企業の社会貢献活動ってどんなこと? LIFULLの取締役が語る社会問題への取組み
株式会社LIFULLでは、社会問題をビジネスを通じて解決に導く、ソーシャルエンタープライズとしての在り方を追求しています。2016年にはCSR(企業の社会的責任)の一環で、社会貢献活動支援プログラムを発足。不動産情報サービス事業を主力に事業を展開する企業として、どう社会に力を尽くすことができるのか。「世界中のあらゆる『LIFE』を、安心と喜びで『FULL』にするために。」というキャッチコピーに対して、実際どんな活動をしているのか。活動の発起人であり、現在も社会貢献活動委員の委員長として指揮をとる山田貴士取締役に話を伺いました。
より多くの人が幸せになるための仕組みをつくること、それがLIFULLという会社の存在意義
――LIFULLを語るうえで、まず代表の井上氏が掲げている公益“志”本主義や利他主義といった言葉が関係が深いと思います。山田さんはこれらの言葉をどう捉えていますか?
まず、利他主義は世のため人のためという基本的な価値観に当たるものだと考えています。
そして、そもそもなぜLIFULLという会社が世の中に存在しているのかというと、「常に革進することで、より多くの人々が心からの『安心』と『喜び』を得られる社会の仕組みを創る」ため、というように、経営理念に基づいています。これは、平たく言うと“世の中のより多くの人々が幸せになるための仕組みをつくっていこう”ということになります。
その上で、会社が会社として成立するために関わるステークホルダー、具体的には、エンドユーザー、クライアント、従業員、株主、取引先、社会や地球環境と、さまざまな関係者がいる中で、特定の一部が利益を独占するのではなく、皆で公平に利益を分配していこう、と考えるのが公益“志”本主義です。
みんなをハッピーにしたい、そのためにLIFULLがすることは、ハッピーになるための仕組みをつくること。その利益分配の形として公益“志”本主義があるのです。
「会社は株主のものだ」といったことも言われたりしますが、我々は違うと明言しています。
――ある調査では、CSR活動にかかるコストに二の足を踏む企業が多い、との結果がまとめられていました。LIFULLではそこに人員や資本を投じることのデメリット等は感じていませんか?
会社の存在意義から逆算して検討を進めていったので、デメリットを感じることはありませんでした。先ほどお話しした経営理念を掲げていて、それに沿って事業活動をしている。会社の規模も大きくなり、社会的な責任も大きくなる中で、「世の中にあるたくさんの社会課題に取組んでいこう」という意欲とともに実行に移すだけでした。ボランティア活動にはセンシティブな面もあるため、実行に際しては危機管理の観点で慎重に進めてきた部分ももちろんありますが、結果的に現在まで大きな問題は発生していません。
また、これも先ほどお話ししたように利益のすべてを社会貢献に使うわけでなく、利益の分配先の1つであるという考え方であるため、一定の比率「前年度税引後利益の1%」を社会貢献に振り分けると決めています。こうすることで、事業が成長することと比例して社会貢献への分配も大きくなり、事業と両立させられる点も、デメリットを感じない要素かなと思います。
――企業の社会貢献活動というと、支援金を出すだけということも往々にしてありますが、LIFULLの場合、アジェンダなどを見ても、社会貢献活動を通じて利益を生もうという印象を受けます。
利益を生むことを目的としてはいません。
我々の中期経営計画のキーワードとして、「ソーシャルエンタープライズ」があります。これは、さまざまな社会課題をビジネスという継続的な仕組みを使って解決していこう、解決していく企業になろう、という宣言です。
社会課題解決に向けた取組みがビジネスとして利益を生むことで、単発で終わりではない持続的な支援の仕組みになることに意味があると思っています。
どのような社会課題に取組んでいくかを明確にしたのが、LIFULLアジェンダです。
ビジネスとして社会課題を解決していくのは、決して簡単なことではありません。ですが、それを考え抜いていこうという意志は強くあります。
「事業じゃないところでも社会貢献をしていこう」から始まった社会貢献活動
――2016年から始まった「社会貢献活動支援プログラム」と冠した活動が、LIFULLの社会貢献活動のルーツと伺っています。その発端を教えてください。
これまでお話ししてきたように、会社の存在意義からして世のため人のためになることをしようと創業以来ひたむきに進んできました。しかし、会社の規模がある程度大きくなり社会的な責任も大きくなってきたときに、主力のHOME’S事業で解決できる社会課題と解決できない社会課題があることに改めて気付かされたのです。
先ほどお話しした「ハッピーになるための仕組みをつくること」、公益“志”本主義や利他主義の実践として、事業を通じて社会課題を解決しようというのが第一義です。ただそれだけではなく、事業ではないところでも社会貢献をしよう、と考えたのがきっかけでした。
LIFULLでは「社会貢献活動」をビジョンも込めて、皆に浸透しやすい言葉として「One P's(ワンピース)」と呼んでいます。社員の有志で運営している社会貢献活動委員会も、One P's委員会と略称されています。
▼LIFULLの社会貢献活動「One P’s」について
https://corp.lifull.com/n/n226794d10a45
OneP’sの活動には2種類あり、1つは社員一人ひとりのボランティア活動を促す取組み、もう1つは法人としての取組みです。
前者は、たとえば、社員が自らNPOなどで行っている活動を支援したり、山林の間伐作業を体験する社内イベントを企画したり、普段業務を共にしているチームで地域のゴミ拾いを行ったりといった活動をしています。社員それぞれが「社会貢献活動をしたい」という意欲に対して、会社が年間2日の特別休暇と活動費用を支援するという取組みです。
法人としての取組みで注力しているものが、LIFULL HOME’S ACTION FOR ALLになります。ACTION FOR ALL にはFRIENDLY DOORとえらんでエールの2つの取組みがあります。その他には寄付活動なども行っています。
住環境問題で何かできることはないか ACTION FOR ALLの始まり
――法人としての社会貢献活動の1つに挙げられていたACTION FOR ALLについて聞かせてください。始められたきっかけは何だったのでしょうか?
