フランス人の考え方はどうも分からない
フランス語少しやっていました。
娘が院からフランス語圏に派遣されて、その彼(今のダンナ君)も別のフランス語圏の院に留学していたので、遊びにいくならフランス語やらなくちゃと思ったからです。
仏検2級とDELFのB1はすぐとれたのですが、問題はB2です。
フランス人の考える「ただしいフランス語作文」の型がどうもピンとこないのです。
理解できないどころか、「いや、どうしてそうなるのか」という感じで、英語圏の「これこれがトピックで、こういう点を自分は主張したいので、3つのポイントからフォーカスします」的な作文方法とはまったく相いれない手法なのです。
たとえば、フランス語レッスンで、ちょっとした読み物を読んだとしましょう。そうして、その感想を話し合うというレッスンで、どういう感想が「フランス語的二項対立にのっとって正しい」のか考えてみます。
レッスンは「幸せ」がテーマとしましょう。
自分の日々が幸せかも危ういのに、「幸せ」を読まなくちゃいけないフランス語レッスン。だいたいがフランス語のレッスンってのはそんな感じなのです。
記事のタイトルは Le bonheur est-il obligatoire ?(幸せは必然なの?)でした。簡単にご紹介すると、記事は以下の4段落から構成されています。
①イントロダクション:トピック「幸せ」の提示=幸せになる方法が大人気
②「ポジティブ心理学」が席巻(=幸せは環境・社会など外的要因に依存しない。要は、「幸せになるか」は自分の気持ちの持ちよう)
③「ポジティブ心理学」への反対意見(=個人の気持ちの持ちように「幸せ」を落し込んだら、幸せでないと思っているヒトは努力が足りないことになる。「すべて個人のせい」なのか?)
④まとめ:幸せでないイコール不幸って、ちょっと短絡的では?
4段落のうち、①はイントロで④はまとめです。
ですので、間の2つの段落の②と③がお題の「幸せ」をめぐる「二項対立」になります。
フランス人の大好きなこの「二項対立」ってのが英語ばかりやってきた民には、どうもピンときませんが、ここをどちらにも肩入れしない感じで書くのがポイントらしいです。そのメモをもとに感想を述べるという仕立てです。
DELFのB1まではなんとか自力で学んでも、二項対立のB2の作文構成が分からないなぁとアンスティチュ・フランセのB2コースに少しだけ通ってみました。
「トピックについてまず『二項対立』で考えて、それぞれ(少なくとも)3点ずつポイントを挙げるんですぞ。それを網羅的に説明しつつ、自分の主張に誘導して終わらせるのでぇす!!」
と、舞台俳優さながら手振り身振り激しく教えてくださるP先生の板書をぽかーんと見ていた婆です。
二項対立の方法すらぼんやりなのに、それぞれに3点ずつのポイントをあげつらねて、それをまとめて説明しなおして、さらに、自分の主張(どちらかと言えばこっちが正しいよね)へ誘導するそうです。
そのクラスは、婆以外、ほぼ全員がお洒落でシュッとされて、フランスへ何度もいらしている素晴らしい受講生であふれていました。
あ、コロナ前のお話です。
で、皆さまはどうやら何期もこの授業を継続されているらしく、合点承知って勢いでスラスラ取り掛かっていらっしゃいました。
しかも半分くらいの方はすでにDELFのB2ホルダーで「C1のクラスがないから通っている」上級者レベル。書いた後のグループに分かれての意見交換もフランス語ペッラペラでした。
すれすれB1に受かったレベルで足手まといの婆は毎度レッスンで先生が何をおっしゃっているのか、皆様のピアコメントですらもよく理解できず、常に靄がかかってポカン状態で大変ご迷惑をおかけしておりました。
あまりにも出来が悪いので、この
「フランス人が推す『二項対立』ってのの理解が間違っているのでは?」と、仕事先でフランス人マダムをつかまえて聞いてみました
「二項対立でいいのよ、フランス語の論の展開は。
一番分かり易いのは・・・アンスティチュ・フランセのP先生よ、お勧めですよ」
って、その先生にお習いしているのに、この始末なのですが
ってことをフランス語仲間に愚痴っていたら『バカロレア幸福論』を紹介されました。フランス語の試験を受けるなら、「まず敵の発想を知ることです!」
もっともなことです。
フランスの大学共通テストで出される作文系の問題の解き方フォーマットが紹介されている本を読んでみました。
こちらです。
書名:バカロレア幸福論ーフランスの高校生の学ぶ哲学的指向のレッスン
著者:坂本尚志
発売元:株式会社講談社
2018年2月23日第一版(920円)
まさに求めていた二項対立の説明とはこのこと。
「トピックについて自分なりに定義」
「トピックを展開させてまずはA案(出来れば自分が反対したい案を先に提示)」
「A案の不備を指摘しつつ、補完もかねて新しくB案」
「A案もB案もあるけれど、(やっぱり)こういう理由でB案ですかねというまとめ」という流れを押さえたフォーマットが、例とともに丁寧に説明されています
上級者向けのお題ではA案、B案、いややっぱり折衷案でC案でしょ!という離れ業も載っています
途中で引用されているプラトンだのアリストテレスだのカントだのの主張はすっ飛ばしても、p.41の二項対立の表だけでも読むと「困った時はこの切り口で」と突破口が見えてきそうです。
「絶対的vs相対的」「客観的vs主観的」といったぱっと思いつく二項対立以外の「義務vs制約」「(論理的に)説得するvs(感情的に)納得させる」などの二項対立を考えるそもそものヒントも載っていました。
常に数字の3が好きな英語の民の発想にとらわれない「二項対立」系の方々と対峙する前に知っておくべき、ライフハック的情報が満載の新書です
で、ですね、次回は、そういう「二項対立」の基礎の基礎がわかったところで、どうもやっぱりうまく行かないのだわ、というフランス語学習者のお話が続きます