日記


(テンテケテンテン♪)(適当な出囃子が鳴る)

(舞台袖から演者と思しき人間が1人現れてステージ中央の台座に正座する)

(観客席から拍手が起こるとともに舞台上の演者が礼をする)



えー、昨今の事情により往来の自粛が求められ、自由に居酒屋にも行けない日々が続く中、「オンライン飲み会」が一世を風靡いたしました。

例に漏れずわたくしも定期的にオンライン飲み会をしておりますけれども、やはりこちらは通常の飲み会とは一線を画すものでございまして。

何が違うかと申しますと、やはり「場」が一つしかないということでございます。

通常の飲み会ですと、話題が一つに集中した一つの場となることもあれば、ある程度話す人が分散し、複数の話題が生まれ、場が複数できることもございます。このあたり皆様も経験おありではないでしょうか。たくさんのお客様に頷いていただいておりますねぇ。おやそこの小さいお嬢ちゃん、あんたが頷くのはおかしいだろぉ。(ここで笑いが起きる)(ただし観客はこれが唯一の笑いどころであるということには気づかないし、気づくことはできない)

てなわけでございまして、通常の飲み会は複数の場が生まれることが多々あるわけですが、オンライン飲み会ですとそうはいきません。常に場は一つであり、話し手は一人、聞き手が多数、という構図になってしまうのでございますねぇ。

さらには居酒屋と違い雑音というものがございません。聞き手が全て話し手に集中しているかのように見える空間ができあがってしまいますので、それはそれは緊張感の高い場となるわけです。見方によってはすべらない話をさせられているかのような錯覚さえ感じることもあるでしょう。

さらにはインターネットを介する以上、回線の問題やマイク音量の問題などもございます。必死で喋ったオチも相手に聞こえなければ意味はありません。ツッコミもボソッと言っていては相手に届かず空を切るだけ。まるでTVショーかのように、聞き手に自分の声を届ける努力をしなければいけないわけです。

つまりオンライン飲み会は、参加者が話し手及びツッコミ及びガヤとなり、誰にも見せることのないTVショーかのような場を作り出すという行為なのでございます。


それではこのオンライン飲み会において最も重要なプレイヤーは誰か。当然話し手でございます。話し手がいてこそ周りはガヤやツッコミを入れられるのであります。

当然話し手がその緊張感のある場で話すことは容易ではありません。そもそものトークテーマを出す為に自らの身を差し出し話題を提供することもあるでしょう。

さてさて、前口上をつらつらと語ったところでここからがぁ本題でございます。

(演者が手で持った扇子で固いなにかを2回叩き、カンカンと音が鳴る)(観客は場面転換があったのだと直感的に感じる)(当然この扇子は二度と触れられることはない)


先日わたくし、とあるオンライン飲み会に参加してまいりまして、友人たちと和気藹々と酒を嗜んでおりました。

やはりこのご時世、遠方の友人の近況を尋ねるのがオンライン飲み会の常であるかと思いますが、此度も同様に近況を尋ねる流れがございました。

いざわたくしの近況を話す番となり、仕事の話などもそこそこにわたくしの妻の話や建築予定の新居の話などが話の中心となってまいりました。

おおよそ仕事の話や色恋沙汰の話が大半となるオンライン飲み会において、唯一の既婚者であるわたくしは格好の酒のアテでございます。先程のお話の通り、我が身を切って、最も責任の重い話し手となる時間が大変長く続きました。

当然、友人たちから関心を持ってもらえることは非常にありがたいことでございます。好きの反対は無関心などと申しますが、やはり関心を持たれることは悪い気持ちは致しません。わたくしも語りは苦手ではございますけれども、自分語り自体は好きな身でございます。楽しんで聞いていただけるのであれば、喜んで自分の身なら差し出しましょう。そう、自分の身なら。


ご存知の通りわたくしはツッコミの性分でございます。他人のボケはもちろんのこと、自分へのいじりに対してのツッコミ力も当然求められるものでございまして、必然的に自分へのいじりは多い立場でございます。

先程「自分の身なら」と申しましたのは、わたくしの妻や、わたくしと妻との生活にいじりを入れてこられることもあるからでございます。

わたくしの妻は元々友人であったわけでもございませんし、おおよそ友人たちは妻のことを詳しく見知っているわけではありません。一度対面したことはありますが、その一回のみでございます。必然的に彼らが得るわたくしの妻の情報は、私を介して得たものとなります。わたくしも話し下手でございますから、妻の全てを事細かに、かつ正しく伝える能力は持ちあわせておりません。仮に持っていたとしても、妻の名誉のために一部を伏せることもあれば、その場の雰囲気に合わせ誇張した表現をすることもあるでしょう。

