今こそHPVワクチンの話をしよう③~HPVワクチンって?効果ある?~
子宮頚がん予防に有効なHPV9価ワクチンの製造販売が5月下旬に承認されました。諸外国では5年ほど前から使われているこのワクチンがようやく承認されて嬉しい!!のですが、定期接種に使われるようになるためにはもう一つ山があります。また、今まで逃してしまった世代の救済措置や男子接種の実施にむけて、「子宮頚がん」「HPVワクチン」について多くの人に知ってもらいたい!そう思いつつ連載noteを書いています。
さて、第3回目はいよいよ「HPVワクチン」そのものについて。
0.前回のおさらい
前回はどうしてHPV(ヒトパピローマウイルス)が子宮頚がんを引き起こすのか、という話でした。簡単にいうと、子宮頚がんの基底細胞という細胞にHPVがはいりこんでしまい(=感染してしまい)、その後、どんどんと増えてまわりの細胞も感染してしまうのでしたね。
その後は、感染してしまった人自身の免疫システムでHPVをうまくやっつける(=排除する)こともあれば、残念ながらうまく排除できずに、感染が続いてしまい、そのうちに、HPVが基底細胞自身を乗っ取って、腫瘍細胞に変化させてしまい「がん」になってしまうこともあるのでした。
(詳しくは前回のnoteで説明しています)
1.ウイルスが排除されるしくみをもっと詳しく
先述のように、HPVに感染したからって全てが「がん」になってしまうわけではありません。「がん」にならないで感染が終わるのはどうしてでしょうか?
それは、その人がもつ免疫システムが、HPVをやっつけてくれる(排除する)からです。ちなみに、『免疫』というと「免疫力をあげるに○○を食べるといい!!」みたいな話がすぐ出てきますが、漠然とした「免疫力」なんてものは存在してません。全てのウイルスや菌に対抗できる免疫なんてものは存在していなくて、あくまでひとつひとつの感染に対して防御機構がどうやって働くかっていう話です。
脱線しましたが、ここではHPVを排除するために、どのように免疫システムが働くかということを説明します。
ペニスを挿入するセックス、あるいは他の性的接触により、HPVが子宮頚部の粘膜に来てしまいました。すると、マクロファージという細胞がやってきます。
マクロファージは身体にとっての「異物」、すなわち、ウイルスや菌、壊れた細胞などを食べます。そして、食べてバラバラになったウイルスや菌の断片を他の免疫細胞たちに提示し、「このウイルスや菌がきたら戦うぞ!」と伝える仕組みを持っています。HPVの場合も同様に、マクロファージはまずHPVを食べ、その次にHPVの断片を提示して「HPVがきたら戦うぞ!」と他の免疫細胞に伝えます。
次に働くのはT細胞。マクロファージによって提示されたものに反応し、「この構造をもつウイルスを攻撃しろ」と、指令を出します。
それに応えるのがB細胞。
B細胞は提示された情報をもとに抗体を産生します。この抗体がHPVの外側にある壁に穴を開けることでウイルスは破壊されるのです。また、B細胞は他の免疫細胞がウイルスを攻撃する手助けもします。このようにしてHPVウイルスは粘膜から排除されます。
免疫細胞は一度感染したウイルスや菌のことを記憶することができる(=免疫の獲得)のですが、HPVの場合は自然に感染した場合は記憶がそんなに強くはないようです。
2.HPVワクチンは何をしてくれる?
ワクチンは「HPVのような物質」の注射です。HPVの外側の一部にあるたんぱく質からその物質を作っています。しかし、ワクチン内にはHPVのDNA(設計図のようなもの)は含まれていないため、HPVが人体内で増殖することはありません。
注射によって体内に入った「HPVのような物質(HPVの外側にあるタンパク質)」をマクロファージが食べ、HPVに感染した時と同じように他の免疫細胞達に「この物質が来たら戦うぞ!」と伝えます。
この状態でHPVがやってくると、HPVの壁のタンパク質に反応してB細胞から即座に抗体がつくられ、HPVをやっつけることができます。
この場合は自然に感染した場合よりも高い確率でHPVのことが記憶され、本当にHPVが感染した時にしっかりと免疫機構がはたらきます。
3.HPVワクチンの種類
現在、日本で接種できるHPVワクチンは3種類あります。何が違うのでしょう?
