただ貴方が安全に帰ってくることを祈って、一人孤独に過ごしてきたのに!私が、貴方との子を授かったことがどんなに嬉しかったか!それを……」
ニニギ:「お前の御託など聞きたくない!俺だって、お前を信じていた!それなのに、久しぶりにコノハナに会いたくて帰ってきたらこれだ!裏切り者のお前なんかより、あの不細工な姉を貰った方がよっぽどマシだったかもな!」
コノハナ:「ッ…………!」
ニニギ:「はぁ、祖母に、天照大神に何と説明をしたものか……」
コノハナ:「……に…………」
ニニギ:「なんだ?まだ何か……」
コノハナ:「いい加減にして!!!!!!」
ニニギ:「ッ!?」
コノハナ:「私を一人置いていっつも仕事仕事仕事!愛してると囁いておきながら、色目を使う神々に鼻の下を伸ばして!私がつわりで苦しんでいた時、貴方、何してたの?どうせ、他の神様と飲んでいたんでしょ!妻の妊娠を浮気だ不倫だと罵って、挙句の果てには私のお姉様まで馬鹿にした!永遠の命を失うのも当たり前ね!」
ニニギ:「コ、コノハナ……?」
コノハナ:「ニニギ様、これから産屋に行きます」
ニニギ:「は???」
コノハナ:「今から産むと言っているんです!」
ニニギ:「は、はい!!!」
コノハナ:「そして、私が産屋に入ったら火をつけてください」
ニニギ:「へ???」
コノハナ:「この子が貴方の子であれば、この程度の炎で死ぬわけがありませんよね。もし仮に、この子が貴方の子でないのなら、私は愛するこの子と喜んで死んでいきます」
ニニギ:「ちょ、ちょっと待っ……」
コノハナ:「それでは、よろしくお願いします」
ニニギ:「コノハナ!!!」
***
(イワナガの覗く鏡に、文字が浮かび上がる)
イワナガ:「コノハナが……炎の産屋に飛び込んだ!?夫に不貞を疑われて!?そ、それで、コノハナは、コノハナは無事なの?…………はぁ、無事なのね、良かった。結局子供はニニギ様との子で、元気な三つ子が生まれた……。コノハナ、貴方の強さには、心底驚かされるわ」
***
ニニギ:「コノハナ!コノハナ!」
コノハナ:「ふぁ……ニニギ様、どうしたんですか、朝早く」
ニニギ:「ホスセリが、変なんだ!ホオリとホデリは目を開いているのに、ホスセリだけ、目を開かない!」
コノハナ:「まだ生まれて一週間も経っていないんですよ?ホスセリは、炎が一番強い時に生まれて来たんですもの。きっと、すぐに開いてくれますよ」
ニニギ:「でも、曾祖母は火の神を産んで亡くなっているし……やっぱり、火って不浄だったんじゃ……」
コノハナ:「あら、その不浄な火の中で産まなきゃいけなくなったのは、誰のせいでしたっけ?」
ニニギ:「うっ、それは……すまなかったと思っている」
コノハナ:「ふふ、あれ以来、ずっと傍にいてくださっているから、いいんですけどっ」
ニニギ:「コノハナ……」
***
イワナガ:「そっか、コノハナは……お母さんになったのね。私は、あの子の子供たちに会うことも叶わない……」
ヤシマ:「おや……こんな山の中に、お嬢さんとは珍しい。と、言っても、私もしばらくここには来ていませんでしたが」
イワナガ:「ッ、ご、ごめんなさい!私、家が無くて……その」
ヤシマ:「家がない?それは大変だ。あぁ、もしよろしければうちに来ませんか?」
イワナガ:「えっ」
ヤシマ:「見たところ、まだお若い。こんな場所に一人は危ないでしょう」
イワナガ:「ち、違うんです!私、家出をしてて……。だから、帰る場所はあるというか……その」
ヤシマ:「家出?それはまた大変だ。ほら、もうすぐ日も沈んでしまいますし、せめて今日だけでもうちに来ませんか?」
イワナガ:「でも……」
ヤシマ:「あっ、いや、その、う、うちには母もいますから。貴方に手を出そうものなら、私はすぐに黄泉送りです!ハハハ!」
イワナガ:「は、はぁ……」
ヤシマ:「あぁ……っ。私はヤシマジヌシと申します」
イワナガ:「や、ヤシマ……ジヌシ、さま?」
ヤシマ:「あっ、ヤシマで構いません」
イワナガ:「わ、私はイワナガ……です」
ヤシマ:「イワナガヒメ。さぁ、行きましょう」
イワナガ:「…………はい」
