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【朗読】ざまあみろ、社会。

***

 暗い部屋、就活新聞、書きかけの履歴書。俺は今、自分の人生に絶望している。

 理由は簡単。俺を育ててくれた兄貴が、パワハラにより自殺したからだ。

 俺の両親は、俺が中学生の時に事故で亡くなった。
俺たちを引き取った親戚は酒カス野郎で、虐待に耐える日々が1年ほど続いた。
 当時高校生だった兄貴は進学を諦め、就職を決意。兄貴が卒業したと同時に、俺たちは親戚の家を出た。

 兄貴は夜遅くまで働いて、俺を高校に通わせてくれた。そして『両親の遺産を大学の学費に充てろ』と、親戚から守り抜いた大事な遺産を、全て俺に渡してくれた。

 俺は大学に入った。在学期間はバイトに打ち込み、兄貴に楽をさせてやろうとした。就活だって、3年の初めから動いて、大手に就職しようと思っていた。

 しかし、俺は知らなかった。俺の入った大学では、大手に就職なんて到底出来ないということを。キラキラとしたキャンパスライフを送り、夢を抱かなければ、就職なんて出来ないということを。

 俺は、落ち続けた。面接に、書類審査に、インターンシップに。

だから、気づかなかったんだ。自分に余裕がなかったから。兄貴は俺を励ましてくれていたから。兄貴がパワハラを受け続けていたことになんて、気づけなかった。

兄貴が死んだのは1週間前。俺が手ごたえ無しの面接から帰ってくると、外に人だかりが出来ていた。何の騒ぎだと野次馬に行くと、そこには、頭から血を流して倒れている兄貴がいた。兄貴は遺書も残さずに、そこで死んでいた。

俺は信じられず、部屋に逃げ帰る。机には、兄貴のスマホがあった。スマホにはロックがかかっておらず、1件の新着メッセージが画面に表示されていた。

『さっさと死んじまえ』

 俺は、そのまま兄貴のスマホを隅々まで調べた。すると、検索履歴には大量の転職サイトが残っており、メールには大量のお祈りメールが届いていた。

 残っていた留守電には『転職を考えているのか』『この恩知らず』『弟が可哀そうだな』など、罵詈雑言の嵐が何十件も残っていた。

結局、兄貴は病院にすら搬送されず、その場で死亡が確認された。俺は葬式を上げてやれるほどの金を持っておらず、たった1人で兄貴の火葬を見守った。

兄貴は、本当はパワハラを告発するつもりだったらしい。しかし、転職を考えていることがバレ、パワハラがエスカレート。限界だったみたいだ。

 俺は、兄貴に何もしてやれなかった。俺が就活を頑張れていたのは、兄貴が応援してくれていたから。兄貴に恩返しがしたかったから。

 兄貴が死んだ今、俺に生きる希望はない。

「……あぁ、俺も限界かもな」

 俺は、ベランダに出た。夜風が俺の頬を撫で、その香りが俺の部屋の臭さを自覚させる。

このベランダは、兄貴と2人で飲み明かした後「幸せになろう」を誓い合った思い出の場所。今はもう、その誓いも消え失せた。

俺は、ゆっくりと目を閉じる。

「俺が、御社を志望した理由は……」

ふと、俺が夢を見た企業への志望動機を口に出してみる。

「っはは、こんな時でさえ、言葉が詰まる。……そんなんだから、落ちるんだよ。なぁ? クソ兄貴」

ここはアパートの四階。真下はコンクリートで、少し離れた場所に街路樹がある。

大きく息を吸って、目を見開いた。消え失せた誓いを今、果たすために。

「ざまぁみろ、クソ社会」

その言葉を最後に、俺は真っ直ぐとこの世から落ちて行った。多くの祈りの下に、ただ、真っ直ぐと。

——午前5時、住宅街にひとつ、銃声のような音がシンと響き渡った。

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