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今こそHPVワクチンの話をしよう②~ウイルスが子宮頚がんをひきおこす!?~
ここ数か月、皆さんいやというほど「ウイルス」という文字を目にしたのではないでしょうか。
子宮頸がんもウィルスと深い関係があります。ウイルスの名前は、「ヒトパピローマウイルス (human papilloma virus、以下HPV)」です。実はこのウイルス、子宮頸がんだけではなく色々な病気を引き起こします。
一番有名なのは手のイボ (尋常性疣贅)。みなさんの中にも手や足にイボが出来て、皮膚科を受診して液体窒素で焼かれた方がいるのではないでしょうか。
さて、ここで疑問に思った方もいるのでは。「イボの出来ている手で陰部を触ると子宮頸がんになってしまうの?」と。そんなことはありません。
今回はHPVについてや、どうしてHPVが子宮頚がんを引き起こすのかを説明します。ちょっと細かい話になりますが、これだけのためにちまちまとフェルトなどを切ってクラフトを作ってみたので最後まで読んで頂けると嬉しいです。
1. HPVってどんなウイルス?
HPVは、その名の通り「Human (人間)」にうつり、「Papilloma (乳頭状、イボみたいなもの)」を作るウイルスです。100種類以上のHPVがあり、発見順に「HPV-1」、「HPV-2」、、というように型の数字が割り振られています。
それぞれの型により皮膚にうつるもの、のどにうつるもの、陰部にうつるもの、と感染できる場所が異なります。引き起こす病気も違います。
子宮頸がんと関係が大きい(高リスク)ものは15種類程あって、HPV-16、18、31、33、35、39、45、51、52、56、58、59、68、73、82です。中でも子宮頸がんの50~70%を占めるのは2つ、HPV-16と18です。
手のイボを作るHPVの型はHPV-2なので、上記のいずれにも当てはまりません。したがって、イボの出来た手で陰部を触っても子宮頸がんは起こりません。
HPVはゴルフボールのような形で、大きさは55nm(ナノメートル)。0.000055mmです。髪の毛の太さは0.08mm(個人差あるけど)だから、それの約1460分の1の小ささ、と言われても実感は湧かないですよね、、。
2.人間の細胞とウィルスの違い
ちょっと話は逸れるのですが、「ウイルスは生物なのか」という議論が存在します。人間を含めて動物の細胞は核の中に設計図みたいなもの(DNA)があり、そしてその設計図を基に必要なものを作る3Dプリンターのようなもの(リボソームなどの細胞内小器官)があります。これにより細胞は増えることができます。けれどもウイルスは設計図はもっていますが、3Dプリンターはありません。だから自力では増えることができず、「ウイルスは生物では無いのでは」という説が昔からあります (この議論は深すぎるためここでは追求しません)。
どうやってウイルスが増殖しているのかというと、他の生物の細胞に入り込み、そこにある3Dプリンターのような細胞小器官へウイルス自身の設計図を送りこんで、その細胞に自分と同じウイルスを作らせます。HPVもこの仕組みで増えていきます。
3.子宮頚部の細胞のしくみ
まずは子宮頚がんが出来る場所、子宮頚部はどのような場所なのかを説明します。
上の図のように、子宮と膣とが繋がっている辺り、ここが子宮頚部です。この緑の丸で囲まれたあたりがに子宮頚がんが発生します。この部分を顕微鏡でみるとこんな感じです。
画像の上側が子宮の内側(子宮内腔、出産時に胎児が通る側)になります。
細胞が敷石のように積み重なっています。
これらの細胞、形は違いますが、実は全て同じ細胞からできています。ここにある全ての細胞は一番下にある基底細胞という細胞が増えていき、形を変えていったものです。基底細胞は増えていくと、だんだんと横に細長くなり、最終的には平べったい細胞になって子宮頚部の表面を覆います。これを分化と言います。HPVが感染するのはこの基底細胞です。
4.どうやってHPVに感染するの?
子宮頚部は上の画像のように粘膜が傷つき、小さく裂けている状態のことがよくあります。この状態でHPVがついているペニスが挿入されるセックスをするとHPVが基底細胞に到達して感染してしまうことがあります。また、細かい機序は解明されていないようですが、コンドームを使用している場合や、挿入をともなわない愛撫やオーラルセックスでも子宮頚部のHPV感染は起こります。
基底細胞に到達したHPVは他のウイルスと同様に自力では増殖することが出来ませんが、基底細胞にある3Dプリンター的なもの(リボソームなどの細胞内小器官)を利用して、数を増やそうとします。
5.HPVに感染したら細胞はどうなるの?