***
コノハナ:「ニニギ様、ニニギ様!どこに行ったのかしら。ホスセリの姿も見えないし……ニニギ様ー!」
ニニギ:「…………コノハナ」
(ニニギ、暗がりに佇んでいる)
コノハナ:「ニニギ様、ホスセリの姿が見えないんです。どこに行ったか……」
(ニニギの姿が見える)
コノハナ:「ッ、ニニギ様、どうさなったのです!その血は一体……。ホスセリの、ホスセリの姿も見えないんです!もしかして……賊か何かが……!」
ニニギ:「俺がやった」
コノハナ:「え?」
ニニギ:「目の色が……違ったんだ。左右で、違う色。この血は、あの子の血だ」
コノハナ:「え……?どういう、こと、ですか?目の色が、違った?あの子を……ホスセリを、殺したんですか?」
ニニギ:「いや……目を潰しただけだ。仕方がなかった。不浄の火の中で生まれ、良くない力を得てしまったのだ。きっと、これから悪いことが沢山起こってしまう。仕方なかったのだ……。あの目は……潰すしかなかった」
コノハナ:「信じられない……。我が子の目を潰すだなんて!」
ニニギ:「コノハナ……」
コノハナ:「出てって」
ニニギ:「……仕方がなかったんだ」
コノハナ:「出てってよ!この子達は私が一人で育てます!我が子の目を潰すような人ですもの。このまま一緒に居たら、ホオリも、ホデリも……私さえも、貴方に殺されてしまう!……ッ、出てってください!!!!」
ニニギ:「ッ……。天界から、見守っている」
(ニニギ、宮廷を出る)
コノハナ:「あぁ、ホスセリ……可哀そうに。私の愛しい子……」
***
ヤシマ:「さぁ、ここが私の家です。母と二人暮らしの割には、随分と寂しい家ですが」
イワナガ:「お父様のお屋敷と同じくらい大きい……。ヤシマ様、失礼ですが、血筋は……」
クシナダ:「ヤシマ、帰ったの?あら、お客さん」
ヤシマ:「母上。只今、帰りました。彼女はイワナガヒメ。わけあって、家に帰ることが出来ないそうです」
クシナダ:「……そう。なら、うちに泊まりなさい。広いだけで、何にもない所だけどね」
イワナガ:「こんなに立派なお屋敷なのに、お二人だけで住まわれているのですか?私の父の所には、使用人が何人かいたのに」
クシナダ:「けったいな娘さんだねぇ。昔はいたのさ。立派な名前を持った、立派な男がね」
イワナガ:「あっ……、ごめんなさい」
クシナダ:「いいや、いいさ。そうだねぇ……。アンタたち、コッチに来て。ヤシマ、アンタのお父さんの話をしよう」
ヤシマ:「私の、父上」
クシナダ:「あぁ、アンタ……名前はなんていったっけ?」
イワナガ:「あっ……イワナガです」
クシナダ:「あぁ、そうだった。いい所のお嬢さんなら聞いたことがあるだろう。かつて八岐大蛇と戦って、一人の娘を救った男の名を」
イワナガ:「三貴神の一柱、スサノオノミコト……」
クシナダ:「えぇ、スサノオ。彼は、英雄となったあと、家族を置いて黄泉に渡った」
ヤシマ:「黄泉に渡った?亡くなったんですか?」
クシナダ:「いいや。自分の意思で、肉体を持ったまま行ったのさ。もとより、厄介者扱いをされて、色々な地を追い出されていたらしいが」
イワナガ:「聞いたことがあります。スサノオノミコトは、現世をイザナギノミコトに、天界を天照大神に追放されたって」
クシナダ:「現世を追い出され、天界の姉に会いに行って、黄泉に渡る途中で八岐大蛇を倒した。家族が出来てしまっても、追放された事実は変わらない。彼は、私とヤシマをこの屋敷に置きざりにして、勝手に黄泉へ渡ってしまったのさ」
イワナガ:「そんなことが……」
ヤシマ:「今まで一緒に暮らしてきたのに、初めて聞きました。母上、どうして急に?」
クシナダ:「最近うわさの、ニニギノミコトに捨てられた娘……。それって、イワナガヒメ、貴方でしょう?」
イワナガ:「ッ…………」
クシナダ:「私も同じ、天孫に捨てられた女。姉妹を失った、孤独な女」
イワナガ:「天孫に……捨てられた……」
ヤシマ:「…………」
クシナダ:「私はアンタの味方だよ、イワナガヒメ。好きなだけここにいるといい。うわさ程ひどい顔じゃないしね」
