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「NGOの文章術」あとがき
note版あとがき
(e-book巻末の「電子版あとがき」より抜粋)
最後までおつきあいいただき、ありがとうございました。「いまどき、こんな小難しい内容を読もうという人がいるかな?」と躊躇(ためら)いながらも、キャリアの節目に自分で自分の背中を押した連載でした。
話し言葉や私的な書き言葉がどれだけ変化しようと、言語の自然ななりゆきですし、筆者も面白がっているところがあり、たまに若い人たちのスラングを真似てみたりもします。しかし、一定の公式性を帯びた外向きの文章は、そういうわけにいきません。どれだけ相手(つまり読み手)の身になれるかが問われるからです。
たとえば、トップはやり手で、会社も優れた仕事をしているように見えるけれども、社員から届くメールの中に狭い業界用語のようなものがいくつも出てきて、こちらで調べたり、ときには質問を返したりしなければいけない――そんな企業は要注意であることを、経験から学びました。なぜなら、その自分本位な感覚(70を過ぎた目には子どもっぽさと映る)は結局、業務全体にも顧客の扱いにも表われ、また組織の内外に見えにくいストレスを蓄積していくからです。もちろん、NGO/NPOも同じでしょう。
「いや、うち(or自分)は違う!」と言うのなら、読み手を十分に配慮した文章を書き、自己チェックに努め、読んで通じるもの、読みやすいものを送り出してください。筆者の願いはそれに尽きます。そうすることで、団体であれ個人であれ信頼性が高まり、仕事や社会・世界に関する自らの理解も深まるはずです。
連載を振り返り、まだ表現しきれていなかった次の点を追記したくなりました。
一方で、書き手として伝えたいこと、伝えたい気持ちがあり、もう一方で、どうしたらうまく読み手に伝わるかを常に検証しながら書き進むことは、継続的な綱渡りか、一瞬一瞬、両方のあいだを往復運動する絶妙なバランス行為です。そのアクロバット感こそ、文章術の醍醐味かもしれません。
スポーツと同じで、細かいルールや上手下手はさておき、それを楽しめる仲間が一人でも増えたら本望です!
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