常世のがたり 第2話「シキガミ」/創作大賞2024 漫画原作部門応募作品
トンテン!カンテン!
「おーい、それはこっちだ」
「この板まだ使えるぞ」
ピーチTらは近隣住人と
壊れた家屋の片づけ&修理中。
サナ「少し休んで」
スラムの人「ありがとう。サナちゃん」
サナはたき火で白湯を沸かしてみんなに配る。
サRは獣人の子らに武勇伝を語っている。
「その時ピータの体がパーッと光り、
するりと刀を抜いて…こうよ。
「スラムは俺が守る!成敗!」(誇張したシブい顔で)
そんでもってズバーッ!と悪を退治したってわけだ」
獣人の子
「すんげえ!」「しびぃ!」「ピータ胸アツ!」
キGは瓦礫の中から輝きのよい石を発見。
「よき!」
衣服の装飾に加え、
ひび割れた手鏡で己の姿を見てうっとり。
ピーチTは力が入らず、
持ち上げた瓦礫に押し潰される。
「あっ」
慌てて駆け寄るEヌ。
瓦礫をどかそうとするが、持ち上がらない。
トクゾウらが協力してその瓦礫を持ち上げる。
ピーチT「ふう」
助かったと手で額の汗をぬぐい、石に座る。
サナ「お疲れさま」
ピーチT「うん」
サナ「力が入らないの?」
ピーチTは確かめるように手をグーパー。
ピーチT「あのあとから全然」
でも特に気にしていない様子。
サナ「そう…」
サナは形態変化したピーチTの姿を思い出し、言葉が続かない。
ピーチT「ごめん」
サナ「え?」
ピーチT「殺すしかなかった」
淡々とした顔で。
サナは言葉に詰まり、ピーチTを抱きしめる。
サナ「背負わせてごめんね」
ピーチT「……」
サナが離れると、ピーチTの姿が人影で覆われる。
見上げるとキンタが立っている。
キンタ「手伝おう」
ピーチT「……」
キンタは軽々と瓦礫を持ち上げ、
廃材を運ぶなどよく働く。
瓦礫の山が整理され、
いくつかのテントが張られたところで、
今日の作業は終了。
半裸で汗を拭うキンタ。
ピーチTがその背後に立つ。
ピーチT「話あんだけど」
キンタ「……そのつもりだ。ついてこい」
数時間後、シキガミたちの拠点「一条MB」。
叡都の北西の端にあり、わりと近代的な外観。
一条MB内のラウンジ。
カグヤ「はああ、素敵だったわあ♡」
ウラシマ「もうずっとその調子だなあ」
ウラシマは身長160cmほどで、おおらかな雰囲気。
甚兵衛ベースの装束。
カグヤの背後には、
タケノ(ウサギ型獣人)が姿勢良く侍立。
ロングソードを帯び、毅然としたイケメン。
カグヤ「だってあのお姿とお振る舞い♡」
昨日カグヤが現場に到着したのは、
ちょうどピーチTがオヌビトを倒す時だった。
カグヤには、
オヌビトを両断するピーチTの姿が
オヌビトを抱きしめているように見えた。
カグヤ
「愛…そう愛なの♡」
「きっとあの人なら私に愛を与えてくれる♡」
恍惚。
ウラシマ「やれやれ」
ミズノ「ただいまお茶をっ!」
ミズノ(カメ型獣人)が
のろまながら急いだ様子でお茶を運ぶ。
ぷるぷると体を震わせている。
ミズノ「ああっ!」
すっ転び、ガッシャーン!とお茶をおこぼす。
ミズノ「はわわ、旦那様の大事なお湯のみをっ」
ウラシマ「大丈夫だよ。それより怪我はない?」
ミズノ「もったいないお言葉っ」
ウシワカ「はあ」
具合悪そうにテーブルに突っ伏す。
(いつものこと)
スミエ(ウシ型獣人/巨乳メイド)が入ってくる。
イッスン「来ましたよ」
全員の表情が引き締まる。
発言の主はスミエではなく、イッスン。
