Trees As Infrastructure インフラストラクチャーとしての街路樹 後編
Dark Matter Labs
Translation: Takeshi Okahashi & Rina Horisawa
Dark Matter LabsによるMedium記事「Trees As Infrastructure
: An open source model to support municipalities in transitioning toward resilient urban forest management practices」の後編を訳出しました。日本語への翻訳と掲載にあたっては、Dark Matter Labsの了解をいただきました。
この記事は2つの関連する記事の2つめです。最初のブログ記事では、なぜ各地の自治体が街路樹を増やしていくことに苦労しているのかを検証しました。
今回の2つめのブログ記事では、各都市がグリーンインフラストラクチャーづくりに移行していく際に参考となる事業案について論じます。
Top画像は、メルボルンのアーバンフォレストのビジュアルプラットフォームを通じて送られた1通のツリーメールです。 (*訳者注: 画像中のメール文を訳すと以下のようになります。人間から木へのメッセージの形をとっています)
ハロー、さみしい銀梅花さん
ちょうど今あなたの近くに座っていて、ふとアーバンツリーマップを見て気づいたのですが、あなたの近くには友達があまりいないようですね。それは寂しいなと思って、私があなたのことを思っているよ、ということを伝えたいと思いこのメールを書きました。それと、いつも私たちのために酸素を作り出してくれてありがとうございます。街の喧騒の中であくせくしているとどうしても必要なんですよね。
それでは
Nより
今や、気候変動を緩和させ、適応していくための目標値は益々高まっています。それらを達成することは、根本的に異なる方法で都市をデザインし生活するやり方を学んでいくことだ、と私たちは気づいています。ストリートの形態、消費習慣、教育や人材育成、経済成長の原則、そして私たちと植物や動物種との親密な関係などをひっくるめて考え直す必要があります。木々は私たちより前から存在し、私たちが滅亡した後も存在し続けます。私たちは何世紀にもわたって樹木と同居してきましたが、現在では、歪んだ経済的な原則や運用上の原則に合わせるように、どんどんと「最適化」され、高度に管理されたアーバンフォレスト環境とともに生活しているのが現実です。都市の樹木が持つ本来の価値を評価し、木々がのびのびと繁栄する必要性に共感し、都市において人間と樹木が積極的に「協力」して、より良い結果を達成する方法を、私たちが学びなおすにはどうすればよいのでしょうか。自然の成長サイクルを強化することだけを考えているグリーンインフラストラクチャーに関する、私たちの間違った調達モデルや流通モデルから抜け出すには何が必要なのでしょうか?人類学者のエドゥアルド・コーンは、次のように書いています。
“To engage with the forest on its terms, to enter its relational logic, to think with its thoughts, one must become attuned to these.”
「もしあなたが森と同等に関わろうとするのであれば、その関係性のロジックに入っていき、その考え方とともに学ぶように、あなたが木々に調子を合わせていかなくてはならない」
私たちが「Trees As Infrastructure インフラストラクチャーとしての街路樹(以下、Trees as InfrastructureあるいはTAI)」と呼んでいる提案は、人々がアーバンフォレストと共生できるように都市の開発を支援する「ライブ」(生きた・生命的な・ライブの)・グリーンインフラストラクチャーの分散管理モデルです。これは、街路樹を街の構造物や舗装、施設にダメージを与える存在だと不当に決めつけず、街路樹を大切に育てていくのに役立つモデルと言えます。つまり、住民が通常期待するような小綺麗で管理された景観になるように過度に「きれいにする 」のではなく、私たちの緑地を再野生化することや、木々がもたらす予防的な健康上の利益をより効果的にすることによって、近隣をより住み良いところにしていくことに役立つモデルなのです。私たちの提案には、制度的なパラダイムシフトの連続が含まれます。順番としては、1)繁栄する(thriving) グリーンインフラストラクチャーを維持するために必要な財源を確保し、2)都市の生態系を管理および維持するための新しい実践を開発し、3)アーバンフォレスト化の数値目標を達成していくための環境的、健康的、および社会的な影響を観察し、評価していきます。
