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鹿児島蒸溜所巡りその⑥―津貫蒸溜所訪問記―本坊酒造エースブレンダー・草野氏に導かれるままに
本坊家の歴史についてざっと教えて頂いた後は、いよいよ蒸溜所見学!
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モルトの入手は、イングランド、スコットランド、ドイツ、ベルギー、オーストラリア、ニュージーランド、日本(南さつま市産)などさまざま。
ピーテッド:ノンピート=3:7。
麦の品種はよく変えているそうで、この時はコンチェルトからロリエットへ移行したところでした。(訪問したのは2023年5月下旬でした!)生産効率、アルコール収量とも良いそうです。しかし、一つの品種に満足することなく、様々な品種を試しているそう。
一回の仕込みに使うモルトは1.1t。
4年前から1.1tのうち0.1tを、ギネスビールに使われるチョコレートモルトなどに変えて、試行錯誤しているのだとか。
昔は、麦の品種については、アルコール収量がより多くなるものが選ばれがちでしたが、現在の津貫蒸溜所では、作業効率が悪く、アルコール収量が多くなくとも、一昔前に流行ったモルトなども試しているようです。
再び、少しだけ歴史の話に戻ります。
直前の記事で、1949年にウイスキーの製造免許を取得、鹿児島工場にて製造を開始、とご紹介しましたが、
これには当時アルコール精製技術の第一人者として知られていた、岩井喜一郎氏の存在が大きく影響していたようです。
そう、ウイスキー『岩井』の名前の元となった方です。
岩井喜一郎氏は、1902年に大阪高等工業学校(現大阪大学)醸造学科を一期生として卒業し、麹の糖化による日本式アルコール製造法の基礎を確立、他にもアルコール連続蒸留装置の考案や、新式焼酎、酒精含有飲料を全国に率先して製造するなど、日本の酒類業界の発展に大きく貢献していました。
その岩井喜一郎氏によってスコットランドへ派遣されたのが、かの有名な竹鶴政孝氏。日本人として初めてウイスキー造りを学び、帰国後、日本でウイスキー事業を開始するために、岩井氏に報告書として提出されたものが、今日のジャパニーズウイスキーの原点となる「ウイスキー実習報告書(竹鶴ノート)」でした。
(※津貫蒸溜所のパネルより引用あり)
岩井氏は1934年、大阪帝国大学工学部講師に就任。その当時、同大生であった本坊松左衛門の七男である本坊蔵吉が岩井氏に師事し、卒業論文では「蒸留機」をテーマに研究。また、縁あって蔵吉は岩井氏の娘婿となり、1945年、岩井氏は本坊酒造の顧問に就任します。蔵吉は岩井氏の指導を受けながら、経営者兼技術者として、本坊グループ各社の製造技術の確立と品質向上に大きく貢献し、1960年、ウイスキー部門の計画を任され、「ウイスキー実習報告書(竹鶴ノート)」をもとに、山梨工場でのウイスキー蒸留工場の設計と製造指導に携わります。こうして、ジャパニーズウイスキーの誕生からマルスウイスキーの誕生がつながった訳です。感慨深いですね!!
(※津貫蒸溜所のパネルより引用あり)
そして時は経ち、2016年。創業の地である津貫でウイスキー製造を始めたいという本坊和人社長の想いと、ウイスキー需要も回復してきた中で、2011年に蒸留を再開していたマルス信州蒸溜所に加え、もう一つ蒸溜所を持つことにより、キャラクターの異なる多彩な原酒を造れることが将来のビジネスにも貢献するだろうという考えから、この津貫蒸溜所でもウイスキー製造が開始されたのでした。
(※津貫蒸溜所のパネルより引用あり)
ちなみに、マルスという名の由来は、本坊酒造創業当時からのイメージシンボルである「星」にちなみ、火星であるMARS(マーズ)と、戦いの神そして農耕の神という意味を持つMARS(マルス)、二つの意味を込めて名付けられました。
(※津貫蒸溜所のパネルより引用あり)
ということで、蒸溜棟見学に戻りましょう!
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このハイブリッド型スピリッツ蒸留機。
ジンなど、様々なスピリッツを製造することができます。
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モノタロウで買えるらしいです😂しまった、グリストセパレーター切らしてた、
なんて方は是非モノタロウを検索!!
モルトの粉砕具合は、ハスク:グリッツ:フラワー=2:7:1に近い値にはするものの、草野氏曰く、比率よりハスクとグリッツの形や手触りを見るそう!職人の感性が光るポイントですね✨
また、マッシングの結果を粉砕工程にフィードバックし、微調整を行っているとのことです。
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マッシングは温度が命!
高温で糖化させると取れる糖が大きなものになり、味わいとしてはもったりするそう。
逆に低温で糖化させると小さな糖が取れ、キレのある味わいになるのだとか。
基準は63℃。
麦汁を濁らせると、フルーティではない原酒が出来上がりますが、原酒の多様性を確保するため、そういったものを造ることもあるそうです。
三番麦汁には様々な成分が含まれており、ウイスキーの香味を豊かにするため、必ず再利用。特にピートは顕著に現れるらしいです。
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発酵期間は4日間とし、乳酸発酵を促します。
もろみ造りでどれだけ香味成分を含ませられるかがその後の原酒の運命を分ける大きなポイント!
