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2/4あたたかな日曜日の懐古
ある日、北海道へ行った。
高校を卒業してすぐのことだった。
その間、大学は休学した。
道北の名寄市というところで約1年間、農業をした。
じゃがいもに、アスパラに、かぼちゃ、とうきび、それからてんさい糖を作るためのビートや、ブルーベリーなんかを栽培した。
種を植えたり、苗を育てたり、収穫もした。
雨が降った翌日の朝には、植物たちは霜できらきらしていた。
そして、霜に当たって死んでった。
毎日朝4時半には起きた。
朝ごはんは、農家のおばあちゃんの和子さんが、おにぎりやゆで卵を作ってくれることもあった。
たまに畑に鹿が顔を出した。
嬉しかった。
でも、鹿が踏んだ苗は死んでった。
滞在中は、シェアハウスをしていた。
ここには、たくさんの自然とたくさんの人たちがいた。
ある日、大工さんが、器を見せてくれた。
桜の木のこぶで作ったものだった。
それはそれは素敵だった。
同じ形の木の器は全くないのだと知った。
作る器は、木の種類が違うと、完成はまるっきり違うのだった。
大工さんは大きな丸太を近くの薪屋さんからもらってきた。
大工さんは、師匠に器の作り方を教わった。
大工さんとは一緒に畑で働いた。
ある日、同じ道北の下川に行った。
釜でピザを作った。
その釜はその土地の土や木や泥で作られたものだった。
生地を練って、醗酵させた。
野菜は畑から穫ってきたり、チーズは牛屋さんからもらった。
山できのこも採ってきた。
生地をのばして広げて、トマトソースや、きのこのソースをのせた。
野菜ときのことチーズものせた。
ピザを初めて釜に入れてみた。そんの数分、いや数秒だったと思う。
心地の良い香りと音がした。
温かいうちに食べた。
ストーブの横では、マスターがギターでシャンゼリゼを弾いて歌っていた。
それはそれは美味しかった。
ある日、チリ人がシェアハウスに来た。
一緒に住んだ。
初めてスペイン語を聞いた。
たまに英語と、日本語も話した。
チリ人はギターを持っていた。
私はウクレレを持っていた。
一緒に弾いたみた。
いつの間にか、周りには、同じ弦楽器を弾く人や、チャランゴ、太鼓、歌、バイオリンを弾く人と、ラッパーと、踊る人もいた。
畑では、たまにスペイン語が聞こえるようになった。
ある日、みんなで集まった。
ウクレレを弾くのが2人と、太鼓が1人と、みんなで歌って、あとは大工なラッパーと、南米人が何人かと、世界一周したマスターのおじいちゃんと、絵を描く人と、サウナ作る人と、ジビエを作る人、ゲストハウス作ろうとしてる人、羊の毛で服を作っている人たちがいた。
踊る人もいた。
焚き火をした。
夜空を見上げると、星があった。
たくさんあった。
遠くで鹿の声がした。
この場所は、全部全部自然と人だった。
もうその時間には戻れないけれど、頭の中にはいつもその時が流れている。