学びに影響する特性―短期記憶
短期記憶とは、復唱などで一時的に物事を覚えるもので、必要がなくなったらすぐに消えてしまう記憶のことを言います。
電話をかけるときのことを想像してもらうといいでしょう。携帯に未登録の番号にかける場合、相手の電話番号を復唱しながらかけ、電話をかけ終わると電話番号はきれいさっぱり忘れてしまいます。
ごく短い間だけ保持される短期記憶ですが、実は学びにも大きく関わっています。
例えば、板書をする時。黒板の文字を一時的に記憶しなければ、ノートに書き写すことはできません。この時必要なのは、目て見た情報(視覚情報)の短期記憶になります。
復唱する時もそうです。先生が発した音声を一時的に覚えることで、同じ音声を自分の口で再現することができます。この時必要なのは、耳で聞いた情報(聴覚情報)の短期記憶になります。
この短期記憶ですが、実は個人差が非常に大きいのです。短期記憶を楽に使いこなせる人もいれば、うまく機能しない人もいるのです。
短期記憶がうまく機能しない場合、読んだり聞いたりすることに深刻な影響を及ぼします。
私たちが何かを読む時、①文を意味のある塊で区切り、その意味を記憶に保ちながら次の部分を読む、②前に読んだ意味とその後に読んだ意味を統合していくことで全体の意味を理解する、という方法を取ります。
つまり、読んだところをいちいち短期記憶にキープしておいて、新しく入った情報と統合する、というプロセスをたどるのです。
何かを聞く時も同じです。①耳で聞いた音声を意味のある塊で区切り、その意味を記憶に保ちながら次の音声の意味も理解する、②前に聞いた音声の意味とその後に聞いた音声の意味を統合していくことで全体の意味を理解する、という方法です。
読むときは何度も読み直すことができますが、聞く時はこのプロセスを一瞬のうちに実行しなければなりません。
ですので、短期記憶がうまく機能しないと、たとえ他の機能が全て人並み以上に機能していても、コミュニケーションや学習に支障が出てしまいます。
短期記憶障害は、非常に分かりにくい障害です。「やる気がない」、「頭が悪い」などと見られてしまうことも多いでしょう。
ただ、「短期記憶障害というものが存在する」ということを知っているのといないのとでは、対応の仕方に大きな違いが出てくると思います。短期記憶に問題があるかもしれない、と考えられるようになると、指導や声掛けも変わってくるのではないでしょうか。
ところで、短期記憶は、加齢とともに低下していくものです。若い時に短期記憶が優れていたとしても、歳を取ると困難を抱えるようになります。
そう考えると、短期記憶障害は誰もがいつかは経験するということになります。「自分もいつかは必ず同じ状態になる」ことが理解できれば、短期記憶障害で困っている人のことも、他人事ではなく自分事として考えられるようになるといいですね。
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