食虫植物に魅せられて ウツボカズラを食す⁉
一目ぼれして以来、食虫植物漬けの日々を送る木谷美咲さん。この謎めいた植物にどうしようもなく惹かれてしまう理由とは?
食虫植物との出会いは2005年。園芸店でハエトリグサを見つけ、一目ぼれして買って帰りました。それまで植物にはあまり関心がなく、食虫植物の実物を見たのもその時が初めて。なのに、以来すっかりほれ込んで、栽培したり、自生地に行ったり、本を書いたりと、食虫植物中心の日々を送るようになりました。なぜ自分はこんなにも食虫植物に惹かれるんだろうというのが分からず、その答えを知りたいと思ったのも、のめり込んだ理由の一つです。
特異で奇妙な形と生態
食虫植物はおよそ600種あり、種類によって、虫を捕まえる方法が異なります。大別すると、①挟み込み式(ハエトリグサ、ムジナモ)、②粘りつけ式(モウセンゴケ、ムシトリスミレなど)、③落とし穴式(サラセニア、ウツボカズラなど)、④吸い込み式(ミミカキグサなど)、⑤もんどり式(ゲンリセア)の5つ。仕掛けるわなの形が、そのまま植物の形になっていて、例えば挟み込み式のハエトリグサは、まるでトラバサミのようです。ナイフや弓矢など、優れた武器が持つ機能美を、食虫植物も備えています。
植物なのに虫を食べるという、生態系ピラミッドに逆らうような生態も、魅力と思われる大きなポイントです。そこには反逆の精神が宿っていると私は感じています。一般的な植物の枠から飛び出した生き物。自由だし独創的です。とはいえ、食虫植物が強靭な植物かといえばそんなことはなく、意外にも植物としてはむしろ弱者。競合に負けてしまうため、他の植物が育ちにくい、条件の悪い土地を選んで生え、光合成だけでは足りない栄養を、虫を食べることで補っているのです。
野生の姿を見にボルネオへ
趣味にはいろいろなベクトルの楽しみ方があり、同じ食虫植物マニアでも、収集・栽培に勤しむ人、野生の姿を見たい人など、それぞれ。私は自宅でいくつかの食虫植物を育てていますが、最近は自生地に出向くのが好きです。
18年には野生のウツボカズラを見に、ボルネオ島のマリアウベイスンまで行きました。そこは「最後の秘境」と呼ばれる盆地で、急こう配の山を歩いて越えなければたどり着けないような所。湿度は高いし、足場は悪いし、ヒルも多いという過酷さの中、現地拠点の山小屋まで7時間登山しました。でも、そうして見ることのできたウツボカズラの群生地は「見事!」の一言。
分け入っても、分け入ってもウツボカズラ。野生ウツボカズラの捕虫袋の中の消化液を飲むという念願もかないました。ジャングルをさまよい歩いた冒険者が水代わりに飲んだという記述を本で読み、私も飲みたいと思っていたのです。少々青臭いもののクセのない味で、白樺の樹液に近いと思いました。
ウツボカズラ飯を再現
野菜研究家の知人から、ウツボカズラの袋に米を入れて炊く、〝ウツボカズラ飯〟の話も聞きました。東南アジアの伝統料理で、特にボルネオ島の先住民族たちの間で作られてきたそうですが、食虫植物を料理に使うというイメージがなかったので驚きました。現地で聞き込みをし、文献で調べて自分でも作り、私のホームページにレシピを載せています。
食虫植物の自生地は日本にもあります。例えば、成東・東金食虫植物群落(千葉県)ではモウセンゴケやミミカキグサなど8種類の食虫植物を観察でき、尾瀬ヶ原(群馬県)はナガバノモウセンゴケの大群落が有名です。
また、多くの植物園では年間を通して食虫植物を見ることができます。中でも兵庫県立フラワーセンターには立派な食虫植物室があり、ここのウツボカズラの捕虫袋の大きさが昨年、ギネス世界記録に認定されました。
食虫植物の魅力をいくつか挙げましたが、なぜこんなにも惹かれるのかの答えは、未だに明確には分かっていません。分からないからこそ、私は食虫植物が大好きです。
木谷美咲さん(きや・みさき)
1978年東京都生まれ。文筆家、エッセイスト、絵本原作者。執筆活動の他、テレビやラジオへの出演、講演会などを通じて、食虫植物を中心に植物の魅力の紹介に努める。主な著書に『マジカルプランツ』『私、食虫植物の奴隷です。』『不可思議プランツ図鑑(絵・横山拓彦)』『官能植物』『食虫植物のわな(絵・横山拓彦)』など。
https://kiyamisaki.com
X @Dionaeko
写真提供=木谷美咲