イワナガ:「っ……あ、ありがとうございます」
***
コノハナ:「もう嫌……私、幸せになったはずなのに。望まれて、結婚をしたはずなのに!どうして私がこんな目に……。あぁ、お姉さまに会いたい。イワナガ姉さまに会って、また昔みたいに一緒に……」
***
イワナガ:「…………」
ヤシマ:「イワナガヒメ、ここにいたんですか」
イワナガ:「……ヤシマ様」
ヤシマ:「山の夜は冷えますよ。屋敷に戻りましょう」
イワナガ:「えぇ、でも、もう少しだけ……」
ヤシマ:「どうか、なさいました?」
イワナガ:「いいえ、何も。先に戻っていてください」
ヤシマ:「えぇ……わかりました」
イワナガ:「…………なんだか、夢みたい。家族以外の方々に、自分を認めて貰えるだなんて。それに、ヒメって……。コノハナ……私、今、少しだけ幸せかも。あら?鏡に、何か……」
***
コノハナ:「火山の近くまで来たけれど、お姉さまは本当にこんなところにいるの?一目会えたらそれでいいの。お姉さま、どこ……?」
???:「こちらへ……こちらへ……」
コノハナ:「あれ……どうして、私、こんな山を登っているの……」
???:「炎に身を捧げた桜は、大地を再び眠りへと誘う……」
コノハナ:「あ……地鳴りが…………。あぁ、そういうことなのね。私は、山の神の娘。私の命は、儚く短いもの。炎に身を捧げた桜は、大地を再び眠りへと誘う。お姉さま、最後にもう一度、会いたかったな…………」
***
イワナガ:「嘘……そんな、コノハナ……。だめ、駄目よ!行かないで!!待って、そんな、嘘!行っちゃだめッ……!コノハナ!火山になんか……!コノハナ、コノハナッ……!
コノハナ……ッ、そんな、嘘よ。嘘に決まってる!こんなの、信じられる訳が……ッ!!!あんなに幸せな結婚をしたコノハナが……コノハナがッ……嘘……嘘、嘘、嘘よ!!!!!」
ヤシマ:「イワナガヒメ。やっぱり、屋敷に……イワナガヒメ?」
イワナガ:「コノハナは、私を探して……ッ。私が醜くなければ、私がニニギ様に見初められていれば、コノハナが死ぬことはなかった!!!!!!」
(イワナガ、崖に向かって鏡を投げる)
イワナガ:「私が、私が醜いせいで!私が、私が、私が!!!!!!!…………あぁ、なんだ。答えはそこにあるじゃない。コノハナ、今、会いに行くわ」
ヤシマ:「……イワナガヒメ!!」
(ヤシマ、イワナガヒメを抱きしめる)
イワナガ:「ヤシマ様……。離してください!コノハナに、コノハナに会いに行くんです!私のせいで、あの子は死んだんです!私も死ななきゃ、私も、コノハナと一緒に死ななきゃ!」
ヤシマ:「ダメです、イワナガヒメ!行っちゃ、駄目だ!!!」
イワナガ:「死なせてください!私が、コノハナを一人にしたから……私がこんなに醜いからッ!」
ヤシマ:「貴方のせいなんかじゃない!!」
イワナガ:「ッ……!」
ヤシマ:「貴方のせいなんかじゃありません。イワナガヒメ、貴方はこんなに美しいじゃありませんか。ニニギノミコトがなんだというのです。もし、彼の元へ行っていれば、きっと貴方は不幸になっていた。もし、彼の元へ行っていれば、私は貴方と出会えなかった」
イワナガ:「ヤシマ……さま……」
ヤシマ:「大丈夫です、イワナガヒメ。私は、貴方を捨てたりなんかしません。コノハナサクヤヒメが亡くなってしまったのは、山が、炎が、ニニギノミコトに傷つけられたコノハナサクヤヒメを、お救いになられたから。母なる大地の選択です。貴方に非はありません」
イワナガ:「ヤシマ様……私、私っ……!」
ニニギ:「随分とお熱いじゃないか」
ヤシマ:「ッ、誰だ」
イワナガ:「ッ……。ニ、ニギ……さ、ま」
ニニギ:「妹が死んだというのに、よくも恋なんぞ出来るものだ。イワナガ、共に来てもらうぞ。お前には、妹の尻拭いをしてもらう」
イワナガ:「コノハナの……尻拭い?」
ニニギ:「フン、分かっているだろう。子供を遺して逝ったじゃないか。上の子と下の子は良い。だが、真ん中の子は負の力を持って生まれてしまった」
イワナガ:「だから、私に面倒を見ろ、と?」
ニニギ:「あぁ、その通りだ」
イワナガ:「…………」
