【声劇】URASHIMA(5人用)
利用規約:https://note.com/actors_off/n/n759c2c3b1f08
♂:♀=3:2
約2時間~約2時間30分
上演の際は作者名とリンクの記載をお願いします。
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浦島太郎の話を大幅リメイク。
ハリウッド映画風にしたら、どうなるだろう? なんて思って仕上げたシナリオです。
登場人物が多いので、兼任兼任で5人用。「台詞が少なくても良いよ」という場合は、役柄ごとにお楽しみください。
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【配役兼任表】
♂アイランド
♂タート・酔いどれのバルド爺・サム・悪ガキA
♀ジョゼ・カイト・キャシー・おもちゃ
♀オト
♂ロイド・ジャック・カーゴ・悪ガキB
【登場人物】
アイランド♂:海を愛する男。主人公。
セクシーな顔立ちで、勇気があり、心優しく、ハードボイルド(?)。
タート♂:亀の大男。 陸では口下手だが、海の中ではお調子者。 途中ラップ有。
ジャック♂:鮫の男。クールを装ってはいるが、切れたら手が付けられない、ギャングのボス的存在。
オト♀:海の底にある海をまとめる、絶世の美女なボス。
陸と海が共につながるのを夢見ている。
カイト♀:アイランドを竜宮城まで案内する役割を持つ「イカ」の女。冷静で真面目。
サム♂:(タートと兼任)
アイランドと腐れ縁の幼馴染。性格は悪い。
ロイド♂:(ジャックと兼任) アイランドと腐れ縁の幼馴染。性格は悪い。
キャシー♀:(カイトと兼任)
バーのママ。アイランドを心配している。密かな恋心(?)
酔いどれのバルド爺♂:(タートと兼任)
常に酔っている漁師の爺さん。
ジョゼおばさん♀:(カイトと兼任)
とにかくおばちゃん。
悪ガキA♂:(タートと兼任)
近所の悪ガキA
悪ガキB♂:(ジャックと兼任)
近所の悪ガキB
カーゴ♂:(ジャックと兼任) 竜宮城を守るカサゴの衛兵。
おもちゃ♀:(カイトと兼任) 昔アメリカで流行った「ジェニファー人形」。見た目が少し怖い。
若者♀:(キャシーと兼任)
20年後、救世主として立ち上がった青年。
マンキ♀:(オトと兼任)サル。
ギィ♂:(タートと兼任)頼りないキジ。
ドグ♂:(ジャックと兼任)ギィの面倒をよく見る犬。
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【URASHIMA ~前編】
(朝、入江に向かう道すがら)
アイランド:「よっバルド爺、今日も投網の練習かい?」
酔いどれのバルド爺:「ヒック……あぁ、最近は腰にきちまって、昔みたいに上手く行かねぇや。へっへっ……ヒック」
アイランド:「酒も練習も程々にな♪ お、ジョゼおばさん、ご機嫌麗しゅう」
ジョゼ:「『おばさん』なんて言うんじゃないよ! まだまだ現役さ。今晩なんて、どうだい? 色男」
アイランド:「ははっ今日は先約がいるって事にしとくよ♪」
ジョゼ:「つれないねぇ〜」
サム:「おぉアイランド! 今日もあの入江にゴミ拾いかい?」
アイランド:「ゴミ拾いはついでだ♪ 今日こそ『大物』を釣り上げて来て、皆の度肝(どきも)抜いてやる」
サム:「おぉおぉ威勢が良いなぁw 昔、釣り針に引っかかっていた子亀を助けたってヤツ、そろそろ馬鹿デカくなってんじゃねぇ〜か? 今度は逃がさねぇ〜で、俺に亀鍋を振舞ってくれよ!」
アイランド:「ははっ! あぁ分かってる♪ 楽しみに待ってな♪」
サム:「期待しねぇ〜で待ってるよ!! ──今日いつものBARで7時だぞ? 遅れるなよ! 」
アイランド:「あぁ分かってる。釣ったお魚ちゃん達を卸した後、合流する!! 壁一枚ぶち壊して、大物用の入口も確保しといてくれ!!」
サム:「ははっ! 魚釣りの後に可愛い子猫ちゃん釣りだ♪
細い竿じゃなく、ぶっとい竿の方も、ちゃんと手入れしとけよぉw」
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(入江にて)
アイランド:「(釣り糸を投げる) よっと……そこにいるのは分かってんだ、恥ずかしがらずに出てきな、大物ちゃん♪
(間)
……なんだ? こんなに波が静かだっていうのに、全然かからないなんて……海の雰囲気も少しおかしい……どういう事だ」
オト:「は、離しなさい……い、いや!」
悪ガキA:「お嬢さん、何処に行こうってんだい? ちょこっとだけ、俺達に付き合ってくれたら良いんだ♪」
悪ガキB:「あぁ〜こんな何もねぇトコで『女一人ってのは寂しいだろう』って事で、俺達が一緒に遊んでやるって言ってんだ♪ 親切心だよ、親切心♪」
アイランド:「ふぅ〜、やれやれ……」
オト:「い、いやです……は、離しなさい! 嫌だと言っているでしょ……」
悪ガキA:「つれね〜事言ってんじゃねぇ〜よ♪ なぁ?」
アイランド:「お嬢さん! 大変モテている所すまないが──助けは必要かい?」
オト:「──っ!?」
悪ガキB:「……んだテメェ? 釣り人がイキがってヒーロー気取りか? 怪我しない内に、おウチに帰ってママのおっぱいでも吸ってな!!」
オト:「み、見たら分かるでしょ? た、助けなさい」
アイランド:「おぉ気の強いお姫さんだw OKOK、大物を釣りに来たのに、雑魚が釣れちまったってのは、酒のアテにはユニークな冗談だ♪」
悪ガキA:「うるせぇ〜!」
悪ガキB:「魚の餌にしてやるよっ!!」
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悪ガキA:「くっ……ちくしょう!」
悪ガキB:「お、覚えてろよ!!」
(悪ガキが逃げる)
アイランド:「この辺りも物騒になったもんだ──で、大丈夫かい?」
オト:「え、えぇ……見た目に選らず、強いのね。でも、もう少し早く助けられたんじゃない?」
アイランド:「ヒーローってのは、少し遅れて現れるのがルールだろ? ピンチになる前に助けたんじゃあ、それは単なる『親切な男』ってなだけさ」
オト:「じゃあ私が気丈に振舞って、アナタに助けを求めなかったら、ヒーローは現れなかった?」
アイランド:「いや? ……男ってのは、女の悲鳴に敏感なもんさ。それが君みたいな美しいレディなら、なおさら」
オト:「あら、キザな事を言うのね。言い慣れてる感じだったけど、みんなに言って回ってるのかしら?」
アイランド:「はっは! 俺にだって選ぶ権利くらいある♪ 俺のハートを撃ち抜いた『お姫様にだけ』しか言わないよ♪」
オト:「ふふっそういう事にしといてあげる……じゃあ、今日はありがとっ♪」
アイランド:「お、おい……もう行っちゃうのかい? これからお礼も兼ねて、一杯くらい──」
オト:「私を、あなたみたいな人が行く様な、安酒を出すお店に連れて行くおつもり? お礼なら改めてするわ♪」
アイランド:「お、おい──俺は『アイランド』! せめて君の名前だけでも──」
オト:「ふふっまたね──『アイランド』♪」
(オトが立ち去る)
アイランド:「……あぁ……ふぅ〜やれやれ……今日は本当に釣れねぇ〜事ばかりだ」
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(いつものBARにて)
サム:「はっはっはっ! 魚1匹も釣れねぇ〜で、ナンパした女にも逃げられて? 全くのオケラw そりゃ〜どこのB級映画なんだw? アカデミー賞、総ナメだなオイw」
ロイド:「サム、そんなに言ってやるな……アイランドは、悪ガキ共から美女を救った (笑いを堪えながら) ククッ……ヒ、ヒーロー様……なんだぜ……クククッ……」
サム:「魚が釣れなくも、悪ガキ共を一本釣り! とんだ名釣り師だw それじゃ〜その美女は人魚様でしたってかw! 釣りよりも、すっかりゴミ拾いの方が板についちまってるじゃないかw アイランド、俺はお前に転職を進めるぜ♪ 『海の掃除屋さん』になw はっはっはっ!!」