以下に続く文章では、まず「Trees as Infrastructure」モデルがどのように機能するのかを説明します。次に、私たちの提案に含まれる重要な構成要素(例えば、成果物の小規模契約、集団的なメンテナンスの実践、データモニタリングなど)について説明しながら、分散型のグリーンインフラストラクチャーが育っていくプロセスを伝えます。そして第三に、レジリエントな(復元力のある)アーバンフォレストの未来をつくっていくにあたって考慮するべき、より広範な社会的・ガバナンスに関する意味合いのいくつかを説明します。
新しい「フォレストインフラストラクチャー」のためのモデル
現在進められている野心的な植林プロジェクトの多くは、自治体が主導しているという事実がありますが、最終的にはアーバンフォレストづくりを成功に導くためには、自治体に頼るだけでは十分ではありません。グリーンインフラストラクチャーづくりを成功に導くため、つまり多くの政策立案者が願う包括的な成果を達成するには、ほとんどのケースで、その街に住み、その街をつくりだしている多くの関係者の関わりと投資と気づかいが欠かせません。関係者とは、小さなコミュニティから土地所有者まで、そして複数の公共部門から民間部門まで、新興のイノベーターも大規模な公益事業も含みます。以下に、そうした関係者の人たちを類型化し、それぞれの役割についてまとめました。
<画像2 「Trees As Infrastructure」の開発に関与する市の関係者マップ>
LANDOWNERS / ランドオーナーズ(土地所有者)
グリーンインフラストラクチャを開発するために都市で利用可能な区画を作成できる土地の所有者(例:議会、高速道路・公共交通機関の管理会社、私有財産の所有者、開発者)。彼らの維持債務は移転されるだけでなく、代替の収入源を生み出したり、最近の気候政策主導のインセンティブの数の増加からペナルティコストを削減できる可能性があります。
GARDENERS / ガーデナーズ
ガーデナーには、街の緑地空間のメンテナンスを主に担っている公的機関や民間機関に加えて、樹木栽培についての知識全体の発展を支える成長著しい非営利の市民社会、社会的企業、および地元のグループ、そしてアーバンフォレストを開発していく地域の参画実践も含まれます。そして、そうした人たちの創造性やエネルギーややる気は、最適なタイミングでいっきょに解き放たれるわけではありません(若干の美しい例外は存在するにはしますが)。
URBAN FOREST / アーバンフォレスト
何千もの樹木、土壌、低木、茂み、動物などから構成される自然の生態系自体は、ますますアクターとして役割を持っているとみなされるようになっているようです。それは、樹木やその環境要素をセンシングし、それらとコミュニケーションするための洗練された、手頃で直感的なテクノロジーが発展してきたおかげです。こうした動きは、樹木がその環境に受動的に適応するかどうかや人間活動の目的にあっているかどうかという見方をするよりも、自分たちのグリーンインフラストラクチャーを対話相手としてみなすようになってきていることともつながっています。
BENEFICIARIES / 受益者
樹木のエコシステムからもたらされる環境への影響に、既得的な財政的利害関係を持っている公的機関や私的企業のこと。(例:輸送会社、水道事業会社、不動産開発業者、医療サービス、または地方自治体自体)。
INVESTORS / 投資家
確約された安定的な収益(ここには、主に金銭的なリターンを目的とした財政投資と社会的・環境的な成果を含む「ブレンドされた」リターンを目的とした投資、そしてリスクに対する異なる欲望を持つファイナンスなどが含まれている)と引き換えに、「Trees As Infrastructure」モデルのスケールアップと長期維持に資金を提供する投資の担い手たち(例:民間資金と財団、年金基金、およびその他のさまざまな資産管理者)のこと。
DEVELOPMENT TEAM / 開発チーム
幅広い潜在的な利害関係者と役割をまとめ、「Trees As Infrastructure」の提案を盛り上げ、市や都市圏をまたいだ提案とファイナンスを実現していくためには、行政担当者や財政担当者、他の専門家などを含む中核グループとなる開発チームが必要です。
