スイッチを押してくれた人
今日、上野駅を使わなかったら思い出せなかったかもしれない。薄情なヤツだ。
何気なく言ってくれた一言に助けられた2019年だった。せっかくの大晦日だから残しておきたい。
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「あともうちょっと」と言われた。満足させるだけの文章には、まだ足りないということだ。でも、あともうちょっと。
書くことが苦手で、手が止まってしまうことは何度もあった。
その度に、「やめてやる」「まだ続けよう」の二人が頭の中に出てくる。
そのうちに感覚が分からなくなってくる。暖簾に腕押し、糠に釘、という状態。言葉を掬ってみても、指と指の間からぽろぽろとこぼれ落ちてしまう。
そんなときに「あともうちょっと」と言われた。
不思議なもので、いつも適切なタイミングで、その時に求めている言葉を贈ってくれる。「あともうちょっと」を信じて、踏みとどまることができた。
2019年は心が折れそうになることばかりだった。限界値は超えていた。かろうじてバッファの部分で保っていたに過ぎない。
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書くこと、書き続けることは解決したと言い聞かせたものの。
その先が全く見えなかった。真綿で首を絞められるかのように。じわりじわりと苦しくなっていく。居場所がいくつあっても、その全てが届かない位置にあり、ど真ん中にポツンと取り残されてしまったようだ。
そんなときに言われたのは「人前でしゃべってみたら?」だった。
夏の暑い日、冷房の効いていないカウンター席でビール片手に餃子をつつきながら。
なんでも、自分が発表する機会を得たとかで。だから僕にも「人前で~」とアドバイスをしてくれたんだと思う。
だからそれを信じてみた。
ちょうどその頃、公募制のプレゼンの誘いがあった。〆切りまであと数日のタイミングだった。仕事の合間を縫って書類を仕上げた。資料作りもした。
書類や資料は「書く」ことが大切だ。書き続けていたおかげで、抵抗なく書くことができた。
ゴールは人前でしゃべること。
だから、しゃべることを詰め込んだ。テレビ、ラジオ、YouTube。セミナー映像やセッション動画、落語やボイストレーニング。
しゃべることを詰め込んだはずなのに、その内容にまで心が引っ張られてしまった。毎日毎日、ありがたい話や、役に立つ話、面白い話を聞いていたのだから。
身の回りがプラスばかりになってきた。人前でしゃべるそれよりも、その準備の段階で、僕は随分と気持ちが安定していたようだ。
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2019年、僕にとっては緩急激しく、自分では制御できない1年だった。
仕事でも、プライベートでも。何かにつけて「絶望だ!」と叫んでいた気がする。「やめる!」とか「消える!」とか、そんなことを言っていた気もする。
目の前に壁ばかり出てきて、一向に前に進めない。
職場環境が変わり、上司が変わり、チームが変わり。プライベートでも、上手くいかないことばかりだった。
その中で、うまくスイッチを入れて下さる方がいて、無事に軌道修正できている。半年前の自分では想像できないくらい、安定した自分が今、ここにいることにびっくりしている。
本当に守ってもらった1年だったし、温かい言葉をかけてもらった1年だった。
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さて、来年はどうしようか。自分自身を守れるようになろう。自分で自分をコントロールできるようになろう。
それができたら。支えてもらった分、スイッチを押してもらった分、どこかでお返しをしたいと思うのだけれど。