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ACTANT FOREST:ニュースレター11月

Ryuichi Nambu

11月第1週にお届けしたニュースレター第一弾。せっかく書いたのにメールだけじゃもったいない。より多くの人に読んで欲しい。ということでサンプルとして一部転記します。

今回のテーマは「CITY REWILDING(都市の再野生化)」です。

今後のニュースレターに興味がある方は、Actant Forestのウェブサイトよりご登録ください。

CITY REWILDING:
スマートではない都市をつくるために

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私たちの住む都市は、ビックデータやAIによって、もっとスマートな場所になっていく・・・ その物語が大きく揺らいだのは、今年はじめからつづいている、自由な外出もままならない少し不便な生活によってだろう。自分自身や大切な家族にとって本当に快適なライフスタイルってどういうものだろう、というシンプルな問いによって、だれでも少しくらいは「スマートな都市生活」とは異なるナラティブを想像したのではないだろうか。スマホを操作すればいつでも迎えにきてくれるパーソナルモビリティも魅力的だけど、まずは家の近くに子供が自由に駆け回れる自然豊かな公園が欲しいよね、という風に。

想像をより深めるためのトリガーとして、最近「City rewilding(都市の再野生化)」というコンセプトが気になっている。「Rewilding(再野生化)」とは、土地の一部を野生に戻し、時間とともに生態系を回復させる環境保全のアプローチのひとつだ。有名な事例としては、米国イエローストーン国立公園のオオカミの再導入がある。絶滅していたオオカミを隣国カナダから再導入したことにより、鹿の数が調整され、ポプラの植生が戻り、水辺の昆虫が増え、川の魚が増え、鳥たちが集まるようになった。

「City rewilding」は、その再野生化をもっと自分たちの生活に近いところでやってみようという潮流だ。自然を都市環境に取り戻すための試みとして広く知られつつある。例えば2017年には、アメリカ郊外の巨大都市ダラスでは、トリニティ川に建設予定だった高速道路を取りやめて、再野生化のための保護エリアにすることが決定された。市内中心部に巨大な草原が生まれることになる。生物多様性が確保され、環境改善やエコツーリズムの開発につながる利点があるほか、郊外の粗密化や緑地のマネジメントコストの肥大化といった課題も解決するといわれている。八方よしだ。

かつてゲーリー・スナイダーは、「野生」という言葉を「飼いならされていない、乱暴な」という定義から、「自由行為者、それぞれが資性に従い、自然のシステムの中で生きている」ものとポジティブに読み替えた。「Rewilding」によって野生を都市機能の中に取り入れることは、混雑や不平等に満ちた都市生活に、テクノロジーと自然のシステムが融合した新しい風景をつくりだすかもしれない。その土地固有の生態系に根ざした新しい文化も発展するだろう。スマートにコントロールできない野生とも共存するような、もっと器の大きい、ある意味で「スマート」といってもいいような都市のナラティブを思い描く良いきっかけになりそうだ。


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TOPIC 01 : Rewilding Europe

「Rewilding Europe」は、再野生化をテーマに精力的に環境保全活動を行っている団体だ。現在、ヨーロッパ7カ国がその舞台となっている。彼らの取り組む「Rewilding」とは、バイソンや牛や馬、リンクス(オオヤマネコ)などの大型動物を野生に戻すことをさす。特徴的なのは、残された自然をそのまま保護しようという従来の保全活動とは異なり、動植物のインタラクションにまかせて生態系を創り変え、景観をも変えていくことを許容している点だ。場合によっては、数百年も野生の大型動物が生息していなかった地域に、動物を導入するケースもある。

活動エリアのひとつイベリア半島では、馬や牛といった大型草食動物が導入された。かつては放牧や農業が営まれていたが、過疎化が進み、多くの土地が放棄された結果、荒れた山林には松やユーカリなどの単一的な植生が広がり、山火事の頻度が増えてしまうという問題を抱えていた。そこに導入され野生化した動物たちが草や樹皮を食むことで、モザイク状の多様な植生が生み出され、山火事の広がりを防ぐことが可能になった。また、生態系が多様化することで、鷹、ハゲタカなどの希少動物が増えていくという好循環が生まれ始めているそうだ。

興味深いのは、この牛や馬たちは、この土地にかつて生息していたわけではないところだ。ある種、機能主義的に生態系に好影響を及ぼす役割として導入されている。「Rewilding Europe」が、より進歩的な環境保全の形態として注目を浴びているのはこの点にある。生態系の再野生化と合わせて、一体的に地域のツーリズム産業を支援している点にも、新しさがある。賛否両論はあれども、新しい取り組み方の一例として今後も注目していきたい。