「Trees As Infrastructure」という提案は、(上記のような)異なる都市の関係者たちをひとつのモデルの下で結びつけ、アーバンフォレストの成長とメンテナンスをサポートするための同盟やお互いのやりとり、投資の流れを形成していきます。 次に紹介する図は、私たちのモデルの中で想定されている関係者間の関係性と体制を示しています。 この後に説明されるそれぞれのステージは、あくまで参考指標であり、それぞれの都市に適用される場合は、その都市の文化的な文脈や形態(morphology)、及び経済的な展望によってまた違ったものになるでしょう。
<画像3「Trees As Infrastructure」モデルの組織図>
ステージ 0:セットアップ
開発チームは「ツリー財団(Tree Trust)」を設立します。これは、複数の当事者と契約し、さまざまな資金源(慈善事業、公的資金、および経済的利益やOutcomes Buyingを求める民間部門の資本を含む)から資金を調達できる独立した法的および財政的手段です。
ステージ1:開始
開発チームは受益者と協力して、グリーンインフラストラクチャープロジェクトを特定し、その成功の指標を決定します。利害関係者は、アーバンフォレストの植栽と維持に参加するために、ツリートラスト財団と成果ベースの契約を結びます(たとえば、受益者は、環境へのプラスの影響から受ける金銭的またはその他の利益の支払いを約束します。ガーデナーズは、アーバンフォレストの最も健康的な区画を育てるためのサービスを提供することに同意します)。
ステージ2:開発
グリーンインフラストラクチャープロジェクトが開始されます。土地所有者は区画へのアクセスを提供します。ツリートラスト財団は、新しい植栽であれ、メンテナンスやケアであれ、作業を行うガーデナーズに資金を提供します。
ステージ3:評価
新しく開発された都市の森林は、その成長や盛衰が全体にわたってモニターされ、それらがもたらす成果が測定されます(たとえば、キャノピーカバーの増加、土壌中の栄養素、生物多様性レベル、ヒートアイランド効果の減少など)。受益者(Beneficiaries)は、達成された結果に対して支払いを行います(次のセクションを参照)。ツリー財団は、ガーデナーの仕事に資金を提供し続けながら、受益者からの支払いの一部を投資家への固定収入として構成します。そうすることによって、土地所有者は区画内の維持管理作業をしてもらい続けることができます。
「Trees as Infrastructure(インフラストラクチャーとしての街路樹)」の構成要素
「Trees as Infrastructure(TAI)」とは、文化的行動を都市の自然にシフトすることであると同時に、合意や価値共有取引を通じて新しい都市の利害関係者との関係を形成することでもあります。 この点で、Trees as Infrastructureのそれぞれ異なるコンポーネントは、都市の木との財政的、官僚的、文化的関係に対応しています。 次の段落では、「TAI」モデルでは、どのようにして、(1)資金が集められ、物資が調達されるか、(2)維持され、ケアされるか、(3)モニターされ、評価されるか、ということを明らかにしていきます。
(1)アーバンフォレストの成果のマイクロコントラクト
スマートな契約の仕組み(smart contracts)を使用することで、受益者は、グリーンインフラストラクチャーの環境への影響により、オペレーションコストの一部を削減することを認識することに同意するようになります。 たとえば、上下水道事業者は、ピーク時の水の流出量が少なくなることで、下水道のメンテナンスコストが削減され、アーバンフォレストのもつ保水維持機能によって、下水のオーバーフローに対する罰金の支払いが少なくなるなど、コスト削減への効果を実感できるでしょう。また、商業ビルのオーナーは、空調コストの削減という利益を得ることができます。 一方、ガーデナーは、再野生化(rewilding)プロジェクトが生み出す結果に責任を負う形の契約を結んでいますが、公衆衛生システムは、植林に積極的な人々のおかげで、緑が増えて、そこで憩う人が増えることで、社会的処方とも言えるようなメンタルヘルスのコストを下げられるかもしれません。したがって、「Trees as Infrastructure(TAI)」モデルに含まれる契約には、以下の2つの性質を持つことになります。(1)マルテチラテラルな(複数の関係者間の利害を調整できる)合意がある。(2)成果ベース(outcomes-based)で考える。
