楽天銀行LGBT住宅ローンが広げた住まい探しの選択肢 商品化の舞台裏
理想の住まいについて語るとき、持ち家か賃貸かはよく話題に上がるトピックです。総務省の平成30年住宅・土地統計調査では、以前より増加傾向は緩やかとはいえ、持ち家住宅率は61.2%と、持ち家が大半となっている現状が伝えられています。
住宅の購入に際して、多くの方が必要になる「住宅ローン」。しかし、LGBTQの人のなかには、世の夫婦のように連帯型の住宅ローンを組めないことで、物件の選択肢が限られてしまったり、購入自体をあきらめて賃貸に住まざるをえなかったり…という方もいるといわれます。
そんななか、2017年に楽天銀行が「LGBT住宅ローン」を発表し、LGBTQの人たちの住宅の選択肢が大きく広がりました。
「LIFULL HOME’S 住まいの窓口」でも、2021年よりこの住宅ローンの申し込み窓口として提携をスタート。
商品化までの裏側や、この商品の申し込みがなぜ相談窓口に限られているのか、企画立ち上げから携わられた楽天銀行株式会社執行役員・大森健一郎さんに、その詳細を伺いました。
スピード感をもってリリースできた裏側
――楽天銀行のLGBT住宅ローンが登場した2017年、LGBTQを意識した金融商品はあまりなかったように思います。当時、金融業界はどんな様子だったのでしょうか?
当時、LGBTQ向けの商品というのは、業界のなかでもほとんどありませんでしたね。
今でこそいろいろな銀行で商品が増えてきましたが、その頃では、みずほ銀行さんに次いでこのLGBT住宅ローンが2番手くらいだったかと思います。
発案から商品化までは、通常1~2年くらいかかるのですが、半年くらいで販売までこぎ着けました。
――半年! そのようなスピードで実現できたのはなぜなのでしょうか?
新規の商品ではありますが、既存の住宅ローンのシステムをうまく活用して商品化できたからだと思います。
新規商品化でおおよそ時間を要することが多いのはシステム開発の部分で、新たな投資をしなければなりません。
この商品に関しては新規にシステム開発をする必要が特になく、会社側の考え方を柔軟に変更することで実現できるものだったので、そういった点でスムーズに商品化できたのだと思います。
なぜ今までLGBTQの人たちは対象外だったのか
――発案から半年でリリースという速さで実現できるにもかかわらず、今までLGBTQの方々に向けた商品がなかった理由は何だと思いますか? 一部では団体信用生命保険(以下、団信)に入れないからという話も聞きますが、実際はどうなのでしょうか。
性転換手術を行ったトランスジェンダーの方は、手術や投薬が理由でローン審査が通らないケースがあるというのは聞いたことがあります。
医療的に問題がなければ、団信は通常の人と同様の審査です。「通らないらしい」というイメージが先行してしまっているのかもしれません。
このLGBT住宅ローンで使っている団信も、通常の住宅ローンで使っている団信と同じものなので、医療的な行為がない限り何ら問題はありません。
団信に関して言うと、医療的な点に保険会社がリスクを感じるかどうかです。LGBTQだから通らないわけではないと思いますね。
ですので、このLGBT住宅ローンができたことで、オープンに申し込みや審査をしやすくなったと思います。
当行には、以前からLGBTQに対する抵抗感があまりありませんでした。楽天グループ自体にLGBTQを応援しようという背景があり、LGBTQ向けの商品を扱うことへの反対やネガティブな反応はなかったのです。こうしたことも、商品化にプラスに働いたと思います。
「関係確認書類不要」は企画者の熱意から
――楽天銀行のLGBT住宅ローンで最も特徴的なのが、パートナーシップを証明する公的証書が不要という点です。他行のLGBTQ向けの住宅ローンでは、基本的にそうした書類の提出を求められます。なぜ「不要」に踏み切れたのでしょう?