2016年に社会貢献活動を始めた当初は、法人としての取組みとして、マッチング寄付などを中心とした寄付活動を行っていました。具体的には、地震や自然災害で被害を受けた被災地や、個人の活動に協力していただいた団体さんなどへの寄付です。それはもちろんその時々で感謝もされますし、意義も感じていたのですが、一方で、しっかりと軸を持った活動をしなければならないという想いも抱いていました。
その間、個人の社会貢献活動の活性化に力点を置いた時期もありました。しかし、個人の活動だけでは社会に還元できる量としては限界があると感じたこともあって、3年目を迎える際に改めて法人としての取組みを企画することにしました。
法人として一番しっかりと軸を持って取組めるとしたら、やはり祖業であり、最大の事業であるLIFULL HOME’S事業になるので、住宅や住環境関連で何か貢献できることはないか、と考えたのがきっかけになります。
考えていく中で、残念ながら“住宅弱者”と呼ばれる人たちがいることや、民間シェルターに支援が不足していることが、我々の解決すべき課題だと強く意識するようになりました。
そうして生まれたのが、住宅弱者に親身になってくれる不動産会社さんと出会える“FRIENDLY DOOR”と、自身の住まい探しの際に、誰かの住まいにエールを送る"えらんでエール"の2つのACTION FOR ALLです。
――スタートから2年半が経過して、何か変わった実感はありますか?
FRIENDLY DOORを通じて、不動産会社さんが生活弱者の当事者の方々に接客する機会が増えています。「参画したい」と言ってくださる不動産会社さんの数の伸びや、不動産会社さん向けに開催しているFRIENDLY DOORセミナーが毎回満席になっていることからも、興味をもっている方々が増え、関心が高まっているように感じています。
また、えらんでエールで実際に支援させていただいた団体さんからは、「シェルター内の設備が新しくなって便利になりました」「リフォームしてキレイになったことで入居者の心にも余裕が生まれました」といった報告をいただいていて、そういう意味では利用者さんたちの生活水準が上がったという実感はあります。
ですが、実際には、まだまだこれらの問題の解決に向けた動きは始まったばかりだと思います。
――ACTION FOR ALLでは今後どんな活動をしていきたいか、ゴールはありますか?
究極のゴールはACTION FOR ALLが必要のない、インクルーシブな世界をつくりたいということだね、とメンバーとよく話しています。
そのために、LIFULL HOME’S事業としても、これらの活動が当たり前になることを実践していきたいと考えています。
FRIENDLY DOORでいうと、考えに賛同してくださっている不動産会社さんにも、実際の対応状況や対応可能レベルには振れ幅があると思うので、その部分のボトムアップをして一定の水準まで高めていきたいですね。「フレンドリー」とただ謳っているだけになってしまっては意味がありません。住宅弱者と呼ばれている方が実際にちゃんと住み替えられる、言葉どおりフレンドリーに親身になって対応してくれる会社さんを増やしていく。そうしたことに取組んでいきたいと思っています。
えらんでエールでは、一般の方たちにもさらに広くこの活動自体を認知してもらって、能動的なアクションにつなげたいですね。
我々を前例に社会問題に取組む企業が増えれば――山田取締役が目指す今後
――最後に今後について。社会貢献活動を通じて企業をどう変えていきたいか、山田さんなりのご意見を聞かせてください。
今日お話しした今取組んでいる活動については、この先もしっかりと課題の解決まで推し進めていきたいですね。始めたからには意志を持ってやり続けないといけないと思っています。それにプラスして、我々のような取組みをする企業がもっと増えてくれたら良いなと思っています。そうすれば我々が手を出せていない、より多くの社会課題も解決されていくことにつながり、結果として助かる人も増えるのではないかと思うからです。
そのためにも、私たちのこうした取組みがモデルケースとなるよう、力を尽くしていきたいと考えています。
企業として成長していかなければ、「綺麗事を言ってるだけじゃないか」と言われかねません。ですから、自分たちが綺麗事を言いながらもしっかり成長する様子を見せていくことで、追随してくれる人たちも増えてくれたらと期待をしています。
おわりに
LIFULLでは今回のお話にあった社会貢献活動のほかにも、社員がそれぞれの身近にある社会問題を持ち寄って共有し、今ある技術でどうクリアしていくか、グループワークで考えるという社内フォーラムも開催しています。
こうした活動によって得た「気づき」を、One P’s制度を活用した個人の取組みにつなげていければとも、山田取締役は語っていました。
ちょっと答えづらい質問にも笑顔で応じるフランクな人柄で、言葉の端々には志をにじませていた山田取締役。その自然体の語り口から、気負わず当たり前のように社会貢献活動に取組む様子が感じられました。
テキスト内のリンクから、LIFULLの活動をさらに知ってもらえたらと思います。
プロフィール
山田貴士(やまだ・たかし)
株式会社LIFULL 取締役執行役員 AI戦略室長
2000年株式会社ネクスト(現 株式会社LIFULL)入社。
LIFULLの初期フェーズから、ソフトウェアエンジニアとして、不動産・住宅情報サイト「HOME'S(現:LIFULL HOME'S)」のサイト開発から運用まで幅広く携わり、日本最大級のサイトへの成長に貢献。2010年執行役員プロダクト開発部長を経て、2014年6月取締役執行役員に就任。2018年10月より現任。2016年に発起人として立ち上げた社会貢献活動委員会の委員長も兼任している。
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