第一に、レジリエントな(復元力のある)アーバンフォレストへの移行を支援するために必要な資金は、1つの利害関係者でまかなうことはできないため、「多数」対「多数」の契約が不可欠になります。 調査によると、環境インパクトボンド(Environmental Impact Bond)は、1つの受益者が大規模なグリーンインフラストラクチャープロジェクトの提供を担当している場合、環境および財務リスクレベルを大幅に増大させ、地方自治体や住民を危険にさらしてしまう可能性があります(たとえば、不明確な保守戦略や水道料金の値上げによって)。 一方、森林レジリエンスボンド(Forest Resilience Bond)は、フォレストリー管理機関、公益事業会社、飲料会社など、森林開発と管理の成功に直接関与する複数の関係者からの資本とインセンティブを組み合わせて資金を調達します。 同様に、「Trees as Infrastructure(TAI)」モデルでも、プロジェクトの資金を確保するために複数の受益者(Beneficiaries)が参加することによって成り立つモデルになります。
<画像4 グリーンインフラストラクチャープロジェクト例のフローチャート。複数の受益者にとっての潜在的な生態系利益と社会的利益の分析を示しています。>
第二に、これらの多数間のマルチラテラルな契約は、グリーンインフラストラクチャープロジェクトが生み出す成果に基づいています。 「プロダクトとしての樹木」または「コストとしての樹木」という、私たちが現在採用している伝統的アプローチは、どちらも増加する都市の植林目標に必要な資金を生み出すことができませんでした。 上記ですでに言及したいくつかの例は、生態系と社会の双方に対するプラスの影響を考慮して、「成果をもたらしてくれる提供者(Outcome Providers)」としてアーバンフォレストに投資する方法を示しています。 もちろん、そのような影響は複雑で相互に関連しています。 ただし、望ましい結果をもたらすことができる変数や条件を予測するための複雑なシステムがもたらす成果(outcomes)についてのモデリング(例えば、Climate Change AIなどの気候モデリングのデータ駆動型代理モデル)の世界は、かなり進歩しています。センシングおよびモデリングシステムの急速な進歩により、共通の成果が利害関係者を結び付け、繁栄する(thriving)アーバンフォレストの成長に向けてミッションと運用をすり合わせられるようになってきています。
<画像5 2つの異なるグリーンインフラストラクチャーデザインの将来に渡って
得られる推定利益を比較している成果/インパクトのモデリング>
アーバンフォレストが成果の提供者である場合、都市の樹木をどのように説明するかを変更する必要があります。現在、地方自治体の樹木は貸借対照表の費用として会計処理される傾向があります。しかし、この慣行を変えて、木を資産として説明するには何が必要でしょうか? それらが生み出す利益は、単一の利害関係者によって所有されているのではなく、私たちの多くに影響を及ぼします。ギブソン市が帯水層を貸借対照表に載せたのと同様に(灰色のインフラストラクチャーに置き換える必要があるコストに基づいて現在の価値を認めることができました)、都市の木は共有の市民資産と見なすことができます。動的な資産評価は、インフラストラクチャーの結果を共有する複数の金融受益者の間でその価値を広めるのに役立つ可能性があります。都市の森林が成長するにつれて、環境上の利益は倍増し、この資産の価値を高めます。そして、都市の森林の利益が直線的(徐々に)ではなく指数関数的に成長することはすでに私たちが知るところです。同様に、異常気象などの予測できないショックは、グリーンインフラストラクチャーのメリットを混乱させ、資産の価値を低下させる可能性があります。生成された結果と組み合わせてそのような要因を考慮に入れて、私たちは都市の森の将来の予測を計算し始めることができます。これは、(a)都市の森林をどこでどのように開発するかについてより多くの情報に基づいた決定を下し(画像5を参照)、(b)受益者と投資家がグリーンインフラストラクチャーをサポートするための金銭的インセンティブを理解し始めるのに役立ちます。
<画像6 プロジェクトの初期コストが長期的な利益によって
