1日15分の免疫学(93)防御機構の破綻13
HIVによる免疫不全について(つづき)
本「HIVのウイルス複製には、ウイルス産物であるNef,Vif,Vpr,Vpuという蛋白質も必要。これらはウイルスの複製を阻害する宿主細胞性蛋白質である抗ウイルス制限因子restriction factorに打ち破るために進化したと考えられる」
※ヒト免疫不全ウイルスhuman immnodeficiency virus:HIV
大林「要らねぇ進化だ!」
本「Nef(negative regulation factor)は多岐にわたって重要な機能を果たす」
大林「負の制限因子?ネフって読んでいいの?」
本は答えない
本「感染初期には、部分的にTCRの域値を下げ、CTLA4発現を抑制する」
※TCR:T cell receptor:T細胞受容体
※CTLA4:細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA-4)は、免疫応答を負に調節する免疫チェックポイント受容体
大林「閾値ではなく?領域の値って意味合いかな…。CTLA4はT細胞を抑制するのだからウイルスには好都合なのでは?」
本「いや、複製するにはT細胞が活性化し続けるほうが好都合」
大林「そういえばそうだったね。ウイルスが複製するには宿主細胞の活性化が必要……ということは、Nefはウイルスが増えるのに役立つってことか」
本「だけでなく、免疫回避にも役立つ。MHCクラスⅠとⅡの発現を低下させる」
大林「オゥ……MHCが出ないとCD8T細胞が感染細胞を殺せないじゃん」
◆復習メモ
MHC分子:主要組織適合遺伝子複合体major histocompatibility complex。ほとんどの脊椎動物の細胞にあり、細胞表面に存在する細胞膜貫通型の糖タンパク分子。ヒトのMHCはHLAと呼ばれる(ヒト主要組織適合遺伝子複合体Human Leukocyte Antigen)。
MHC分子は2種類あり、クラスⅠ分子はほとんどすべての細胞に発現しているが、Ⅱ分子はプロフェッショナル抗原提示細胞(樹状細胞、マクロファージ、B細胞)といった限られた細胞にしか発現していない。
T細胞:自己非自己を認識できる免疫細胞。胸腺Thymusで成熟するためT細胞と呼ばれる。MHC分子と抗原ペプチドの複合体を認識するので、MHC分子が発現していない対象(例:赤血球)には反応しない。
細胞表面分子CD4を発現するT細胞は、CD4T細胞とも呼ばれ(ヘルパーT細胞や制御性T細胞に分化する)、MHCクラスⅡ分子を認識する。
CD8を発現するT細胞はCD8T細胞とも呼ばれ(細胞傷害性T細胞に分化する)、MHCクラスⅠ分子を認識する。
※CD分類:細胞の表面にある分子の分類基準。
本「NefはCD4の発現も抑える」
大林「CD4?CD4に結合して細胞内に侵入するのに何で?」
本「CD4は、ウイルスが出芽するときにビリオンに結合して放出を阻害する」
※ビリオン:細胞外におけるウイルス の状態であり、完全な粒子構造を持ち感染性を有するウイルス粒子のこと
大林「あっ、CD4でくっついて中に入るということは外に出るときもくっついてしまうということか?!」
本「Vif(viral infectivity factor)はAPOBECの作用を妨害する」
大林「ウィルス感染力の因子?APOBECとは?あっぽーぺん?」
本「逆転写されたウイルスcDNA内のデオキシシチジンをデオキシウリジンに転換することでウイルスタンパク質をコードする遺伝子を破壊するシチジンデアミナーゼ」
大林「はっはっはよくわからんな!とりあえずウイルスの遺伝子を破壊するAPOBECをVifが妨害するんだな!」
本「Vpu(viral protein U)は、テザリンという分子の作用を妨害してウイルス粒子の放出に役立つ」
大林「ウイルス蛋白質U?テザリンって?」
本「テザリンは、細胞膜とウィルスエンベロープの両方に突き刺さって、成熟ウイルス粒子が細胞から放出されるのを阻害する」
大林「ほー、そしてVifはテザリンを妨害するわけか」
