1日10分の免疫学(64)移植と免疫⑥

HLAが適合していてもGVHDは起こる

本「HLAが適合していても、多くの患者でGVHDの発症が認められる。特に姉妹から骨髄を提供された男性に多い」

GVHD(graft versus host disease:移植片対宿主病):ドナーのT細胞が、レシピエント(宿主)の組織細胞を攻撃する現象。ドナーのT細胞が宿主のHLA(MHC)を認識して活性化される(アロ反応)ことで惹起されると考えられている
★★留意★★
移植における「拒絶反応」とは、ドナーの移植片に対するレシピエントの免疫系の攻撃。移植片にいるドナーのT細胞がレシピエントを攻撃する移植片対宿主病とは別物。

拒絶反応:患者の免疫系が、移植臓器を攻撃。
GVHD:移植臓器由来のT細胞が、患者の組織を攻撃。


大林「なんで?X染色体上に免疫に関する遺伝子が多いから?男性はXYで少ないから?」
本「男性だけが持つY染色体にコードがあるタンパク質に由来したH-Y抗原によりGVHDが引き起こされる」
大林「なるほど。女性にはY染色体がないから、Y染色体上にコードがあるタンパク質に反応するT細胞は、胸腺で除去されないからか」

◆復習メモ
T細胞は、分化の過程で遺伝子再編成ができ、それぞれ異なるT細胞受容体を持つ。その膨大な数のバラエティにより、未知の抗原にも対応できるようになっている。
その多様性により、自己抗原に反応する(自己を攻撃してしまう)T細胞も現れるため、それらは胸腺(hymus)で選別され、排除される仕組み。
ここで排除されるのは「主な自己抗原に反応するT細胞」であるため、他人であるドナー由来の抗原に反応するT細胞は排除されておらず、移植臓器に対してアロ反応する(同種異系への反応をする)T細胞はほぼ当然に存在するということになる。

本「H-Yのようなアロ抗原は、結合したペプチドが異なる
ことで同種異系間の違いを生む。副組織適合抗原minor histocompatibility antigenと呼び、その遺伝子は副組織適合遺伝子座minor histocompatibility locusと呼ばれる」
大林「性別の違い……Y染色体の有無に関するものってこと?」
本「常染色体上にも数多くある」
大林「うわぁ」

移植前に成熟T細胞を取り除けばよいのか

大林「じゃあ、HLAが適合でも安心ではないってことか、T細胞を完全に取り除くしかないなぁ…」
本「GVHD重症化を予防するために成熟T細胞を除いておくと、生着率低下し、がんの再発率上昇する」
大林「どういうこと?」
本「アロ反応性T細胞応答は、移植において、レシピエントの免疫系を抑制して生着を助けがん細胞を除去している。移植片対宿主反応は有益と考えられる」
大林「よくわからん。さっきまで移植片対宿主病の話をしてたのに、移植片対宿主反応は有益って?『病』レベルに至らない『反応』はむしろ移植に有益ってこと?」

本は答えない!

大林「えぇと……GVHD(graft versus host disease:移植片対宿主病)は、移植片に含まれているドナーのT細胞が、レシピエント(宿主)の組織細胞を攻撃するんだよね。これが重症化すると非常に危険。だから予防する必要がある。でも、ドナーのT細胞を完全に除去するよりも多少存在する方が移植の成績が良い。その理由は、ドナーのT細胞が、レシピエント側に残存している免疫系の拒絶反応を抑制し、移植した造血細胞の生着に資する。レシピエントのがん細胞も倒す。こういうことですか?」

本は答えない!

本「自家移植がん再発率が高いって話覚えてる?」
大林「覚えてるけど、それはがんになった患者の細胞だからがんになりやすいとかではないの?」
本「自家移植や一卵性双生児間の移植などのアロ反応性が全くない移植は、生着の不成功がん再発率が高い」
大林「何でなの……」
本「HLAが一致している場合、副組織適合抗原による急性GVHD後は移植の長期的な予後が良好」
大林「わかったような、わからんような」
本「移植骨髄中のアロ反応性T細胞が、患者に残った白血病細胞を除去する作用を移植片対白血病効果graft-versus-leukemia effect:GVL効果移植片対腫瘍効果graft-versus-tumor effect:GVT効果と呼ぶ」
大林「あー!それ早く言ってよ!さっきの予想がほぼ当たってた!」

本「今日では、患者の造血系完全には破壊しないより緩やかな移植前処置をに行う」
大林「敢えてレシピエントの残存兵とドナーの兵を戦わせるわけね……」
本「GVL効果を出すために、重症のGVHD発症の可能性が低くなってきたときにドナーのリンパ球やT細胞を移入する試みが行われている」
大林「しかも後から追加するわけね……」

まとめ

造血細胞移植は、移植前患者の腫瘍細胞と骨髄を破壊し、拒絶反応移植片対宿主病防止するため、免疫抑制剤と抗体が投与される。
移植は、HLAの一致副組織適合抗原の僅かな違いがあることが望ましい。ある程度の移植片対宿主病生着促進がん再発防止の効果がある。

今回はここまで!

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