見出し画像

ファッション写真の概念を変えた写真家マーク・ボスウィック

マーク・ボスウィックは私が愛してやまない写真家の1人です。
彼を知ったきっかけは2001年12月20日に発行された雑誌「+81 Vol.13」
のフォトグラファー特集です。何名かの著名なフォトグラファーのインタビューと作品が掲載されていたのですが、私に最もドンピシャにハマったのが彼のページでした。

「+81 Vol.13」

ロンドン生まれのマーク・ボスウィックは現在NYをベースに活動している写真家です。彼が注目を集めるきっかけとなったのは90年代のパリに新風を起こした雑誌「Purple」でファッションフォトグラファーとして活動し始めた頃です。当時の「Purple」には他にウォルフガング・ティルマンズやアンダース・エドストロームなど作家性の強い写真家たちが活躍していました。

中でもマークはそれまでの「ファッション写真」の概念を覆した表現で注目されました。例えばJILSANDERの写真にはモデルも服も写っていなくて、そこには道端の鳩の写真を撮って掲載しています。GUCCIは道端に生えている雑草の写真です。クライアントは困惑してしまいそうですが、それも良しとされるのは「Purple」が元はアート誌としてスタートした雑誌だからかもしれません。

彼は写真だけでなく、映像や音楽、詩、ドローイングなどを組み合わせたコラージュ作品も作っていて、そのページが現れたとき圧倒されました。無邪気に笑うビョークの写真があるかと思えば、家族の写真や手書きの詩が貼ってあったりと、パーソナルな要素も同列に配置しています。マークは自身に最も影響を受けたのは家族だと語っており、好きなものと身近で親しい人だけを撮りたいという彼の気負いなさと彼の心の自由さを感じました。

もっと彼の写真が見たくなり、2009年に発行された、270ページに及ぶ大ボリュームの「not in fashion」という写真集を購入しました。20年間の活動を一挙に味わえ、今では手に入らない作品集も収められていて見応えたっぷり!中でもおそらく感光してしまっている、オレンジのような光が入っている写真群に引き込まれました。普通なら感光してしまった写真はボツになりそうなのに、彼は意図的に感光させているそう。しかしその光こそが彼の写真の魅力のひとつであり、私が惹かれた1番の理由なのです。

「not in fashion」

私は眠りが浅く、毎日夢を見ます。しかも結構細かく覚えていて、夫に毎回どんな夢だったかを忘れないうちに話します。夫は大抵半笑いで聞いていますが、この夢を映画化したらめちゃくちゃ面白い作品が出来る!と私は悦に入ってます。でもやっぱり夢の記憶がすぐ曖昧になってくるんですよね。登場した人物の顔がぼやけてきたり、景色も何色だったか思い出せなくなる。夢のその曖昧さがマーク・ボスウィックの淡い色、ぼやけた輪郭、感光した光が時にモデルの顔にかかって見えなくなっている写真を見ると思い出すのです。

現実の世界を撮っているのに一枚フィルターがかかった別世界のよう。感光している写真はおそらくフィルムで撮っているのでどう光が入ってくるかはわからないのに見事としか言いようがありません。写真は光が全てと思っているので、私もこういう世界観を撮りたかったんだよ!と、悔しくなりました(笑)。

とはいえ今はすっかり撮る側ではなく、観る側になってしまいました。出産し、出かける際の荷物も多くなってしまったし、目が離せない幼な子を連れて一眼レフを構えて撮る余裕が私には無かったです。でも子供が出来てから散歩する頻度は増えたし、子供の目線が低い分、自分自身も視野が変わってきて、その風景を「写真」として残しておきたくなりました。
でも一眼レフは重い…。もう少し気負いなく撮れるカメラが欲しい…。そこで思い出したのが昔某フリマサイトで購入した、RICOHのオートハーフカメラでした。1960年代から1970年代に生産されたもので、このカメラがとにかく優秀なんです。

まず設定が簡単!フィルム感度を設定し、F値を「A(オート)」にセットすればシャッターを切るだけで撮影できます。絞りやシャッター速度など露出に関する操作は不要です。ただ細かい設定が出来ない分、必ずしも正確な露出で撮れるとは限らないので、そういうハプニングが楽しめない方はご注意してくださいね。
さらにゼンマイ仕掛けになっているため、フィルムを自動的に巻き上げてくれます。これで手動巻き上げのフィルムカメラではなかなか行えない連写が可能となります!
そしてダメ押しが、なんと電池が不要なんですよ…。レンズ周りに搭載されたセレンが、ソーラーパネルのような機能を果たし、カメラ下部のゼンマイ仕掛けのダイアルを回しておくことでフィルムを巻き上げます。

どうですか?この技術すごくないですか?半永久的に使えるし、倍の枚数撮影できるハーフサイズ。フィルムは高価なものになってしまったので経済的にも優しい。気軽に撮ることができるので、小さい子供との散歩のお供にぴったりです。このカメラなら、写真を撮るモチベーションが低かった私のリハビリにもちょうど良いです。そして子供との散歩がより特別なものになりました。

実際に撮ってみたのがこちら。




一応マーク・ボスウィックを意識してみましたが全然ダメですね(泣)。
でも私がイメージする、現実と夢の狭間のような世界観に少し近づいた気もしています。マーク・ボスウィックの写真を観たおかげで、失いつつあった写真への気持ちが復活しつつあります。
私も誰かの気持ちをミリ単位でも動くような一冊をいつかご紹介できることを願って精進していこうと思います。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?