イッスンは身長3cm程で、普段は自分の侍獣人であるスミエの谷間に挟まっている。
キンタに連れられ、
ピーチTはキフネ研究所に到着。
サR、キG、Eヌもお供している。
キフネ研究所は叡都の城壁外、
北西から流れる川沿いの林の中にある。
一条MBからもわりと近い。
ピーチT
「ここは…うっ!」
頭を押さえ、しゃがみ込む。
サR「どうしたっ?」
1話で現れたおぼろげな女性の顔と
「ごめんね、ありがとう」の言葉。
さらには赤子の自分が誰かに抱かれ、
ここから脱出する光景が脳裏に浮かぶ。
ピーチT「俺の…記憶?」
キG「何?」
ピーチT「いや…大丈夫」
頭を振り、立ち上がる。
研究所に入ると
ベンケイ(タヌキ型獣人)と
キンピラ(クマ型獣人)が出迎える。
ベンケイ
「がっはっはっ、よくぞまいられた!」
キンピラ
「わあ!」なんか嬉しそう。
ベンケイ
「それがしはベンケイ。ウシワカ様の侍獣人でござる」
キンピラ
「えっと、えっと…よし、こい!」
と相撲をとるポーズ。
ピーチT「?」
キンタ
「これはキンピラ、私の侍獣人だ」
「キンピラ、今は相撲の時間ではないぞ」
キンピラ「あ、そっか!」
困惑するピーチTら。
研究所内の大広間。
テーブルの上にはたくさんのご馳走。
思わぬ歓待。がっつくサRたち。
ピーチTは一口だけパクリ。
キンピラ
「ここのごはん、すっごくおいしいでしょ!」
ぐ〜!とピーチTの腹が鳴る。
ピーチT「ザンサイ餃子はないの?」
キンピラ「何それ?」
カグヤ「ピー様ぁ♡」
カグヤがピーチTに勢いよく抱きつき、
床に倒れ込む。
ピーチT「何これ?」
カグヤ
「さあ、あたしに愛を!
抱えきれないほどの悦びを!」
イッスン「こらこら、落ち着きなさい」
声のほうに目をやると、無表情のスミエが立っている。
ピーチT「?」
イッスン「ここですよ、こーこ!」
スミエの谷間に目をやると、
3cmほどの背丈のイッスンが
涼やかな顔を向けている。
ウラシマ「はは、大丈夫かい?」
ピーチTに手をさしのべ、立たせる。
ウシワカ「うう、頭が痛い」
最後にゆらゆら入ってくる。
ピーチTらがドーンと一堂に会する。
お爺様の声「集まったか」
キンタら5人とその侍獣人たちは
素早く左右に整列。
サR「な、なんでえ?」
お爺様が姿を現わす。
キフネ研究所所長。
名はキキョウ。
お爺様といっても年齢は48歳。
すらっとした枯れオジ系。
白衣を着た科学者。
キキョウ「よく無事でいてくれた」
ピーチT「?」
キキョウM
「ついにあの子を見つけたよ、
NDTL038。いや私のジブラル」
(1コマ回想)
大きな培養カプセルの中で眠る美しい女性のオヌビト。
そのカプセルを見つめるキキョウの後ろ姿。
ピーチT
「あんたがこいつらの親分?」
キキョウ
「ピーチTといったか」
ピーチTは頷く。
キキョウ
「結論から言おう。
おぬしを“シキガミ”に加えたい」
ピーチT「何それ」
キキョウN(ナレーションセリフ)
「そうだな、まずは歴史の話をしよう」
「我ら真人(マヒト)は
まつろわぬ民“オヌビト”との
2000年を超える戦いに終止符を打ちつつある」
「我らとは似て非なる蛮族オヌビト。
人界の外に棲み、
たびたび叡都をおびやかしてきた」
「その暴はすさまじく
我らは一時、滅亡寸前まで追いやられた。
約500年前のことだ」
「しかし
真人の祖たる大聖母ルーシィの加護を受けた