アイランド:「おいおい、もうこれ以上いじめないでくれ……今日は何にも良い事が無かったんだ」
ロイド:「いやいや! 普段はお前に良い所ばっかり持って行かれてんだ、今日みたいな日くらい、情けねぇお前を酒の肴に……クク……『さかな』にw だぁ〜はっはっは!!」
キャシー:「──はいよ、ビールのお代わりだよ」
サム:「おっ、ありがとよw」
キャシー:「そろそろ勘弁しておやりよ。アイランドにも、そんな日くらいあるさ」
サム:「『そんな日』っていうのが滅多に無いから、ここぞとばかりに、からかってやらねぇといけないんだろ♪ なぁ?」
ロイド:「あぁそうだぜキャシー♪ この話題で俺たちは、しばらく遊ばせて頂かねぇと、割にあわない♪」
キャシー:「まったく……アイランドも、厄介なお友達とつるんでいるもんだよ」
アイランド:「お友達? サムとロイドとは単なるガキの頃からの腐れ縁だ。友達だなんて、そんな上品なもんじゃないよ」
ロイド:「あぁそうだそうだ♪ クラブにアイランドを連れて行きゃ、勝手に女達が釣れる。良い女を釣る為のエサってだけの関係さ♪」
キャシー:「はぁ〜酷い言われ様だねぇ〜まったく……アイランド、こんなクソみたいなお仲間とつるんでいるお前さんに、アタシから一杯奢らさせておくれ、バーボンにするかい? ウォッカにするかい?」
ロイド:「クソみたいとはひでぇなぁ〜、こんな事を言われたままで良いのか、クソなサム♪」
サム:「それじゃ俺だけがクソって事みたいじゃないか!! クソはお前の事だろ? クソなロイド」
ロイド・サム:「だっはっはっはっは!!」
アイランド:「ふぅ〜……キャシー、その一杯は、また次の時に貰うよ。今日はもう帰って寝る事にする……」
サム:「えっ!? ちょ、ちょっと待てよ!! これからクラブで可愛いベイビー達を釣りに行くんだ、お前が来ねぇ〜と、誰が釣り糸を垂らすんだよ!」
ロイド:「あ、あぁ、俺達2人の戦績知ってるだろ? こんなツイてねぇ日こそ、良い女と馬鹿みたいに遊んで騒いで、パァっと忘れるべきじゃねぇのか?」
アイランド:「すまないな……今日は魚も女も、全く釣れる気がしないんだ。2人で楽しんで来てくれ……」
(アイランドが店を出口へ)
ロイド:「アイランド! 本気で帰るのか!?」
サム:「お、おい待てよ! ……ファック……なんだよ……」
キャシー:「まぁ明日には、またいつものアイランドに戻ってるさ……おやすみ、アイランド」
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アイランド:「クソッ……なんなんだ今日の海は──あんな波が静かなのに、魚の気配が一切しない海は、今まで見た事なかった。それに──」
オトM:「もう少し早く助けられたんじゃない?」
オトM:「ふふっまたね──『アイランド』♪」
アイランド:「あぁぁ〜くそっ……
(物音が聞こえる)
──っ!? (小声) こんなボロ家に……強盗か? まったく……今日は何から何までついてない……
(扉がゆっくり開き、侵入者が入ってくる)
アイランド:「(背中に銃を突き付けて) アンタ……帰る家を間違えてるぜ?」
タート:「──っと……『アイランド』さんの家にお邪魔したつもりだったが……違ったかい?」
アイランド:「──っ!? デケェ〜なオイ……なんだお前は……どうして俺の名前を──」
タート:「──ボスが、アンタをお呼びだ。大人しく着いてきて貰いたい」
アイランド:「ボス? ギャングに狙われる様な謂れは──
あぁ……この間、クラブのカウンターでサムがナンパした女か……くぅ〜どれだけ香水を振っていても、女から香ってくる葉っぱの匂いは隠しきれてなかった……だからやめておけと言ったんだ……」
タート:「……」
アイランド:「──いや、それともクラブの入口で、ロイドがケツを触った女か? アイツは垂れてるケツに目が無いからなぁ〜」
タート:「今はそんな話を──」
アイランド:「──おぉっと、動くんじゃない。この状況、分かってるのかい? いくらお前がデカかろうと、お前の背中に突きつけてるのは拳銃だぜ? 指に少しばかり力を入れて、風通しの悪そうなその図体に空気穴を作ってやっても良いが、つい先日、白いカーペット新調したばかりなんだ。俺の事を少しでも思ってくれるなら、そのまま両手を上げて、扉の上の縁に気を付けて玄関へと向かえ……」
タート:「カーペットが赤く染る事は無い……」
アイランド:「良いから! 黙って俺の家から出ていけって言ってるんだ!!」
タート:「大人しく着いて来てくれたら、手荒な真似はしなくて済むんだ──」
アイランド:「それはこっちの台詞だ!! 大人しく俺の家から──」
タート:「アイランドさん、話を聞──」
(銃声)
アイランド:「(ため息) ……ほら動くなと言ったのに、言わんこっちゃない。まったく、どうして今日はこんな不運な事が立て続けに起こるんだ……またカーペットを買い替えなくちゃいけなくなっちまったじゃないか」
タート:「……その心配は無いと、言ったはずだ」
アイランド:「なっ!? どうしてお前──」
タート:「ふんっ!! (殴る)」
アイランド:「だっぶぅ!! ……あぁ〜…… (気を失う)」
タート:「結局こうなっちまうか……まぁこっちの方が、静かで助かる。おっと……カーペットにアイランドの鼻血が垂れちまった。やれやれ……」
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アイランド:「……んっ……んん〜ぁ──っ!? ベッド……ここは? ──痛っ……くぅぅ〜あの野郎、思いきり俺の顔を殴りやがって……痛っつぅ〜」
カイト:「おっ? アイランドさん、お気付きになられましたか?」
アイランド:「──っ!? (素早くカイトの後ろに回り込み押え込む) 誰だっ! ここはどこだ!! 俺に何をしたっ答えろ! 答えないと、このまま首をへし折る!!」
カイト:「おっとととぉ〜元気になられた事は喜ばしい事ですが── (ヌルりと抜け出す)」
アイランド:「なっ!?」
カイト:「暴力はイカがなモノかと♪」
アイランド:「ど、どういう事だ……な、何なんだお前は……今、完全に極まっていたはず……」
カイト:「起きたのであれば、とりあえず、その……前のイソギンチャクをお隠しになっては……イカがで?」
アイランド:「──っ!?」
カイト:「ゲッゲッゲッw! お洋服が濡れていたので、剥ぎ取らさせてイカがきましたw 風邪を引かれては、怒られてしまいますので」
アイランド:「怒られる……? 誰に──」
カイト:「お洋服はこちらをお使い下さい。お着替えが終わりましたら、ボスの所でご案内イカします。私は扉の前でお待ちしておりますので……」
(扉から出ていく)
アイランド:「なんなんだ……いったい」
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(アイランドが出て来る)
カイト:「──お着替えが終わりましたか♪ ん〜♪ とってもお似合いでございます」
アイランド:「あぁ……それで、これは一体どういう事なんだ」
カイト:「えぇえぇ、それはもうとても混乱してらっしゃる事でしょう。ちゃんと説明イカしますよ。ゲッゲッゲw しかしながら……口で説明してもご理解イカだけないと思いますので、ボスの所までの道すがら、アイランドさんご自身の目で見て、ご理解してイカだけた方がよろしイカと──少なくとも我々に敵意はございませんので、よろしくお願いイカします」
アイランド:「あ、あぁ……」
カイト:「どうぞ、こちらです。
えぇ〜まずは私の自己紹介から、失礼イカします。私、アイランドさんをボスの所へご案内する役目を仰せつかりました、イカの『カイト』と申します。そしてここはアイランドさんの住む陸とは、全く違う……陸から遠く離れた海の底……そこに住む海の者が生み出し、陸とは全く異なった文明が繁栄した、海に住む者達の世界──」
