海外でポスドクをしようー滞在編(6)
病気・ケガ・アクシデントに備えて
日本列島が途轍もない暑さに包まれる中ですが、皆さんいかがお過ごしでしょうか?どの土地で生活していようと、病気やケガなどのリスクは常に存在しています。特に慣れ親しんでいない土地での病気やケガは心細いものです。しかし、ポスドクをやっている方は若くて健康な方が多いため、実際に病気に罹ってしまうまでには、そうしたリスクに備えることを軽視してしまいがちです。
本編では筆者や周辺から聞いた話をベースに、病気やケガ、アクシデントなどに事前にできる準備などをまとめました。少しでも参考になることを願っています。
保険と医療の制度を理解しよう
制度への理解はなによりも先決です。ビザの申請時にそもそも健康保険の加入を要請する国も少なくないため、海外渡航が決まった段階からある程度の知識を獲得していると思いますが、医療・保険制度はとても複雑なものですから、より理解を深めることにはどうすれば良いかがわからないことも多いです。
1.保険制度の全貌を理解しよう
まず理解した方が良いこととして、日本のように国民健康保険制度という「日本在住の人なら誰にでも適用される制度」があるか、それとも外国人と先方の国籍・永住権を持つ人が違う扱いになるか、ということです。
筆者が生活したオーストラリアに関しては後者でした。現地の国籍または永住権を持つ人は特に健康保険料を納付しなくとも、国民皆保険により公立病院での診療は原則無料です。その代わり、税金徴収の際には健康保険料に該当する金額も含まれます。一方、就労ビザなどで滞在している外国人は自分で健康保険会社から保険を購入し、病院にかかる際には保険がカバーする割合に応じて自己負担分を支払う必要がありました。その際の補償比率や保障適用開始の金額(◯◯ドル以上の診療に対してのみ保険を使うことができる)によって保険料も大きく変わります。
上記の保険制度は外国人にとってはデメリットしかないように聞こえますが、実は必ずしもそうではありません。それを理解するためには公立/私立病院の違いなどを知ることが必要です。
2.病院のタイプと保険の関係
国によっては、病院のタイプ(公立、私立など)によって必要な保険が変わることもあります。同じくオーストラリアを例にすると、国民医療保障は公立病院でのみ適用され、私立病院にかかる際には個人で購入した商業健康保険しか使えません。すると、公立病院はいつも来訪者でごった返してしまうため、なかなか診療の予約が取れないこともあります。人づてに聞いた例の中には、がんが発覚した人が診療の予約がなかなか取れず、結局手術を受けられないまま亡くなった、といったケースもありました。また、医者や看護師に対する待遇面や病院のサービス精神も公立と私立で大きく違うため、患者が受けられるサービスもかなり違ってくるそうです。そのため、現地の人々も必要に応じて商業健康保険を購入します。だがその場合は税制上の優遇は少ししかありません。
そういう意味では、外国人として(国民への健康保険制度が適用されない代わりの)税制上の優遇をフルで受けた上で、サービスの良い私立病院を利用することは、悪い話ばかりではないように思います。
3.適切なレベルの補償を選ぼう
欧米の商業健康保険では、かなり柔軟にプランが設置されています。基本は通常の診療(内科、外科など)への補償とその他のオプションに分かれており、それぞれの中でさらに補償率の段階が設置されていたり、補償の適応開始金額が変わったり、プランによって補償する部位・範囲が変わったりします。もちろん手厚い補償ほど、保険料も高くなります。
たとえば筆者がオーストラリア在住の間で使用していた健康保険会社を調べたところ、最近は独身者向けの最もベーシックなプランを補償範囲によって低・中・高に分けて提供しているようです。低プランでは最低限の補償に絞った安いプランが提供され、肺や胸部(気管などだと思います)以外の補償はほぼありません。そのため、輸血・腎臓疾患・骨と筋肉の問題など、さまざまな点においては補償がない状態です。これはどちらかというと国民皆保険を持つ人が補足として購入するものでしょう。それに対して高プランでは主要な科の問題がほぼカバーされている状態ですので、これを単体でもっていれば日常生活のさまざまな疾病に対応できます。ベーシックプランよりも上にあたる安心プランになると、低プランでも多くの内容がカバーされますが、高プランになるとさらに妊娠出産に関連する料金まで補償対象となります。
それぞれの人のライフスタイルや人生の段階、そしてお財布事情が変わってきますので、自分の状況と相談しながらプランを決める必要があります。
4.別枠扱いの出費はオプション料金で対応
アメリカの留学生界隈では「救急車を呼んだらとんでもない金額を請求される」話が非常に有名ですが、これはアメリカ以外の国にも当てはまることがあります。オーストラリアでも救急車や消防車は出動によって1千ドル以上の請求をしてきます。だからと言って緊急事態にお金を惜しんで助けを呼ばないわけにもいきませんよね。
そのため、医療保険を選ぶ際には救急車料金が補償対象に入っているか、1年に何回補償されるかをチェックする必要があります。ただし、救急車料金補償オプションも回数によって保険料が変化しますので、あまりたくさんの回数を確保しすぎるのも結局は損します。持病がない方は、年に1、2回ほどの補償で十分ではないでしょうか。
他には、眼科や歯科が普通の病院診療とは別枠で扱われ、オプション料金を支払わないと補償されないこともあります。また、主なプランではメガネがカバーされるのにコンタクトは含まれなかったり、歯の手術はカバーされるのに虫歯治療はオプションだったりと、日本では見ないような分類の仕方がありますので、細かい説明まで読んだ上で決定する必要があります。
他に特徴としては、日本では保険の対象に含まれないような治療もオプションでつけることができます。例えば漢方の医者による針鍼治療や薬草系の治療はNature therapyの一部として含まれます。
意思決定を助けるためのアドバイス
選択肢が多くなってくると、意思決定が難しくなったり、情報収集自体をどこからすればいいかわからなくなったりしますよね。その場合は、自分が過去の2〜3年間でどういう診療を受けたかを振り返りながらリスクを評価したり、医者にかかる・病院で検査や治療を受ける・入院するなどの場面をシミュレーションしながら情報収集したりして、理解を深めるといいと思います。主要の保険会社のプランを比較したり、周りの人にアドバイスをもらったりするのも良いでしょう。