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同性カップルが家族となるには? パートナーシップ制度をめぐる今
セクシャリティの平等が世界規模で大きく叫ばれている最中、先進国を称するG7の中で唯一同性婚が認められていない、日本。現状を見るかぎり、残念ですがまだまだ同性婚が法的に定められるには遠い道のりのようです。
そこで、多様化する生き方に応えるよう、地方自治体での「パートナーシップ制度」が広がりを見せています。名前は耳にしたことがあるけれど、その実際は? 結婚とは似ているけれどまったく違う、パートナーシップ制度について紐解いていきます。
2015年、渋谷区から始まった日本の「パートナーシップ制度」
今日、日本国内では法律的に同性婚が認められない中、同性カップルの内縁関係を公的に自治体が認証する制度として、「パートナーシップ制度」が認知されつつあります。
その歴史をたどると、1989年10月1日、デンマークで施行された法律「登録パートナーシップ法」にたどり着きます。これは、世界初の同性カップルに婚姻とほぼ同等の関係を認めることを定めた法律でした。その施行を機に、後を追うようにノルウェー、スウェーデン、アイスランド、フィンランドといった北欧諸国が法制定を行い、これがモデルとなってヨーロッパを中心に欧米各地へと広がっていきました。
2000年代に入り、諸外国では同性婚の法整備が進む中、日本では憲法や法律の同性婚の議論こそ始まったものの、世界的に高まりつつあるLGBTQのムーブメントとの温度差は広がるばかり。
そんな折、都市のダイバーシティを推進していた渋谷区が2015年4月に「渋谷区パートナーシップ証明書」を、同年9月に世田谷区が「世田谷区パートナーシップの宣誓」を発行することを決定。区が市民の人権に寄り添う形で、戸籍上の性別が同じ二者間の社会生活における関係を公的に認めるようにしたのが、日本での始まりとなりました。
パートナーシップ制度が施行されているのは現在110自治体
(c)渋谷区・認定NPO法人 虹色ダイバーシティ 2021
渋谷区と世田谷区をモデルケースに、男女共同参画やダイバーシティの観点から、パートナーシップ制度を導入あるいは検討する自治体は年々増えつつあります。同性パートナーシップ・ネットによると、2021年7月1日現在、導入済みの自治体は110。人口比でみると、実施自治体人口は、総人口の37.8%を占めています。さらに、2021年内に導入予定の自治体が7あります。
大部分は市区町村単位の自治体ですが、大阪府・群馬県・茨城県は都道府県規模で制度を運用しています。
「同性カップルを結婚に相当する関係と認める」はどこまで?
「パートナーシップ制度って、結婚みたいなものでしょ?」と思われがちですが、法律で定められた婚姻とは違い、自治体が「同性カップルを結婚に相当する関係と認める」という公的証明であるのみ。相続や税金の寡婦控除などの法的制度の適用はされません。
とはいえ、自治体が認めているということで、自治体の運営によるところでは、配偶者と同様のサービスを受けることができます。
一般的なものでは、UR都市機構や市営区営住宅などの公営住宅に二人で入居ができたり、市立・区立病院での家族としての面会や手術同意が可能になったり、といったこと。同性パートナーは家族と認められていなかったこれまでと比べると、待遇が大きく変わります。
ほかにも、たとえば渋谷区の場合、住居の賃貸借契約や病院での面会時に、戸籍上の家族ではないことを理由に断るなどした場合は、区が是正勧告をした上で事業者名などを公表できる、という特徴があります。
このように区からの強い働きかけができるのは、渋谷区が条例としてこの制度を採択しているためです。
一方、LGBTQの運動が昨今熱い福岡市では、パートナーシップ宣誓書受領証の都市間連携を締結。転居等で福岡市を離れても、転居先が連携している自治体であれば、再度申請を行わずともその自治体のパートナーシップ制度に準じたサービスを受けることができます。
地方行政だけでなく、企業においてもパートナーシップ制度を活用できるようになってきました。
たとえば、NTTドコモ・KDDI・ソフトバンクの携帯電話大手3社とUQコミュニケーションズでは家族割の対象になりました。生命保険会社では保険金の受け取り人に指定を可能としたところも。住宅に関するペアローンも、メガバンクのみならず多くの銀行で受付対象です。JALやANAをはじめとした航空会社では、マイレージを共有できたりするなど、家族としてサービスを享受できるようになりました。