アイランド:「ちょっ、ちょっと待て。何の話をしているんだ? 『イカ』? 『魚』?『海底』? 俺はそんな、お前の今書いている『ファンタジー小説』の話を聞きたい訳じゃなく、ここが一体どこで、何なのかってのを──」
カイト:「──えぇえぇ、心中お察しイカします。やはり口で説明しても、そうご理解イカだけないのは分かっておりました──百聞は一見にしかず……この大扉の向こうに、アイランドさんの求める答えのおひとつが、ございます」
(大扉の前に着く)
アイランド:「デカい……扉?」
カイト:「えぇ、ここまでが陸からの来客用の通路でございましたから──ここからが、私共『海の者』の世界でございます。では──開門」
(ゆっくり扉が開く)
アイランド:「──来客用って言っても、俺はいきなりデカいヤツに殴られて、気を失っている間に無理矢理ここに連れ……て……来ら……うわぁ〜ぉ……」
(眼前に広がる海底の都市。煌びやかな街で生活する魚達)
アイランド:「なんてこった……これは、その……なんて言うか……言葉が出てこないね……」
カイト:「ようこそ、我々海の者達の暮らす海底都市──『アトランティス』へ」
アイランド:「アトラン……ティス」
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アイランド:「こ、ここは本当に海の底なのか? こんな街があって──
そ、そうだ! それに俺は呼吸が出来ている! 海の中で息が出来るなんて、人間が出来る訳がない!」
カイト:「ゲッゲッゲw ごもっともでございます。しかし、魚もエラで呼吸をしております。陸で生きる人間と同じで酸素が必要……『アトランティス』の中では、その両方が生存出来る様に濃度を調整されております。ですから陸の者が、このアトランティスからひとかきでも外に出ようモノなら……ブクブクブクブクゥ〜っと──」
アイランド:「溺れ死ぬ……」
カイト:「はい♪ まぁアイランドさんはボスの大切なお客様でござイカすから、その様な事をご心配される事はありませんので、お気になさらずにゲッゲッゲw」
タート:「──よぉ〜ブラザー (アイランドに飛びつく) 目が覚めたのか!!」
アイランド:「──どわっ!? お前は──」
タート:「──ハッハァ♪ 俺が軽く小突いただけでおネンネしちまって、ボスから聞いていた話とあまりにも違うから、どういう事かと心配してたんだぜぇ? ただ単に眠かっただけなんだな♪ 見かけに寄らねぇ可愛い寝顔に、思わずキスしちまいそうになっちまったぜw 俺が殴った時の傷はどうたい? ん〜〜問題無しっ、顔にアザも残ってねぇ〜し、色男の完全復活だ! だからボスにはこの事はくれぐれも内密に頼むぜブラザー♪」
アイランド:「何が小突いただけだ! 丸太みてぇなその太い腕で、思いっ切り俺の顔をぶん殴りやがって! テメェのケツの穴に、テメェよりデカい丸太をぶち込んでやる!」
タート:「(肩を組みながら) はっはっ勘弁してくれ♪ 俺にはそんなハードな趣味は無いぜ」
アイランド:「俺に触れるなっクソッタレ」
カイト:「タートさん、ボスのお客様になんて失礼な態度を……ただでさえ、無理矢理殴り倒して連れて来てしまったというだけでも……ボスに知れたら、どんなお仕置をされるか」
タート:「そんな事言ったって、コイツは俺に鉛の玉をぶちかまして来たんだ。撃たれたのが背中じゃなけりゃ、今頃俺はお陀仏。陸の藻屑となってたって訳だ♪ なぁ?」
アイランド:「あぁそうだ、俺はお前に銃を一発お見舞いしてやった! それなのに、どうしてそんな平然と……」
タート:「あれ、迎えに行った時に言ってなかったか? 言ったはずだぁ! 言ったよな? えっ言ってない?」
カイト:「(ため息)タートさん、ボスが仰ってイカでしょう? 海と陸では常識が違うから、まずは自分の身分を──」
タート:「──まぁまぁまぁまぁw 遅れちまっても、名乗りゃ〜万事OKだ♪ 気にする程の事じゃない♪ 気にし過ぎると、また吸盤の数が増えちまうぞ♪」
カイト:「まったく……」
タート:「(咳払い) ──俺の名前は『タート』だ♪ 気軽に『タート様』とでも呼んでくれて構わねぇ♪」
カイト:「まったく、どこまでもいいかげんなんですから……アイランドさん、本当にすいません。こちらは『亀』の『タート』さんです。アイランドさんに事情を説明して、『丁重』にアトランティスにご招待する役目……のはずでした」
アイランド:「亀……」
タート:「あぁ! 俺は亀のタートだ♪
『(ラップ) yoyoyo♪ でっかい甲羅で弾丸シールド♪ クールなソウルで守るぜフィールド♪ 一度肩組みゃ皆がフレンド♪ 距離もハートもタイトなタート♪ イェ〜♪』
見てくれよブラザーw ブラザーの弾丸が甲羅の隙間にハマっちまって、取れやしないw あんな熱い夜は初めてだ♪ ハッハッハッ!!」
アイランド:「……あ〜その、なんだ……家に上がり込んで来た時と、雰囲気がまったく違ってないか?」
カイト:「えぇそれはたぶん……海と陸とでは、環境が全く違いますので……それが原因ではなイカと……」
アイランド:「なるほど……そりゃあ『海の中向き』の性格だな……」
タート:「──さぁ〜楽しい愉快なお話はここまで。到着だ♪ ここが 『アトランティスの中心』──そして、俺達『海に生きる者達』のボスの住む城──」
カイト:「『竜宮城』でございます」
アイランド:「はぁ〜……なんだかベレー帽って言うのとは違う……その、丸くて趣きのある……感じの、城……何でも有りだな……ここまで来ちまったら、もう何も驚かねぇ〜よ。何でも良い……お前達のボスってヤツの所に、早く案内してくれ」
カイト:「はい。では──」
タート:「(扉を叩きながら) お〜いっ開けろぉ〜!! アイランドさんを連れて来てやったぞぉ〜!! ほら開けろぉ!!」
カイト:「……はぁ〜」
アイランド:「心中、察するよ……」
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(竜宮城内 廊下)
アイランド:「あぁ〜その、なんて言うか……上手く表現は出来ないが……ん〜色んな国の旨い食材だけをグチャグチャに混ぜ合わせて重ねた、ハンバーガーみたいな内装……だな」
カイト:「そうなんですか? 陸の方がそう言うのであれば、それはきっと、陸から海流に乗って流れて来た物を使用しているからでは、なイカと思われます」
アイランド:「そ、そうか……ん〜うん、イカしてるよ……歩いてるだけで船酔いしてる気分だ」
カイト:「先々代の王『トリトン様』の時は、このアトランティスを『アトランティカ』と呼んでおりまして、王の代が変わる毎に、城も新しい物へと作り替えられていきます。
その時の城の名前が……えっとぉ〜……『キン……キング……』えぇ、何だったか忘れてしまいましたw
先々代から先代、そして今のボスと王が代替わりし、街の名前も『アトランティス』、ボスが住む城を『竜宮城』と、変わっていきました。アトランティスとなってから『工業区域』『商業区域』『住宅区域』などなど、区域を8つに区分され、それによって我々の生活も──」
タート:「──そんな小難しい話なんてどうでも良いじゃないか♪ どうしてお前はそんな堅っ苦しい話ばかり♪『陸の者』が、この竜宮城に来た──今はそれだけで、すげぇ〜事じゃないか!」
カイト:「タートさん……『亀』は私の様な『イカ』よりも長生き何ですから、本来あなたがこの海の歴史の語り部となって伝えてイカなくてはいけないと言うのに……なんですか、その体たらく──」
タート:「──どれだけ長生きしていても、こんな事は初めてなんだ♪ 王がトリトンだった時に、陸のどこかの国の王子と結婚した『海の姫さん』がいたが──」
アイランド:「──人間と魚が結婚したのか!?」
タート:「あぁそうさ♪ しかし、それでもその王子はアトランティカには訪れはしなかった……
けれども、俺は思ったね! 『これから海は変わる』『陸の者と海の者の共存する時代がすぐそこまで来ている』と感じたんだ──それが遂に現実になっちまったんだ! こんな嬉しい事は無いねぇ♪ ハッハッハ!!