それは企画担当者の熱意であり、私たちのこだわりです。
今もまだまだですが、当時は今に比べて、パートナーシップを証明する書類を発行する自治体はごく少数でした。
そのため、パートナーシップを証明する書類の提出を必須にしてしまうと、商品を利用できる方が限られてしまいます。
私たちはインターネット銀行であることから、全国のお客様にサービスを届けたいという思いがあります。
ですから、提供する商品が証明書を発行している非常に限られた地域でしか使えないものになってしまうと、理念に反してしまうのです。ニーズが10あっても9に応えられないようでは、商品として使い物にならないですよね。
そこで、ここは何としても「証明書はナシでいきたい!」という担当者の熱意で進めました。私も譲れない点でしたね。
もちろん銀行ですから、それによるリスクを検討する必要がありました。
「証明書がある場合とない場合の違いは何か」といった議論は一つ一つ重ねていき、結果世の中に出せたという流れです。
――書類がないことのリスクなどはなかったのでしょうか。
確かに、書類を提出していただくかいただかないか、だといただくほうが安心だと思います。他行さんが必要だと思う気持ちも分かります。
夫婦連帯ローンでは、婚姻の証明として住民票を提出してもらっています。
夫婦の住民票のように、誰もが簡単に取れるパートナー証明があるのなら、LGBT住宅ローンに関しても提出を求めていたと思います。
しかし、自治体のパートナーシップ証明書は地域が限られますし、同等の効力を持つ私的な公正証書を用意するのは費用がかかります。簡単に発行できるものでもないので、公平ではありません。
私たちは、金融のサービスに不公平を感じている方に、少しでも同じようにサービスを届けようとしています。必要なお客様に届けられなければ、そもそもこのサービスを作る意義がなくなってしまうと思い、「関係確認書類不要」を強く推しました。
証明書不要ということで、もちろんリスクがまったくないわけではないですが、大きな懸念があるわけでもありません。
強いて言えば、LIFULLをはじめお客様とリアルに接しニーズを吸い上げてご紹介いただけている企業と連携することが、リスクヘッジになっている部分があります。
本当に困っているお客様であれば、証明書は不要だと思います。
本当に必要とする方に届けるために ローンの受付窓口を限定
――先にも少し話がありましたが、LGBT住宅ローンの申し込みが、SUUMOカウンター、三好不動産、そしてLIFULL HOME’S 住まいの窓口の3社の窓口に絞られているわけですが、受付をこうした窓口に限定した理由はあるのですか?
マイノリティの方は、まずどこかに相談する方が多いと思ったからです。
相談をするところからでないとマイナーなニーズは拾えないのではないか、と考えました。
住宅ローンの前に、まずは「家をどうするか」を相談しますよね。そういった「困っている」というニーズが寄せられる場所で商品を提供することがいいのでは、と思ったのです。
――とても理にかなった営業方法でもありますね。
営業的な観点もさることながら、銀行がただ商品を作って置いておくだけでいいというのは違うと思っています。
私たちの銀行の商品ラインナップに掲載していても、そこをめがけてお問合せをしてくださる方を、実際に探し出すのはなかなか難しいです。
お客様のニーズを一番拾える企業と手を組んで、サービスを展開していくのが一番よいという認識です。
――今回LIFULL HOME’S 住まいの窓口が3つ目の窓口として提携したわけですが、LIFULLからの提案があった際、楽天銀行のなかではどんなお声がありましたか?