また、福利厚生の一環で従業員がパートナーシップの証明書を提出すると、結婚祝い金の対象とする企業も出てきているそう。企業内での意識改革も、少しずつ進んでいます。
所変われば品変わる 一律ではない国内のパートナーシップ制度事情
こうして、自治体主体によって広まりを見せるパートナーシップ制度ですが、半面、地域差による問題点もあります。
その最たるところが、内容が全国一律でない点。一口にパートナーシップ制度といっても、「世田谷区方式」「渋谷区方式」と呼ばれるように、先行する2つの区に倣った2種類の方式が主にとられています。
世田谷区が採用しているのは、要綱。自治体の内部規定に基づいて関係を認める、いわばカップル認定にとどまったものです。
渋谷区では、条例として制定されています。渋谷区もカップルとして認定していますが、そこにプラス自治体の行政指導が行使される、という強制力を伴っているのが特徴。たとえば、パートナーシップ制度を活用した2人がお部屋を借りる際、不動産会社が同性カップルであることを理由に申し込み等を拒否した場合、当事者からの申し立てにより自治体から事業者へ指導や勧告を求めることができます。
自治体がどちらの立ち位置かによって、周囲への働きかけに差が生じているのが現状です。
さらに要綱か条例かの違いは、申請時の費用にも表れます。たとえば、要綱である世田谷区では戸籍謄本を用意する手数料以外は、無料。一方、条例化した渋谷区は2人分で最低3万2,580円+各自用意しないといけない任意後見契約書作成費(2~3万円/人)が必要になります(ただし、要件によって5万円ないし6万3,000円の助成金があります)。
また、多くの自治体で、申請の条件に「二人ともが同自治体に居住し、かつ住民登録があること」という事柄が定められています。
以前IRISの須藤さんのインタビューで、同性カップルが賃貸物件を借りる際にはパートナーシップ証明書の提出が求められる、というお話がありましたが、事情があって現在は市をまたいで離れて暮らしている二人が、新居のためにパートナーシップ制度の申請をしたくても、先の条件に当てはまらないためにそもそも申請ができない…という問題にも直面してしまうのです。
パートナーシップ制度の今後の課題
運用から7年が経ち、同性カップルが家族でいられる証明として、期待が寄せられているパートナーシップ制度。牛歩ではありますが認知も広がるにつれ、先述の問題以外にも課題が見えてきました。
まずは、自治体の規模が小さいこと。先に触れたとおり、都道府県単位でパートナーシップ制度を導入しているのは、大阪・群馬・茨城の3県のみ。全国を網羅するにはまだまだ道のりは遠い印象です。
次に気になるのが、男女の婚姻届より手順が多いこと。男女間の婚姻の場合、必要書類さえ手元にあれば、自分たちの都合で24時間いつでも婚姻届を提出できます。ですが、パートナーシップ制度の多くは、届け出に事前予約が必要です。また、渋谷区方式の条例の場合、用意する公正証書の手間は、婚姻のその比ではありません。マイノリティであるがゆえに強いられる不便さは、改善の余地があるのではと思わずにいられません。
年齢における懸念も。成人年齢を18歳に引き下げる「民法の一部を改正する法律」が2022年4月1日から施行されます。現状、パートナーシップ制度の申請条件に20歳以上あるいは成人と、自治体によって表記にゆれが生じている状態。このギャップをどう解釈し、どう対応をするのか、自治体の見解によってまた地域差が生まれる可能性があります。
そしてやはり待たれるのが、法的な効力。同性婚の法制定に期待が膨らみますが、なかなか足踏み状態からの脱却が見込めません。自治体権限のため限界はあるものの、現行のパートナーシップ制度にもう少し後ろ盾の強さがあれば、当事者たちがその人らしく暮らせる方法の選択肢が広がるのではないでしょうか。
おわりに
記憶にまだ新しい2021年5月末、政治の世界では超党派で合意したセクシャルマイノリティの課題に関する「LGBT理解増進法案(通称LGBT法案)」の国会提出が見送られてしまいました。
LGBTQを取り巻く環境がなかなか変わらない一方で、同性同士の婚姻を求める声を受け止めるように広がっていくパートナーシップ制度。改善の余地があるものの、誰もが少しでも自分らしく豊かに生きるためのチョイスが増えたことは、喜ばしいことといえます。市民から地方行政へ、地方行政から国政へと、個を認め合う認識が伝わっていくことを願ってやみません。
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