──おっと、いつもは来るのも面倒になるくらいの遠い道のりだが、客人がいると、アッという間だな──」
カイト:「こちらが、ボスのいる大広間でございます」
タート:「ブラザー、お前さんが陸からの『客人』だと言っても、ボスの前では無礼の無い様に頼むぜ」
アイランド:「俺に『とんだご無礼を働いた』アンタに言われてもなぁ」
オト:「どの様な無礼を?」
アイランド:「そりゃ〜いきなり家に上がり込んで来るわ、顔面を思いっきり殴られるわ、それで『招かれた客人』って言われて……も──っ!?」
タート:「ブ、ブラザー、そ、それは言わねぇ〜って約束……あぁ〜なんてこった……」
カイト:「あっちゃ〜……」
オト:「タート……何か言う事は、ありますか?」
タート:「ボス……あぁ〜……っとその……あ、アレ、アレだ! あぁ〜のぉ〜……いや……」
オト:「タート?」
タート:「──あっ!? 今日は甲羅を磨く予約を入れていたのを、すっかり忘れちまっていた!! ブラザー! すまねぇ〜が俺はこの辺で──」
オト:「タート!!」
タート:「──いっ!?」
オト:「ふぅ〜……どんな形であれ、アイランドさんをここまで連れて来てくれて、ご苦労でした。カイトも、ご苦労様です」
タート:「っ! ……あ、あぁ……は、い……」
カイト:「いえいえ」
アイランド:「き、君は……昨日の──」
オト:「アイランド……昨日は粗暴な人間から助けてくれて、ありがとう。私がこの『アトランティス』『竜宮城』のボス……『オト』です。
タートに変わって今回の無礼、深くお詫び致します」
タート:「ボスがそんな頭を……あぁ〜……その……」
オト:「タート……アイランドさんに謝りなさい」
タート:「あ……あぁ……す、すまなかった……」
アイランド:「い、いや、そんな改まって言われると……俺もアンタの背中に銃弾をぶち込んでしまってる訳だし、なんて言うか……オアイコって事で──」
タート:「オアイコ♪ OK、今回の事はオアイコ様って奴だ! ブラザーは俺を撃った、そして俺はブラザーを殴った♪ そう全てはオアイコ様だ♪ そりゃ〜良い!! 最高だぜハッハッ!! そういう事だボス♪ 許し合えるってのはフレンドの証(あかし)みてぇ〜なもんだろ? 俺とブラザーは、もう親友って事だ♪ ハッハッハァ〜!!」
オト:「はぁ〜……」
カイト:「やれやれ……」
アイランド:「な、なんなんだコイツは──」
タート:「俺は『タート』だ♪ ブラザーの親友のぉ〜っ『タート』だぁ〜♪ (以降の台詞に続けて)」
カイト:「……ボス……恐れながら──」
タート:「『(ラップ) Yeah Come on! ソウルなフレンド、ベストにヘッドオン、アイランドと、肩組みプレー♪』(以降の台詞に続けて)」
オト:「えぇ……許可します」
アイランド:「えっ……な、何をするんだ?」
カイト:「では……失礼して……よっ (タートの口に巻き付く)」
タート:「『(ラップ) 海と陸との ビッグなライム、タイプを乗り越え、今すぐダイ──ッブ』」
アイランド:「うぉっ……おぉ〜……」
タート:「ん〜〜!!! んん!!」
アイランド:「日常茶飯事なのかい?」
オト:「(咳払い) えぇ、ごめんなさい……悪い亀ではないの」
アイランド:「あぁ、それは何となく理解した。
それで『どうして君がココに』──っていう質問は違うか。君はここのボスなんだな。それで君を助けた俺を、この竜宮城に呼び寄せた──あぁそうだ──『どうして俺をここに』?」
オト:「『お礼は改めてする』と言ったと思ったけど?」
アイランド:「あ、あぁ……確かに言っていた。しかしまさか『こんな所』に呼び出されるなんて──」
オト:「『こんな所』?」
アイランド:「──あぁいや違う! そういう意味じゃなくて、俺が『こんな所』と言ったのは『海の底』という事で、この『抽象的』で『個性的』で……その『イカしてる』城を馬鹿にした訳じゃなくて──あぁ、俺は何を言ってるんだ……その、つまり…… (咳払い) 君に会えるなら、もう少しマシな格好で来たかった」
オト:「ふふっ問題無いわ。深海は本来、光が届かない場所……ファッションなんて、気にする魚なんていない」
アイランド:「光が届かない場所でも、このアトランティスは光り輝いている。君の美しさが、周りを照らしているんだね」
オト:「ふふっありがとう。本当にお上手なのね、女性を口説くのが」
アイランド:「ははっ! 言っただろ──俺のハートを撃ち抜いた『お姫様』にだけさ……本当にお姫様だった事には驚いたがw」
カーゴ:「(咳払い) ──あのぉ〜お取り込み中、失礼致スます……」
アイランド:「──っ!? と……」
カーゴ:「アイランド様へのお礼のお食事ダスが……『我々のボスを助けてくれたお礼をスたい』と、8区域をまとめております皆様が、ご一緒に参列スたいと仰っておりまスて──」
アイランド:「おいおい……そんな大事になってるのかい?」
タート:「──っぶはっ!! (カイトを振り払う) そりゃそうだぜブラザー♪
この海をまとめる王! ボスを助けたんだ♪ ブラザーは今やこの『海の英雄』『ヒーロー』!! ブラザーと食卓を囲みたいって奴は、この海の全てのサンゴの数以上にいる!!
偉い奴らだけじゃない。産卵前のセクシーな小魚ちゃん達も、ブラザーの話題で持ち切りさぁ♪」
アイランド:「おいおい……海底にこんなラスベガスの様な煌びやかな街があって……その街を治めているだけって訳じゃないのかい?」
カイト:「はい。陸は大きな大陸によって分断されておりますよね? それに対し、海は全ての海が繋がっております……それぞれの海をまとめる者達はおりますが、それだけでは『領土争い』などの戦争を産んでしまう──」
タート:「だから、それをまとめる者──つまりは『ボス』が必要なんだ♪ そのボスを、ブラザーが助けたって事だ♪」
オト:「えぇ……そういう事です」
アイランド:「俺は夢でも見ているのか? まったくもって理解が追いつかない。俺が『海の英雄』? それで、その『全ての海を束ねているボス』ってのが、こんな美人で──
なんてこった。これがもし夢だってんなら、きっと寝る前に安酒を一気に飲んじまったからだ……あぁ〜ちょいと俺の頬を殴ってくれないか?」
タート:「ん? 良いのかいブラザー」
アイランド:「あぁ……良い夢ってのは、長く続き過ぎると、現実に帰るのが面倒になって嫌んなって、最終的にやる気を失っちまう……」
タート:「ほぉ〜そういうモノかい……OK俺に任しとけ♪ しっかりと歯を食いしばるん──」
アイランド:「──待て待て待て待て!! アンタはダメだ、アンタじゃない! えぇ〜っと……そ、そうだな──そ、そこのさっきのアンタっ!」
カーゴ:「──ぬぇっ!? オイラダス?」
アイランド:「あぁ、髪型が80年代パンクな雰囲気でかなりイカしてるアンタが良い! 体も小柄で実に丁度良い! アンタに頼む。アンタ、名前はなんてんだ?」
カーゴ:「へ、へぇ……『カーゴ』と申スます……でもアイランド様……オイラは──」
カイト:「えぇ、この様な事はおやめになった方が──」
アイランド:「俺がアンタ──『カーゴが良い』って言ったんだ。力加減は程々に頼む。ほら、パシッと1発、俺を夢から覚まさせてくれ、さぁ!」
カーゴ:「じゃ、じゃあ……失礼致スまス──ほいっ! (叩く)」
アイランド:「どぉっほっ──そうそう、馬鹿力じゃない、その微妙な力加減が……逆に……アレ? ……気持ちが……良……く(気絶)」
カイト・オト(同時に):「あぁ〜……」
タート:「ダァ〜ッハッハッハ!!」
カーゴ:「オイラのヒレには、微力の毒がありまスです……」
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ジャック:「ん〜? そうか……陸の者が、とうとうアトランティスに招かれて来ちまった、か……。フフ……フフフフッ……ハッハッハッハッ!! はぁ〜ぁ……ふぅ〜……潮は満ちた──お前達、パーティの準備をしろ」
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(オトの寝室にて)
アイランド:「う……ん……んん〜……あ? こ、ここは……?」
オト:「おはよう、アイランド。目覚めはどう?」
アイランド:「っ!? あ、あぁ……海底の夢の次は天国かい? 起きたら女神に見つめられているなんてね……キスで目覚めたんじゃないのが、ほんの少しだけ残念だ」
オト:「まだあなたは生きてるわ……あなたに死なれちゃ、私が困るもの」
アイランド:「困る? それは俺が英雄だから?」
オト:「いいえ……アイランドだから」
(見つめ合う2人)
アイランド:「……」
オト:「……」
アイランド:「──あぁそういえば!! 食事ってのは、どうなったんだ? 俺が気を失ってしまったから、その偉いさん達ってのは──」
オト:「ふふっ……大丈夫よ。また別の時にすれば良いだけの話だもの、心配しないで」
アイランド:「そ、そうかい。みんなには悪い事をしてしまった」
オト:「……優しいのね」
アイランド:「いや、そんな事は……あ〜……その、ボスは──」
オト:「『オト』で良いわ」
アイランド:「あぁ、オトはその──どうして陸にいたんだ? わざわざ海の王が陸に上がって来るなんて、余程な事が無い限り、ありえない話だろう」
オト:「……」
アイランド:「いや、でもまぁそのお陰で君と──オトと出会えた訳だから、それは俺としては、ラッキーと言うか何と言うか──」
オト:「──夢、なの……」
アイランド:「……え?」
オト:「小さい頃から聞いていた『人魚伝説』……
人魚が人間の王子と出会い、恋に落ちる話。魔女との契約で人魚は声を失う代わりに足を得て、人間の元へ……
『2人の想いが重なる事』。それが声を取り戻す唯一の方法。
いくつもの試練を乗り越えて……そして人魚と人間は結ばれた」
アイランド:「あぁ……」
オト:「魔女の呪いによって、足を手に入れる事が出来たけど……これは海の中で普通に暮らしてる魚達には不可能な事なの。他の方法は、王だけが持つ『王冠』と『矛』の魔法だけ……」
アイランド:「人間に……なりたかったのかい?」
オト:「いいえ、そうじゃない! 陸への憧れじゃなく……『海の者』と『陸の者』が共に暮らす事の出来る世界への憧れ。
王になれば、それが叶う。王になれば『海と陸』の架け橋になれる!
