ヒモとOL
ヒモが、お家から出ていった。
ヒモをつなぎ止めていたヒモがプツリと切れていなくなっていった。
同棲なんてするもんじゃないし、
部屋には私しかいないし、
タバコの空き箱とか歯ブラシとか、そんなあからさまなものなんかよりも、シーツのシワとか、リモコンの置き方とか、生活に散りばめられてるあいつの成分をこの部屋から無くせないのが悲しい。
私が作り上げた大切な可愛い部屋なのに、あちらこちらに悲しみがあって、大変なことになってしまった。
あーあ、同棲なんてするもんじゃなかった。
心を落ち着かせるために一緒に居たはずなのにいつしか私が心を乱される原因の9割はあいつになってたし、
抱きしめ合ったり好きだよって言い合ったりする度にその後に思っていた、
「でもずっと一緒にはいれないよなあ」
は、
「今後の事とか考えずにずっと一緒にいたいな」
になっていたし、
「完全に好きにはなれないな」
は、
「どうしよう、好きになってしまいそう」
になっていたし、
もうどうだっていいから一緒に居て欲しいくらいに好きになっていた。
ていうかいつしか後ろに付ける言葉なんて考えなくなっていた。大好きだった。
私はOLでヒモは水商売。水商売も水商売、おじさんに体を売っていた。最低だ。理解出来ない。仕事を打ち明けられてから一日中考えても理解出来なかった。一緒に居るのが苦しい。ヒモが「俺は汚いから私を抱く度に罪悪感を感じていた。だって私は綺麗なんだもん。」と言っていた。じゃあそんな仕事辞めればいいのに。その一言が言えなかった。そもそも私は綺麗なんかじゃない。水商売こそしていないが、すぐ適当な男に抱かれてしまうし、そんなふうにヘラヘラと生きていた。あんたの事だって最初はそうだったよ。
本当に汚いのはどっちだったのだろう。
そんなこと、もうどうでも良いか。
ああ、まだ肌の感触を覚えている。
私はあいつに触れるのが好きだった。
こんな事になるんだったら触れなければ良かったなあ。
早く忘れたい。早く忘れて、今まで通りヘラヘラと生きていきたい。
長く続かないことだって分かってたし、私の人生や生活からいなくなった方がいいのだって分かっていたのに、今はたまらなく悲しいのだ。あんなに出て行って欲しかったのに、喧嘩をしてあいつが出て行った時、必死に引き止めたし、もう会えないと思うととてつもなく悲しい。人がいなくなるってやっぱり悲しいな。そこまで取り乱すことはないけれど、ドライになるのにはまだ時間がかかるし、部屋にいるのが辛いな。
同棲なんてするもんじゃなかった。好きだったなあ。
今日はもう少し泣きます。