どのように相殺されれていくのかを示すデジタル台帳の表現>
(2)「自然樹木の理解」を通じた分散型生命維持
アーバンフォレスリー開発が我々の街で緑地を迎え入れ、育むために、大きな変革を起こそうとするのであれば、財政的なインセンティブだけでは十分ではありません。将来的には大きな文化的変化が必要であり、それはアーバンフォレスト実践に組み込まれた新しい類の共有された態度であり、それはまるで自然がそうするように友好的な関係や樹木間の関係、網目状の関係や寄生的な関係を育てていくことです。私たちがより多くの木のある都市で共に暮らすためには、グリーンインフラストラクチャーからの贈り物(ギフト)とグリーンフラストラクチャーへの私たちからのケアが贈与の中心になる必要があります。結局のところ、木は成長するのに何世代もかかるので、その成長に関して、私たちは皆、お互いに関係し、世代をも超えた倫理が要求される利害関係の中にいることになります。私たちは、樹木のメンテナンスを「他の誰か」によって行われる中央集権的かつ技術主義的な取り組みとして認識するのではなく、集団的知性、センスメイキング、さらには共感を築くための取り組みにしていくための条件を整える必要があります。
<画像 7 ギフトとケアの経済の未来を描いた姿。 左:共同の裏庭では、樹木剪定フェスティバルが開催され、樹木は花の咲く様子を隣人に届けます。 中:公園の木は日陰や遊び心のある冒険、果物の収穫の提供者になり、水が不足している場合や根の状態が良くない場合は、住民に通知がいきます。 右:車通りの少ないストリートは、ストリートパレードやシードボムと言われる自主種まきの成果探し(宝探し)から、散らかった草地の安全な掃除まで、新しい可能性を生み出します。>
こうした説明を読むと抽象的に思えてしまうかもしれませんが、実際に私たちはすでにそのような振る舞いを目にしています。 メルボルンのツリーメール現象では、何千人もの市民がお気に入りの街の木にラブレターを送信しました。これは、メルボルン市が市内のすべての木に一意のID番号を与えるオープンプラットフォームが作成されたために可能になりました。 コペンハーゲンの通りはまもなく共同果樹を迎え、住民と地元の植生や植物とのつながりをつなぎ直すことになります。 パリの permis de végétaliser は、都市全体にグリーンインフラストラクチャーのケアが行き渡るようにし、イギリスの Incredible Edible Todmorden では、(食用の)グリーンインフラストラクチャーへの大規模な市民参加により、場所のアイデンティティそのものが変化しました。 このように私たちは、コミュニティが、政策目標を達成するために植樹するだけでなく、彼らの生態系との全く新しい関係を確立することも可能であることを知っています。
テクノロジーの創造的な使用によっては、さらに先に進むことができます。果樹が収穫をプレゼントするために、その枝葉を伸ばすことができたらどうでしょう?あるいは、水不足や病気に苦しむ木が、人に追加のケアを求めるメッセージを送ることができたら?「Trees as Infrastructure(TAI)」は、このようなコミュニケーションチャネルの構築を提案していますが、これは現在技術的に可能になっています。 テキスト、音声、および画像認識を使った「自然言語理解アルゴリズム」は、人間の感情や精神状態と同じぐらいに表現できるほど進歩しています。 それと同様に、樹木のモニターセンサーを通じて収集されたデータを翻訳する「自然樹木の理解アルゴリズム)」を開発して、人間と樹木の間に遊び心のある「繋がり」を作ることもできるでしょう。
<画像8 街路樹の市民による保全とメンテナンスを奨励するための
ニューヨーク市公園評議会の意識向上キャンペーン>
(3)「Internet of Trees (樹木のIoT) 」を通じた成果のモニタリングと評価