Rewilding Europe
https://rewildingeurope.com/

Western Iberia - rewilding area(動画)
https://www.youtube.com/watch?v=inGgtGOKokc


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TOPIC 02 : REWILD MY STREET

再野生化といっても、なにも国立自然公園や河川敷の開発といった規模の大きい事業にかぎった話ではない。ロンドンで展開されている「REWILD MY STREET」は、「Rewilding」をより身近なところで実践し、少しずつ生活環境を変えていくためのキャンペーンだ。ロンドンでは住宅の建て替えや開発事業によって庭が減少し、毎年ハイドパーク2.5個分の緑地が失われているそうだ(日本人にわかりやすくいうと、東京ドーム75個分!)。この活動は、そういった状況に対してストリートから変化を起こすために、「都市全体を国立公園に変える」という大きなビジョンのもと、日々の中で誰もが実践できるDIYメソッドやデザインプロダクトを紹介している。

例えば、いろとりどりにデザインされた昆虫ホテルや、フェンスに穴を開けて裏庭をつなぎ小動物の通路をつくる方法。落ちても安全なウルトラライト(超軽量)な鳥の巣箱。使わなくなったシンクを小さな池に変えるDIYレシピ、駐輪場を植栽エリアにする方法。都市に野生のオオカミを呼んでこようとか、クマとの共生をめざそう、といったエクストリームな話ではなく、どれもが自分の住宅の半径5メートルで実践できるTIPSばかり。試してみるのはまったくもって簡単だ。

ロンドンでなくても、東京でもどこでも、まずは身の回りの小さなことから「Rewildng」できるこの運動。小さな野生を隣人として招き入れることで、彼らにとっても自分たちにとっても快適なライフスタイルをデザインしていきたい。

REWILD MY STREET
https://www.rewildmystreet.org/


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TOPIC 03 : 合成生物学が想像する「Rewilding」

アレクサンドラ・デイジー・ギンズバーグ
《Designing for the Sixth Extinction》(2013-2015)
https://www.daisyginsberg.com/work/designing-for-the-sixth-extinction

自然の摂理に環境保全を委ねる「Rewilding」のムーブメント。「より良い」自然をつくるためなら、私たちはそこに合成生物学のテクノロジーを導入してもいいと思えるだろうか?イギリス人アーティスト、アレクサンドラ・デイジー・ギンズバーグの「第6絶滅期のためのデザイン」と題する本作で描かれているのは、合成生物学者によって設計された新種の生物が(企業活動による影響を代償する生物多様性オフセットとして)野に放たれ、損なわれた自然を維持再生させるというストーリーだ。

登場する4種の架空の生物は、土壌汚染の修復、地域固有の植物種の収集と植付け、病害にあったオークの治療、空気中の有害物質の除去という、それぞれが課せられた特定のミッションに見合った形態をもち、寿命も決められている。さらに、これらの操作された遺伝子が「自然」に影響を与えないよう、死骸=バイオ廃棄物は、固有種を収集する生物のエネルギー源として回収されるという循環までデザインされている。

自然を救うためだけに設計された生命とはまるでナウシカの世界のようだが、ギンズバーグは、社会に資するよう完全に自然が工業化されたとしたら──それを合成生物学の論理的帰結と捉える人もいるが──、それでも私たちにとって自然は救うべき対象になるのだろうか、と問いかける。

2013年のダブリンでの展示に際して制作された本作。直近では、ベルリンのState Studioで開催される「Hypertopia」展に出品されるようだ。

https://state-studio.com/program/hypertopia


FROM FOREST
今月の森のアクティビティ

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野生オリエンテッドな道のデザイン

コロナの影響で伸びていた森林取得契約のプロセスがようやく完了しました。境界確定の手続き等いろいろややこしいことは残っていますが、これでようやく森に手を入れはじめることができるようになりました。斜面に建つウッドデッキをスケッチしたり、小川の周辺を整える計画をたてたり。夢はひろがります。

長期間、人の手が入っていない森。まずは道をつくるところからはじめます。どこもかしこも人の背の丈もある太い篠竹に覆われていて、なかなかに手強い藪になっています。これでは土地の形状が把握できないし、なによりも単一植物が繁茂している状態は森全体にとって不健康です。刈払機で勢いを少しづつ弱めながら、斜面に道をつけていく作業を進めていきます。

実は藪の中は野生動物が隠れるのに絶好の場所。おそらくこの森にも鹿や猪が頻繁に訪れるのでしょう。藪の中にはしっかりとした獣道と足跡がありました。もしかするとクマも通っているかも。この薄暗い藪がなくなれば夜でも安全に滞在できる場所になっていくはずです。

とはいえ、ヒトの都合で一掃するのは、ながらくこの場を居場所にしていた獣たちに忍びない気もします。獣道というのは森にとって通気を促す換気口のような役割も果たしているそうです。そこでACTANT FORESTでは、いまある獣道を活かしながら道をつくってみることにしました。野生動物オリエンテッドな道のデザイン。ヒトも歩きやすく、野生動物も通りやすい、そして森にとっても健全な道を敷いていきます。ある意味でバリアフリーな道の輪郭が見えてきました。

どんな歩き心地がするのでしょうか。アスファルトとも登山道とも異なる野生のロジックでつくった道を起点にして、さらなるプレイスメイキングがはじまります。獣とばったり出くわさないよう気をつけながら。

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以上、Newsletter NOVEMBER 2020: City rewilding より。
次回のニュースレターもご期待ください。



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