海外でポスドクをしよう―滞在編(4)
先週は研究者としての人生計画や心構えについて少し触れましたが、今回は共同研究の進め方について話したいと思います。
共同研究を行うことが主流な時代で生きる
分野によって多少の雰囲気の違いはありますが、筆者の目に触れる範囲の中では、単著よりも共著の論文が圧倒的に多い傾向があると言えます。特に一流雑誌に載るような素晴らしい成果は、分野・研究機関を超えた共同研究の賜物がほとんどです。
このような風潮の背後には様々な原因がありますが、一人の研究者が持ちうる時間、資金、その他の研究資源には限りがあるため、複数人の資源を統合して進める方がより大きな目標に達成できるという点は、その一つと言えます。
同時に、科研費などの競争的研究費にまつわる熾烈な競争においても、より規模の大きい、「華やかな」研究計画にシフトするように後押ししている面もあります(この風潮は必ずしも良い結果ばかりもたらすとは言えませんが)。
また、近年より目立つようになった異分野融合の流れからもわかるように、研究領域は高度な細分化の段階を経て、今度は融合的・俯瞰的に研究を進めることの価値が強調されるようになりました。共通のトピックに対して異なる視点・分野から横断的にアプローチするタイプのものもあれば、従来のトピックに対して新しい研究手法や解析手法を持ち込むタイプの共同研究もあります。
いずれにしても、一匹狼のような研究スタイルで得られる資源や成果は、科学研究の萌芽期とくらべるとますます小さくなっていくように思えます。今の時代を生きる研究者は個人的な好みに関係なく、共同研究を上手に進めるスキルを獲得しないといけないのでしょう。
共同研究のスタイル
「共同」研究と一言でいっても、その進め方にはいくつかの種類があります。
研究過程への参加の程度で分ける場合、研究の全体に参加するか、一部だけに参加するかで区別することができます。
前者は研究の立案、設計、データ収集、分析、論文執筆の一連の流れのすべてを、共同研究者の間で話し合いを重ねながら進めるスタイルであり、研究進行の中では比較的平等な関係性を保っていると言えます。逆に
後者は、例えば研究立案には参加せず、具体的な実験案の設計やデータ解析に専門知識を提供する形で共同研究に参加するケースを指します。また、比較文化研究や複数の手法を用いた複合的な研究計画の中で、一部の国のデータ採集だけに貢献することや、複数の研究のうちの一つにだけ参加することなどで、共同研究に加入することもありえます。
一般的には、研究への参加度の違いが論文のオーサーシップに反映されることがほとんどです。特に研究の立案段階と執筆段階への貢献は、具体的な実施・データ採集・解析などの「実務的」な段階よりも重視される傾向があります。ただし、どの程度まで参加したらどの程度のオーサーシップが認められるかに関しては、各研究者・研究室それぞれの方針があるので、実際には明確な合意に達するまで相談する必要があります。この点に関しては、後ほど詳しく説明します。
研究資金の提供の仕方の違いによって区別することもできます。大規模な科研費を持つ研究者が主導となり、研究計画の出費全体を拠出することがよく見られますが、複数の研究者が費用を出し合うスタイルもあります。もちろん、後者の場合はそれぞれの研究者が持つ経費の本来の研究目的に合致した支出であることが大前提であり、その上で各研究プロジェクトを通して一つ大きな目的が果たされるよう計画する必要があります。
共同研究者の見つけ方
共同研究を積極的にやりたいけど、そもそもどこから始めればいいかわからない。それは海外に飛び出したばかりのポスドクにとって特に悩みの種になるかもしれません。前回の記事では他の研究者とのつながりを作ることについて言及しましたが、その延長線上で共同研究者がいると思ってよいでしょう。
前回の記事:海外でポスドクをしようーー滞在編(3)
https://acaric.jp/articles/postdoc/4171
共同研究者と知り合うきっかけとしては、大きく分けて4つあります。
(1)所属先を通してつながる
同じ研究室・学科の人は日常的にもっとも交流するチャンスが多く、また、同じ分野内にいるので共通の関心がある人も多いでしょう。ほかにも学内イベントなどを通して、他の学部学科の方と知り合うチャンスがあります。
特に海外の大学ではECR(Early Career Researcher;若手研究者)同士を繋げるための組織や、大学に雇用されている人のユニオンが活発に活動している場合もあり、それらを通して学内の人と知り合う可能性もあります。また、大学によっては学内の部署間共同研究を促進するためにイベントが開催されたり、経費が提供されたりしていることもあるので、積極的に情報を収集してみるとよいでしょう。
学内の共同研究のメリットはなんといっても緊密に連携が取れることや、互いの状況を暗黙に把握しやすいことにあるでしょう。しかし一方ではデメリットとして、互いの持つ資源(例えば研究実施場所、参加者プールなど)が重複することもあります。共同研究を実施することによって研究にどれほどプラスになるかをしっかり見極める必要があります。
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