だから私は──王になった」
アイランド:「『陸と海の架け橋』……そいつは、壮大な夢だな」
オト:「でも、夢じゃなくなった……アイランド、あなたと出会えた事で『夢』じゃなく、ハッキリとした『目標』に変わった」
アイランド:「ハハッ……あぁ〜そうか……そうかいw オトは俺じゃなく、陸の上を生きる『人間』を見ていたんだな……俺じゃなくても良かった……人間ならそれで良かったんだ──」
オト:「ち、違う! そうじゃない!!」
アイランド:「何が違うって言うんだ! 俺は単なる釣り人で、その物語に出てくる様な王子でも、高い地位を持った何者でもない!! 陸と海との橋渡しに俺は必要ない!!」
オト:「そんな地位なんて関係無い!! 陸であなたに出会った──あなたは誰かも分からない私を助けてくれた……そして、私が王であると分かっても、謙る訳じゃなく、一人の女として……接してくれた……それがどれほど嬉しい事か分かる!? 私のこの地位を欲しがる者は沢山いる!! 私に言い寄って来るのは、全て王冠と矛の為!! あなたは──アイランドは……違った……」
アイランド:「っ!? す、すまなかった……その……あぁ……すまなかった……」
オト:「……ん〜ん、良いの……そう思われても仕方ないもの……でも、あなたへの想いは本物よ。アイランド、愛してるわ……」
アイランド:「あぁ俺も愛してる……オト (抱き締める)。
……でも、その王冠と矛をオトが持っているにしても、そんな『陸の者と海の者』との共存ってのは、可能なのかい?」
オト:「もちろんそれだけじゃ無理。このアトランティスの範囲くらいしか力は及ばないわ。でもね──アイランドこっちへ着いて来て」
アイランド:「えっ……あぁ」
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(隣部屋、宝物庫へ)
アイランド:「──っ!? なんだいこりゃ……」
オト:「ふふっ私の宝物達♪ ほらアイランド、この銀のブラシなんて素敵じゃない? 柄の部分に花の模様があしらってあるの♪」
アイランド:「あ、あぁ〜、ブラシ……ね……ハハッ (乾いた笑)」
オト:「20本もあるのよ♪ あぁあとコレとかも、とても綺麗……何に使うのか、私には分からないけれど……」
アイランド:「あ、あぁ……今度教えるよ」
オト:「えぇ (宝物庫の奥へ進む) ……海流に乗って流れて来た物、先代から受け継いだ物、ここにはそういう宝物が保存してあるの……その中には──」
アイランド:「このおもちゃは──」
おもちゃ:「私ジェニファー♪ 何して遊ぶ♪?」
アイランド:「おぉっ!?」
オト:「呪われた置物とかもあるから、気を付けて。害はないけど♪」
アイランド:「まだ動くのかw」
オト:「こっちに来て、これを見て……」
アイランド:「あぁ……ん? なんだい、この『箱』は」
オト:「これが──『アトランティス』よ」
アイランド:「あぁ〜……あ? ん~悪いが少し意味が分からない。もう少し分かりやすく説明してもらえないか?」
オト:「えぇそうね──この箱は『玉手箱』といって、海の者達が生きて行ける環境を作り出してくれている『魔法の箱』。『王冠』と『矛』……そしてこの『玉手箱』を持つ事が、海を統べる王の証になるの」
アイランド:「なるほど……この『箱』のお陰で、人間である俺も、このアトランティスで普通に息が出来ているって訳か……」
オト:「えぇ、その通りよ」
アイランド:「あぁ〜なんとなく理解した、が──どうしてこんな大切な物を俺に? 俺が盗むとか考えなかったのかい?」
オト:「ふふっ、これをあなたに渡したかったから、盗むんだったら、それはそれで結構よ」
アイランド:「──っ!? おいおい冗談だろw こんな仰々しいお宝、俺の手には余るw
それに、これが無くなったら、アトランティスはどうなっちまうんだw」
オト:「この『玉手箱』は、2つで1つなの。ここにある方は、機能していない、もう1つの玉手箱。そして、このアトランティスを作っている玉手箱は、王座の裏に隠してあるわ──」
アイランド:「驚かすなよ……それで、このもう1つの方の『玉手箱』を俺に……それはどうして?」
オト:「……これを陸に持ち帰って、フタを開けて欲しい」
アイランド:「……」
オト:「2つの玉手箱は繋がっている。今は『アトランティス』を作っている片方のフタしか開いていないけど、2つの箱が開いた時、その効果は全部の海を覆ってくれる──だけど、それじゃあなんの意味もない」
アイランド:「『陸と海の橋渡し』……か」
オト:「そう……陸で玉手箱を開く事で、『海の者は陸』を、『陸の者は海』を、自由に行き来する事が出来る。私も、陸の者であるあなたと──アイランドと一緒に、ずっと歩く事が出来る……」
アイランド:「なるほど……それだったら、君があの時──そう、俺と出会った時の様に陸に上がって、箱を開いたら良かったんじゃないのか?」
オト:「ん〜ん……それは、無理よ」
アイランド:「どうして?」
オト:「いくら王冠と矛を持っていても、魔法の力には限界がある。陸の奥深くまで行かないと、力にムラが出来てしまう。それじゃあダメなの……本当の『海と陸の共存』とは言えない。
私には、浜辺を歩く程度しか出来ないの」
アイランド:「だから君はあの時、誘いを断ったのか……なるほど。そこで俺が陸に帰り、街まで行って──『玉手箱』のフタを開く」
オト:「えぇ、そういう事。──でも安心して! 2つの玉手箱は繋がっている! フタを開けたら、玉手箱を通って、すぐにこちらに戻って来る事が出来る! そうしたら、もう『海と陸』の壁なんて消えて、ずっと……ずっとずっとあなたと一緒にいられるの!!」
アイランド:「……」
オト:「アイランド……あなたを愛してるの」
アイランド:「あぁ、分かってる……ただ、まだ頭がついて行っていないだけだ。分かってる……俺もオトを愛してる……」
カイト:「(遠くから探してる感じ) ボス! ボス!! どちらにいらっしゃいますかぁ! ボス!!」
アイランド:「──っ!? (部屋から出る) カイト、どうしたんだ、そんなに血相を変えて──」
カイト:「あぁアイランドさん! ──ボス、こちらにいらっしゃったんですか!?」
オト:「何かあったのですか?」
カイト:「た、たたた大変でございます!! ジャックが──」
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【URASHIMA ~後編~】
(大広間にて) (コーヒーを飲みながら待つジャック)
ジャック:「ん〜、やはりコーヒーはこうじゃなくては、ダメだ。普段俺の飲んでいるコーヒーとは、まるで深さが違う。あぁ……旨いコーヒーを飲むと、アトランティスに帰って来たと実感出来る」
オト:「……ジャック……」
ジャック:「──ん? おぉ、ご機嫌麗しゅう。相変わらずの美しさ……痛み入(い)る」
オト:「……」
ジャック:「旨いコーヒーに、最高の美女……アトランティスで暮らしている奴らは、俺の持っていない物を尽く持っている。何から何まで幸せ者だ……実に羨ましい限りだ」
オト:「そんな事を言いに来た訳ではないでしょう……何の用です」
ジャック:「『何の用』とはご挨拶だな。遠くの海から、わざわざアトランティスまでヒレを運んだ俺に対して、かける言葉はそれか?」
オト:「あなたを招いたつもりはないわ」
ジャック:「冷たいねぇ……あぁ、要件なら3つある。1つは──俺の女になれ」