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こちら津貫蒸溜所では、乾燥酵母と液体培養酵母の両方を活用しているそうです。
20品種弱、試しているものがあるとのこと。
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採用されたそうです。
麦汁の清澄度や、利用する酵母、発酵期間等を変えることによって、バリエーション豊かな原酒を造ることが可能になりますが、蒸留釜は簡単に変えることはできません。従って、最初の設計ーどんなサイズで、どんな形にするかーが肝心。
津貫蒸溜所の蒸留釜は、ヘッドが太くて短く、ラインアームがやや下向き。
リッチでパワフルな酒質を目指されていることがわかります。
ちなみに、こちらの初留釜の容量は6000L、再留釜は3000L。
ニューポットはアルコール度数60度のものが約730L出来上がるそうで、
(バーボン樽3丁に少し足りない程度)
大きめの蒸留釜を使っていることがわかりますね。
蒸留時間は約7時間弱×2。
ミドルカットのタイミングは、「慣れ」だそうです!
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草野氏によると、ワームタブ方式を採用している蒸溜所(例えばグレンエルギン、エドラダワー、ロイヤルロッホナガー、クライゲラキ等)の酒質は、余韻に厚みがある場合が多いそう。
津貫蒸溜所のコンセプトは、ディープ&エネルギッシュ!
力強く、厚み、深みのあるウイスキーを目指しているとのことで、なるほどなるほど…と納得。
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現在津貫蒸溜所では5棟の熟成庫を保有。合計3500丁保管しており、今後7000丁まで格納することができるということです!
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ここで、本坊酒造が日本各地に保有する熟成庫のスペックがわかる親切なパネルがありましたので、画像を置いておきますね。
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それでも信州の熟成には安心感を覚えるそうです。
温暖な地域はこまめなチェックが不可欠とのことで。
ところで、津貫蒸溜所は5棟の熟成庫を保有しているとご紹介しましたが…原酒の状態チェックは草野氏が一人でされているそうです!
一日100樽以上こなすそう。常人にはとてもこなせない作業ですよね…。一体どんな舌と鼻を持ち、どれだけの研鑽を積んでこられたのでしょうか…!
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さて、草野氏とのお話の中で、津貫2022エディションと2023エディションの違いも聞くことができましたよ~!
2022のイメージはいぶし銀。バーボン樽メイン。
2023はバーボン樽はあまり使わず、シェリー、新樽をふんだんに利用し、よりリッチな津貫に仕上げたとのこと。
そして気になる来年の2024のイメージは…
2023の雰囲気を継承するそうです!ピートの感じられ方は変えるそうですが…
楽しみですね😋
最後に、諸々伺ったことをまとめてご紹介!
Q.上述以外の製造面でのこだわりについてお聞かせください。
A.信州蒸溜所の駒ヶ岳としっかり差別化を図るところは図り、共有すべきところは共有する。それぞれのコンセプトに合わせた酒質造りを各蒸溜所にて考えながら日々ブラッシュアップしている。
Q.津貫蒸溜所の個性とは?
A.温暖湿潤かつ気温差の激しい盆地気候、潤沢な水、それらを活用し、暑さに負けない重厚なウイスキー。
Q.津貫蒸溜所の目指すウイスキーについてお聞かせください。
A.ディープ&エネルギッシュ。力強く、厚み、深みのあるウイスキーを目指し日々精進しています。
Q.これから津貫蒸溜所のウイスキーを味わう皆様にお伝えしたいことは?
A.ディープ&エネルギッシュな津貫、クリーン&リッチな駒ヶ岳、それらの原酒を屋久島で寝かせブレンドし、トロピカル&ソルティを目指す屋久島と、3拠点それぞれに個性があり、ウイスキーの多様性を感じることができると思います。ウイスキーはたくさんの種類を飲み比べることも楽しみの一つだと考えますので、是非、津貫、駒ヶ岳、屋久島のウイスキーの違いを飲み比べ、感じて頂きたいです。
Q.屋久島熟成と津貫熟成ではどのような違いがありますか?
A.どちらも温暖な気候ですが、一番の違いは冬場の気温です。
津貫は盆地地形のため、夏は暑く冬は寒い。真冬は氷点下にもなります。一方屋久島は冬でもそれなりの気温があり、冬温かい分冬場の熟成の進み方が津貫と大きく異なると感じています。
津貫、屋久島共に信州と比較すると樽感の出が速く、未熟な香りも蒸散しやすいのですが、屋久島の方がより熟成感を獲得しやすい環境であると考えています。
Q.最後に、地域の他の蒸溜所との関わり、つながりについてお聞かせください。
A.近い時期に稼働し始めた嘉之助蒸溜所、グループ会社の火の神蒸溜所など、鹿児島にも多くの蒸溜所が点在しています。ウイスキーツーリズムという言葉があるように、お客様は一日に数か所の蒸溜所を巡り、違いを楽しむことを求めておられると思いますので、近隣の蒸溜所はライバルでもありますが、仲間意識もあり、技術者同士の交流もよく行われています。
草野氏の職人魂とセンスが随所に垣間見える訪問となりました。
また、本坊家の華麗なる歴史もわかりやすくお伝えできれば…と思い記事をしたためましたが、いかがでしたでしょうか?
さて、鹿児島蒸溜所巡りもいよいよ終盤!次の記事は本記事にも少しだけ登場した、本坊酒造のグループ会社・薩摩酒造の所有する火の神蒸溜所探訪記です!乞うご期待!