私たちとしては、間口が広がることは基本的によいお話なので「ぜひ、やろう」と前向きな感想が上がりました。
ただ、単純に話題づくりのために「やりたいです」と言われても、私たちは動きません。住まいの窓口のアドバイザーの方が当事者の方々の声を拾い上げ、そのニーズに何とか応えようとする姿勢や、マイノリティの方々をサポートしようというLIFULLの文化を拝見することができたのも大きいです。
すでに連携を取っている他社でも、LGBTQに関する取り組みを見せていただいています。「実際に困っている人のニーズを拾う企業であれば、この商品を必要とするお客様に届けられるだろう」ということで、提携をさせていただいています。
業界の慣例を見直すことで広がったLGBTQの住まいの選択肢
――金利などの商品内容の数字的な部分でいうと、通常の住宅ローンとそう違いはないように感じました。LGBT住宅ローンの特徴とは、ずばりなんでしょう。
このローンはシンプルで、現状の夫婦連帯型同様に同性カップルでも収入を合算して利用できるようにした、というだけです。
家を買うとなると、よりよい条件の家が好まれますよね。
よい条件は、家の販売価格にも反映されます。手が届くなら、よい条件の家を視野に入れることもできます。
例えば、収入が600万円と400万円のカップルがいるとします。600万円の方のみの収入では住宅ローンの貸出可能額は3,000万円だとします。
これが合算して1,000万円になると、貸出可能額は5,000万円に上がります。
マンションで3,000万円台の物件と、5,000万円台の物件を比べると、5,000万円台のほうがかなり選べる物件が増えますよね。
現状の夫婦制度の場合、世帯収入で見るので、それぞれの収入を合算したローンを組めるわけです。これはよくあることだと思います。
しかし、同性カップルは法律上婚姻を結ぶことができないので、収入合算ができず、収入の多い方が買える範囲で物件を買うことになってしまうのです。
異性の夫婦とマインドは同じであっても、できないことが生じている。
この商品は、「夫婦は合算できる」「夫婦じゃないから合算できない」という慣例になっていたルールを変えた、というものになります。
住宅ローンは家を買うときの主役ではなく、主役はお客様の家です。
住宅ローンで借り入れできる金額が大きくなると、それだけ家を選ぶ選択肢が広がります。
大森さんがこれから取組みたい社会課題
――今回はLGBTQの人々のニーズに応える商品となりましたが、今後見据えている社会課題はありますか?
不公平や不便を感じているお客様に、気が利いたサービスを届けたいという思いがあります。
LGBTQの方もそうですが、今日本に在住している外国籍の方にも銀行はなかなか厳しく、サービスを届けきれないことがあります。
私個人の考えになりますが、外国人留学生や外国からの労働者といった方にも、私たちのサービスを届けていきたいと思っています。
またそういう課題にも、今後目を向けていきたいですね。
おわりに
LIFULLと楽天銀行のLGBT住宅ローンが提携するに至ったのには、実は住まいの窓口に寄せられた当事者の方のご相談が発端でした。
その後、当事者のお客様だけでなく、不動産会社からの「ご希望の物件があり、ご成約までの時間短縮のため、証明書不要の楽天銀行LGBT住宅ローンの窓口であるLIFULLを経由して物件のお申込みをお願いしたい」というご相談にも対応するまでになっています。
同性カップルにとって、自分たちのかなえたい暮らしを後押ししてくれる楽天銀行のLGBT住宅ローン。
「銀行ですからルールの範囲内になりますが、できる限りのことをやりたいと思っています」と語る大森さんたちの熱意をお預かりし、住まいの窓口ではお客様に向き合っています。
マイホームを思い描く同性カップルの方々が、ご来店によってさらに期待を高められたなら、と思います。
プロフィール
大森健一郎(おおもり・けんいちろう)
2005年イーバンク銀行株式会社(現・楽天銀行株式会社)入社。サービス高度化本部にて、楽天銀行内新規事業や他企業とのアライアンス等に携わる。2017年執行役員に就任。
▼楽天銀行 LGBT住宅ローン
https://www.rakuten-bank.co.jp/home-loan/lp/lgbt-homeloan.html
▼LIFULL HOME’S 住まいの窓口『LGBTQマイホーム講座・個別相談』
住宅購入の基礎知識から、同性カップルが知っておきたい法的課題への備え方まで、講座形式で一組ごとに学ぶことができます。受講方法は、対面形式・オンライン形式、いずれかを選択可能。ご希望に応じ、楽天銀行LGBT住宅ローンのお申し込み書の紹介ができます。
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