オト:「ふっ……何を馬鹿な──」
ジャック:「(オトに近づきながら) お前は美しい……この世の何よりも。そして頭もキレる。俺の女に相応しい……俺の女にこそ相応しい! お前を使えるのは、俺だけだ……俺とお前が一緒になれば、それこそ、この海で恐れるモノは何も無い……な? 良い誘いだと思わないか? (肩を抱き) プリンセ──ぐっ……」
オト:「(振り払い矛を向ける) 身分をわきまえなさい!」
ジャック:「ぐっ……あぁ……悪かった……単なる冗談、だ……もう言わ、ない……」
オト:「……っ (矛を下げる)」
ジャック:「っはぁ〜……はぁ……はぁ……ククッそれか矛の力か……良いねぇ。それも欲しい。それも欲しいが……今俺の欲しいのは、それじゃない。俺が今欲しいのは──王の持つ『玉手箱』」
オト:「──っ!?」
ジャック:「おっとぉ、隠しても無駄だぜ? 俺はその存在を知っている。矛と王冠で、その存在の有無をカモフラージュしてはいるが、王の本当の証(あかし)は、その『玉手箱』にある。お前の力だけじゃ、このアトランティスは広過ぎて、手に余っているんじゃないか? 俺が、この海をより良い方向で維持してやろうと言ってるんだ。
別に『お前の王位を奪おう』と言っている訳じゃない。お前が俺の妃になり、共にこの海を統べれば良い」
オト:「帰って……」
ジャック:「──聞いているぜ? 『海の者と陸の者が共に過ごせる世界を目指している』だったか? ──ククッ笑わせてくれるw そんな事が現実に出来る訳が無い。そんな夢物語よりも、海の支配を絶対的なモノにするんだ。クソくだらない陸の者も、介入出来ない程の絶対的な王国に──」
オト:「──帰りなさい!! あなたはこのアトランティスを追放した身です! ここはあなたがいて良い場所じゃない!! 今すぐ──」
ジャック:「──まだだ! まだ3つ目が残っている……俺はそれを目的に来たんだ」
オト:「っ!?」
ジャック:「陸の者──人間がアトランティスに来ていると聞いた。そいつに挨拶をと伺った。その人間──アイランドって奴は、どこだ?」
オト:「──っ!? それは──」
アイランド:「呼んだかい?」
オト:「出て来てはダメ!」
アイランド:「おぉっとすまない、手遅れだ♪ 名前を呼ばれたとあっては、顔を出さない訳にはいかないだろう……それも、俺を目的に来てくれた、熱狂的なファンからのご指名だ」
ジャック:「お前がアイランドか」
アイランド:「ん? あぁ、初めまして。えぇ〜っと、その背ビレを見る限り……君はイルカかな? ん〜キュートで実に良い。俺は週末、近くの水族館に通って、イルカのショーを見るのを日課にしているくらい、イルカが大好きでね」
ジャック:「俺はサメだ……」
アイランド:「トレーナーの指示通りに飛んだり跳ねたり、客に愛想を振りまくのを見ていると、実にワクワクさせてくれる。最前列で見ているからか、いつも帰る頃にはもうビショビショで、翌日には風邪を──」
ジャック:「──俺はサメだ!! イルカごときと一緒にするな!!」
アイランド:「おや、そうだったのか。そいつは失礼した。ペチャクチャと、下らない演説がとても上手かったから、てっきり芸達者なイルカかと思ってしまった」
オト:「アイランド……ジャックを挑発しないで……」
ジャック:「……ここで簡単に食い殺してやっても構わないが……それじゃあ面白くない。お前の手足を食いちぎり、意識を残した状態で、ゆっくり貪り食ってやる」
アイランド:「おぉ〜そいつは恐い。じゃ〜俺はお前の皮を剥いで、鮫皮の財布にでもしようか。何個分の財布が出来るかな」
ジャック:「──そう……これが人間だ」
オト:「……」
ジャック:「人間は俺達の海に土足で飛び込み、私利私欲の為に、我が物顔で海の物を狩り、奪い取っていく……
陸よりも下にあるからと言って、自分達のゴミを撒き散らし、汚れた水を海へ垂れ流し、俺達の海を汚していく──それがお前達人間だ!!
お前達人間の捨てたゴミによって、どれほどの海の仲間達が死んでいったか!!
見た事があるか? 考えた事があるか? 人間の捨てたゴミを飲み込み、もがき苦しみ『まだ生きたい』と泣きながら、朽ち果てていく魚達を!!
……アイランド、お前は本当に……海の英雄なのか?」
アイランド:「(歯を食いしばり、うつむく) 人間には、確かにそういう奴らもいる……返す言葉もない……」
オト:「──だから……だから私は、海と陸の壁を無くしたい」
ジャック:「……?」
オト:「自分の暮らす場所だったら、簡単に汚したりしないでしょ? 美しい海と……そして、美しい陸……自由に行き来し、共に住める様になれば、人間も海にゴミを捨てたりしない。海を汚したりしない。全てが美しいままで──これまで以上の生活が出来るはず」
ジャック:「甘いな……甘過ぎる。じゃあなんだ? 今までに死んでいった仲間達はどうなる? 何も無かった様に、当たり前の様に陸の者と仲良しこよしで、ヒレと手を繋いで生活していくのかい? そんなんじゃあ、死んでいったそいつらの気持ちは、深い海底に沈んだまま、けっして浮かばれない。
それに人間が、海と陸の両方を自由に動ける様になったら、手先の器用な人間の事だ、きっと海に罠を張り、俺達海の者を一網打尽にして、海をも支配しようと考える……そうなったら、もう地獄だ……救い用がない」
タート:「アイランドさんは、そんな事はしない」
ジャック:「……? どうした、珍しいじゃないか……いつもなら甲羅に閉じこもってビクビク怯えているだけのお前が、俺に口答えするなんて……」
タート:「少なくともブラザーは、そんな事はしない。海と共に生きる……生きようとするはずだ」
アイランド:「タート……」
ジャック:「はぁ〜……今大切な話をしている最中なんだ。臆病者のタートは、少し黙っていろ」
タート:「──黙るのはアンタだ!! ブラザーの事を何も知りもしねぇ〜で、偉そうな事をくっちゃべってんじゃない!!」
ジャック:「……」
タート:「陸の者に怯えて、こそこそと海の中だけで生きようとしている、アンタの方が臆病者だ!!」
ジャック:「ふぅ……タート、俺は優しい。澄んだ海が大好きな、穏やかな性格をしている。争いも好まない。
……だから、お前が俺に噛み付いて来るのは、百歩譲って、許してやる……ここでオトの側近であるお前に喰らいついたら、今度はこの『アトランティスからの追放』だけじゃすまなくなって、海の者全てと戦争が始まってしまう。それは俺としても実に好ましくない──しかし……『人間に』って言うのであれば、話は別だ。それは『海と陸』の話になるからな。それをされて困るのは、ここに居る『オト』と、そして『エサ』のアイランドだけだ。
……それで──誰が臆病者だと? もう一度……一文字ずつ……丁寧に……気を付けて言ってみろ」
タート:「……っ」
ジャック:「ほら、言ってみろよタート……さっき、お前は誰を臆病者だと言った──」
タート:「……」
アイランド:「アンタを臆病者だと言ったんじゃないのか? ジャック」
ジャック:「(アイランドに襲いかかる) ──っ!!」
タート:「(ジャックを抑える) ブラザー!!」
ジャック:「アイランド貴様喰らい殺してやる!! 楽には殺さねぇ!! 生きたまま内臓を喰らってやる!!」
タート:「ブラザー!! 早く逃げろ!」
オト:「アイランド!! こっちに!!」
アイランド:「お、おぉ!」
ジャック:「──待てっ!! 地を這うしか脳の無い薄汚ぇ人間がぁ!! 絶対にっ絶対に許さねぇ!!