ヤシマ:「イワナガヒメ、こんな奴の言うことなど、聞く必要がありません。私と屋敷に戻りましょう」
ニニギ:「ハッ、この女が『ヒメ』!笑わせるな、国津神。天孫の言うことは絶対。元よりこの女に拒否権などないのだ」
ヤシマ:「このッ……」
ニニギ:「おっと、暴力とはいただけないな。これだから、血の穢れた神は嫌いなのだ。そもそも、あの女が火の中で子を産まなければ、俺もこんな面倒なことをしなくて済んだというのに……」
(イワナガ、ニニギに平手打ち)
ニニギ:「ッ!?」
ヤシマ:「イワナガヒメ!?」
イワナガ:「黙って聞いていれば、人を見下す発言ばかり。コノハナがアンタを捨てたのもうなずけるわ……」
ニニギ:「なん、だと……?」
イワナガ:「コノハナがどれだけの覚悟を持って火の中へ飛び込んだか、考えたこともないわけ!?アンタがコノハナを信じなかったから、コノハナは火の中で子供を産んだの!アンタが欲しいと願ってコノハナを奪ったくせに、死んだら悲しむこともせず厄介払い!ヤシマ様を穢れた血と罵ったけど、私からすれば、心まで腐りきったアンタの方が穢れているわ!」
ニニギ:「貴様、俺に向かって……!」
(ニニギ、イワナガに斬りかかるがヤシマが剣を受け止める)
ニニギ:「くッ……!」
ヤシマ:「暴力とは頂けないな。スサノオの息子が愛した女に手をかけようとは、天孫は目まで腐ってしまったか」
ニニギ:「スサノオの……息子!?」
(ヤシマ、ニニギの剣を払う)
ニニギ:「ぐッ……」
ヤシマ:「お前の望み通り、コノハナサクヤヒメの子供はこちらで預かろう。ただし、負の力を持ってしまった子だけだ。後の二人は……お前が育てろ」
イワナガ:「もし、二人に何かあれば、私は貴方を許さない。コノハナの残した宝物、大切に育てて、己の罪を悔い改めなさい」
ニニギ:「く、クソッ……、お前たち、こんなことをしてタダで済むと思うなよ!」
イワナガ:「忘れないで。私が貴方を呪っているということを。その気になれば、今ここで貴方を殺すことだってできるわ」
ニニギ:「くっ……ぐぅ……!!!覚えてろ!!!」
(ニニギ、去る)
イワナガ:「…………はぁ」
ヤシマ:「イワナガヒメ、大丈夫ですか」
イワナガ:「これで、この選択で、合っていたのでしょうか」
ヤシマ:「えぇ、きっと。コノハナサクヤヒメも、浮かばれたことでしょう」
イワナガ:「コノハナの子を、あの男に任せて良かったんでしょうか……」
ヤシマ:「それは、私が言ってしまったことです。もし、貴方が望まないのであれば、今からでも追いかけますが……」
イワナガ:「いいえ、不安だけど、信じてみます。ヤシマ様が決めてくれたことだから……」
ヤシマ:「ッ……イワナガヒメ」
イワナガ:「ヤシマ様、これでお別れです。私は、コノハナの子を育てなければ」
ヤシマ:「ど、どうして!」
イワナガ:「え?」
ヤシマ:「『こちらで預かる』と言ったのは私です。それに……おかしいな、私は『愛している』と言ったはずなのですが……」
イワナガ:「あ…………。でも、これ以上ヤシマ様にご迷惑をおかけするわけには…」
ヤシマ:「愛する者を支えることは、迷惑とは言いません。貴方が私を迷惑だと言うのであれば、私は身を引きますが……」
イワナガ:「いいえ……いいえ!私も、ヤシマ様をお慕いしております。ずっと孤独だった私を、初めて認めてくださった貴方を……。愛しています」
ヤシマ:「ッ……!イワナガヒメ……」
イワナガ:「ヤシマ様……」
(鳥の鳴き声、空から何かが降ってくる)
ヤシマ:「おっと……!な、なんだ!?」
(ヤシマ、受けとめる)
イワナガ:「あ……赤子、ですね。鳥がコノハナの子を届けてくれたみたいです」
ヤシマ:「空から落とすとは、なんて野蛮な……」
イワナガ:「ッ……!目が潰されている……ひどい」
ヤシマ:「安心してください。母が、医療の本を持っていたはずです。少しずつ、前に進んでいきましょう」
イワナガ:「そうですね……少しずつ、コノハナの分まで。花が散ってしまう、その時まで」
ヤシマ:「イワナガヒメ……」
イワナガ:「ヤシマ様……」