本「Vpr(viral protein R)は、SAMHDIを標的にしていると考えられる」
大林「覚えられないアルファベットの羅列が容赦ねぇな!なにそれ?」
本「SAMHDIは、逆転写酵素がウィルスcDNAを構成する際のデオキシヌクレオチド(dNTP)の利用を制限して、骨髄細胞と静止期CD4T細胞へのHIV-1感染を防ぐ」
大林「……とりあえずあの手この手でウイルスが戦略を打ち出してきてるのはわかった」
本「HIVは特定の細胞にのみ感染する指向性があるので、感染細胞を介する経路でも感染しうる」
大林「マジか」
本「ウイルスは、CD4T細胞が高濃度に存在する所属リンパ節で増殖し、血流を介して広範囲にばらまかれ、CD4T細胞が最も多く存在する腸管関連リンパ組織に広く侵入する」
※腸管関連リンパ組織gut-associated lymphoid tissue:GALT
大林「ああああ!GALTがあああ」
本「性感染では生殖器または直腸の粘膜組織、母子感染では上部消化管。これらの部位は常在細菌に常にさらされているのでたくさんの活性免疫細胞が存在する」
大林「さっきも、HIVが複製するには活性化しているCD4T細胞が好都合って言ったよね……うわぁ」
大林「ところでCD4T細胞の中でHIVが複製しまくって細胞外に出て行くのはわかったけど、どんな風にCD4T細胞が減っていくのさ?」
本「インフルエンザ様の症状を呈する急性期はだいたい数週間続いて、CCR5を発現するCD4T細胞内でウイルスが急速に複製し、ウイルス細胞変性効果でGALTのCD4T細胞が死滅する」
大林「HIVはめっちゃ増えるって言ってたね……ウイルス細胞変性効果ってなに?」
WEB「ウイルス感染の結果、培養細胞に認められる形態的変化を細胞変性効果(cytopathic effect、CPE)と総称する。主なCPEとして、細胞の円形化、集合、膨化、脱落、溶解、顆粒状化、合胞体形成などがある。ウイルスが増殖してもCPEが起こらないものもある。」
本「マクロファージと樹状細胞は、ウイルス複製による細胞溶解に耐性があるようである」
大林「推しには耐性がないのか……哀しい」
本「適応免疫応答の成立時は、急性期病態と高度のウイルス血症が見られる。特異的細胞溶解性CD8T細胞がつくられ、感染細胞を殺し、ウイルス特異的抗体が血清中で検出可能になる(抗体陽転化seroconversion)」
大林「やったあ!推しが登場!活躍?!」
本「CTL応答の成立はウイルスの早期制御をもたらし、ウイルス力価の急激な低下とCD4T細胞の反動的増加をもたらす」
※CTL:Cytotoxic T lymphocyte、細胞障害性T細胞、CD8T細胞のこと
大林「おぉ!勝った?!」
本「この段階はウイルスセットポイントと呼ばれ、臨床的な潜伏期となり、CD4T細胞の緩徐な低下が継続する無症候期に移行する」
大林「えぇ……ウイルスが静かになるとMHCクラスⅠで提示されなくなるからCD8T細胞が検知できなくなるってことか……潜伏期はHIV特異CD8T細胞はどうしてるの…?」
本「HIV特異的な抗体と共に監視を続けるよ」
大林「心強く感じるけど……未来が暗い」
本「このような抗ウイルス免疫応答の強い選択圧で、HIVエスケープ変異体escape mutantが選択される」
大林「推しの監視下でウイルスが逞しくサバイブするわけか」
本「これにより、一人の患者の中で多くのウイルス変異株が生じる」
大林「1人の中でも多くの変異株が生じるということは…」
本「患者集団全体ではもっと広範な変異が生じる」
大林「ヒェ…潜伏期に入る前に完全に排除できないの?」
本「排除は極めて稀」
大林「じわじわCD4T細胞が減っていくのか……」
本「免疫機能を維持できないほどCD4T細胞を徐々に減少させる要因としては、CTLによる破壊、潜伏ウイルスを活性化させる免疫の活性化、ウイルス細胞変性効果の進行、胸腺からのT細胞の供給不足などがある」
大林「待っ……一番最後のすごく気になる!」
今回はここまで!
細胞の世界を4コマやファンタジー漫画で描いています↓
※現在サイト改装作業中なのでリンクが一時的に切れることがあります