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1日10分の免疫学(62)移植と免疫④
腎移植における免疫抑制
本「腎移植を例に、臓器移植で行う免疫抑制について紹介します」
大林「免疫抑制剤を使うと、感染症にかかりやすいから病原体感染の対策も必要になりそう」
本「免疫抑制剤の副作用の1つとして、腫瘍もある。移植患者の腫瘍発生率は、移植を受けていない患者の平均3倍」
大林「細胞傷害性T細胞(CTL)も抑制されるからか……」
本「まず、移植の前に免疫抑制状態を誘導する」
大林「免疫抑制剤を投与するんだよね、どんなの?」
本「例えばウサギ抗胸腺細胞グロブリンrabbit antithymocyte globulin:rATG(サイモグロブリン)」
大林「名前が長い!ウサギにヒトの胸腺細胞に反応させて作らせたグロブリンってこと?」
本「rATGはT細胞、B細胞、NK細胞、樹状細胞、上皮細胞に結合し、ヒトの補体を効率的に活性化し、食細胞によって白血球が殺傷されるようにする」
大林「さらっと色々大まかに言ったな??わかりにくいじゃないか。食細胞(好中球とマクロファージ)も白血球だし、食細胞が他の白血球を殺傷するって?細胞傷害できるのはNK細胞とTc細胞(CTL)だけだから、食細胞の攻撃は『貪食』だよね?食細胞が他の白血球を丸呑みするの?」
本は答えない!表現を統一してくれぇ~
大林「……ともかく、rATGを使うと、食細胞vs.食細胞以外の白血球ということか」
本「アレムツズマブalemtuzumabや抗CD52抗体も同じ効果をもつ」
大林「CD52はリンパ球、単球、マクロファージに発現してるから……ひたすら好中球が自軍を貪食?!」
T細胞を抑制する
本「T細胞の活性化で主要なサイトカインはIL-2であり、T細胞が産生してオートクリンもしくはパラクリンに作用し、T細胞上のIL-2受容体に結合する」
大林「私はオートクラインと呼ぶ方が好みだなぁ」
オートクリン(オートクライン、自己分泌、autocrine):分泌された物質が、分泌した細胞自身に作用する。
パラクリン(paracrine):分泌された物質が、分泌した細胞の近隣の細胞に作用する。
本「抗CD25抗体は、このIL-2受容体に強く結合してT細胞の活性化を阻害する」
大林「なるほど、IL-2がIL-2受容体に結合する前に抗CD25抗体が結合してT細胞の活性化を阻害するわけね」
本「抗CD25抗体は、活性化されつつあるT細胞に極めて選択的で、その他の細胞には影響与えない」
大林「おぉ!じゃあ移植臓器に反応して活性化しつつあるT細胞を効率的に抑えやすいってことか!……まぁ、別の病原体に対して活性化されつつあるT細胞も巻き添えになるだろうけど」
本「細胞傷害性薬剤cytotoxic drugは、細胞分裂と増殖を阻害する。腎移植で用いられるアザチオプリンazathioprineは、細胞がDNAを複製開始するとその細胞を死滅させる」
大林「えっ、分裂と増殖を阻害するだけじゃなくって死滅させるの?!」
本「細胞傷害性薬剤は選択性がなく、細胞分裂を繰り返してる組織にも付随的に損傷を与える」
大林「あああ!知ってる!細胞分裂が活発な組織がダメージ受けるんだよね、抗がん剤で髪が抜けるのと似たパターンだ!」
本「そう。最も影響を受けるのは、骨髄、腸管上皮、毛包。これにより、貧血、血小板減少、腸管損傷、脱毛が起こる」
提供される臓器は患者数を下回る現状
本「免疫抑制剤により、HLAの不一致がある死体腎でも移植が可能となってきたが、それでも臓器提供の数は不足している」
大林「移植ツアーとか臓器売買とか問題になってるよね」
本「打開策として、動物の臓器を使う異種臓器移植xenotransplantationも原理的には可能と考えられている」
大林「ブタの臓器がヒトの臓器と同じくらいのサイズだから候補になってるんでしょ。拒絶反応は大丈夫なの?」
本「ほとんどのヒトは、ブタの内皮細胞に結合し超急性拒絶反応を起こす抗体を持っている」
大林「大問題じゃん!」
大林「えぇと、ブタの場合は、同種異系抗体じゃなくて異種……?」
本「異種抗体xenoantibody。これが結合する豚の内皮細胞上の糖鎖抗原は異種抗原xenoantigenと呼ばれる」
大林「はぁ…同種ではないから余計に拒絶反応大変そう」
本「それだけではない。臓器移植のために免疫抑制状態の患者にブタの臓器を移植することでブタ内在性レトロウイルスが感染する可能性もある」
大林「新しい技術で、できることが増えると、未知の危険の可能性も現れるわけか、大変だ……」
拒絶反応等は移植臓器によって異なる
本「臓器によって移植による抗原刺激の強さや反応の性質が異なる。角膜は最も早く(1905年)移植に成功した固形臓器であり、HLAが一致しなくても90%以上成功する」
大林「そういえば昔、少女漫画で角膜移植の話読んだ!全然関係ない交通事故で死んだ人の角膜が提供されてた!なんで拒絶反応が起きないの?」
本「眼の角膜と前房は透明で正確に光を通さなければならない。透明であるために脈管構造がなく、炎症が起こると視覚が損なわれるため炎症抑制する環境である」
大林「なるほど」
角膜(cornea):目を構成する層状の組織の一つであり透明である。最も外界に近い部分に位置する。
前眼房(ぜんがんほう、anterior chamber):虹彩と角膜の最内層の内皮細胞との間の眼の内側の液体に満ちた領域。前房(ぜんほう)ともいう。
本「肝臓も、HLAクラスⅠとⅡが大きく異なっていても移植が成立する」
大林「肝臓?!マジで?なんで?」
本「肝臓の解剖学的構造と脈管構造は独特で、また肝実質細胞にはHLAクラスⅠ分子は極めて少なく、クラスⅡ分子は見られない」
大林「はぁ、肝臓は日々いろんな非自己タンパク質を処理してるからなのかな…」
今回はここまで!
↓細胞の擬人化漫画や、細胞の世界をファンタジー風に描いています。