見出し画像

1日10分の免疫学(52)生体防御機構の破綻④

後天性免疫不全症候群について

(acquired immunodeficiency syndrome:AIDS)

本「後天性免疫不全症候群は、1980年代初頭に医師によって記録された病気」
大林「CD4T細胞が減少するんだよね。それでちょっとした感染でも重篤化するようになる」
本「AIDSの原因ウィルスは、ヒト免疫不全ウイルスhuman immnodeficiency virus:HIVで、HIV-1,HIV-22種類に分類されている」
大林「知らなかった、どう違うの?」
本「ほとんどの国で主要な原因ウイルスはHIV-1。HIV-2は病原性が低く、AIDS発症まで時間がかかる。HIV-1はチンパンジー由来、HIV-2はマンガベイ由来と考えられている」


大林「サルはAIDS発症しないの?」
本「チンパンジーやマンガベイ他39種類のアフリカザルに、HIV類縁ウイルス病気を引き起こすことはない
大林「共存(?)できてるのか……」

HIVはレトロウイルス

本「HIVレトロウイルスです」
大林「レトロウイルスって何だっけ?レトロ……懐古主義?古いウイルスってこと?」
本「RNAゲノムを基にDNA中間体を合成するからレトロウイルスと呼ばれる」
大林「RNAからDNA?普通は逆じゃない?」
本「そう、多くの生物とは逆の(retro)機構である」
大林「レトロってそういう意味か!」

本「ヒトのゲノム約8%レトロウイルスに似た塩基配列でできている」
大林「は?どういうこと?」
本「ヒトゲノムレトロウイルスのゲノム永久的に統合されて転写産物がすべてのヒト組織で見られることから、内因性レトロウイルスと呼ばれる」
大林「えぇと、つまり、過去にレトロウイルスがヒトに入り込んで、そのゲノムがヒトに組み込まれてしまったってこと?それってウイルスなの?もはやヒトの一部なの?」
Wiki「ウイルスは、他生物の細胞を利用して自己を複製させる」
大林「その定義なら、内因性レトロウイルスもウイルスか……」
本「これに対し、HIV外因性レトロウイルスです」

本「レトロウィルスヒトの体を長い間利用し続けて、ヒトの免疫から逃れる巧妙な仕組み進化させてきた。しかも、レトロウイルスは今やヒトの一部となっているので、外因性レトロウイルスであるHIVもヒトの免疫系で防ぐのは難しい」
大林「わかるようなわからんような……レトロウイルスはヒトの一部に組み込まれてるから(内因性レトロウイルス)、敵認定されにくく、外因性レトロウイルスも排除しにくいってことかな。なんだか生存戦略的にはウイルスが水面下でじわじわ優勝してない?大丈夫?なにが勝利なのかわかんないけど」

プロウイルスとビリオン

本「HIVは、細胞に感染すると、逆転写酵素相補鎖DNA(complementary DNA:cDNA)にコピーされる。cDNAは宿主細胞のゲノムに組み込まれて、プロウイルスが形成される」
大林「プロウイルス??」

Wiki「プロウイルス (provirus) とは、レトロウイルスにおいて宿主ゲノムDNAに組み込まれた状態で、RNAに転写されるにあること」
羊土社「レトロウイルスのRNAゲノムは逆転写酵素によりDNAに変換された後,インテグラーゼによって,細胞のゲノムDNAに組込まれる.この状態のレトロウイルスをプロウイルスとよぶ.」

大林「えぇと……レトロウイルス→ヒト細胞に侵入(感染)→レトロウイルスのRNAがDNAに変換→細胞のゲノムDNAに組み込まれる←この状態がプロウイルスと呼ばれるわけか」

本「プロウイルスは、宿主細胞の転写翻訳機構を使ってウイルスタンパク質RNAゲノムを作り、これらは集合して新しい感染性ウイルス粒子(ビリオン)となる」
大林「ビリオン???」

Wiki「ビリオン (virion) は、細胞外におけるウイルス (virus)の状態。完全な粒子構造を持ち、感染性を有するウイルス粒子のこと。」

大林「『状態』に着目したウイルスの呼び名ってこと?プロウイルスのプロって、プロフェッショナルの略ではなく、接頭語pro(前へ)って意味かな。B細胞の分化でもプロB細胞とかいたよね。プロウイルスは『これからウイルスになる状態』みたいに把握しておけばいいか……そして、ビリオンはウイルスが細胞外にいる状態」

本「プロウイルスは感染したCD4T細胞や樹状細胞、マクロファージに運搬され、ビリオンは血液、精液、膣液、母乳などで伝播する」
大林「OK,把握。プロウイルス感染細胞のゲノムに組み込まれた状態だから、感染細胞によって運搬されるわけだ。そして、ビリオン細胞外にいる状態だから、体液で伝播する!」

HIVのターゲット

本「HIVはCD4を細胞受容体として利用するので、CD4を発現しているCD4T細胞、樹状細胞、マクロファージに感染する」

◆復習メモ
CD4の「CD」は、細胞の表面にある分子の国際分類名。cluster of differentiation (分化抗原群)。数字は決定順で、意味はない。
細胞表面にさまざまな分子を発現していて、この分子の違いで細胞を識別できる。

CD4T細胞とは、CD4が表面に発現しているT細胞のこと。ヘルパーT細胞や制御性T細胞などがある。

T細胞は、胸腺hymusで分化・成熟する免疫応答を担う細胞。表面にCD4が発現しているものはヘルパーT細胞、制御性T細胞に分化し、CD8が発現しているものは細胞傷害性T細胞(キラーT細胞)に分化する。

ヘルパーT細胞は、サイトカインの分泌により様々な免疫応答誘導・強化する、いわば「免疫の司令塔」の役割を担うT細胞。

マクロファージは、病原体など人体にとって不要なものを細胞内に取り込んで殺菌・分解する大型の貪食細胞(大食細胞)で、貪食するだけでなく、ヘルパーT細胞への抗原提示や、サイトカインの分泌により好中球(小食細胞)やナチュラルキラー細胞を感染現場に誘導強化する役割を担う。いわば「自然免疫の指揮官」。

樹状細胞は、抗原提示と相互作用により、未熟なT細胞とB細胞エフェクター細胞に分化させる。(つまり獲得免疫を起動するのに樹状細胞は必須の存在)

抗原提示とは?
獲得免疫(適応免疫)を担うB細胞とT細胞は、一つ一つに個性があり、特定の抗原(病原体など攻撃対象のこと)にしか反応しない。
細胞はMHC分子抗原の欠片を載せて、B細胞やT細胞に抗原の存在を知らせる(これを「抗原提示」という)。
MHC分子にはクラスⅠクラスⅡの2種類があり、ほとんどすべてのヒト細胞はMHCクラスⅠ分子をもつ(赤血球はもたない)。
ヘルパーT細胞に抗原提示するにはクラスⅡが必要であり、クラスⅡをもつ主要な細胞はB細胞、マクロファージ、樹状細胞である。この3つは「プロフェッショナル抗原提示細胞」と呼ばれる。

大林「HIVがこれ↑を知って狙ってるのではなく、たまたまだろうけど、CD4を狙うとかマジでヒトの免疫系の攻め処だな……獲得免疫が壊滅しますやん」

今回はここまで!

いいなと思ったら応援しよう!