私たちの都市の大規模な再造園は、1つの継続的なインフラストラクチャーではなく、アーバンフォレストマイクロ-サイト(urban forest micro-sites)の網目から成ります—プライベートガーデン、舗装された歩道、緑の屋根、公園、リデザインされた広場、放棄された土地…集合的にこれらは、都市の気候を徐々に和らげていきます。それぞれのサイトは、全く異なる生息地と形態となります。急速に増加しているソフトウェアおよび技術ツールは、そのような多様なサイトの開発をより適切にマッピング、モニター、および評価することを目指しています。「Trees as Infrastructure(TAI)」は、これらのテクノロジーを活用して、分散型グリーンインフラストラクチャーのデジタル表現であるInternet of Treesを構築することを提案しています。複数のテクノロジーが異なるデータセットを分析します。たとえば、リモートセンシングは、複数の森林マイクロサイトでデータを集めることで、複雑な所有構造を克服できます。地理的にローカライズされたセンサーとバイオセンサーは、地域の環境データを各樹木のマクロ気候とリンクさせ、周囲(土壌から空気の質、生物多様性レベルまで)に関連する木の健康を処理し、それによって生態系の利益を生み出す可能性をもたらします。
繰り返しますが、こういったことの多くはすでに存在しています。 Descartes Labs は、衛星画像を使用して都市全体の樹冠を特定するモデルを開発しました。これによって、自治体は従来の年次樹木調査よりもはるかに迅速に問題の可能性のある場所に気付くことができるようになりました。台湾の政府のシビックテックグループは、Googleマップに1500の植林するための潜在的なサイトをマッピングし、現在、保全団体をサポートするためのオープンな情報を提供しながら、土地所有者と協力してグリーンインフラストラクチャーの開発にプロットを使用する計画をしています。 Hise Scientific Instrumentationは、手頃な価格の高精度樹木計(樹皮にのせたストリングが環境の小さな変化を感知してワイヤレスでEcoSensorネットワークと呼ばれるクラウドベースのプラットフォームに報告する仕組み)を開発しました。これにより、科学者や学生は木の健康状態をリアルタイムでモニタリングし、炭素隔離能力を測って成長を予測できます。林業インベントリー企業であるTreeviaは、別のタイプのセンサーである SmartForest を開発しました。これは、とりわけ、初期の感染や害虫の攻撃を検出できます。米国森林局と多数の協力者は、アーバンフォレストを管理するためのオープンソースソフトパッケージである I-Tree を開発しました。さまざまなアプリケーションの中でも、I-Tree Hydro + は、都市植生の潜在的な水理学的影響(たとえば、河川の流れや水質)をモデリングするように設計されたスタンドアロンの非専門家ソフトウェアです。
この新しい「Internet of Trees(樹木のIoT)」は、さまざまな利害関係者がグリーンインフラストラクチャーについての理解を深めるために不可欠であり、テクノロジーによってデータの取得、管理、共有のコストが大幅に削減される可能性があります。 オープンなデジタルインフラストラクチャーを構築し、情報がオープンでアクセス・解釈可能であり、さまざまな関係者による継続的な市民の関与とイノベーションをサポートできるようにすることは重要です。 そうして初めて、大衆参加とケアの社会的および文化的運動の両方と、より強力なエビデンス基盤を作るための必要な豊富なデータを見ることができます。
<図像9 複数のマイクロサイトを監視し、生態系、社会、健康上のメリットを
評価するためのセンシングアーキテクチャ>
再生型発展(Regenerative Scaling)に関するより広い示唆:「Commons In The Loop(循環するコモンズ)」との新しい社会契約
ギャレット・ハーディンが1968年にかの説明をしたように、私たちは「一人一人のユーザーが、個人の利益のために独立して行動し、集団行動を通しては共有リソースを使い果たし、損なったりすることで、共有善(common good)とは真逆の振る舞いをする、リソース共有システムの中にいます。」私たちのコモンズは現在、無視され、搾取され、悪用されています。「インフラストラクチャーとしての街路樹(TAI)」の提案は、資金の流れ、利害関係者間の関係、都市での生活文化の変化に寄与しうる一連の技術的および制度的変革を通じて、現在の壊れた社会契約にどう対処しうるかの一例です。
