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2024年12月29日(日)This is what avant-garde is.

年末にフランスはパリに、5泊7日で行ってきた。
8年ほどぶりのヨーロッパ、いろいろ思うことはあったけれど、これは薄れぬうちに記録しておきたいという体験をとりあえず。

パリのアール・ブリュットの殿堂といわれる、ハレ・サン・ピエール(マックス・フルニー素朴派美術館)。
建物と併設の書店がみたくて時間があったら行きたいなと思っていた。
モンマルトルの丘を登って、サクレ・クール寺院から下りてきたあとに時間があったので、立ち寄ることができた。
書店は思った通りすばらしい品揃えで、展示は観るつもりはなかったのだけれど、Fちゃんが、せっかくだから行こうよ!と言ってくれたので、企画展のチケットを購入。
いったい何の展示なのかもよくわからずないまま場しようとしたところ、入り口にいたチケットのもぎりの方…にしては、なんだか馴れ馴れしいおじさまに、フランス語で(たぶん)「急いで!はじまるよ!」と奥に追い立てられ、あれよあれよという間に展示のツアーに参加することに。

フランス語で解説されても、我ら、まったくわからないんだけどね…

という困惑顔のアジア人ふたりをよそに、キュレーター(たぶん…(仮)としておく)の方による、各作品の実践~解説がはじまった。

「実践」と書いたのは、展示がすべてかなりアナログな機械仕掛けの作品で、何かしらのスイッチをいれることによってオブジェが動くから。
どうやらジルベール・ペール(Gilbert Peyre)というフランス人のアーティストの個展のようで、その後我々は、彼の創り出した奇怪な世界に巻き込まれることになる。
それは鑑賞というよりは体験というものに近くて、言葉で説明することがかなり難しいのだけれど、一部説明を試みると…

  • 人間の白い右腕が白い円の中をうねうねとのたうちまわる(ミギー…?)

  • セルロイドの赤子の人形の頭部ふたつが、金属板の上をカタカタと上下して~とつぜん中央の鉄格子が着火(ひぃ!)
    ~前面に設置された壁時計の扉がいきおいよく開閉し、ゴンゴンと鳴りだすと ~赤子の叫び声が響き渡る(ぎゃー)

  • 女性の写真に向かって猟銃を撃ちまくり、的に命中すると、女性の履いているスカートがずり下がる
    (キュレーター(仮)さんに銃を渡されて実践を促されそうになるが、慌てて拒否)
    (銃の名手として、突然もぎりのおじさま登場)
    (マジで名手)

  • 座面のない古い木造椅子の座面部分に、バラの造花が銅線でくくりつけられており、椅子が奇妙なダンスをする(こっち来る。来ないで)

  • 剥製の鶏頭をはめられた鶏型の機械が、鳥かごの中でうごめく(剥製こわいってば)

  • 「ママン… maman…」と繰り返しつぶやく白いドレスをきた女の子の股から血が流れ、足が伸びる(ポルターガイスト…?)

  • 金属の箱に金属の4本脚と尻尾がついた犬らしき物がしっぽフリフリ歩き回り、皿にむかって糞を模したコインを落とす
    (正確には、皿を目がけるが、はずす)

重要なメッセージ性を感じるぞ…!と言いたいところなのだけれど… 

いや、何が言いたいんかわからない。まったく。

キュレーター(仮)さんの解説がまったく分からないというのもあるんだろうけど、とにかくオブジェの組み合わせが怖い!ムーブが予想外!そしてどれもオチがない!
「うわっ」「うっそでしょ」「えー…」と思わず声を上げてしまったり、耐え切れず吹き出してしまったりするFちゃんと私だったのだけれど、一層シュールだったのは、他のフランス人のツアー参加者のみなさんは、終始真顔だったこと。
せいぜいかすかな苦笑い程度で、小さなお子さんを連れた家族もいたけれど、子どもまでもが無反応。

えっ、この奇っ怪な、時に暴力的で性的な作品の数々を見ても…?
むしろ子供の心理的教育に影響が…とかドキドキしちゃうけど、これがフランス人の子どもには日常なの…?

こ、これが本場のアヴァンギャルドか…ゴクリ

と慄いていたら、周囲を見るといつのまにかツアーの参加メンバーが減っている。
気づけばツアーは1時間を超え、はじめから最後まで律儀に参加していたのは、真面目なアジア人の我々のみだったもよう。
(フランス語が分からなくて抜け時が分からなかった、ともいう)

「そ、そろそろ行こうか…」
「う、うん…」

特にキュレーター(仮)さんに心の中でそっと礼をし、狐につままれたような気分で美術館を後にした我々であった。

とにかく、一体、あの展示のアーティストは誰なの…?

謎のアーティストのことがその後の旅の道程でも頭から離れず、後にフランス語や英語のwebサイトなどで調査した。
ジルベール・ペール(Gilbert Peyre)─ 日本ではまったく紹介されていないアーティストだと思われる。
自らを「L'Electromécanomaniaque(エレクトロメカノマニアック)=電気機械マニア」と呼ぶかなり変わった現代美術のアーティストのもよう。
さすがアール・ブリュット、アウトサイダー・アートのおひざ元。
捨てられた古い物品、木片、金属などを集めて、そこに手作りの機械仕掛けを施すことによって命を吹き込み、インスタレーションであり、ひとつひとつが短い演劇のようでもある作品に昇華させている。この時代にプログラミングではなく、PCに頼らないまったくのアナログであることがポイント。
我々は、「いや、これ、アートに昇華…できてるのか?」と言いたくなるような、彼の奇想天外で度肝を抜かれる作品の数々を目撃しさせられたわけなのであった。

意味はまったく分からなかったけれど、図らずも刺激的で、何か得体の知れない、大きなエネルギーをもらった。まだ言葉にはできないけれど。
こういう突発的な出遭いに身を任せるのが楽しい、それが旅の醍醐味、僕らが旅に出る理由。そしてアート鑑賞に足を運び続ける理由でもある。

言葉では伝わる自信がまったくない、ジルベール・ペール氏の作品は一部こちらから鑑賞可能 ↓



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