チャリダーアキの自転車世界旅行 オーストラリア一周編(24)
ナラボー10日目の夜
夜1時、もの凄い風の音で目が覚めた。テントのフライ(外張り)はバタバタと音をたてていて、今にも飛んでいきそう。噂には聞いていたが、まさか自分がストームに巻き込まれるとは思っていなかった。兎にも角にも急いで飛び起きる。意外なことに頭の中は冷静で、先日リオンが僕に言っていたことを思い出していた。
「ニュージーランドでは頻繁にストームに遭遇して、一晩中眠れなかったことが何度もあったんだよ。アキがストームに巻き込まれたら、テントの一番重要な支柱が折れたり外れたりしないように手でしっかり押さえておいた方が良いよ。」
後から思えば、僕のオーストラリア製の安いテントの作りが心配になって、アドバイスをくれていたのかも知れない。体を起こし、テントで胡座(あぐら)をかいた次の瞬間、テントやフライを固定するために地面に突き刺しているペグ(金属棒)が次々と抜ける音がして、フライは今にも飛んで行きそうになってしまった。テントそのものも今にも吹き飛ばされそうだ。
(支柱だ!支柱が折れたり、飛んで行ったらテントが崩れてしまう!それと、フライをどうにかしないと直ぐに飛んで行ってしまう。)
まず始めに、テントの中央に胡座(あぐら)をかいた状態から、左右にある入り口のファスナーをそれぞれ10cm程度開け、両腕を左右に広げて伸ばしフライをつかんだ。そのままテントの中に引っ張り込みつつ、支柱を押さえる。結局僕は、両腕を左右に広げたまま動けない。この体勢になって間もなく、大きな支柱を支えるペグを除く全てのペグが吹き飛んでしまった。
テントの両サイドから冷たい風が吹き込んでくる。それと同時に嫌というほどの砂が舞い込んでくる。そもそも砂地にテントを張ってしまったので、あっさりとペグが抜けて飛んで行ったのだ。運が悪いことに半袖シャツ1枚で寝ていた。目の前にフリースのジャケットがあるのだが、支柱とフライから手が離せないので着ることができない。
なんとか足で寝袋と毛布を体の近くに手繰り寄せ、耐えること3時間30分。ストームは去った。疲れ切った体で、テントを張り直すがペグは見当たらない。後は日が昇ってから考えることにして、砂だらけのテントの中で死んだように眠った。