もちろん、ここにはもっと大きな問題があります。急速な技術の変化に伴い、ガバナンスメカニズムの多くはアルゴリズムになりつつあります。これは、知識と都市で行動する能力を民営化することによって、ブラックボックスソサエティをさらに増幅し、コモンズに対するコントロールを失うリスクがあります。イヤッド・ラーワンは、社会全体の判断を社会的成果のアルゴリズム的ガバナンスに組み込むための、Society In The Loop(SITL)を提唱しました。SITLは、政府と人々の間の相互作用をサポートし、「AIシステムの影響を受けるさまざまな利害関係者の価値を交渉して」アルゴリズムによる社会契約を結びます。これは順に、人間中心のアプローチを超えて前進できる未来への窓を開きます。テクノロジーによって、アルゴリズムガバナンスに人間の意志だけでなく、樹木のニーズと「意志」も組み込むことができるでしょうか。 「Commons In The Loop(循環するコモンズ)」アプローチは、私たちと一緒に暮らす私たちの生態系の状態に関する考慮事項を、アルゴリズムによる社会的およびガバナンス契約に組み込むことを示唆します。
<画像10 社会契約における「循環の中の社会」vs 「循環の中のコモンズ」>
What's Next?
このブログでは、さまざまな関係者による都市のグリーンインフラストラクチャーに対する投資を増やし(そして実際に森をケアする)役割を果たすことを促すためにどんな変化(技術的、法規的、会計的など、相互に関係する変化)が必要なのかという提案のアウトラインを概説してきました。この提案で示してきたように、それぞれお互いに関係している要素のそれぞれは、特定の都市やその課題のコンテキストにおいて、さらに開発を進め、試行錯誤することができます。私たちは現在、このグリーンインフラストラクチャー提案のポートフォリオをさらに発展させており、「Trees As Infrastructure(インフラストラクチャーとしての街路樹)」の開発に必要な制度的および管理的パラダイムシフトのいくつかに焦点を当てています。たとえば、複数のスケールレベル(近隣ベースから都市ベースまで)で機能する成果ベースの投資モデルを使って、街路の非コンクリート化と樹木の増加のための複数の関係者によるマイクロ契約(Multi-party smart micro-contracts)のプロトタイピング開発を次なる目標に据えています。これらの実験は、アーバンフォレストを理解し、説明し、契約するという長期的な手続きを改善することを目的としています。そうすることで、世界中の複数の場所が都市の将来の繁栄と成長のために木の重要性を認識しつつあるいま、人間と樹木がどのように共に繁栄できるかを根本的に再考することができます。私たちは、より多くの都市がグリーントランジション(緑への移行)に関わり、貢献し、そしてその運動の一部となることを願っています。
<図像11 Tapestry of woodcutters at work, Tournai workshop, fifteenth century. Courtesy of the Musée des Arts Décoratifs, Paris>
謝辞を捧げる、Trees As Infrastructureの開発をワークショップやインタビューやインフォーマルなレビューなどを通じてサポートしてくださった皆さん: Andrew Gregson, Ban Yuan Chang, Ben Connor, Camilla Pandolfi, Carys Boyle, Dale Mortimer, George Collum, James Dalrymple, Jim Smith, Kate Raworth, Keith Sacre, Kieron Doick, Lorenzo Fassi, Marina Chang, Mary Stevens, Mathias Disney, Michelle Zucker, Naho Iguchi, Roger Barrowcliffe, Zoe Christo.
Trees As Infrastructureは、Dark MatterLabs全体で取り組んでいる数多くの実験プロジェクトの1つです。 参加に興味がある場合、または詳細を知りたい場合は、@DarkMatterLabsまでお知らせください。
この記事は、Dark Matter Labsのチームの以下のメンバーによる共著です。:Aaron Gillett, Bulent Ozel, Carlotta Conte, Indy Johar, Joost Beunderman, Konstantina Koulouri, Oguzhan Yayla and Fang-Jui Chang.
原文、リファレンスはこちら
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