前回のnoteにも記載しましたが、HPV(ヒトパピローマウイルス)は100種類以上のものがあります。この中で、子宮頸がんと関係が大きい(高リスク)のHPVは15種類程あります。(HPV-16、18、31、33、35、39、45、51、52、56、58、59、68、73、82)
子宮頚がんで最も多いのがHPV-16と18です。子宮頚がんから検出されるHPVのうちこの2つの型が占める割合は50.1~69.1%と報告されています。
HPVワクチンの種類ははこの子宮頚がんと関係が大きい15種類のウイルスのうち、何種類のウイルスに対応しているか、の違いです。
・HPV2価ワクチン (商品名:サーバリックス)
HPV16、18をカバーしています。日本では定期接種に指定されており、小6~高1の女子は無料で受けられます。しかし、現在は積極的勧奨されている状況ではなく、他の定期接種とは異なり、ワクチンを打つように知らせる手紙などは来ません。
・HPV4価ワクチン (商品名:ガーダシル)
HPV-16、18に加え、更にHPV-6、11もカバーしています。HPV-6と11は子宮頚がんを起こす可能性は低い (低リスク)ものの、尖圭コンジローマという陰部にイボを作る病気の原因です。こちらも定期接種に指定されており、小6~高1の女子は無料で受けられます。こちらも、現在は積極的勧奨されている状況ではなく、他の定期接種とは異なり、ワクチンを打つように知らせる手紙などは来ません。
・HPV9価ワクチン (商品名:ガーダシル9、シルガード)
HPV-16、18、6、11に加え、31、33、45、52、58のHPVがカバーされています。世界の80か国で使用されており、アメリカでは2014年から、ヨーロッパでは2015年から接種が開始されています。HPVワクチンの主流になっていますが、日本ではつい先日やっと5年がかりの審議が終わり、承認されたばかりです。まだ定期接種にはなっておらず(追記参照)、今のところ公費での接種はできません。
日本ではHPV-52と58が欧米よりも多く検出されます(両方とも7%程度)。そのため2価、4価のワクチンでは不十分で、HPV-52と58をカバーしている9価ワクチンに、たくさんの専門家は期待を寄せています。
【2022.10.05追記 9価ワクチンの定期接種が決定しました!】
厚生労働省が2023年4月以降の早い時期から、9価ワクチンの定期接種開始を決定したとのことです。対象は2価、4価ワクチンと同様の小学6年生から高校生の女子を予定しているとのことです。
4.HPVワクチンの効果
さて、ここまで説明してきたHPVワクチン、本当に効くの??という疑問がわいてきたかもしれません。
海外を中心にHPVワクチンが有効という報告は多数存在します。
例えばイギリスでは2価のHPVワクチン(2008年の研究のため、まだ2価のワクチン)を導入したところ、若い人を中心にHPV-16、18の感染率が低下しました。
アメリカではHPV2価または4価のHPVワクチンを導入したところ、ワクチンを接種した若年層ではHPVによってできる腫瘍 (研究ではCIN2以上のもの)が減少しています。
公的にHPVワクチンの接種プログラムを導入しているオーストラリアでは、ワクチン接種者は接種していない人と比べて47.5%もCIS(上皮内がん)が減少しています。
日本国内でも、新潟県で行われた研究においてHPV2価ワクチン接種者は非接種者と比べてHPV-16と18の感染率がなんと91.9%も低くなっていました。
HPVの感染を防げれば、HPVによる 「がん」も防げるので、ワクチンを多くの人が接種して予防をしっかりとしていけば、HPVによる子宮頚がんは撲滅できるとも言われています。
【2022.4.01追記 大規模調査でHPVワクチンが子宮頚がんのリスクを減らすことが分かりました。
スウェーデンで行われた研究で、10から30歳、1672983人が対象。
子宮頚がんワクチン(4価ワクチン)を接種すると、子宮頚がんになるリスクを63%低くしています。
年齢別だと、17から30歳は53%、17歳未満だと88%も子宮頚がんのリスクを低下させています。
論文はこちら
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1917338 】
今回はここまで。次回は「HPVワクチンは副反応が怖いんじゃないの??」に答えます。
参考文献
厚生労働省 予防接種情報
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/yobou-sesshu/index.html
WHO ELIMINATION OF CERVICAL CANCER AS A GLOBAL PUBLIC HEALTH PROBLEM
http://women4gf.org/wp-content/uploads/2019/05/2.-WHO-slides-6May_GFWebex_CxCaElimination-short.pdf
HPVワクチンによる子宮頚がん予防, ウイルス 第 58 巻 第 2 号,pp.155-164,2008
http://jsv.umin.jp/journal/v58-2pdf/virus58-2_155-164.pdf
日本産科婦人科学会 子宮頚がんとワクチンに関する正しい理解のために
https://www.jsog.or.jp/modules/jsogpolicy/index.php?content_id=4
厚生労働省 子宮頚がんの有効性について
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000189286.pdf
有効性評価に基づく子宮頚がん検診ガイドライン
https://minds.jcqhc.or.jp/n/med/4/med0071/G0000193/0006
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