上の画像では、HPVが増殖しています。このまま全ての細胞にHPVが感染してしまうのでしょうか?
実は、基底細胞へ感染したHPVの全てがこのまま増え続けるわけではありません。感染しても90%は2年以内に免疫システムによってウイルスが排除されると言われています。しかし10%の確率でHPVを排除することが出来ず、その場合、HPVは増殖していきます。これによって子宮頚がんの前段階の病変が生じます。これをCIN(Cervical intraepithelial neoplasia)と言います。上の画像のように下から1/3にHPVが感染している状態を「CIN1」といいます。
6.子宮頚がんができるまで
HPVに感染しているだけの状態は「がん」ではありません。ではいつから「がん」になってしまうのでしょうか。
実はHPVは、長期間に渡り基底細胞に持続して感染していると、なんと基底細胞自体をのっとりはじめます。HPVは自分の設計図(DNA)の一部を、基底細胞自身が持っている設計図(DNA)の中に潜りこませ、細胞の寿命を長くし、HPV自身のDNAを組み込んだ基底細胞をどんどん増やします。そして、この細胞がからだの免疫システムに見つかって排除されにくくなるような細工までします。このHPVのDNAを組み込まれた細胞、すなわちHPVにのっとられた細胞を腫瘍細胞といいます。
腫瘍細胞はどんどん増殖していきます。
どんどん増殖していき、上の図のように2/3がHPVによって異常な状態となると「CIN2」と呼ばれます。
そして更にこの異常な細胞が増殖を繰り返していき、ついに全体に広がったものが「CIN3」と呼ばれるものになります。これは「上皮内がん (Carcinom in situ)」とも呼ばれます。実際に顕微鏡でみると、本来一番下に並んでいるだけのはずだった基底細胞の様な細胞が全体に広がっているのが見えます。
7.子宮頚がんのすすみかた
さて、ここまでHPVが子宮頚部に感染し、増殖し、もともとの基底細胞をのっとり腫瘍細胞に変化させ、その腫瘍細胞が増えていく様子を説明しましたが、実際はこのように一方向にすすんでいくわけではありません。
このように正常、CIN1、CIN2、CIN3/CISを行ったり来たりします。CIN1のうち約65%、CIN2のうち約60%、CIN3のうち約20%は2年以内に正常に戻ると言われています。
CIN3から先は更にがん細胞が増殖していき、子宮全体や膣へと広がって行ったり、周りにある臓器へと進んだり。また血管やリンパ管の中へとがん細胞が入り、離れた臓器へと転移していくこともあります。
このような子宮頚がんを防ぐためにはHPVワクチン接種、がんの進行を防ぐためには検診と適切な治療が大切です。
さて、次回はこのHPV感染を防ぐワクチン、HPVワクチンについていよいよ解説します。その他にも、検診について、治療についてなども今後書いていく予定です。
連載企画『今こそHPVワクチンの話をしよう』
目次はこちら
1.祝9価ワクチン承認
2.ウイルスが子宮頚がんをひきおこす!?(この記事)
3.HPVワクチンって効果ある?
4.接種するのががコワイ!という方へ
5.子宮頚がん検診の結果のみかた、治療について
6.男子にもHPVワクチン接種を!~HPVがひきおこす子宮頚がん以外のがん~
参考文献
Epidemiology and Prevention of Vaccine-Preventable Diseases, The Pink Book Course Textbook - 13th Edition (2015)
https://www.cdc.gov/vaccines/pubs/pinkbook/index.html
ヒトパピローマウイルスによる発がんの分子機構, ウイルス 第 58 巻 第 2 号,pp.141-154,2008
http://jsv.umin.jp/journal/v58-2pdf/virus58-2_141-154.pdf
産婦人科研修ポケットガイド (金芳堂. 2020)
CINの経過観察と治療の判断
http://fa.kyorin.co.jp/jsog/readPDF.php?file=64/9/06409N0305.pdf
#子宮頚がん #HPV #HPVワクチン #性教育 #アクロストン
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