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一夜限りの盛大なアートの宴- ACCENTURE ART NIGHT 2018 feel the AIT with innovation stories in art

※過去記事のアップです(2018年8月24日)

『ACCENTURE ART NIGHT 2018』は、イノベーションやアイディアの着想を刺激するアイテムとしてアクセンチュア・イノベーション・ハブ 東京(以下、AIT)に展示されている作品の理解を深めると同時に、一夜限りの豪華な展示を楽しみながら、アーティスト、ギャラリスト、コレクターなど業界を超えたInnovation Networkを提供するイベントとして開催されました。
真夏の熱い一夜を飾ったイベントの様子をお届けします。

会議室が展示室に!

複数のアートギャラリーやアートオークション会社、文化事業を営む大手企業にご協力頂き実現した贅沢な作品展示と、ゲストを招いたトークセッションの2部構成。
トークセッションでは、古美術商・浦上蒼穹堂 代表取締役 浦上満氏をお招きし、日本初の大規模な春画展開催に至るまでの挑戦についてお話し頂きました。

美術館よりも近い距離で作品を楽しむ

AITでの作品の展示の自慢は、作品と人との距離が近いこと。美術館のように、停止線は引いておらず、触れようと思えば触れられる距離に作品が展示されています。
ご協力頂いているギャラリーとの信頼感で、作品展示が成り立っているとても素晴らしい空間です。近づいて見るからこそ分かる、作品の素材感、質感、力強さをイベント来場者の方にも感じていただきました。

AITでの展示風景 展示作品 
(写真右)菅木志雄 (写真左)左:杉本博司 右:リー・フリードランダー

そして普段は資料などを投影するモニターも、この日は、旬の現代アーティストの映像作品に総入れ替え!メインの巨大モニターに展示された海の色を基調とする作品を反映するように、会場全体も美しく幻想的な雰囲気に包まれました。

巨大モニター展示作品:潘 逸舟 「海で考える人」 

「北斎漫画」と「Touch the北斎漫画」

会議室を丸ごと展示室として整え、ゲストスピーカーの浦上氏の『北斎漫画』コレクションと、凸版印刷株式会社開発のデジタルコンテンツ『Touch the 北斎漫画』も合わせて皆様に楽しんでいただきました。

北斎漫画の『漫画』とは、折にふれ、筆のおもむくままに描いた絵といった意味だそう。森羅万象あらゆるものを題材に描いた『北斎漫画』は、まさに眼で見る江戸百科というべきもの、と浦上氏はその魅力を語ります。
学生時代より『北斎漫画』の魅力にとりつかれ、北斎存命中から65年にわたり出版され続けた長い版行のうち1500冊以上を蒐集、そのコレクションは専門家の間で質・量ともに世界一のコレクションといわれています。今回はその貴重なコレクションのうち11点を展示させていただきました。

鑑賞者からは、「作品をガラス越しではなく、こんなに近くで見られることはめったにない」と感嘆の声が聞かれました。
江戸時代に爆発的なヒットとなった『北斎漫画』は、現代のマンガに通じるユーモアや表現の原点のようなものを垣間見ることができます。北斎のその卓越した描写力と構図に加え、ちょっと笑えるコミカルな表現から、日本が世界に誇るマンガ文化の土壌には、北斎の存在があるのではないかと感じました。

加えて、浦上氏と凸版印刷株式会社のタッグにより誕生したデジタルコンテンツ『Touch the 北斎漫画』も展示しました。
凸版印刷は、2012年から浦上氏が所蔵する『北斎漫画』の高精細デジタルアーカイブとアーカイブデータを活用した新しい鑑賞手法の開発に取り組んでおり、大英博物館開催の特別展「Hokusai Beyond the Great Wave」に「北斎漫画」高精細デジタルアーカイブデータを提供する等しています。
『Touch the 北斎漫画』では『北斎漫画』に登場するキャラクターに触れたり、キャラクターと目を合わせてみたり…参加者は個々の趣向に合わせて北斎の世界を身近に楽しんでいました。
デジタルコンテンツが実際の作品と共存し、それぞれ違った楽しみ方で「本物」の生き生きとした北斎の世界を提供している様子が興味深いです。