その情報をもとにわたくしの妻をいじる、ということに対してわたくしは違和感をおぼえるのであります。わかりやすく申しますと自分の好きなアーティストなどが批判されたとき、嫌な気分になる人は多いでしょう。わたくしもそのような感覚になるのでございます。特にアーティストと違い、わたくしの大切な妻でございます。妻の名誉を守りたい気持ちもわたくしにはございます。わたくしの誤解を招く発言がいじりを誘発することもありますので、わたくしに非があることも当然ありますけれども、やはり、「は?テメーが俺の奥さんの何を知っとんねん?」と言いたい気持ちになるわけです。

誤解のないよう一言申し添えて起きますが、彼らがその目で見たわたくしの妻の言動についていじることはやむなしだとは考えております。当然、言えるものなら本人の前で言ってみろよ、とは思いますが、わたくしの妻も普通の人間とは言えない部分もございます。変な言動の一部始終を見た友人たちもおり、彼らが目撃者あるいは当事者としてそれを笑い話にする権利はあるのは当然です。ただ、人づてで聞いた話だけを頼りにわたくしの前で妻をいじるのは、妻の名誉のためにもお控えいただきたいところであります。


また、わたくしと妻は結婚してから、日々様々な決断をしております。以前行った結婚式も直前まで通常通りの開催を検討しておりましたが、感染防止対策を考え縮小規模での開催となりました。本当につらい決断でした。土地を買うときも本当に時間をかけて調べ、予算を少し超えてでも理想を追い求めたい、そんな中9割方理想に近い土地を見つけ、善は急げと1割の妥協もお互いありながら、一世一代の決断を致しました。家を建てるにあたってもお互いの意見を尊重しすり合わせを行うとともに、何回も何回も建築業者との打ち合わせを重ね、無理難題も伝えながら可能な範囲で対応してもらい、ベストな間取りを決めることができました。

理想だけを追い求めていた昔とは違い、自分たちができる現実解の中で最大限のベストを求め、今の決断に至っております。当然その決断にあたっては捨てなければいけないものもありました。それも含めて自分たちの決断であり、その決断は正しかったと思いたい、そう考えながら生きております。


に も か か わ ら ず


我々夫婦の決断にズケズケと土足で入り込み、あれやこれやと口を出す輩が多いこと多いこと。わたくし先ほども申し上げました通りツッコミの性分でございます。場を乱さぬよう「うるせぇw」とあしらうのは簡単です。ただ本当はこう申しあげたい。「責任も現実も知らねぇやつが他人の夫婦の人生に無責任に茶々入れてんちゃうぞボケェ」と。

当然オンライン飲み会の場ですから酒が入っているのも事実です。ですが酒が入れば許されると思ったら大間違いであります。酒が入ったとていじりの線引きは分かっていただかないと困ります。相手が不快になるかどうか分かる人間、分別のある人間だけがイジリの資格を持っていると考えていただきたい次第です。酒が入って態度が大きくなってしまったことを、周りの人間の寛大さによって許されている、そしてそれに甘えている人間であると自覚する方がいらっしゃれば今後「ぜひとも」お気をつけ願いたいと思います。


家庭でのわたくしと、友人たちといる際のわたくしは、全く異なる人格であるといっても差し支えありません。もう一方の人格の行動について、身を切って話すことには限界があるのでございます。自分がなぜその行動をしたか、事細かに説明するのは野暮であり、自分自身も小っ恥ずかしいものであります。本当に興味があるのであれば、わたくしも誠心誠意真面目に話すことは得意でございますので、膝を突き合わせて語り合わせていただければと思います。もし興味もないにも関わらず茶化すためだけに聞いているような方がいらっしゃるのであれば、このようにして差し上げますので、お望みとあれば…。(演者は先程扇子で粉々に叩き割った固いなにかを指し示し、ニッコリと笑いながら深く礼をする)

(幕が閉まるとともに観客は拍手喝采を送る)

(幕が閉まり切ったと同時にテレビの電源が切れ、真っ暗となった画面にあなたの顔が映る)

(その目は真っ黒に覆われており、それを見たあなたはニッコリと笑いその場で深々と礼をする そしてそのまま起き上がることはない







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