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パッキングパズル"shallows"ができるまで

 去年Xで繋がっている韓国の方から浅香遊氏を紹介され、今年はじめに自分でも作ってみたいと思い立ちました。ものすごいスピード感です。最初に厚紙で「house」という習作を作り、その次に作ったのがこちらの「shallows」です。

 日頃からどうでもいいことをいろんなところから思いつく習性があったため、アイデア出しはとにかく自由にやろうかなと考えました。ここ数年様々な制度へがんじがらめにされた辛い勉強生活が続いており、定められたことを着実にこなす作業が心底嫌になってしまったのもあります。
 そこで試したのが音楽を聴きながら思うがままにペンを走らせる、という手法です。OREO 10はジャズを聴きながら描いたスケッチが元になっているようで、また私が大好きなパズル作家であるAkio Yamamoto氏の非常に感覚的な製作過程(https://youtu.be/qzjOY41e9EU?si=d16TOdNiqw1rOYBt)もずっと前から印象に残っており、とにかく楽しそう、と思ったのです。
 私はMasayoshi Fujita氏の「Bird Ambience」を聴きながら、ひたすらiPadへうにょうにょ描きました。その結果思いついたのが

1.内径の違う円環(扇型環?虹のような形)を使う
2.円の中心がずれている

などです。(重大なヒントとなってしまうことを避けるためにふわふわした言い回しにしています)。
2の形を変え、このパズルのコアとなるトリックになった訳です。

 ただ解かれた方はご存知かと思いますが、仕掛けがものすごく単純なのです。本当にパズルとして成立するのか不安になるくらい。
 なので最初期は11ピースほどあり、「想定した形を作ろうとするがいつまでも完成しない」という構造にする予定でした。しかし厚紙で切ってテストプレイをしてもバグが多発するし、何よりシンプルな構造が好きな自分好みのパズルとはほど遠かったです。

最初期はこんな具合 何回か更に複雑になりました

 ので思い切って5ピースまで減らしました。そして扇型同士が接する凹凸をさりげなく意地悪な形にして、錯覚と言うべきか先入観と言うべきか、とにかく心理的に正解へ接近しにくい要素を組み込みました。
 本当に賭けのような作品だったためタイトルも「roulette」にしようとしましたが、試作品をいろんな人に遊んでもらったところ思っていた以上にパズルとして成立しており、もう少しいいタイトルを考えることにしました。そこで紆余曲折あり思いついたのが「浅瀬」を意味する「shallows」です。

 まずピースや完成形、あと一歩のシルエットが水面を連想させること。パッキングパズル作家として浅瀬の人間であること。そしてこれはあまり周囲に言っていないのですが、今入っているサカナクションのファンクラブのステータス(水面〜深海の4段階)が「浅瀬」であることになぞらえています。

 少し話がそれますが、私はサカナクションの大ファンです。過去NHKでやっていたシュガー&シュガーの一コーナー「選曲家劇場」にて名前を読み上げられたときは、それはそれは大喜びでした。余談ですが、ショップ名もサカナクションの楽曲「シーラカンスと僕」からきています。

この回の倍率は231倍でしたが、このあと12倍の試験に落ちました

 だから私が10年以上患っている(自分の場合双極性障害の説もありますが)うつ病を山口氏も告白し、その療養に伴う活動休止したときにはいたく驚きました。動きたくても動けないもどかしさ、当たり前のように死が頭に過ぎること、周りに迷惑をかけている罪悪感、ここには書けないその他もろもろ、痛いほど知っています。誰にも自分のような思いをしてほしくない、癒せるなら癒したいと日々思いながら心理職を目指していたので尚更です。にも関わらずコロナ禍にかかるオンラインライブの開拓をはじめ、日々精力的に活動なさり、こうして人々の心を打ってきた。このような言い回しはあまり好きではないのですが、本当に尊敬しています。

 が、3回自主留年しながら目指していた公認心理師取得への道が、今年大学の在籍年限の理由で途絶えました。受かるまで臨むつもりでしたが、もう心身ともにボロボロなので、この辺が潮時なのかなと思います。
 では闘病生活や受験勉強で耕してきた視座をどう社会へ還元するか。同時に尊敬するアーティストへのリスペクトを表明できないか。それが前述の「浅瀬」を冠したパズルを世に出すことでした。もちろん山口氏がこのパズルの存在を知る可能性がほとんどないのは承知ですが、ただ、出すこと自体に大きな意味があると思っています。

 図形はとにかくとっつきやすいです。言葉や数字のパズルを毛嫌いする方をも興味、発想力を引き出す力があります。私自身しばらく病状の悪化に伴った読解力の低下により大好きだった漫画も読めなくなってしまい、こうして文章を書けるようになるまで何ヶ月もかかりましたが、それでもパズルの設計はできたのです。

 普段パズルに触ることがない方がふらっと買うにはどうしても高めで、そこはもどかしいところです。1問1800円、高いです…。ただどうにかいろんな方に触ってもらって(トリトさんに置かせていただいているサンプルを触っていただくとか)、世の中意外と楽しいことあるな、別に生きててもいいかもなと、ほんの少しでも思えていただけたら幸いです。

こちらで販売してます。もしよければ見てみてください。

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