あの建物の謎とイチブトゼンブ
毎日見ているのに、何に使われているかわからない建物って、結構ある。
それは薄汚い平家に読めない字体の看板が飾ってある中が見えない店だったり、やたらでかくて目を引く高層ビルだけどその下までは行ったことがないのでどんな建物なのか知らなかったり、一見マンションに見えるけれど一番上にでけえ広間があるのが遠目に見えて、あの広間は誰が何に使うんだろうと気になっているだけの建物だったりする。
それらの真相は大体わからないまま、引っ越したり、生涯を終えたりするわけである。
というかその真相を知らなくてもいいとも思う。
そこに想像の余地を残しておきたいのである。
あの薄汚い平家はものすごい隠れ家的なカフェで、中では『珈琲店タレーランの事件簿』のような美人店主が働いているかもしれない、とか。
もしかしたらこの辺で一番高いあのビルは、スナイパー専用の殺し屋ビルなのかもしれない、とか。
あの大広間は実はマンションの中で毎月秘密の定例会議があってそのために使われる部屋なんだ、とか。
そういう妄想を楽しみたいわけである。
最近は何でもかんでもすぐに正解にたどり着けてしまう時代だけれども、
何もかも知ってしまうというのはきっとものすごくつまらないことなんだろうと思う。
と、このように思うことで、好きな人のことは何でもかんでも知りたいという欲求に抗うことができるわけである。
「全て知るのは到底無理なのに」とB'zも歌っていたが、なぜこうも好きな人のことは何でも知りたくなってしまうのか。
ミステリアスな女性がモテるという話があるが、この「知りたい」というい欲求を持続させることがうまいからモテるんじゃないだろうか。
これじゃあ「好き」だから「知りたい」のか、「知りたい」から「好き」になっていくのかあべこべだけれども。きっと表裏一体なんだろう。多分。
見えるけれど何も知らない彼女のことを全部知りたいと思うし、知るのが怖いとも思う、今日この頃の私なわけである。