元アルコール依存症の患者さんの話。

夜間ナースコールが鳴って 
患者さんのトイレ介助を行った
深夜0時すぎ
その時患者さんが私に話してきたこと

「俺はもう、酒を辞めて15年になる。その時入院してた病院は本当に怖かった。ボコボコに殴られてよ。それで辞めた。タバコも辞めた。なんの楽しみがあるとや」

「お酒もタバコも辞めるってすごいですね!そぉですねーー、今の楽しみかぁ何があるかなぁ」

「女やな!ははは!俺は浮気したこともある」

「だめじゃん!」 

「2回目の結婚の時に浮気した、あれは浮気とは言わんけどね」

「それが見つかって別れたの?」

「いやあ、死に別れ、子宮癌でね発覚から1年くらいで早かった」

「そうだったんだ」  

「最初の結婚は生き別れ、息子は4歳だった。その後、俺は酒を飲みだした。宝くじでも当たらんと、もう会えん」

「そっかぁ。そりゃ会いたいよね。きっと何処かで、立派なおじさんになってるよ。きっと。」

「一度息子が俺を探して会いにきたことがある。でもその時俺はアル中真っ盛りで、わけの分からんことばっかり言って、絶望だけを与えて返してしまった。それっきり。80手前まで生きて来たけど、息子のことを思わなかった日はないよ。」

「そっかぁ。今会えたら、また違うのかもしれないね。いろんな人生を経験して来られたんですね」

「こんなこと苦労のうちに入らん。俺が人にしてきたことは、こんなことくらいじゃすまされん。」

どうか、もう自分をそんなに責めないでって思ったけど、

その時は上手く言葉が出てこなくて

そしたら別の患者さんのナースコールが鳴って、その場を離れた

ナースコール対応して、その後その患者さんのところに戻ったら、寝息を立てて寝ていた。

そういえば、この人明日退院だ

私の会えるの今日が最後だ

夜勤明け、帰るときその患者さんの部屋に寄った

「明日退院ですね、帰ったらまた一人で暮らすの?」

「ああ、そうさ、一人じゃなんにも出来ん。今になってかみさんの有り難さが分かる」

「感謝して生きて行かないとね、きっとその想いは伝わる。昨日は話せて良かった。ありがとうございました。○○さんの健康を祈っています。」

「ああ、こちらこそありがとう。ありがとう。お疲れさん」

小さな目を更に細めて、手を振ってくれた。

優しそうな、優しそうな

お父さんの顔だった。

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