離せ亀野郎が!! 逃げるなアイランド!!」
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(オトの部屋)
オト:「はぁ……はぁ……どうしてあんな無茶を……」
アイランド:「はぁ……はぁ……いや、すまない。俺をブラザーと慕ってくれるタートを馬鹿にされたのと、これからオトがやろうとしている事を馬鹿にされて……ついカッとなってしまった」
オト:「とりあえずタートがジャックを抑えてる間に陸に帰って。このままアトランティスにいると、ジャックがアナタを……」
アイランド:「あぁ……確かにそれが良いかもしれない、な」
オト:「私が陸まで送るわ。陸に上がってしまえば、ジャックもあなたに手を出せない」
アイランド:「あぁ……すまない」
オト:「こっちよ」
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(浜辺にて)
アイランド:「本当に……すまない。こんな形になってしまって……タートは無事だろうか」
オト:「えぇ、大丈夫よ。ジャックと言えども、私がいる限りアトランティスの者達には手を出せないわ」
アイランド:「……」
オト:「……アイランド……これを……」
アイランド:「これは──」
オト:「『玉手箱』。あのまま竜宮城に置いておくと、ジャックに奪われてしまうかもしれない。だから、アイランドに持っていて欲しいの」
アイランド:「しかし、このフタを開けてしまうと、ジャックが陸に──」
オト:「えぇ……だから、まだ開けないで……ジャックは必ず私がなんとかする。それが落ち着くまで、待っていて──その時が来たら、アトランティスからあなたに遣いを出すわ」
アイランド:「あぁ、分かった……」
オト:「アイランド……必ずまた会える。……愛してるわ」
アイランド:「俺もだ……俺も愛してる」
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(Barにて)
サム:「──それで? その鮫野郎が落ち着くまで? 海の英雄のアイランド様は? 大人しくミルクを飲んで待っているって訳かい? だぁ〜っはっはっはっは!! こいつは傑作だなオイw 3日も姿を見せねぇと思ったらw そんな小説を書いていたとは──」
ロイド:「そんなに海岸で助けた美女に振られたのがショックだったとは、思わなかったよ」
アイランド:「振られたんじゃない! 今に分かるさ。陸と海が繋がり、共に過ごす時が、必ず来る。そしたら俺はオトと一緒に……」
サム:「その為には (笑いを堪えながら) 鮫野郎が……ぷぷ……大人しくなる……クク……必要が……あ〜はっはっはっ!! ダメだ!! こいつは重症だ!!!」
ロイド:「そんなに笑ったら、アイランドが可哀想だろ……サム。海と共に生きて来たアイランドの頭のネジが……クク……海水でサビついちまっただけなんだから……クク」
サム:「はっはっはっ!! ロイド! お前も笑っちまってるじゃないか!!」
ロイド:「だ、だってよぉ〜、海の英雄だぜ?
俺達は今『海の英雄様』と話してんだ!! こんな話、イエス・キリストも指を差して笑っちまう! 耐えられる訳がねぇ!!!」
キャシー:「ふぅ〜……アイランド、あなた疲れているのよ……この辺りの海岸をずっと守って来た。少し休んでも良いんじゃない?」
アイランド:「キャシーまで……」
サム:「それで? その『玉手箱』ってのは、今どうしてるんだw?」
アイランド:「家に置いてある。オトからの遣いが来た時に、すぐにフタを開ける為の準備はしてある」
ロイド:「開けちまえよw その『アトラン何とか』ってのと繋がってるってるなら、鮫野郎を陸に呼んで、ピチピチ跳ね回らしたら良いw」
サム:「『アイランドォ〜! ピチピチ♪ 喰らってやるぅ〜!! ピチピチ♪』ってなぁ〜っはっはっは!!」
アイランド:「だから言っているだろ。玉手箱を開けてしまったら、陸と海の境目が無くなって、ジャックも陸を自由に動ける様になってしまうんだ」
ロイド:「あぁ〜そうだった、そういう設定だったなw すまないすまないw」
アイランド:「はぁ〜……もういい、今日は帰る (席から立ち上がる)」
サム:「怒っちまったのかぁw 悪かったって!」
ロイド:「放っておけ、サム──今はどんな言葉をかけても、元気にはならないさ」
キャシー:「……アイランド……」
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(浜辺で海を眺める)
アイランド:「オト……今、アトランティスではどうなってるんだ? ……ふぅ……くそっ!」
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(1週間後……浜辺にて)
アイランド:「……今日も、か」
キャシー:「──アイランド」
アイランド:「──っ!? キャシー」
キャシー:「今日も海をずっと見ていたの?」
アイランド:「……あぁ……」
キャシー:「……もう……諦めたら?」
アイランド:「──っ!?」
キャシー:「だってそうじゃない。
海の底に大きな街があって……そこのプリンセスを好きになって……その海に住む鮫に命を狙われて──普通じゃ考えられないわ。
全ては夢だったのよ。あなたは壮大な夢を見ていた……」
アイランド:「夢じゃないんだ……俺は確かにアトランティスにいた。
アトランティスにある竜宮城で、オトと再会して──そして、この浜辺で玉手箱を受け取った。
これは夢じゃないだ……」
キャシー:「このままじゃ、アイランド──あなたが壊れてしまう! 元のアイランドに戻って!!」
アイランド:「もう俺の事は放っておいてくれ!!」
キャシー:「──っ!?」
アイランド:「……すまない……」(歩き去る)
キャシー:「どこに行くの! ……アイランド!! …… (背中を見送る) アイランド……」
********************************************
(夢の中にて)
オト:「アイランド──に、逃げて……早く!!」
ジャック:「オトを見捨てて、どこに行くんだ……アイランド? 墨を吐いて逃げる『海の英雄』なんて、聞いた事もない。所詮その程度だったんだよっお前は!!
だが、逃がさん……必ずお前を喰らってやる!!」
オト:「アイランド!!!」
(目が覚める)
アイランド:「──うぁっ!? っ……はぁ……はぁ……夢?
(物音が聞こえる)
──っ!? オト……?」
タート:「ブ……ラザー……」
(ボロボロになったタート)
アイランド:「──タート!? どうしたんだ! 何があった!?」
タート:「ブラ……ザー……っ! 『玉手箱』……を……」
アイランド:「玉手箱が、どうした?」
タート:「開けては……ダメだ……す、捨て……ろ……」
アイランド:「何を言ってるんだ……この玉手箱は──タート、何があった……アトランティスで、今何が起こっているんだ!?」
タート:「アトランティスに……ジャックが仲間を連れて……そして、ボスは──ぐっ……あぁっぐ……! くそ……」
アイランド:「オトがどうした!? ジャックが……ジャックがアンタをこんなにしたのか!?」
タート:「それは──あぁっ……ぐぅうっ!! はぁ……はぁ……お、俺の事は良い! とにか、く……もう……忘れるんだ……」
アイランド:「冗談じゃない……忘れられる訳が無い! ジャック……許さない」
(玉手箱を取り出す)
タート:「──っ! ブラザー……それは『玉手箱』……それを、どうする気だ──」
アイランド:「アトランティスに行って、俺がジャックを殺す! そして──オトを救い出す」
タート:「ダ、ダメだ! ──待て、ブラザー! 開けるな! 開けてしまったら、大変な事に──」
アイランド:「俺は──『海の英雄』だ!!」
(玉手箱のフタを開ける。溢れ出す海水)
(その玉手箱に吸い込まれる様に、陸から姿を消すアイランド)
********************************************
(アトランティスにて)
アイランド:「ジャ〜〜ック!! 出て来いジャック!! 勝負だ!!」
オト:「──っ!? アイ、ランド……?」
アイランド:「──オト!! 大丈夫かい!?」
オト:「えぇ……私は大丈夫……だけれど、どうして──」
アイランド:「タートが来て『アトランティスにジャックが仲間を連れて攻め込んで来た』と聞いた。それで君を助けに来た。俺がジャックを殺す」
ジャック:「俺が、なんだって? アイランド……」
アイランド:「──っ!? ジャック……」
ジャック:「よく戻ってくれた……アイランド。俺はこの上なく嬉しいよ……今日以上に、人間に感謝した事は無い。どこまでも馬鹿で愚かで間抜けな人間でいてくれて、本当にありがとう」
アイランド:「ジャック……貴様!」
オト:「アイランド……あなた、何をしたか分かってるの? 」
アイランド:「あぁ、分かってるさ……『陸と海を繋いだ』。
しかし、ジャックがいれば『陸と海の共存』は有り得ない──だから俺は、今ここでジャックを殺す」
ジャック:「ん〜♪ 威勢が良い事だ──っと、人間の言葉では『活きが良い』と言うんだったか? そう、お前がここにいるという事は『海と陸』が繋がった……分かってるじゃないか♪
しかし、答えとしては0点。間違いだらけだ。本質を何も理解していない……なぁ?」
アイランド:「……?」
オト:「えぇ、そうね……ジャックを殺した所で、海には陸の者に恨みを抱いている者は沢山いる……」
アイランド:「オト……」
オト:「人間によって家族を殺された者……人間の出したゴミによって殺された者……そして住処を失った者……」
アイランド:「何を……」
オト:「人間の王子と恋に落ちた人魚の、その見せしめに殺された者……陸の者達が海の者達に与えた影響は、そんな簡単な問題じゃない。海の生態系を狂わす程に、大きな問題だった……」
アイランド:「どうしたって言うんだ……オト」
オト:「オト……? えぇ……私はオト……『苦(く)』を内に押し留め……名を変えたアトランティスの王……私の本当の名前は──『オクト』。タコのオクト」
(オトの背後からタコの足が姿を現す)
アイランド:「──っ!? オト……その姿は──」
オト:「人魚と王子の物語で殺されたのは……私の祖母。
海の者と陸の者が結ばれてハッピーエンド? 笑い話にもなりはしない!!
