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マイナカードの別人写真、これが原因?


 帰り道、googleさんがあなたへのオススメ記事としてマイナンバーカードの別人写真の記事を勧めてきました。

 私はもう生活保護の担当者のなのになんでだよ!!と思いつつ記事を読み進め、その原因を推測していました。要は暇なんです。マイナンバーカードも結構好きなんです。

 ということで、最近何かとネガティブなニュースが横行するマイナンバーカード関連の話をできるかぎりニュートラルな目線で考察します。


 なお、本考察において使用した情報は、すべてインターネットを調べれば出てくる内容であって、職務上知りえた機密事項ではないことを申し添えておきます。経験者だから情報へのアクセス方法を知っていただけです。

 また、この記事によって自治体側を擁護するつもりも、当該住民について意見するつもりも一切ありません。あくまでも元担当者からみた解説です。



1.にわかに信じがたい事案

 正直、文面だけ見るとにわかに信じがたい事案ではあります。でも、内容をじっくり読み解いてみると、この事案のおかしな点と、それを生み出すであろう原因が見えてきます。


(1)交付時に本人の顔を見る

 マイナンバーカードを交付する時、窓口の人間は厳格に本人確認を行ないます。提示された本人確認書類の情報と突合することはもちろん、手続きに来た本人の顔とカードの写真を見比べます。自治体によるかもしれませんがおそらく2人以上の目は通っているはずです。

 双子のぎょうだいだったのならまだしも、まったくの別人なら本人確認で気づくはずです。仮に代理人を立てて取りに行かせたとしても、受取時には本人の顔写真がついた本人確認書類と突合するので、やっぱり別人の写真であると気づくはずです。

 仮に窓口をした人間がポンのコツで、目が節穴だったとすれば、今回じゃ収まらないくらいの誤交付をやらかしているはずです。でも、実際はそうなっていないですから、職員は職務をまっとうしたはずなのです。


(2)本人もその場で気づくはず

 仮にyahooニュースのコメントどおり、公務員の目が節穴で、緊張感なしに窓口対応をしていたとしても、受け取った本人はさすがに別人の写真だと気づくんじゃないでしょうか?

 手続きの時はカードを散々見せつけられますし、カードを受け取って家に持って帰る。家ではどこかに保管する。どこかのタイミングで絶対にカードの写真を見ますって!

 これがもしマイナンバーカードにまったく興味もなくて、手続きの時にはカードを全然見ずに受け取って、その後は完全放置。後日、マイナポイントかコンビニ交付をしようと思ってカードを見たら別人の写真だった!などというのであれば、こうした事案は発生するのでしょうけども。

 もしそうならば、カードをそれだけぞんざいに扱っておいて100%担当者が悪い!みたいな口ぶりでインタビューに応じていたということになって、それはそれで別の問題になります。偏向報道的なね。


(3)そのすべてを覆す可能性…

 ということで、はたから見ると、申請書に別人の写真を(それも適当に)貼って申請し、ロクに本人確認もせず本人に交付。本人もその場では気づかずに後日判明してしまったという信じられない状況が仕上がりました。

 ただ、元担当者からすると、こんな信じられないミスが起こりうるだろうシチュエーションが1つ思い浮かびます。以下の考察を住民課時代の元同僚に話してみたところ、「それならありえるね」と言っていました。

 マイナンバーカードの複雑な手続きが生んだであろう今回の事案、私なりに解説していこうと思います。



2.原因は出張+申請時来庁

 yahooニュースの情報から私が出した結論は、マイナンバーカードの出張手続きと申請時来庁方式が組み合わさった結果が今回の事案の原因だということです。皆様からすればなんのこっちゃわからんと思うので、単語の説明をしつつ、なぜこんなことが起こりうるのかを述べていきます。


(1)出張手続き

 マイナンバーカードの普及促進策の一環として、市役所の窓口以外で申請を受け付ける出張手続きサービスなるものが昨年度大流行しました。郵便局やケータイショップで申請を受け付けていましたよね。アレのことです。

https://www.meti.go.jp/policy/digital_transformation/asset/meti-dx/20220711/08_shinsei_biz-trip.pdf

(デジタル庁作成の資料:経済産業省が掲示)

 ただ、住基ネット(マイナンバーカードの手続きができるネットワーク)がない環境がほとんどですので、当日は白紙の申請書に写真を貼って作成。その後、申請書を市役所に持ち帰って発送処理という流れになります。会場から市役所へ申請書を持ち運ぶ必要があるので、貼付した写真が剥がれ落ちるリスクがあるともいえるでしょう。

 実際、事案のあった自治体では出張窓口を受け付けていますし、記事内では「市役所の窓口」ではなく、「市内の窓口」という表現で統一されていたことからも、出張窓口で受け付けた申請であると推測されます


(2)申請時来庁方式

 これはマイナンバーカード担当でしか知らないような超業界用語かもしれません。申請時来庁方式をわかりやすくいうと、ある条件を満たすことで、出来上がったマイナンバーカードを自宅に郵送してもらえるサービスです。その条件とは、本来ならマイナンバーカードの受け取り時に行なう本人確認書類の提示や、通知カードの返納などをカード申請時に行なうことです。

