研究者とお酒
暑い日が続いておりますが、こんな季節はビールが美味しいですよね。コロナ禍に伴う飲食面の制限が解除されてきたこともあり、久しぶりにビールを片手に研究談義する研究者の姿を各所で見えてくるかも知れません。
酒飲み研究者の印象
みなさんは研究者とお酒の関係について、どのようなイメージを持っていますか?
筆者の周辺にいる非研究者から聞こえる研究者と酒の印象は、割と両極化していて面白いです。書籍や分析機械に埋もれてひたすら研究に励み、全くお酒を飲まないお堅い研究者をイメージする方もいれば、浴びるようにお酒を飲み、恍惚する頭に閃くアイディアを追い求めるマッド・サイエンティストを想像する方もいます。いずれにしても、研究に没頭する偏屈な人、周囲とのコミュニケーションが下手な人のステレオタイプが当てはめられているようですね。
現実はどうかというと、もちろんそんな極端な研究者はなかなか見られません。飲む人も飲まない人もいますが、ほとんどの研究者は節度あるお酒ライフを楽しんでいます。そして、多くの場合ではお酒は研究者同士のコミュニケーションを助けてくれています。
すぐマニアックな方向に走る
筆者の印象では、お酒好きの研究者では酒に対して詳しい人、こだわりを持つ人がとりわけ多いようです。研究トピックについてとことん掘り下げる「習性」が、趣味の世界にまで拡大したのでしょうか?それとも好きなものにはとにかくマニアックになってしまうからでしょうか?
例えば日本酒が好きな研究者の中には、甘口辛口などの一般的な情報にとどまらず、産地、蔵、酒米、酵母、醸造・熟成の仕方などさまざまな情報について詳しい、マニアックな人は少なくありません。ワインやウィスキーのような奥の深い酒の種類はもとより、日本では細かいこだわりを持つ人がまだ少ないビールに関してもいち早くマニアの境地に突入している研究者も多くいます。
酒の席で語る研究者
お酒の席でどんな会話が交わされるのでしょうか?相手との関係性によってさまざまですが、学会のような場や分野が近く関係も良い研究者同士が集まると、研究について熱く語り合うことは多いです。
研究が研究者の仕事ではありますが、少なくとも「研究者」としてのアイデンティティを主たるアイデンティティとしている人は、研究を「ただの仕事」として扱うことは少ないでしょう。自分の研究トピックに強い興味と思い入れを持ち、常に考え続けているのですから、話が通じる人と語り合う機会があると、話が止まらなくなるのも不思議ではありません。
研究者は酒の席で何を語るか
酒の席の研究者は研究関連の会話をすることが多いですが、その形式は学会などの正式の場よりも自由であり発散的です。
最近見かけた面白い論文の話から自分がぼんやり考えている実験のアイディア、学界で議論を巻き起こしている論争から、ある研究の再現性問題から最近流行りの解析手法、知り合いの研究者の異動から研究チームの管理の難しさ…そのとき、その相手たちとの間でもっとも共鳴を引き起こすような話題が次々と花を咲かせます。
もちろん、研究だけが語られることもありません。家庭の話や、個人的な趣味の話で盛り上がることもあれば、大学での授業・業務に関して情報交換をすることもたくさんあります。
お酒がなくとも会話が盛り上がることはあります。例えば仕事場の休憩スペースでコーヒーを片手に会話に花を咲かせることもあるでしょう。しかし、ゆっくりインフォーマルな会話をするには、仕事終わりまたは会議・学会後の飲み会が圧倒的に都合が良いでしょう。また、アルコールによってリラックスになった方が、話が弾むことも否定できません。
リモート研究者飲み会は何かが物足りない
コロナ禍により飲み会や学会がなくなった時期でも、研究者同士が時間を決めてオンライン飲み会をすることがありました。オンライン学会の懇親会もそのような方式で開催されることがありました。Zoomのような即時通信システムの他には、ClubhouseやTwitterのスペースのような音声系SNS、VR空間などでも盛んに「飲み会」が開催され、バーチャル空間上でのつながりが強くなったようにも思えます。それによって普段ではなかなか接点のない研究者同士が繋がる機会が増えたことは喜ばしいことだと言えます。
しかし、初期の新鮮さが過ぎ去った後、オンライン飲み会・懇親会が物足りないとの声も、徐々に上がってくるようになりました。現在の技術手段では、表情、視線、体の動きなどの非言語的な情報を自然に認知できるようにすることは、まだ難しいようです。リアルな飲み会では盛り上がるようなメンツでやるオンライン飲み会でも、会話がうまくつながらずシーンとする時間が増えたり、終わった後になんとなく疲れた感じが残ったりしてしまいます。
会議のような明確のトピックがあり、プレゼンテーションをする人、質問する人などの役割がある程度はっきりしている状態ならまだ良いのですが、飲み会のような細やかなインタラクションが必要な場面ではオンライン方式の不利な一面が表れやすいでしょう。
飲み仲間は潜在的共同研究者
筆者自身が飲兵衛であることもあり、周りの研究者にもお酒好きが多いです。思えば最も仲良くしていただいている、気心の知れた共同研究者とは、大体はお酒の飲み方や好みもとても合うようです。
このことは別に筆者に限られるものではありません。多くの人にとって、仕事のネットワークとプライベートのネットワークは完全に一致することはありませんが、ある程度重なり合うのが自然です。特に研究上の交流を深く行ったり、長く共同研究を行ったりするためには、互いの学術的な主張だけではなく、その背後にある哲学思想の部分や本人の人となりを理解するほうが望ましいでしょう。お酒の席を介した交流は、そうした相互理解を促してくれる絶好のチャンスとも言えます。
解釈の角度を変えても成立します。研究上の趣味も含め、話の合わない人と飲んでも盛り上がらないので、その相手と良い飲み仲間になる機会は少ないでしょう。そのため、そもそも研究者同士の飲み会で仲良くなれる人は、多少なりとも研究上の共通関心を持てる人である可能性が大きいでしょう。その人たちが共同研究を行うようになっていくことも、不思議な話ではないと思います。
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