トークセッション 「こんなバカなことがあっていいわけがない」
業界の壁を打ち抜く~春画展を巡る長い挑戦の道のり

トークセッションでは、「アート ≒ イノベーション 既成観念の突破」をテーマに古美術商・浦上蒼穹堂 代表取締役 浦上満氏をお招きし、春画の芸術的価値を巡る多くの困難と、日本初の大規模な春画展開催に至るまでの道のりについてお話を伺いました。

コンサバティブとの闘い、そして日本初の大規模な春画展開催へ

春画は人間の性的な交わりを描くことに主眼を置いた日本の肉筆画、版画、版本などの総称です(浦上氏)。菱川師宣、喜多川歌麿、葛飾北斎等当時のほとんどの浮世絵師は春画を制作しており、そこには絵師たちの巧みな技巧や挑戦が表現されています。

江戸時代の豊かな芸術でありながら、どこよりも祖国日本で認められてこなかった春画の芸術的価値に先に注目したのは海外でした。世界初の大規模な春画展※1はイギリスの大英博物館で開催されたのでした。
大英博物館としても、初めて年齢制限を設けるなど異例の対応の中、展覧会は予想を大幅に上回る約9万人を動員し大成功を収めます。「日本に対する見方が(良い意味で)変わった」。肯定的な性の美しさが認められ、ウィットに富む日本人の姿を海外に知らせることになりました。

世界中のメディアからも高い評価を受けた春画展でスポンサーとして尽力した浦上氏の元に、日本での凱旋展示の話が挙がります。日陰に咲く花の存在であった春画が、ようやく再評価される機運が来たのだと感じられたのも束の間、日本での春画展開催への道のりは長く険しいものとなりました。
まず直面したのは、春画展の会場が見つからないこと。どの美術館に掛け合っても「春画展の意義は分かる。ただウチではなく、他の場所でお願いできないか」と返答は同じでした。数多くの美術館から開催を断られ春画展の会場探しは困難を極めます。

「各方面が社会の目を気にし、自然と自主規制をする様子は、日本社会の縮図のようだった」と浦上氏は当時を振り返ります。文化的価値はとても高い春画がマザーカントリーで受け入れられない事実に対し、「誇るべきものを恥ずべきものとするのは残念」とその胸の内を語りました。

※1 「Shunga: Sex and Pleasure in Japanese Art」(2013年~2014年)

トークセッションの様子

もちろん、嫌いな人も好きな人もいるけれど、春画には高い文化的価値がある。その思いで多くの文化関係者を回り続けました。
約1年に渡る奔走の末、浦上氏含む実行委員会の熱い思いが通じ、2015年永青文庫の協力を得て『春画展』の開催が決定。展覧会は20万人以上の来場者を記録し、日本初の大規模な春画展は大きな反響と共に大成功を納めました。

困難を乗り越えた秘訣は、『本物』の作品が持つ素晴らしさ

「何よりも本物を見てもらいたい。本物を見た人は必ずその素晴らしさに気づくはず」浦上氏はそう語りかけます。著名な絵師がその腕を振るった春画は、色遣い、構図、表現力で人々を圧倒します。それは「いやらしい」ではなく、「美しい」という表現が相応しいのでしょう。
「本物=良いもの」を見て欲しいという熱意と、「本物=実物」の作品の素晴らしさへの絶対的な自信が、春画展を巡る逆境の中で浦上氏を突き動かし続けた原動力であることを講演の様子から学ぶことができました。

今回のイベントでは、春画と『北斎漫画』、どちらも同時に触れることができ、江戸文化の多様な側面を感じることができました。そこには、限られた日常の中で今を楽しむ江戸の人々の姿が息づいており、生き生きとした約200年前の人々の姿は、社会の目を気にし、コンサバティブな考え方をしがちな現代の日本社会に、今を懸命に生きる勇気を与えてくれるように思います。

ゲストスピーカー・ 浦上満さんから

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