 受け取り時の本人確認や通知カードの受領は、市役所職員でしかできません。なので、申請時来庁方式でカードを申請しようとするなら、ほとんどの場合市役所へ来庁することになります。申請の時に市役所へ来庁する方式=申請時来庁方式ということですね。

 申請時来庁方式で申請を受け付ける場合、基本的には免許証などの顔写真入りの本人確認書類を提示させます。申請時来庁方式では、職員がカードの交付処理をしたうえで郵送する都合上、申請以降に本人と顔を合わす機会がありませんから、その分本人確認が厳しくなります。ただし、その場で通知カードの返納があれば、写真なしの本人確認書類2点でも受け付けることができます。法令上、本人(もしくは同一世帯員)しか持ちえない通知カードと、通知カードの券面に一致する本人確認書類を2点以上持参できるのならば、それは本人だとみなせるということでしょうか。

 ということは、通知カードの返納と写真なし2点で申請を受け付けた方のカードに印字されている顔写真が本人で間違いないかを知りえるのは写真を撮った担当者のみということになります。

 ちなみに、事案のあった自治体の出張窓口では、申請時来庁方式での申請を受け付けている描写が見受けられます。要は出張先にいる職員が本人確認をすれば良い話なので、仕組み上は問題ありませんが…。

 さぁ、皆さんそろそろわかってきましたか?



3.別人写真事件の真相予測

 これまでの情報をまとめると、今回のマイナンバーカード別人写真事件の真相はこんなことだったんじゃないかと推測されます。


(1)多分こんなことが起こった

①出張先にて、通知カードと写真なしの本人確認書類2点でカード申請受理
※申請時来庁方式の場合、以降本人と顔を合わさない

②発送準備にて、申請書の写真がないことに気づく

③本人確認書類のコピーに写真がないので顔の推測できず
普段なら容易に推測できるところ、件数増加のため難しかったのではないか

④委託業者の記憶をもとに写真を貼付するも別人
写真データの破損もあったというので、突合ができなかったのではないか

⑤別人の写真で申請が受理され、カード完成
国の作成機関では、顔写真の本人性までは審査できません

⑥写真を審査する方法もなく、交付処理のあと郵送

⑦本人が郵便物を開けて事案発覚→連絡

 こんなところでしょうか。仮に写真が「剝がれ落ちていただけ」ならその写真を貼りなおすだけで済んだのでしょうけど、「紛失していた」ために、データのなかから推測せざるを得ず、推測する時にも他の申請書の写真との突合をしなかったのでしょう。ということは、誰かの写真が2人分の申請書に使われたものと推測されます

 住民の言う担当者の受け答えも、半分は正しくて半分は誤解だったと思われます。多分、「写真を紛失したので、あったやつから選んで貼った」的な回答だったんだと思います。「適当に貼った」だなんて、口が裂けても言いませんからね。仮に本当だったとしても。


(2)結局はヒューマンエラー

 本事案において問題だったのは、推測だけで安易に写真を選んで貼付してしまったことにあります。写真撮影後のデータをなぜ消去していなかったのか、紛失した写真はどうなったのかなど、別の問題も孕んではいますけど、それは置いておいて。

 100%の確証を得られないのであれば、本人に再度手続きへ来ていただくなり、写真を郵送してもらうなりするべきだったでしょう。とはいえ、申請の時期から推測するに、当時の市役所窓口は地獄だったでしょうからそんな余裕もなく、推測のままいってしまったんじゃないでしょうか。

当時はこんな状況でしたからね

 結局は人間の人間によるミスだったわけですよ。


(3)マイナンバーのせいではない

 yahooニュースのコメント欄を見ても、やっぱりマイナンバーカードは悪だという意見が散見されますし、報道の仕方もマイナンバーカードに対して否定的な姿勢のものばかりです。

 上述のとおり、本件は突き詰めると単なるケアレスミスで、マイナンバーカードではなくても普通に起こってる話です。それに、本件でマイナンバー(番号)自体が他人に漏洩したわけではないということに触れられていないのも違和感を感じます。

 もちろん、本件は個人情報の漏洩事案であって、住民に不便をかけたわけですから問題であることには間違いありません。ただ、それでマイナンバー制度やマイナンバーカードを悪であるかのように論じるのは論点ずらしだと思います。あえて責めるのなら、申請時来庁方式の盲点でしょう。本人確認書類には必ず写真付きを求めるとか、申請書の郵送は本人にお願いするとかの改善が必要かもしれません。


 本件にとどまらず、マイナンバー制度やマイナンバーカードのネガティブキャンペーンは続くものと思われます。しかし、元担当者の目線から、違うところは違う。正しいことは正しいと発信していこうと思っています。


 これを見ている総務省やデジ庁の皆さん。案件待っています(冗談)


 長々とお付き合いいただきありがとうございました。

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