ただ同じ陸の者を好きになり、力の限り戦っただけなのに、人魚の父親であった先々代の王の力によって、それを邪魔された!!
そんな事、許されるはずがない!!
人魚──先々代の王──そして、陸に住む人間!!
……力があれば何でも許される──王の力があれば何でも出来る!!」
アイランド:「オト……嘘だ……そ、そんな馬鹿な事が……」
オト:「私は王冠と矛、そして『玉手箱』を奪い……念願の王の地位を手に入れた。そしてこのアトランティスを作ったの。全てはこの世の全てを支配し、手に入れ、復讐する為!! あとは陸の者に玉手箱を開けさせるだけ──そこであなたが現れた……アイランド」
アイランド:「何を言ってるんだ……オト……」
オト:「タートも、大変役に立ってくれました。しかし、私の言う事をもっと素直に聞いてくれていれば、こんな事にボロボロになる事は無かったのに……」
ジャック:「あぁ、お前が陸に帰った後、しばらくしてから、タートにお前を迎えに行ってもらう……そこで『ジャックと和解した』とでも伝え、そして玉手箱を開けさせる予定だった──
しかし、なぜか陸の者を慕(した)ってやまないタートは、それを拒絶し……『アイランドに全てを話して、玉手箱を捨てさせる』と言い出した。
そんな事をされてしまったら、俺達の計画は文字通り『水の泡』だ」
オト:「だから、急遽計画を変更した。
ジャックにタートをギリギリまで痛め付けさせる……そして、わざと隙を見せて逃がす。
ボロボロになったタート見て、あなたはどう思う?
『ジャックがやった』そして……『オトは無事だろうか』と考える。
そうなれば、必ずあなたは玉手箱を開けて、私を助けに来る……」
タート:「すまない……ブラザー。この事を伝えなくちゃダメだったのに……矛の力で、肝心な『言葉』を封じられちまって……すまない」
アイランド:「そん、な……嘘だ……嘘だ!! オト、君は王子と一緒になったプリンセスに憧れて、それで陸と海が──」
オト:「──あんな物に憧れ!? 馬鹿にしないで、汚らわしい!!
誰があんなモノに憧れるものですか……私の祖母を奪った元凶、アイツがいたから、私は海の中でも『厄介者』として肩身の狭い生き方を強いられたの……
アイツがいなければ……アイツが人間と恋に落ちなければ……
身の程をわきまえて、海の中だけで収まっていれば良かったモノを!!」
アイランド:「そん、な……オト……俺は、君を愛していたんだ……本当に……」
オト:「アイランド……私もよ……私も心からあなたを愛していたわ」
アイランド:「じゃあ、どうして──」
オト:「海と陸を繋げてくれる……私の夢を実行してくれる起爆スイッチ──愛さない訳がないじゃない! あっはっはっは!!」
アイランド:「……ぐっ……」
ジャック:「……さぁ、ネタばらしはこれでおしまいだ。どうだ、釣り人であるお前が、普段釣っているハズの海の者に、偽の餌で釣り上げられる気持ちは? ──最低な気分だろ?」
アイランド:「あ、あぁ……高い金を払って映画館に入って、ずっと腹を下して便器とお友達になった時みたいな……そんな気分だ……」
オト:「そんな気分も、もう終わるわ……陸はもう私達の生簀。
上手く飼い慣らして、そして餌として捌いてあげる。
これからは、海の者達が陸の者達を釣り上げていく時代よ。
ありがとう、アイランド。あなたは、本当に『海の英雄』よ」
アイランド:「……クソ喰らえ……」
オト:「ふふふ♪ ジャック──」
ジャック:「では、約束通り……苦しみながら俺の腹に収まれ!! (喰らい付く)」
アイランド:「──っ!?」
タート:「──させない!! (ジャックに体当たり)」
ジャック:「──あがぁっ!?」
アイランド:「──タートっ!?」
ジャック:「タートっ!! 貴様──」
タート:「ブラザー! しっかりと捕まれ!! ブラザーを支える力は、もう無い!! 頼むから振り落とされないでくれよ!!」
アイランド:「──っ、ああ、わ、分かった!!」
ジャック:「待てっ!! 逃がさねぇ!!」
オト:「──ジャック!」
ジャック:「──っ!?」
オト:「良いわ……放っておきましょう」
ジャック:「しかし──」
オト:「どこに行っても同じ……もう陸の者にとって、安全な場所なんて無いのだから……」
ジャック:「あぁ……そうだな」
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(小さな洞窟) (瀕死のタート)
タート:「……はぁ……はぁ……はぁ……ぐっ……」
アイランド:「タート……ありがとう──」
タート:「……俺に感謝なんて、しないでくれ……俺は……何も出来なかったんだ……」
アイランド:「何を──アンタは俺を助けてくれたじゃないか」
タート:「しかし……俺は、知らなかったとは言え、ボスの──アイツらの片棒を担いじまった……
『ありがとう』なんて言われて良い立場じゃ、ない……俺のせい、で……」
アイランド:「……タート、どうしてそこまで俺を……」
タート:「……ブラザーは……俺の……命の恩人だ、から……」
アイランド:「俺が、タートの……」
タート:「あ、あぁ……忘れてるかも知れないが……昔、俺はブラザーに……救われた。糸で動けなくなった俺を……ブラザーが……」
アイランド:「あの時の亀が……なんて事だ……」
タート:「俺は……あの時の借りを、返そう、と……それ、なのに……すまない──ぐふっごほっ!」
アイランド:「も、もう喋るな!! すぐ医者を呼ぶ! ここで待っていろ── (立ち上がろうとする)」
タート:「(腕を掴んで止める) 聞いて、くれ……どうせ俺は助からない。それに……陸は今、それ所ではないはずだ……はぁ……はぁ」
アイランド:「し、しかし──」
タート:「俺は結局……ブラザーに、迷惑ばかり……結局あの日……カーペットも汚しちまって……」
アイランド:「んあぁ〜……それは、許せないけど……今となっては海の中だ……」
タート:「ははっ……嬉しかったんだ……もうダメだと思った時、ブラザーが俺を抱き上げ……『大丈夫だ。海に返してやる……大丈夫だ。俺に任せろ』って……
暖かかったなぁ」
アイランド:「タート」
タート:「な、なぁ? ……もう一度、手を握ってくれないか? そして『大丈夫だ』って……」
アイランド:「タート (手を握る) 大丈夫だ……助かる。俺が……何とかするっ! だから──」
タート:「あぁ〜……暖かいなぁ……人間は、良い……なぁ……ははっ……ブラ……ザー……ありが……と……」
アイランド:「お、おい……タート? タート! ……タート!!! あぁ……あぁぁあ!!!!(号泣)」
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(20年後)
若者:「あなたが──『アイランド』さんかい?」
アイランド:「……」
若者:「あなたに聞きたい事がある」
アイランド:「……」
マンキ:「旦那しゃまが尋ねてんだ!! さっさと答えろぉい!!」
アイランド:「…… (マンキを見る)」
マンキ:「──ひっ!? だ、旦那しゃまぁ〜 (泣)」
若者:「はぁ〜……恐いなら前に出てくるな。共の者がすまない。この洞窟の近くに『海を作り出している島』があると聞いた。そして、それはあなたが知っていると──何か知ってるかい?」
アイランド:「(掠れた声) ……た……てば……」
若者:「……長年話さなかったから、声が枯れてしまっているのか。ギィ……『アレ』は、まだあったかな?」
ギィ:「ほっ? 『アレ』? あぁ〜あぁ〜『アレ』ね♪ はいはいはいはい……『アレ』……『アレ』っと──『どれ』?」
ドグ:「ギィ……腰に付いてる『ソレ』だよ」
ギィ:「あぁ〜あぁ〜!! それを言ってくれないと、さすがに分からないよぉ〜w 『コレ』だねぇ〜ほいっ『ソレ』♪」
若者:「うん、ありがとう──アイランドさん『コレ』を食べて」
アイランド:「ん……がっ…… (咳込む) ──んんあ、あっ!? こ、これは──」
ドグ:「旦那様のお婆さんに作って貰った『きびだんご』だよ」
アイランド:「きび、だんご……?」
マンキ:「そ、そうだ! お婆しゃまの『きびだんご』だぞ!!」
若者:「今はそんな事は良い……アイランドさん、教えてくれないか? 『海を作り出す島』の話を……そして『そこに住む化け物の話』を──」
アイランド:「君は、一体──」
若者:「あぁ、挨拶が遅れて申し訳ない……僕は──」
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