#38 雪隠と留学 [第3部 スペイン編] ep.XXII「マドリードへようこそ」
十二月二十四日。クリスマスが来た。友達は皆去った。そもそも家族と過ごすものなのだ。
行きつけのスーパーで一羽買ってオーブンで香草焼きにして二日かけて一人で完食した。どうやらこのボウティン家はクリスマスを祝わないようだった。至って通常運転だ。大学からはクリスマスカードが送られてきた。年末に家族が来西するまでの予定は消化された。
ロビーに座っている弟二人が見えた。マドリードで最大で一番人気でドレスコードのあるクラブ、カピタルの隣のホテルだ。
自動ドアが開いて半年ぶりに家族に会った。脳裏にはアンの顔がよぎる。日本人は家族同士でもハグなど滅多なことではしないし、それどころか触れることもあまりない、というと小馬鹿にした表情で冗談言うな、と言われた。
予想通り誰にも触れなかった。もう半年経ったのか、留学も折り返しか、と思うと少し寂しい気持ちになった。
クリスマス休み明けのテストのことは後で考えることにした。マドリードでホテルに泊まるのは不思議な感覚だった。
部屋に入るとウエルカムドリンクとしてワインボトルが一本。もちろん飲めば有料なのだが、こんなところに泊まるなんて稼いでるな、とひしひし感じさせられる。
この家族との合流は他のヨーロッパ人たちがやっていることと同じだと気付いて少し嬉しかった。再会したことよりもヨーロッパ人のようで嬉しかった。でも結局は皆同じ人間で、落ち着く場所を求めているだけなのだろう。
次回予告
『雪隠と留学 [第3部 スペイン編] ep.XXIII「切れっ端」』
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