大英雄ホクテンの活躍により情勢は逆転」
「真王の名のもと
知恵と数を結集させて反攻を開始。
各地でオヌビトどもを討ち倒していった」
ピーチTは何の話してんの、こいつという顔。
イッスン
「偉大なる大聖母ルーシィ
その末裔たる真王の御稜威(みいつ)による四征戦争ですよ」
ピーチT「聞いてない」
どうでもいいよって顔。
キキョウ
「オヌビトはもはや風前のともし火。
だが追い詰められ、行き場を失った残党が
叡都にもぐり込み、破壊活動を行い始めた」
大型モニターに棒グラフが表示される。
キキョウ
「ここ50年間のオヌビト発生件数を示したものだ。
見ての通り15年ほど前から急激に増えている」
ピーチTは昨夜戦ったオヌビトの姿を思い出す。
キキョウ
「しかも各個体の脅威度は飛躍的に高まり
衛士ではもはや対処不能だ」
キキョウ
「そこで“生み出された”のが彼らシキガミ」
キンタらの背筋がスッと伸びる。
カグヤ「シキガミ一式カグヤ」
キンタ「二式キミトキ」
ウシワカ「三式ウシワカ」
ウラシマ「四式ウラシマ」
イッスン「五式イッスン」
キキョウ
「とくに優れた因子を持つ子を
オヌビト討伐専用の戦士として育て上げた」
キキョウ
「先の東市事案で
彼らの有用性は改めて証明された」
1話冒頭でキンタらが5体のオヌビトを退治したシーンを見せる。
サR
「でぇ、それとうちのピータと何の関係が?」
キキョウ
「この100万都市の全域を守るにあたり
この5名では必ずしも十分とはいえない」
カグヤM「できるけどね」
他の4人も少しむっとする。
キキョウ
「当然、守護対象には優先順位がつけられる」
Eヌ「優先順位?」
ウラシマ「いらないものから切り捨てるってことだよ」
サR「あっ!? スラムのことか!」
キキョウ「真人を守る力となれ」
ピーチT「なんで俺?」
キキョウ「おぬしにその力があるからだ」
ピーチT「力…」
形態変化した自分を思い出し、
さらに力の入らない手を見つめる。
ピーチT「まぐれだよ」
キキョウ
「たしかにおぬしのシキガミ化は偶然だ」
「今のままでは役に立たぬ」
ピーチT
「だから力の使い方を教えてくれるって?」
キキョウ
「うむ、必要なリソースはすべてここにある」
「衣食住はもちろん十分な給金も出そう」
「スラムにいる家族の住まいも都の一等地に用意する」
カグヤM「ふとっぱら〜」
イッスンM「そんな逸材なんですかね」
キキョウ「受けてくれるね?」
ピーチT「……」
イッスン
「要するに強い力が手に入り、尊敬も得られ、スラムとはケタ違いに豊かな暮らしができるんです」
ウラシマ「迷うことあるかなあ」
ピーチT「俺の質問にも答えてくれる?」
キキョウ「?」
ピーチT
「急にシキガミとか言われてもよく分からないし」
「それにあんた…まだ俺に言ってないことあるでしょ」
キキョウ「……」
ピーチT
「噓はついてない。
でも全部は言ってない。
だからあんたの話には乗れない」
サR
「うまい話にゃ裏があるってか」
キG
「都合のいい話だけされて
利用されるほどガキではないと」
ピーチT
「守りたいものは自分で守るから」
Eヌ「ワン!」
誇らしげに吠える。
キキョウ「そうか」
ドゥルルルル!
大型モニターからアラート音が鳴る。
「オヌビト検知!」
モニターに示された場所はまたもスラム。
ピーチT「!?」
7体の信号が表示され、
脅威表ははオールB。
キキョウ
「おぬしに守れるかね?」
つづく